毎年1月の終わりから2月にかけて、同じ質問が来ます。

「支払調書が届かないんですが、確定申告できませんよね」

できます。むしろ、届かないほうが普通の場合もあります。ここを誤解したまま2月を過ごすと、届くはずのない紙を待って申告期限を削ることになります。

支払調書は、あなたに渡すための紙ではない

支払調書は「法定調書」の一種です。宛先は税務署です。報酬を支払った側が、誰にいくら払って源泉徴収をいくらしたかを税務署に報告するために出します。

ここが肝心なところで、支払調書を報酬の受取本人に交付する義務は、法律上ありません。取引先が親切で送ってくれることはありますが、それは慣行であって義務ではない。だから「送ってください」と頼んで断られても、相手が不誠実なわけではありません。

提出期限は、支払が確定した年の翌年1月31日です(国税庁 No.7431)。

5万円超という基準があるから、届く相手と届かない相手が混ざる

報酬・料金の支払調書は、支払った全員分を出すわけではありません。提出範囲に基準があります。

区分提出範囲(同一人・その年中の支払合計)
弁護士・税理士等への報酬、原稿料、講演料など5万円を超えるもの
プロ野球選手などの報酬・契約金5万円を超えるもの
外交員・集金人・ホステス等の報酬50万円を超えるもの
社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬50万円を超えるもの
馬主に支払う競馬の賞金1回の支払が75万円を超える場合、その年のすべての支払金額

(出典:国税庁 No.7431 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書)

金額の判定は消費税を含めて行いますが、報酬額と消費税額が明確に区分されている場合は税抜きで判定できます。

いちばん多い「来ない理由」は、そもそも源泉徴収の対象外だから

これが本題です。

支払調書の対象になるのは、源泉徴収の対象として法律に列挙された報酬が中心です。IT導入支援や経営管理まわりの業務委託は、この列挙に入らないことが多い。だから報酬から所得税が引かれず、支払調書も作られません。

つまり「支払調書が来ない」の多くは、事務の遅れではなく構造的にそうなっているだけです。原稿料や講演料が混ざっている人には来て、システムの業務委託だけの人には来ない。同じ独立でも景色が違います。

引かれる仕事と引かれない仕事の線引きは、フリーランスの源泉徴収とはで詳しく書きました。

確定申告に、支払調書を添付する必要はない

支払調書は確定申告書の添付書類として定められていません。加えて、平成31年4月1日以後に提出する申告書では、給与所得や公的年金等の源泉徴収票の添付も不要になっています(国税庁「国税関係手続が簡素化されました」)。

では、申告する売上と源泉徴収額の根拠はどこにあるのか。自分の帳簿と請求書、そして入金明細です。支払調書は答え合わせの材料にはなりますが、正本ではありません。

この順番を逆にすると事故ります。支払調書に書いてある金額に合わせて帳簿の売上を書き換える──これがいちばんやってはいけない直し方です。

届いた支払調書と帳簿が合わないとき、疑う順番

合わないことは普通にあります。慌てて売上を動かす前に、上から順に見ます。

  1. 期間のズレ。あなたは12月に請求を上げて売上に立てた。相手は1月に支払ったので翌年の支払調書に入れた。売上の計上基準と相手の支払確定日が違うだけで、両方正しいことがあります。
  2. 消費税の内外。税込で書かれているのか税抜なのか。1件あたり10%の差はここで出ます。
  3. 源泉徴収税額の区分。同一人への支払が100万円を超える部分は税率が変わるため、単純な10.21%計算と一致しないことがあります。
  4. 差引の処理。振込手数料や値引きを相手が支払額から引いていると、総額が合いません。

やることは、帳簿を書き換えることではなく、突合表を1枚つくって差異の理由を書いておくことです。理由が書けていれば、後から聞かれても答えられます。

自分が出す側になったら、話は1月31日に変わる

外注を使い始めると、支払調書は「もらう紙」から「出す紙」に変わります。デザイナーに原稿料を払った、税理士に報酬を払った──該当すれば提出義務が生まれます。

押さえるのは3点です。

  • 期限は翌年1月31日。給与所得の源泉徴収票などと一緒に、法定調書合計表を添えて提出します。
  • 提出方法に義務が生まれる枚数がある。同じ種類の法定調書について、前々年の提出枚数が100枚以上ならe-Tax・光ディスク等・クラウド等での提出が義務です(国税庁 No.7455)。
  • その基準が下がります。令和9年1月1日以後に提出する法定調書からは、30枚以上に引き下げられる予定です。令和7年分が30枚以上なら、令和9年の提出分から電子が必須という順番になります。

30枚は、外注を何人か回している個人事業でも届く数字です。紙で出し続けている人は、ここで一度手を止めて数えたほうがいい。

外注費そのものが「給与」と見られないための線引きは、個人事業主の外注費と源泉徴収に分けて書いています。

まとめ──待つ紙ではなく、作る記録

支払調書について覚えることは、実質3つです。

  • 宛先は税務署で、あなたに渡す義務はない。だから届かなくてよい。
  • 申告の根拠は自分の帳簿と請求書。支払調書は答え合わせの材料にすぎない。
  • 出す側になったら、期限は1月31日、電子提出の基準は30枚に下がる。

届かない紙を待つ時間を、突合表1枚に振り替える。これだけで2月の心理的な負荷はかなり軽くなります。

なお、提出範囲や電子提出の基準は改正が続いている領域です。実際の判断は国税庁の最新情報か、顧問の税理士で確認してください。