「SAPコンサルって、今からでも将来性あるんですか」。キャリアの相談を受けると、よく聞かれます。AIがこれだけ進む時代に、古くからある業務システムの専門職に賭けていいのか——気持ちはよく分かります。私自身、SAPのFI(財務会計)領域を現場でやってきた人間として、この問いには正直に答えたい。**結論から言うと、需要は当面続くと見ています。ただし「どんなSAPの仕事も安泰」ではありません。**この記事は、需要が続く理由と、逆に消えていく仕事の両方を、現役の立場から具体的に書きます。

はじめに一つ。SAPの製品名や保守の方針、移行に関するルールは更新されます。本記事は2026年時点で私が現場で見ている景色をもとにした整理です。具体的な保守期限や製品の最新情報は、必ずSAP公式の発表でご確認ください。

まず、需要が続くと私が考える「土台の理由」

将来性を語る前に、なぜ今これだけSAPの仕事があるのか。その土台を押さえると、見通しが立てやすくなります。理由は大きく二つです。

一つ目は、いわゆる「2027年問題」と呼ばれる保守期限です。 長く使われてきた旧世代のSAP(ECCと呼ばれる世代)には標準的な保守の期限があり、その後も延長保守が一定期間用意されている、という構造があります。期限が近づくほど、企業は新世代のS/4HANAへ移行せざるを得なくなる。この移行は、システムを入れ替えるだけの単純な作業ではなく、業務のやり方そのものを見直す大きなプロジェクトになります。だから人手が要る。

二つ目は、SAPを使う企業がそもそも多く、移行が一巡しても終わらないことです。 大企業や中堅企業の基幹システムとして、SAPは広く使われています。そして移行は「入れて終わり」ではない。入れた後に、定着させ、使いこなし、経営の意思決定に使えるところまで持っていくフェーズが、長く続きます。

この二つがあるから、私は当面の需要を心配していません。SAP未経験からこの世界に入る道筋自体はSAP未経験からコンサルになるにはに、具体的な学習の順番はSAP未経験からのロードマップに書いたので、入り口を知りたい人はそちらを先に。

移行は「波」——だからこそ、波の後を見ておく

ただし、正直に言っておきたいことがあります。S/4HANAへの移行需要は、ずっと一定で続くわけではなく、波があるということです。保守期限に向けて山があり、多くの企業が移行を終えれば、新規の「移行プロジェクト」そのものの数は、いずれ落ち着いていきます。

ここで「じゃあ将来性ないじゃないか」と思うのは早い。移行という入り口の仕事が落ち着いた後に、別の大きな仕事が控えているからです。

  • 運用・定着・改善:入れたシステムを、現場が本当に使いこなせるようにする。業務に合わせて調整し続ける。
  • クラウド化への対応:SAPはクラウド型への移行を進めていて、移行パッケージ(私の理解では、既存システムのプライベートクラウド移行を支援するRISE with SAP、新規・成長企業向けのパブリッククラウド型のGROW with SAPなど)も用意されています。「移行して終わり」ではなく、クラウド前提の運用が新しいテーマになります。
  • 経営管理への接続:会計データを、締めるためだけでなく、経営の意思決定に使うところまで引き上げる。ここが、私が最も将来性を感じている領域です。

つまり、波の山だけを見て「移行案件が減ったら終わり」と考えるのは、視野が狭い。本当の問いは「移行の後も価値を出せる人になれるか」です。

AIが出てきても、SAPコンサルの仕事は消えるのか

ここが、いまいちばん聞かれる部分です。AIで自動化が進めば、SAPコンサルの仕事もなくなるんじゃないか。SAP自身もJouleというAIアシスタントを打ち出していて、現場の作業を支援する流れは確かにあります。

私の見立てを正直に言います。消える仕事と、むしろ価値が上がる仕事に、はっきり分かれます。

消えていく・価値が下がりやすい仕事:

  • 手順書どおりに設定値を入れるだけの作業
  • 決まったパターンのデータ移行や、定型的なテスト
  • 仕様書を渡されてそのとおりに作るだけの開発

こうした「言われたとおりにやる」部分は、AIや自動化が得意なところで、人がやる価値は下がっていきます。

むしろ価値が上がる仕事:

  • 業務をどう設計するかを決める:会社の業務を理解し、何をシステムに乗せ、何を変えるかを判断する。
  • 会計・経営管理の判断:会計基準や税務、グループ全体の見え方を踏まえて、「どう作るのが正しいか」を決める。
  • 人と組織の利害を調整する:部門ごとに違う事情をまとめ、プロジェクトを前に進める。

これらはAIに丸投げできません。正解が一つでなく、会社の事情と判断が要る領域だからです。AIは下書きや作業を速くしてくれますが、「何を作るべきか」を決めるのは、これからも人の仕事です。だから私は、AIを脅威というより、定型作業を引き受けてくれる相棒だと捉えています。

私が将来性を感じる本丸は、「会計が分かるSAP人材」

ここから、私の専門にひきつけて、いちばん伝えたいことを書きます。SAPコンサルの将来性は、技術力だけで語れません。私が現場で痛感しているのは、業務と会計が分かったうえでSAPを扱える人が、決定的に足りないということです。

SAPのFI、つまり財務会計の領域は、ただの記帳のシステムではありません。会社のお金の流れを映し、締め、そして経営の意思決定に使うための土台です。ここを扱うには、システムの設定スキルだけでなく、

  • 会計や税務の知識
  • 月次・年次でどう締めるかという実務感覚
  • グループ全体・経営の視点から、数字をどう見せるか

といった力が要ります。SAPだけ分かる人、会計だけ分かる人は世の中にいますが、その両方を橋渡しできる人は希少です。そして移行が一巡した後の「経営管理に使えるところまで引き上げる」フェーズで、まさにこの橋渡し役が求められる。

私が「将来性がある」と言い切れるのは、この業務×会計×SAPの掛け算ができる人材についてです。逆に言えば、設定だけ、開発だけ、という単機能の人は、これからは厳しくなる。だから将来性は「SAPをやるか」ではなく、「SAPで何を掛け算するか」で決まります。経理の実務からこの道に入る強みについては経理からSAPコンサルへの転身に詳しく書いたので、会計のバックグラウンドがある人は、それが大きな武器になります。

将来性を「自分のもの」にするために、今やること

最後に、抽象論で終わらせないために、現役の私が今すすめることをまとめます。

  1. 単なるオペレーターで止まらない:設定や開発の手を動かす力は土台として持ちつつ、「なぜそう作るのか」を業務と会計の言葉で説明できるところまで行く。
  2. 会計・経営管理の知識を、SAPと地続きで学ぶ:簿記や会計の知識を、SAPの画面と結びつけて理解する。両方を行き来できる人が強い。
  3. AIを使い倒す側に回る:AIで作業を速める前提で、自分は「何を作るべきか」を決める側に立つ。脅威ではなく道具として使う。
  4. 将来性は職種でなく、市場価値で測る:「SAPコンサル」という肩書きではなく、自分が今いくらで必要とされるかで判断する。実際の収入の現実はSAPコンサルの年収のリアルにまとめました。

SAPコンサルの将来性は、「SAPという技術が安泰だから」ではありません。正解が一つでない問題を、業務と会計の判断で解ける人が足りないからです。移行の波が落ち着いても、AIが進んでも、その役割はむしろ重みを増す。だからこの道を選ぶなら、設定屋で終わらず、判断ができる人を目指してほしい。そこに、本当の将来性があります。