「来期から、単価を少し見直させてほしいんですが」
稼働中の案件で、この一言が出る日は、独立していればいつか必ず来ます。私も来ました。相手は悪い人ではなく、むしろ現場では一緒に苦労してきた人だったりする。だから余計に、その場で「分かりました」と言ってしまいそうになります。
この記事は、単価の相場を知る話でも、単価を上げにいく話でもありません。すでに動いている案件で、下げてくれと言われた守りの局面の話です。
相場を知りたい方はコンサルの単価相場、これから値付けをする方は単価の決め方、上げにいく話は単価を上げると単価交渉のやり方に分けて書いています。ここは、下げてくれと言われたときの4週間だけを扱います。
その場で答えない。最初の30分でやるのはこれだけ
打診を受けた瞬間にやることは、金額の検討ではありません。
「持ち帰ります」と言って、事実を確認する。これだけ。
即答でOKを出すと、後から条件を戻す交渉ができなくなります。かといって、その場で反発すると関係が硬くなる。判断を保留にすることは、交渉の技ではなく、事実が足りていないという単純な理由です。
確認するのは次の4点です。相手を問い詰めるのではなく、事務的に聞きます。
- いつから適用したいのか(次の更新月からか、来月からか)
- なぜ見直しが必要になったのか(予算なのか、役割の変更なのか)
- 私の稼働の範囲は、そのままなのか
- いつまでに返事が要るのか
4つ目が特に大事です。返事の期限を確認しないまま持ち帰ると、こちらが黙っているあいだに向こうで話が進みます。期限を握るのは、こちらの権利です。
私は最初のとき、その場で「分かりました、検討します」とだけ言って帰りました。理由も期限も聞かなかった。結果、翌週には「あの件、進めていいですか」と催促され、考える時間を失いました。
減額の打診には、3つの型がある
同じ「下げてほしい」でも、原因が違えば打つ手が変わります。私が見てきた限り、ほぼこの3つのどれかです。
| 型 | 何が起きているか | 見分け方 | 効く反応 |
|---|---|---|---|
| 予算型 | 発注側の予算枠が削られた。あなたの評価とは無関係 | 「全体で見直しがかかっていて」という言い方になる。他のメンバーにも同じ話が行っている | 金額でなく稼働量の交渉に持ち込む |
| 役割型 | 立ち上げが終わり、求められる仕事の重さが変わった | 「フェーズが変わるので」と言われる。実際、直近の仕事内容が変わっている | 新しい役割で値付けし直す。下がることもある |
| 相場型 | もっと安い選択肢が視野に入っている | 根拠が曖昧。「他だともう少し」という言い方が出る | 置き換えコストを具体で示す |
**予算型を役割型と読み違えると、要らない自己評価の下方修正をします。**逆に役割型を予算型と読み違えると、実態と合わない金額にしがみつくことになります。
見分けるための質問は一つで足ります。
「見直しは私の稼働だけの話ですか、それともプロジェクト全体ですか」
これで予算型かどうかはほぼ分かります。全体なら、あなたの評価の話ではありません。
判断に要る材料は、3つしかない
金額の是非を頭の中でこねても答えは出ません。私は次の3つだけを紙に書き出します。
1. 残り期間
現在の契約が、あと何か月残っているか。契約期間の途中なら、そもそも合意なしに単価は変わりません。「次の更新月から」の話なのか「来月から」の話なのかで、こちらの立場はまるで違います。ここは契約書を開いて確認します。読む順番は業務委託契約書はどこを読むかにまとめました。
2. 依存度
その案件が、自分の月の稼働と収入の何割を占めているか。ここは正直に数えます。
- 3割以下なら、断っても月は壊れません
- 5割前後なら、条件を変える交渉が現実的です
- 8割を超えているなら、交渉の前に、そもそもの構造の問題です
依存度が高いほど選択肢は減ります。これは交渉力の話であって、実力の話ではありません。
3. 埋め戻しの見込み
減った分を、次の更新月までに別の仕事で埋められるか。ここで初めて、手持ちの相談や声がけの状況を数えます。「たぶん何とかなる」ではなく、名前の付いた話が何本あるかで数えます。ゼロなら、断る選択肢の重さが変わります。
案件が空く前触れと手当てについては独立コンサルの案件の取り方に、切れてしまった後の話はフリーランスの仕事がないときに書いています。
3択の中身──受ける・断る・条件を変える
材料が揃ったら、選択肢は3つです。順番に、どういうときに選ぶかを書きます。
受ける(ただし、条件を1つ付ける)
受けていいのは、次のどちらかです。
- 役割型で、実際に仕事の重さが変わっているとき。この場合、下がるのが正しい
- 依存度が高く、埋め戻しの見込みがないとき。生活を守る判断は、負けではありません
ただし、無条件で受けることはしません。下げるなら、必ず何か1つ交換します。
- 適用の開始を次の更新月からにしてもらう
- 期間を区切る(例:次の3か月だけ、その後に再度見直す)
- 稼働の範囲を1つ外す(会議体を1つ抜ける、報告書を1つやめる)
- 支払サイトを短くしてもらう
交換なしで下げると、そこが新しい基準になります。「一度だけ」のつもりが、翌年の出発点になる。ここは経験から強く言えます。
断る
断るのは、次のときです。
- 予算型で、こちらの稼働の範囲がまったく変わらない
- 依存度が3割以下で、月の設計が壊れない
- 相場型で、置き換えのコストを相手が理解していない
断り方は、金額の話にしないことです。「その金額では受けられません」ではなく、**「この範囲の仕事を、その条件で回すのは難しいです」**と、仕事の側から言います。
そして必ず、代替案を1つ添えます。「金額を維持するなら、稼働を週4日から週3日に落とす形なら成立します」といった形です。断るという行為を、選択肢の提示に変えます。
私が実際に断ったときは、こう言いました。「いまの範囲を維持したまま金額だけ下げると、私の側でどこかを削ることになります。それは結果的にプロジェクトの品質を下げるので、範囲のほうを一緒に見直させてください」。相手も現場を知っている人なので、この言い方は通じました。
条件を変える(実際にはこれが本命)
3択と書きましたが、実務でいちばん多く成立するのはこれです。
単価というのは、金額という一次元の数字に見えて、実際には複数の変数の掛け算です。だから、金額を動かさずに、別の変数を動かせます。
| 動かせる変数 | 発注側のメリット | こちら側の影響 |
|---|---|---|
| 稼働日数(週4→週3) | 月あたりの支払総額が下がる | 時間あたりの単価は守れる。空いた日を別案件に |
| 業務範囲(会議・報告の削減) | 実質の負担は変わらず総額が下がる | 消耗が減る。ただし関与が薄くなる |
| 契約期間(長期化) | 単価を維持しても計画が立つ | 稼働の読みが立つ。縛られる面もある |
| 支払時期(サイト短縮) | 金額は変わらない | 資金繰りが楽になる。実質的な価値がある |
| 成果の切り出し(一部を成果物単位に) | 予算科目を変えられることがある | 見積の作り直しが要る |
**いちばん効くのは、稼働日数です。**月あたりの支払額を下げたい相手にとっては目的が達成され、こちらは時間あたりの単価という一番大事な基準を守れる。そして空いた1日は、そのまま次の案件の枠になります。
「単価を下げる」と「支払総額を下げる」は別のことです。相手が言っているのがどちらなのかを確認するだけで、話が動くことがあります。
言わないほうがいいこと
守りの局面で口が滑りやすいものを並べます。私が実際に失敗した、あるいは失敗を見たものです。
- 他の案件の金額を持ち出す。「別のところではもっと出ています」は、相手にとっては「では、そちらへどうぞ」と返せる言葉です
- 一般的な相場の話をする。相場は交渉の材料になりません。相手が買っているのはあなたの稼働です
- 感情を出す。「そんなに私の価値は低いですか」は、金額の話を評価の話に変えてしまいます
- その場でのOK。前述のとおり
- 理由を聞かないまま断る。予算型だった場合、関係だけが悪くなります
打診の月から、次の更新月までの4週間
時間の使い方も書いておきます。私はこの順で動きます。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 1週目 | 持ち帰り。契約書で残り期間と改定条項を確認。減額の型を判定する |
| 2週目 | 依存度を数える。埋め戻しの候補を、名前の付いた話として数える。声をかけるべき相手に連絡を入れる |
| 3週目 | 代替案を2つ作って提示する(金額維持+稼働縮小/減額+期間限定など)。相手の反応で本命を見極める |
| 4週目 | 合意した内容を、必ず書面にする。覚書でも、メールの本文でもよい |
**2週目に動くのが要点です。**返事をしてから次を探すのではなく、返事をする前に選択肢を作る。手元に別の話があるかどうかで、3週目の提示のしかたが変わります。
そして4週目。**口頭で決めたことは、必ず文字にします。**適用開始月、期間、範囲の変更点。ここを曖昧にすると、次の更新月にまた同じ話が、前提が消えた状態で始まります。
一度下げた単価は、戻らないのか
よく聞く話です。私の実感を正直に書きます。
**同じ相手・同じ役割のままでは、戻りにくい。**これは本当です。相手の予算の枠が一度下がると、それが基準になるからです。
ただし、**役割が変われば戻せます。**担当していた範囲が広がったとき、あるいは新しいフェーズに入ったときは、値付けをし直す自然なタイミングになります。だから条件を変える交渉のときに、期間を区切っておくことに意味があります。「次の3か月」と決めておけば、3か月後に話を蒸し返す口実が、こちらの側に残ります。
もう一つ。**別の相手には、下げた金額は伝染しません。**一社で下げたからといって、次の案件の値付けを下げる必要はまったくない。ここを混同すると、一度の減額が全体に波及します。
そもそも、打診されにくい状態はある
最後に予防の話です。減額を打診されやすいのは、次のような状態のときでした。
- 自分の仕事が、成果物として見えていない。会議に出ているだけに見えると、真っ先に見直しの対象になります
- 報告が相手の言葉になっていない。やったことを自分の言葉で報告すると、価値が伝わりません
- 一社への依存度が高い。相手にもそれが伝わります
- 更新月の直前まで、次の話をしていない
逆に、月に一度でも「この1か月で何が前に進んだか」を相手の言葉で共有している人は、見直しの対象になりにくい。派手なことではなく、これだけです。私は今も、月末に3行だけの短い共有を送っています。
まとめ
- 打診を受けたら、その場で答えない。適用時期・理由・範囲・返事の期限の4点だけ確認して持ち帰る
- 減額には予算型・役割型・相場型の3つがある。「私だけの話か、全体の話か」を聞けば見分けられる
- 判断材料は残り期間・依存度・埋め戻しの見込みの3つだけ。契約期間の途中なら、合意なく単価は変わらない
- 受けるなら必ず何か1つ交換する。無条件の減額は、新しい基準になる
- 断るときは金額でなく仕事の範囲の話にして、代替案を1つ添える
- 本命は条件を変えること。稼働日数・範囲・期間・支払時期に開けば、時間あたりの単価は守れる
- 打診の月から4週間で動く。返事をする前に、次の選択肢を作る
- 一度下げた金額は同じ役割では戻りにくいが、役割が変われば戻せる。別の相手には伝染しない
いま自分の稼働が一社にどれだけ寄っているのか、単価の根拠が何で作られているのかを一度言葉にしておくと、この打診が来た日の判断が速くなります。整理の入口として、30秒の無料診断を用意しています。打診が来てから考えるより、来る前に現在地を知っておくほうが、確実に楽です。