「S/4HANAへの移行で案件が増えるらしい」——SAP周辺でよく聞く話です。結論から言うと、半分は本当で、半分は注意が要ります。増える案件の中で、単価が伸びる仕事とコモディティ化していく仕事がはっきり分かれるからです。FI(財務会計)の導入をPMまでやった立場で、需要の実際と、選ばれ続ける人の条件を正直に整理します。
なぜ移行が起きるのか(2027年問題)
多くの企業が長年使ってきた旧基幹SAP ECCは、標準保守の期限が2027年末に設定されています(延長保守で2030年末までという選択肢はあるものの有償・限定的)。期限を過ぎれば法改正対応やセキュリティ更新が細るため、国内の大企業はS/4HANAへの移行を避けて通れません。これがいわゆる「2025年の崖」「2027年問題」と呼ばれるもので、移行プロジェクトが各社で立ち上がる背景になっています。
会計まわりの影響は特に大きい
移行の中でも、会計・管理会計の領域は変更が深いのが実務の実感です。S/4HANAでは仕訳の持ち方が**Universal Journal(単一の伝票テーブルへの集約)**に変わり、財務会計と管理会計の境目、固定資産、債権債務の作り方が旧来と違います。単なる箱の載せ替えではなく、勘定体系や決算プロセスの見直しがセットで走る。だからFI/CO領域の要員需要は、移行の山とともに確かに増えます。
「増える案件」の中身が二極化する
ここが注意点です。移行案件には大きく二つのタイプがあります。
- 技術変換(Brownfield/システム変換):現行の仕組みをできるだけそのままS/4HANAへ載せ替える方式。変換ツールの自動化が進み、作業自体は年々コモディティ化しています。
- 業務再設計(Greenfield/新規構築や選択的移行):この機会に業務を標準機能へ寄せ、アドオンを減らし、決算を作り直す方式。ここは業務を語れる人でないと務まりません。
数が増えるのは前者ですが、単価が伸びて選ばれるのは後者です。載せ替えだけの仕事は価格競争になりやすい。
選ばれる人が持っている三つのもの
- 会計・業務の言葉で話せる:設定画面ではなく、決算・月次・監査の実務から逆算して要件を語れること。
- 標準機能を「翻訳」できる:fit-to-standard(標準に業務を寄せる)を、押し付けでなく「この業務はこう置き換えられる」と現場の言葉に翻訳できること。
- 移行後の運用まで見ている:本番後の初回決算、月次の回り方まで見据えて設計できること。
正直な制約
S/4HANA案件は基本的に大企業中心・長期・チーム型です。一人のフリーランスがいきなり全工程を背負う話ではなく、FIならFIというパートを持ち、プロジェクトの一部として入るのが現実的な入り方になります。裏を返せば、専門を一つ深く持っていれば席は用意されやすい領域です。
2027年という期限は、脅し文句ではなく実務のカレンダーです。載せ替え作業はやがて安くなる一方で、会計を分かって業務を再設計できるコンサルには、しばらく追い風が続く——それが現場から見た正直なところです。