「SAP FIコンサルタントって、結局なにをする人なんですか」。経理からこの道を考えている人に、いちばん多く聞かれる質問です。求人票には「FI経験者募集」とだけ書いてあって、中身の仕事が見えない。私は経理を出発点にSAP FIの領域に入り、今も現場に立っています。この記事では、SAP FIコンサルタントの仕事内容を、抽象的な役割説明ではなく、実際にどの工程で何をやっているかまで分解します。「設定する人」という一言では全然足りない、その中身を渡します。

そもそもSAPの「FI」が扱うのは、会社のお金の記録そのもの

まず前提から。SAPは会社の業務を丸ごと動かすシステムで、その中が領域ごとに分かれています。FIは Financial Accounting、日本語でいう財務会計の領域です。ざっくり言えば、会社のお金の動きを正しく記録し、決算や外部への報告に耐える形にまとめる部分を担います。

FIが扱う範囲は、主にこのあたりです。

  • 総勘定元帳(G/L):すべての取引が最終的に集まる、会計の背骨
  • 買掛管理(AP):仕入先への支払いに関わる記録
  • 売掛管理(AR):得意先からの入金に関わる記録
  • 固定資産(AA):設備などの資産と、その減価償却の管理
  • 銀行会計:入出金や消込の処理

経理を経験した人なら、ここに並ぶ言葉が全部見覚えのあるものだと気づくはずです。仕訳、元帳、支払、消込、減価償却。FIコンサルタントの仕事は、経理の人が手や表計算でやってきたことを、システムの上で正しく回る形に設計し直すことだと考えると、いちばん腹落ちします。だからこそ経理経験が強く効く。この道への入り方は経理からSAPへ転身するにも書きました。

仕事内容は「設定」だけではない。工程ごとに役割が変わる

SAP FIコンサルタントというと、システムの設定をする人、というイメージが強い。でも実際の仕事内容は、プロジェクトの工程ごとに大きく姿を変えます。ここを知らないと、求人票の「FIコンサル」が指す仕事の幅を読み違えます。

要件定義のフェーズでは、設定はまだ触りません。やるのは、その会社が今どう会計処理をしているかを聞き取り、SAPでどう実現するかを描くこと。ここでは会話が主役で、相手の経理の言い分を正しく理解できるかがすべてです。

Fit&Gap(フィットギャップ)のフェーズでは、SAPの標準機能でそのまま実現できること(Fit)と、できずに工夫が要ること(Gap)を仕分けます。ここが腕の見せどころで、安易に「作り込み」に逃げず、標準で回す道をどれだけ提案できるかがコンサルの価値になります。

設定(コンフィグ)のフェーズで、ようやく世間のイメージ通りの作業に入ります。会社コード、勘定科目、支払条件、決算処理の枠組みなどを、システムの上で組み立てていく。

テストと移行、本番稼働支援のフェーズでは、組んだものが本当に正しく動くかを検証し、旧システムのデータを移し、実際の業務が止まらないよう伴走します。

FIコンサルの仕事は「設定」だけではない。聞く・仕分ける・組む・検証する・伴走する。工程ごとに使う筋肉がまるで違う。

一日の中身は、思ったより「会話」と「翻訳」が多い

設定作業に一日こもっているイメージを持たれがちですが、実際の仕事内容は、会話と翻訳にかなりの時間を使います。

翻訳、というのは比喩です。経理の現場が話す「こういう処理をしたい」という言葉を、SAPという仕組みが理解できる形に置き換える。逆に、SAPの制約を、経理の人が納得できる言葉に置き換えて返す。この双方向の翻訳が、FIコンサルの日々の中心にあります。設定の巧拙より、この翻訳がうまくいくかどうかで、プロジェクトの空気がまるで変わる。

たとえば、経理の現場が「この費用は毎月同じ相手に決まった額を払っている」と言えば、それを支払処理の設計にどう落とすかを考える。「決算のときにこの科目だけ手作業で振り替えている」と言えば、それを標準の仕組みで自動化できないかを探す。相手の何気ない一言の裏にある業務を読み取って、システムの言葉に翻訳する。これがFIコンサルの一日の中身の、いちばん核にある作業です。

だから、経理としての当事者経験が、そのまま武器になります。決算の追い込みで何に苦しむか、支払処理でどこが事故りやすいか、監査で何を突かれるか。それを自分の体で知っている人の設計は、机上の設計とは強度が違う。経理未経験からSAPを目指す道もありますが、経理を通ってきた人はこの翻訳力で最初から一歩前にいます。未経験からの入り方は未経験からSAPコンサルになるにはに整理しました。

経理のどの経験が、FIのどこで効くのか

「経理経験が効く」と言われても、抽象的だとピンと来ないと思うので、具体的に対応づけてみます。

月次・年次の決算を回した経験は、FIの総勘定元帳や決算処理の設計でそのまま効きます。締めのときに何を確認し、どこで数字が合わなくなるかを体で知っているから、「動く」だけでなく「締められる」システムを設計できる。

支払業務を回した経験は、買掛管理の設計で効きます。支払サイト、振込データ、二重払いの防止。事故が起きやすい勘所を知っている人の設計は、机上のそれより現場で強い。

入金消込に苦しんだ経験は、売掛管理の設計で効く。どんな消込が現場で詰まるかを知っていると、標準機能をどう使えば楽になるかが見える。

監査対応の経験も、実は大きな武器です。誰が何を承認したか、証跡がどう残るか。監査で突かれる観点を先回りして設計に織り込めるのは、経理を通ってきた人ならではです。

決算・支払・消込・監査。経理で流した汗のひとつひとつが、FIの設計のどこかに直結する。未経験者が知識で埋める部分を、あなたは経験で埋められる。

裏を返せば、経理未経験からFIに入る人は、この体感を後から学びで補う必要があります。入れないわけではないけれど、入り方で差がつく。だからこそ経理出身は、最初の一歩を強く踏み出せる立ち位置にいます。

FI単体では完結しない。隣の領域とのつながりを知っておく

もう一つ、仕事内容を正しく捉えるために大事なのが、FIは一つの島ではないということです。会社のお金は、他の業務の結果として動きます。

たとえば、モノを買えば購買や在庫の領域とつながり、その結果が買掛としてFIに流れてくる。原価や部門別の採算を見る管理会計(CO)とは、特に密接です。FIとCOはセットで語られることが多く、実際、FIだけでなくCOも見られる人は現場で重宝されます。SAPが会社を「丸ごと」動かすシステムである以上、FIコンサルにも、隣の領域と会話できる幅が求められる。

最初から全部を知る必要はありません。まずFIの背骨を固め、そこから隣へ少しずつ手を伸ばす。この順番で伸ばしていくロードマップは経理未経験からのSAPロードマップにまとめています。仕事内容の幅が広いということは、それだけ長く価値を出し続けられるということでもあります。

「設定する人」ではなく「会計の分かる翻訳者」

ここまで分解してきて、いちばん伝えたいのはこれです。SAP FIコンサルタントは、システムの設定をする人ではありません。会計を理解した上で、経理の現場とシステムのあいだに立つ翻訳者です。設定はそのための手段の一つでしかない。

だから、経理をやってきた人がこの仕事に向かうのは、遠回りでも異業種転職でもなく、むしろ自然な地続きの道だと私は思っています。あなたが決算で流した汗、支払でヒヤリとした経験、監査で詰められた記憶。その全部が、この仕事では資産になる。仕事内容を知ったうえで、次に気になるのは待遇でしょう。年収の現実はSAPコンサルの年収のリアルに、盛らずに書いています。設定できるかどうかより、会計が分かるかどうか。そこにこそ、経理出身のあなたの勝ち筋があります。