「SAPなら、独立しても食べていけますよ」。会社員時代、何度かそう言われました。半分は本当で、半分は言葉が足りない、と今は思います。私はSAP導入のプロジェクトを現場で回したあと独立しました。フリーランスになってみて分かったのは、SAPという専門が確かに強い武器になる一方で、独立特有のしんどさはちゃんと付いてくる、ということです。この記事では、SAPフリーランスの現実を、憧れでも脅しでもなく、私の実感のまま書きます。単価のリアル、案件が切れる波、常駐とリモートの実際。盛りません。

なぜSAPは「独立しても食べていける」と言われるのか

最初に、いい面から正直に。SAPフリーランスがよく「強い」と言われるのには、ちゃんと理由があります。SAPは多くの大企業の基幹システムとして動いていて、導入も、入れ替えも、運用の改善も、常にどこかで走っている。需要が景気にそこまで左右されず、しかも扱える人が足りていない。この需給のゆがみが、SAPの専門性を持つ人の単価を支えています。

実際、独立してまず驚いたのは、声のかかり方でした。会社という看板を外しても、「SAPのこのモジュールが分かる」というだけで話が前に進む。汎用的な「コンサルできます」より、「SAPの何ができます」のほうが、独立後は圧倒的に通りがいい。専門が一本きれいに立っていることの強さを、独立して初めて体感しました。これがSAPフリーランスの土台です。ただし、ここから先に現実があります。

SAPフリーランスの単価は、入口で決まらず「替えのきかなさ」で決まる

いちばん知りたいのは単価でしょうから、私の実感で書きます。数字は案件・モジュール・役割で大きく変わる前提で読んでください。未経験に近い状態でSAPの現場に入る場合、月60〜75万円あたりが一つの目安になることが多い、というのが私が見てきた肌感です。ここから、担当できる範囲が広がり、任される役割が重くなるほど、単価は上がっていきます。

ただ、独立して痛感したのは、単価を決めるのは「SAPができる」という入口の事実ではなく、「あなたでないと困る」という替えのきかなさだということでした。同じSAP人材でも、言われた設定をこなす人と、業務を理解して「その設計だと後で困ります」と言える人とでは、付く数字がまるで違う。私の専門は会計まわりなので、SAPの設定と経理の実務の両方を橋渡しできることが、そのまま単価の根拠になりました。専門を一本ではなく、二本掛け合わせると、替えがきかなくなる。これは独立して初めて分かった、単価の本質でした。

単価そのものの上げ方、入口の年収がどう伸びていくかは、SAPコンサルの年収のリアルに、平均額ではなく「傾き」で見る考え方を書きました。数字だけ追うと見誤るので、合わせて読んでみてください。

SAPフリーランスの単価が「SAPができる」という入口ではなく、業務理解と専門の掛け合わせによる「替えのきかなさ」で決まることを示した図解

いちばんしんどいのは単価ではなく「案件の波」だった

ここからが、憧れの裏側です。SAPフリーランスで本当にしんどいのは、単価の低さではありません。案件には終わりがあり、終わると一度ゼロに戻る——この波です。

SAPの案件は、導入であれ改修であれ、たいていプロジェクト単位で区切られています。半年、一年と関わって、無事に終わる。そこで関係は一区切りです。会社員なら次のアサインは会社が用意してくれますが、フリーランスは自分で次を見つけないと、収入がそのまま途切れる。私が独立して最初に怖かったのは、案件が決まらないことよりも、今の案件がいつ終わるかが先に見えていて、その先が真っ白だったことでした。

この波と付き合うために、私がやったのは三つです。一つ、案件の終わりが見えた瞬間に次の動きを始める。終わってから探すと、空白がそのまま無収入になる。二つ、生活を、一本の案件の単価いっぱいまで膨らませない。退路があるだけで、足元を見られずに次を選べます。三つ、SAPの腕を磨き続けることを、案件と並行で止めない。波の谷で価値が下がらないように。SAPは需要が安定しているぶん、この「自分で波を均す」意識を持てるかどうかで、独立後の安定感がまるで変わりました。

SAPフリーランスの案件は一種類ではない——入り方で暮らしが変わる

独立前の私は、「SAPの案件」をひとまとめに捉えていました。でも実際に独立してみると、案件にはいくつかの型があって、どの型に入るかで、単価も、働き方も、案件の波の大きさも、まるで違うと分かりました。これを知らずに飛び込むと、思っていた独立生活とずれます。

ざっくり言うと、新しくシステムを入れる導入の案件は、関わる期間が比較的長く、業務をゼロから設計する手応えがある一方、終わると一気に区切れます。すでに動いているシステムを支える運用・保守の案件は、一本あたりの派手さは小さくても、関係が長く続きやすく、案件の波が穏やかになりやすい。既存システムに機能を足す改修や、プロジェクト全体を回すまとめ役の案件は、また求められる力が違います。私が独立して安定を感じられるようになったのは、期間の長い案件と、波の穏やかな案件を、意識して組み合わせるようになってからでした。

ここで言いたいのは、どれが正解かではありません。自分が「収入の安定」を取りたいのか、「大きな手応え」を取りたいのかで、入るべき型が変わるということです。独立すると、この選択を全部自分で握れる。会社員のときはアサインされるだけだった案件の型を、自分の暮らしの設計図として選べるようになる——これは、SAPフリーランスの隠れた自由でした。

「常駐かリモートか」は、独立の自由度を左右する現実問題

もう一つ、独立前に意外と語られないのが働き方です。SAPの案件は、基幹システムを扱う性質上、まだ客先常駐を前提にしたものが少なくありません。セキュリティや関係者との距離の問題で、現場にいることを求められる案件は確かにある。「フリーランス=自由に在宅」というイメージで独立すると、ここでギャップを感じる人がいます。

一方で、リモート中心や、初回の顔合わせと月数回の出社で回せる案件も、確実に増えてきました。私自身は、初回はきちんと顔を合わせ、その後はリモートを中心に、必要なときだけ出社する——この形を最初の提案でこちらから示すようにしています。常駐前提を黙って受けると、独立したのに働き方の自由が手に入らない。逆に、リモートを当然のように要求しすぎると、案件の選択肢が狭まる。この折り合いを自分の言葉で交渉できるかが、SAPフリーランスの暮らしやすさを地味に大きく左右します。働き方は、単価と同じくらい、最初に握っておくべき条件でした。

SAP案件の常駐前提とフリーランスのリモート志向の間で、「初回顔合わせ+月数回出社+リモート中心」という折り合いを自分から提案することの効果を示した図解

これからSAPで独立する人へ——武器の磨き方と、入り方の順番

ここまで読んで、「やっぱり大変そう」と思ったかもしれません。でも私は、SAPで独立してよかったと心から思っています。需要が安定した専門を一本持っていることの安心感は、何ものにも代えがたい。そのうえで、これから独立する人に伝えたい順番があります。

まず、未経験に近いなら、いきなり独立しないこと。SAPは現場で業務とセットで覚える領域が大きく、独学だけで単価のつく状態には届きにくい。一度どこかの現場で、業務を理解しながらモジュールを深める時間が要ります。どこから入ればいいかは、未経験からSAPコンサルになるにはに、私が見てきた現実的な道筋を整理しました。

そのうえで独立するなら、「SAPができる」で止まらず、もう一本の専門と掛け合わせること。会計、業務改革、プロジェクトを率いる力——何でもいい、SAPの隣に立つ専門を厚くするほど、替えがきかなくなり、単価も案件の安定も付いてきます。そして独立直後の値付けで損をしないために、独立コンサルの単価の決め方も先に読んでおくと、最初の一案件の交渉が変わります。

SAPフリーランスの現実は、甘くも、絶望的でもありません。需要という追い風はある。けれど波を均すのも、働き方を交渉するのも、最後は自分。その当たり前を引き受けられるなら、SAPは独立を支える、いい武器になります。私は、そう実感しています。