コンサルへの転職を進めていて、頭のどこかに独立がある。面接で「将来のキャリアをどう考えていますか」と聞かれたとき、正直に言うべきか、伏せるべきかで手が止まる。この記事は、その一点だけを扱います。
私は独立して6年目で、いまは採用する側の席にも座ります。応募者から独立志向を聞かされる場面も、逆に自分が面接を受けていた頃の記憶も、どちらもあります。そのうえで言うと、この問いは言う/言わないの二択ではありません。何を、どの段階で、どういう順番で言うかの問題です。
転職と独立の順番そのものについてはコンサルへの転職は、独立の何年前にすべきかに書きました。この記事は、その手前にある面接の場の話です。
この問いが難しいのは、面接官の立場が一つではないから
「独立志向を出すと落ちる」という話が広まっているのは、面接官を一人の人格として想像しているからだと思います。実際には、面接の席に座る人は立場ごとに見ているものが違います。
- 現場のマネージャー:目の前の案件を回せるか。来月から戦力になるか
- 人事:採用にかけた費用と時間が回収できるか。入った人が定着するか
- 役員・パートナー層:数年後にこの人がどの位置にいるか。育てる価値があるか
同じ「いずれ独立したいです」という一言でも、現場のマネージャーにはほとんど関係がなく、人事にはいちばん刺さり、役員には内容によって刺さり方が変わります。誰に向かって言っているのかを分けずに「言うと落ちる」と考えるから、答えが出ない。
言われた側が、実際に気にしていること3つ
採用する側に回って分かったのは、独立志向そのものを嫌う人はそれほど多くない、ということです。気にされているのは、その後ろにある3つです。
1つ目は、何年いるつもりなのか。 採用には費用がかかり、入った人が立ち上がるまでにも時間がかかります。半年で辞められると、その回収はできません。ここで問われているのは志向ではなく期間です。
2つ目は、辞め方。 独立するときに、担当していた顧客を連れて出るのか。育てたメンバーを誘うのか。ここは会社にとって実害の話なので、いちばん警戒されます。逆に言えば、ここに自分から触れられる人は、ほぼ警戒されません。
3つ目は、在職中に手を抜かないか。 独立の準備を勤務時間の中でやるのではないか、という懸念です。これは口では否定できないので、実績と態度でしか示せません。
嫌われているのは「独立志向」ではない。「回収できない」「持っていかれる」「手を抜かれる」の3つです。ここを先に潰した独立志向は、むしろ評価されることがあります。
通る言い方には、型が3つある
上の3つから逆算すると、言い方は自然に決まります。
型1|期間を、自分のほうから出す
「いずれ独立も考えていますが、そのために必要なものを考えると、御社で最低でも◯年は積む必要があると思っています」。
これは相手の1つ目の懸念に、先に答える形です。期間を自分から出せる人は、計画を持っている人として扱われます。逆に、期間を聞かれてから答えると、値切られる交渉のように見えてしまう。
型2|独立の目的を「領域」で言う
「独立したい」だけでは、何をしたい人なのかが分かりません。そこで、取りに来た専門性の名前で言う。
「この領域で、要件定義から稼働まで一貫して持てる人になりたい。それができる案件が御社にある、というのが応募の理由です」。この形にすると、独立の話が入社の動機と同じ方向を向きます。会社が育てたい人材像と、本人が取りに来たものが重なるからです。
私が採用の側で見ていて、いちばん通りやすいと感じるのはこの型です。戦略コンサルへの転職のように領域の名前がはっきりしている場合は、とくに使いやすい。
型3|出口の作法に、自分から触れる
「辞めるときは、担当している顧客も、社内のメンバーも連れて出るつもりはありません」。
言われる前に言う。これだけで、2つ目の懸念はほぼ消えます。実際に独立するとき、この一言を面接で言っていたかどうかで、辞める場面の空気がまったく変わります。
面接で実際に来る3つの質問と、答えの組み立て
独立志向を正面から聞かれることは、実はあまりありません。だいたい、別の質問の形で来ます。準備しておくのはこの3つで足ります。
「5年後、どうなっていたいですか」
いちばん多い形です。ここで「御社で管理職に」と答えると嘘になり、「独立しています」と答えると期間の話に一気に飛びます。
私が勧めるのは、役職ではなく状態で答えることです。「この領域を、上流から稼働まで一人で持てる状態になっていたい」。これなら嘘がなく、しかも会社が育てたい方向とぶつかりません。独立という言葉を使わずに、独立に必要なものを言っている形になります。
「なぜ当社なのか」
独立を考えている人ほど、この質問で弱くなります。会社そのものへの思い入れを語れないからです。
無理に語らなくていい。案件の中身で答えます。 「この領域の案件を、これだけの規模で持っている会社は多くない」。事実で答えるほうが、取ってつけた志望動機より強い。採用する側から見ても、案件で選んで来た人のほうが、入った後の期待値が読めます。
「他社の選考状況は」
ここで独立の話を混ぜる必要はありません。ただ、受けている会社の並びに一貫性があるかは見られています。領域がバラバラだと、独立志向うんぬん以前に、キャリアの軸が無いと判断される。
逆に、同じ領域で複数社を受けているなら、それは強い材料です。「この領域に張っている」という事実が、そのまま説得力になります。
書類の段階では、書かない
念のため書いておくと、職務経歴書や応募フォームに独立志向を書く必要はありません。
理由は、書類が回覧されるからです。面接は会話なので、相手の反応を見て説明を足せます。書類は一方通行で、しかも本人がいない場所で読まれる。説明できない場所に、説明が要る情報を置かない。これは面接に限らず、条件交渉全般に言えることだと思います。
書くとすれば、志望動機の欄に「この領域で一貫して経験を積みたい」という形まで。ここまでなら、面接で型2につなげられます。
伏せて入ることの、本当のコスト
「言わないほうが安全」は、面接に受かるという一点では正しい。ただ、入った後に払うコストがあります。
配属が、自分の作りたい経歴と関係ない場所に決まります。 会社は本人の希望を聞きますが、聞いた希望の中でしか調整しません。独立を前提にした「この領域を一貫して持ちたい」という希望は、伏せていれば伝わらない。結果として、会社にとって都合のいい配置になります。
育成の投資対象として組まれます。 数年かけて管理職に上げる計画に乗ると、途中で降りるときの角が立ちます。乗る前に言っておけば、そもそもその計画に組まれません。
辞めるときに、気まずくなります。 独立が近づいた頃に初めて切り出すと、相手からは「隠していた」と見えます。実際には隠していなくても、そう見える。
つまり、開示のリターンは通るかどうかではなく、入った後に配属や役割の交渉ができるかどうかにあります。私はここが、この問いのいちばん実務的な答えだと思っています。
はっきり言ってはいけない3つ
一方で、言い方を間違えると本当に落ちます。私が見てきた中で、外れているのはこの3つです。
「3年で辞めます」と期間だけを言う。 型1と似ていますが、決定的に違います。期間だけを出すと、その3年で何を積むのかが空白になり、会社を踏み台としか見ていない人に聞こえます。期間は、領域とセットでなければ機能しません。
「独立のために勉強させてください」と言う。 会社は学校ではありません。この言い方は、費用を払って学びに来た人の言葉です。実際には逆で、会社は成果に対して報酬を払っています。同じことを言うなら「この領域で成果を出しながら、経験を積みたい」になります。
顧客や案件を持って出る話を、匂わせる。 これは一発で終わります。しかも面接で終わるだけでなく、業界は狭いので話が残ります。独立後に発注してくれる可能性のあった相手を、自分で消すことになります。
会社の型によって、同じ言葉でも結果が変わる
もう一つ、見落とされがちな軸があります。受けている会社が、人の出入りをどう捉えているかです。
大手のファームは、人が出ていく前提で組織が回っています。何年かで一定数が事業会社や独立へ抜けることが織り込まれていて、出た人が発注元になって戻ってくる循環まで含めて設計されている。この型の会社では、独立志向は言っても落ちにくい。むしろ、出た後の関係まで見据えて話せる人のほうが評価されることがあります。
中小・専門特化のファームは、1人が抜ける重さがまったく違います。10人の会社で1人が独立すれば、案件の体制が組み直しになる。ここでは、期間の話を曖昧にしたまま独立に触れるのは危険です。逆に、期間と役割をはっきり出せば、独立後も業務委託で関わる前提の話に発展することがあります。私はこの形がいちばん双方にとって健全だと思っています。
事業会社を受けている場合は、また別です。事業会社は在籍年数の期待が長く、独立の話は基本的に想定外の情報として扱われます。並べて比べたいならポストコンサルで事業会社に行く前にを先に読んでみてください。
入社前に、契約で確認しておく2つ
面接での言い方の話とは別に、紙で確認しておくべきことが2つあります。ここを見ずに入ると、独立する段になって初めて条件を知ることになります。
1つは競業避止義務です。退職後にどの範囲でどれくらいの期間、同種の仕事を制限されるのか。就業規則や誓約書に書かれています。読み方は競業避止義務は「無効になりやすい」で片づけないにまとめました。
もう1つは秘密保持の範囲です。何が秘密情報にあたり、退職後どれだけ残るのか。独立後に自分の経歴として何を語れるかに直結します。詳しくは秘密保持契約で見る場所に書きました。
副業を認めている会社かどうかも、あわせて確認しておくと後が楽です(副業禁止規定の実際)。在職中に小さく試せるかどうかで、独立の踏み出し方が変わります。
私なら、どの段階で言うか
結論を書きます。一次面接では言わない。最終面接か、内定後の条件面談で、期間と領域と作法をセットで言う。
理由は、面接の段階ごとに目的が違うからです。一次は候補者を絞る場で、情報が多いほど引っかかる材料が増える。最終や条件面談は、迎え入れる前提で条件をすり合わせる場で、ここで出した情報は配属や役割の交渉材料になります。同じ言葉でも、置く場所で機能が変わる。
そして、聞かれてもいないのに切り出す必要はありません。「将来のキャリアをどう考えていますか」と聞かれたときに、型2(領域で言う)で答える。相手が期間に踏み込んできたら型1、辞め方に踏み込んできたら型3を出す。準備しておいて、聞かれたら出す。これがいちばん事故が少ないやり方だと思います。
なお、独立そのもののタイミングをどう測るかは独立のタイミングに、独立して食べていける前提条件は独立の前提条件に、それぞれ別に書いています。
まとめ
- 「独立志向を言うと落ちる」は、面接官を一人の人格として想像したときの話。立場ごとに刺さり方が違う
- 相手が気にしているのは志向ではなく、期間・辞め方・在職中の姿勢の3つ
- 通る言い方は3つ。期間を自分から出す/目的を領域の名前で言う/出口の作法に自分から触れる
- 伏せて入る本当のコストは、落ちることではなく配属と役割の交渉ができなくなること
- 落ちる言い方も3つ。期間だけを言う/勉強させてくださいと言う/顧客を持って出る話を匂わせる
- 大手か、中小・専門特化か、事業会社かで、同じ言葉でも結果が変わる
- 入る前に、競業避止義務と秘密保持の範囲は紙で読んでおく
- 出すなら最終面接か条件面談。準備しておいて、聞かれたら出す
独立を考えていることは、隠さなければならない後ろ暗い事情ではありません。ただ、言い方を用意していない状態で口にすると、相手の不安のほうが先に立つ。用意さえしておけば、この一言は落とす材料ではなく、入った後の交渉材料になります。