独立して案件に応募するとき、職務経歴書とは別にスキルシートを求められます。
同じものだと思って、職務経歴書を縮めたものを出す人が多い。これは、読む人と読む目的が違うので、うまくいきません。
職務経歴書は「この人を採るか」を判断するために読まれます。スキルシートは「この案件に、この人を当てられるか」を判断するために読まれる。前者は経歴の一貫性を見ますが、後者は空いているか、入れるか、いくらかを見ます。
当社は2026年7月29日に、独立支援サービスの登録者に書いてもらう標準様式を決めました。この記事は、そのとき何を項目にして、何を項目にしなかったかを、理由ごと出します。一般論ではなく、自社が決めたときの判断です。
項目は「借りるかどうか」から逆算した
様式を作るとき、最初にやったのは項目を並べることではありません。需要側が「この人を借りるか」を決めるのに要る情報は何かを先に決めて、そこから逆算しました。
出てきたのは4つです。
- 領域(何ができるか)
- 稼働(いつから、週何日)
- 値段(いくらか)
- 条件(何が折り合わないか)
項目はこの4つに紐づくものだけ残し、紐づかないものは落としました。書けることを全部書く様式にすると、選別に使えない書類になるからです。
最初に読まれる3項目
そのうえで、順番を決めました。当社の様式では、稼働可能時期と稼働率が、単価より前にあります。
これは意図的です。理由を書きます。
当社が想定している需要は、中小のコンサルティングファーム側にある繁忙期のスポット補完です。この需要には、はっきりした特徴があります。**時期が先に決まっている。**期末までに終わらせる、この四半期のプロジェクトが立ち上がる、という前提が先にあって、そこに人を当てにいく。
だから、最初の足切りはこうなります。
その時期に、週何日入れますか。
ここが合わない人は、どれだけ経歴が良くても、その案件では検討されません。**単価の話まで行かない。**逆に、単価が想定より高くても、時期と稼働が合っていれば会話は続きます。
したがって、最初に読まれる3項目はこれです。
| 順番 | 項目 | 何を見ているか |
|---|---|---|
| 1 | 稼働可能時期 | この案件の開始日に間に合うか |
| 2 | 稼働率(週何日・月何時間) | 必要な工数を埋められるか |
| 3 | 領域 | 案件のテーマと重なるか |
単価は4番目です。**この順番を知らないまま、経歴の説明から書き始める人が多い。**書類の1枚目の上のほうに、稼働可能時期と稼働率が無い時点で、読む側は探しに行くことになります。探させた時点で、他の候補に流れます。
読み飛ばされる書き方を、5つ挙げる
様式を作る過程で、「これは書かれても判断に使えない」と分かったものを落としました。落としたものは、そのまま読み飛ばされる書き方の一覧になります。
1. 肩書だけを書く
「PMOとして支援」「大手製造業の業務改革を担当」。
これらは、**その人がその場にいたことしか示しません。**何をやったのかが動詞で書かれていないので、案件に当てられるかの判断に使えない。書くなら、規模・領域・体制・自分がやった動詞・稼働・期間の6つを入れます。PMO・PMという役割名がなぜ値段の会話で不利になるかは、フリーランスのPMOは、何を売っているのかに分けて書きました。
2. 裏付けのない成果
「コストを30%削減」「リードタイムを半減」。
数字が入っていると強く見えますが、**その数字がどこから出たのかが書かれていないと、読む側は使えません。**むしろ、他の記述の信頼度まで下げます。
当社の様式には、成果の欄に**「数値の裏付けがある場合のみ記載」と紙面に印字してあります。そして記入例でも、あえて空欄のままにしています。**埋めるために作ることを、様式そのもので防ぐためです。
3. スキルの一覧が長い
できることを網羅的に並べた表。
**長いほど、選別に使えなくなります。**読む側は「この案件のこのテーマを任せられるか」を見ているので、20個の並列は判断材料になりません。3つに絞って、それぞれに実績が紐づいているほうが強い。
4. NG条件が書いていない
受けない条件を書かない人が、非常に多い。
当社は、**NG条件を明示欄にしました。**常駐は不可、この業界は競業避止に触れる、この稼働率以下では受けない。先に出したほうが速いからです。
出さないと、話が進んだ後に折り合わずに流れます。**流れるタイミングが遅いほど、双方の時間が無駄になる。**先に出して落ちる案件は、後から出しても落ちます。競業避止の範囲については競業避止義務に書きました。
5. 単価を確定額のように書く
「月額◯◯万円」とだけ書かれていると、読む側は確定額として扱います。
当社の様式は、**単価をレンジの枠だけにして、数値そのものを入れていません。**理由は2つあります。1つは、書かれる額は本人の希望であって、契約で確定した額ではないから。もう1つは、案件の稼働率や役割によって適正な額が動くからです。
相場の分布と、レンジの作り方そのものはコンサルの単価相場とコンサルの単価はどう決まるかに書きました。
匿名版を作った理由
当社の様式は、匿名版と実名版の2種類あります。
匿名版では、氏名と前職の固有名詞を伏せ、クライアントは業界名と規模帯に一般化します。「大手自動車メーカー」ではなく「自動車・完成車メーカー(連結売上1兆円超)」のように書く。
なぜ2種類要るかというと、需要側との最初の会話が、実名を出す前に始まるからです。「こういう人がいますが、話を聞きますか」の段階で実名の書類を出すのは、本人の情報の扱いとして雑です。
書き方の粒度は、当社が別事業で使っている匿名の紹介資料をそのまま参照して揃えました。ただし1点だけ、意識的に変えています。**登録者は当社の社員ではないので、当社自身の実績と混ぜて書かない。**混ぜると、読む側は当社が保有する体制だと誤解します。
「従業員の有無」の欄を足した
これは、法律の側から足した項目です。
フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)2条1項は、保護の対象になる「特定受託事業者」をこう定義しています。
この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。 一 個人であって、従業員を使用しないもの 二 法人であって、一の代表者以外に他の役員…がなく、かつ、従業員を使用しないもの
つまり、**従業員を使っているかどうかで、この法律が効くかどうかが変わります。**発注側から見れば、取引条件の明示(3条)や支払期日(4条)の義務が生じるかの判定に直結する項目です。
当社の従来の書類には、この欄がありませんでした。**法律の適用の判定に必要なのに、どこにも聞く場所がなかった。**だから足しました。
ただし正直に書いておくと、**個別の登録者が特定受託事業者に当たるかどうかの判定そのものは、当社では確定させていません。**弁護士の確認事項として留保しています。様式は「聞く欄を用意した」ところまでです。新法の全体像はフリーランス新法とはに整理しました。
様式の注記に書いたこと
もう1つ、法律の側から入れたものがあります。
新法には、募集情報を正確に表示すべきという趣旨の規定があります。これを受けて、様式の注記に稼働や報酬を誇張しない旨を書きました。書く側にとっては制約ですが、**誇張された書類は、需要側に一度でも見抜かれると、その後の全部が疑われます。**制約というより、書類の信頼度を守るための仕組みです。
あわせて、当社が請け合わないことも注記に明示しました。経歴・能力・適性の正確性、採用の成立、稼働後の成果。これらを当社が請け合うことはしないと紙面に書いてあります。人材紹介契約のひな形の条項と、文言を揃えました。
作らなかったもの
様式を決めるときに、意識的に作らなかったものがあります。理由も含めて出します。
| 作らなかったもの | 理由 |
|---|---|
| 要件と人材を自動で突き合わせる仕組み | 登録者も配置実績もゼロの段階では、作る価値がない。在庫が2桁になってから考える |
| 登録者を育てる進行管理(ステージ・停滞アラート) | 別の台帳に既にある。二重に持つと表記ゆれと更新漏れを生む |
| 英文版 | 想定していた需要先は全て国内。要るのは海外案件が出てきてから |
| 単価の実数テーブル | 事業側の決定事項。枠と計算の型だけ置いた |
| 記入依頼フォームや自動生成 | 登録者が0名なので、1人目は手で書けば足りる |
**作らなかった理由の大半は「まだ要らないから」です。**この判断は、書類を作る個人にもそのまま当てはまります。きれいな書式を整える前に、1件目の会話を通したほうが早い。
正直に書いておく現在地
ここまで様式の設計を書いてきましたが、**まだ検証できていないことがあります。**隠すと一次情報の意味がなくなるので、そのまま書きます。
**1. 登録者が実際に何を書けるかは、未検証です。**様式を決めた2026年7月29日の時点で、登録者は0名でした。項目が現実のヒアリングで埋まるかを、人で試していません。1人目の面談で使ってみて、埋まらない欄は削る前提で作っています。
**2. 需要側がこの粒度で判断できるかも、未検証です。**想定していた需要先は当時いずれも未接触で、匿名版だけで引き合いが起きるかは分かっていません。
**3. 単価レンジの枠そのものも、まだ数値が入っていません。**枠と計算の型だけを置いて、実数は入れていない状態です。
つまり、この記事に書いた設計は**「需要側が何を見るかから逆算した仮説」であって、実測ではありません。**実測が出たら、この記事は書き直します。
明日からできること
自分のスキルシートに反映するなら、順番はこうです。
- **1枚目の上に、稼働可能時期と稼働率を置く。**単価より前。
- **成果の数字は、裏付けのないものを消す。**消して空欄のほうが、書類全体の信頼度は上がる。
- **NG条件を書く。**常駐の可否、競業の範囲、最低稼働率。落ちる案件は早く落とす。
- 役割名を動詞に置き換える。「PMOとして支援」を、規模・領域・体制・動詞・稼働・期間の6要素で書き直す。
- 単価はレンジで書き、確定額に見える書き方をしない。
5つとも、書き足す作業ではなく並べ替えと削る作業です。1時間あれば終わります。
まとめ
- スキルシートと職務経歴書は、読む人も目的も違う。職務経歴書は「採るか」、スキルシートは「この案件に当てられるか」。
- 当社は2026年7月29日に標準様式を決めた。項目は**「借りるかどうか」から逆算**し、領域・稼働・値段・条件の4つに紐づくものだけを残した。
- **稼働可能時期と稼働率を、単価より前に置いた。**中小ファームの需要は繁忙期のスポット補完で、いつから週何日入れるかが最初の足切りになるため。
- 読み飛ばされる書き方は5つ。肩書だけ/裏付けのない成果/長すぎるスキル一覧/NG条件の不記載/単価を確定額に見せる書き方。
- 成果欄には「数値の裏付けがある場合のみ」と紙面に印字し、**記入例も空欄のままにした。**埋めるために作ることを様式で防ぐため。
- 匿名版と実名版の2種類を用意した。実名を出す前に会話が始まるため。登録者の経歴を当社自身の実績と混ぜない。
- **「従業員の有無」の欄を足した。**フリーランス新法2条1項が、特定受託事業者を「従業員を使用しないもの」と定義しており、法の適用判定に直結するため。ただし個別の判定は留保している。
- **未検証の点も書いた。**様式を決めた時点で登録者0名、需要先も未接触。埋まらない欄は削る前提で作っている。
書類を厚くすると、選ばれやすくなる気がします。実際には逆で、判断に使える項目が上に来ているかどうかだけが効いていました。
当社が様式を作ったときにやった作業も、結局は足すことではなく、落とすことと並べ替えることでした。
関連記事:フリーランスのPMOは何を売っているのか/フリーランスのPMは成立するか/コンサルの単価相場/コンサルの単価はどう決まるか/競業避止義務/フリーランス新法とは/独立した人に仕事が渡るまでの法律上の線引き/独立コンサルが案件を取るには/フリーランスのコンサルタントは何で食べているか/コンサルの独立は何が揃えば踏み出せるのか
出典:当社の登録者スキルシート標準フォーマットおよび人材カタログ台帳(2026年7月29日制定)の設計記録/特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)2条1項・3条・4条(e-Gov法令検索のAPIで条文原文を取得して引用、2026-08-13時点)
※本記事は当社の社内記録と条文に基づく整理です。個別の契約や法の適用の判断は事情によって結論が変わるため、実際の判断は弁護士にご確認ください。