「戦略コンサルに転職しようと思っています」と相談されるとき、話を聞いていくと、だいたいその先に独立が置かれています

いますぐではない。ただ、いつか自分でやりたい。そのための踏み台として戦略ファームを考えている、という順番です。

私はその考え方自体は正しいと思っています。ただし**「戦略コンサルを経験すれば独立できる」という等号は成り立ちません**。ファームの中で身につく力のうち、独立後にそのまま値段がつくものと、看板が外れた瞬間に効かなくなるものが、はっきり分かれるからです。

この記事は、その仕分けの話です。

先に断っておく:「何割が独立したか」は書きません

この手の記事でよく見る「戦略コンサル出身者の◯%が独立」という数字を、私は出しません。

ファームは退職者の進路を公表していませんし、公開情報から母数を確定できないからです。 出そうと思えばそれらしい数字は作れますが、それは推測を実測の顔で出すことになります。転職という取り返しのつきにくい判断の材料に、そういう数字を混ぜたくない。

代わりに書けるのは、進路の「種類」と、その分岐で何が効いたかです。ここから先はその話に絞ります。

戦略ファームを出た人の進路は、実際には3本ある

観測できる範囲で言うと、出口は3つに分かれます。

1. 社内に残って上がる パートナーやプリンシパルを目指す道です。ここに残る人は、コンサルティングという仕事そのものが好きというより、「案件を作る側」に回ることに魅力を感じていることが多い。売る側の仕事だからです。

2. 事業会社に移る 経営企画、事業開発、PMIの推進役。いわゆるポストコンサルです。この道の実感についてはコンサルから事業会社への転職に別途書きました。

3. 独立する 自分の名前で受ける。この記事の読者が視野に入れているのは、たぶんここです。

重要なのは、3本のうちどれを選べるかが、辞める時点の「持ち物」でおおむね決まってしまうことです。持ち物とは資格や年次ではなく、次の章のリストです。

独立に効いた経験

私自身は戦略ファームの出身ではなく、業務・IT寄りの育ち方をしました。ただ独立後、戦略出身の人と組む機会は何度もありました。そこで明らかに強いと感じた力を挙げます。

論点を1枚に落とす訓練 これが一番効きます。独立すると、提案の場に与えられる時間は驚くほど短い。30分の初回面談で「この人は何が分かっているのか」を伝えきる必要があります。紙1枚に論点を構造化する癖は、そのまま受注率になります。

意思決定者と直接話した回数 役員や部門長と、通訳を挟まずに話した経験の量です。独立後の相手は、ほぼ全員が決裁者になります。ここで臆する人は、内容が良くても話が前に進みません。ファームの中でその席に何回座ったかが、そのまま効きます。

自分でスコープを切った経験 「何をやって、何をやらないか」を決めた経験です。独立後、これができないと契約の外側の仕事を無限に引き受けることになります。単価が下がるのではなく、時間あたりの実入りが静かに崩れていく。ここは業務委託でコンサルを受けるときの責任範囲にも通じます。

効かなかった経験

逆に、独立した瞬間に価値が落ちるものもあります。ここを直視しないまま辞めた人が、いちばん苦労していました。

ファームの看板 当たり前のようで、いちばん見誤られます。ファームにいる間、初回訪問の信用は会社が立て替えてくれていました。独立後はその立て替えが無くなります。 実力が落ちたわけではないのに、話を聞いてもらうまでの距離が急に伸びる。この落差を「自分の力不足」と受け取って折れる人を、何人か見ました。

大人数を前提にした分業 「調査は若手に振る」「資料整形はチームで回す」という前提です。独立後は全部自分です。分析の精度は落ちないのに、成果物が出るまでの時間が何倍にもなる。 これを見積もりに織り込まずに単価を出すと、初年度で必ず苦しくなります。

「正しさ」だけで押し切る作法 ファームは正しさで押せる場所です。契約と体制がそれを支えているから。独立して1人で入ると、正しいことを言うだけでは動きません。誰にどの順で話すかまで含めて設計する必要が出てきます。ここが一番、切り替えに時間がかかると聞きます。

戦略出身は、独立後に「売り方」を変えることになる

もうひとつ、現実的な話をします。

独立後に単発の依頼が発生しやすいのは、期限と成果物がはっきりした仕事です。システム導入、決算プロセスの立て直し、制度設計。終わりが見えるものほど、外の人間に頼みやすい。

一方、戦略テーマは社内でやると決めた瞬間に体制が組まれるため、個人で入る枠が生まれにくい。だから戦略出身で独立した人の多くは、テーマをそのまま持ち出すのではなく、「意思決定を支える部分」を切り出して売っています。 事業計画の数字を作り直す、投資判断の材料を揃える、といった形です。

このあたりの相場感はコンサル単価の相場に、依頼がどこから来るのかは独立コンサルが案件を取る経路にまとめてあります。

転職する前に、決めておきたい3つ

戦略コンサルへの転職を独立の踏み台にするなら、入る前にこれだけは決めておいてください。

  1. 何年で出るかを先に置く。 期限が無いと、居心地の良さで残ります。残ること自体は悪くないのですが、それは選択であって、流された結果であってはならない。
  2. 決裁者の前に座れる配属かを確認する。 分析だけを回すポジションだと、独立に効く経験が積みにくい。入ってからでは選べません。
  3. 辞めた後に名乗る領域を1つ決めておく。 「戦略ができます」は、独立後にいちばん売りにくい看板です。何の領域の人か、を先に置く。

面接の場で独立志向を伝えるべきかどうかは、また別の判断になります。それはコンサル転職と独立の順番に書きました。


戦略コンサルへの転職は、独立への遠回りではありません。ただし、そこで得たものを一度ぜんぶ棚に出して、値札がつくものだけを持って出る作業が要ります。

看板を外しても残るものは何か。それを転職する前から意識していた人は、辞めた後の立ち上がりが明らかに早かった。私が見てきた範囲では、そこが一番はっきりした差でした。

いま独立の条件が揃っているかを確かめたい方は、独立の条件も合わせてどうぞ。