「SAPコンサルになるには、何から始めればいいですか」

この質問を受けたとき、私はいつも一度聞き返します。**「今、どこにいますか」**と。

理由は単純で、SAPコンサルへの入口は1本ではないからです。検索して出てくる答えは、たいてい「資格を取る」か「未経験可の求人を探す」のどちらかに寄っています。でも実際にこの領域に入ってきた人たちを見てくると、通ってきた道は大きく4本に分かれます。そして4本は、入りやすさも、最初の案件に乗るまでの時間も、まったく違う。

私はコンサルティングファームでSAPのFI(財務会計)領域の導入プロジェクトに入り、最終的にPMとして現場を回してきました。この記事では、その現場で隣に座ってきた人たちがどの入口から来たのかを、4本に整理して並べます。

先に断っておくと、以下は**私が見てきた範囲の観測であって、統計ではありません。**数字を出せるほどの母数を私は持っていません。だから「何割が」という書き方はしません。順番と、詰まりやすい場所だけを書きます。

そしてこの記事の役割を、先にはっきりさせておきます。ここで扱うのは「入口の比較」と、20代で入るときの選び方だけです。入口を1本選んだあと、実際に何年かけて何が身につくのかという年数と順番は、未経験からSAPコンサルになるまでの実際の年数にまとめてあります。入口を決めたら、続きはそちらへ進んでください。

SAPという製品そのものと、SAPコンサルが案件の中で毎日何をしているのかは、SAPとは何か、SAPコンサルの案件から説明するに分けました。この記事では説明を繰り返しません。

入口①|新卒でファームに入り、配属でSAPに当たる

いちばん人数が多いのはこれです。総合系・IT系のコンサルティングファームに新卒で入り、プロジェクトへのアサインでSAP案件に配属される。

この入口の特徴は、自分でSAPを選んでいないことです。私の周りでも「SAPをやりたくて入りました」という人より、「配属されたのがSAP案件だった」という人のほうが多い。

  • 入りやすさ:ファームの新卒採用を通ればよく、SAPの知識は問われません。入口としてはいちばん広い
  • 最初の案件までの時間:短い。研修が終われば、次に立ち上がる案件に乗ります
  • 詰まる場所:入ったあとです。案件で担当した工程しか身につかないので、テストや移行ばかりを何度か回ると、「SAPをやってきたが、業務の設計を語れない」という状態になりやすい

新卒でこの入口に入った人が独立を考えるときにいちばんつまずくのが、ここです。経験年数はある。でも売れる形になっていない。年齢と選択肢の関係はSAPコンサルは何歳まで働けるかにも書きました。

入口②|SAP経験者として、中途で移る

すでにSAPに触れている人が、ファームやSAP専業の会社へ移る道です。事業会社の情シスでSAPの運用をしていた、SIerでSAPの開発をしていた、といった層。

  • 入りやすさ:経験の中身次第で大きく振れます。「SAPを触っていた」だけでは弱く、「どの工程で、どのモジュールを、どこまで持ったか」で見られる
  • 最初の案件までの時間:短い。中途は基本的に、埋めたいポジションがあるから採られます
  • 詰まる場所:入口ではなく手前。職務経歴書に工程とモジュールが書けていないと、経験があるのに評価されません

この入口を狙うなら、SAPコンサルへの転職と、モジュールの選び方を先に整理しておくほうが早いです。**「SAPができます」ではなく「FIの要件定義から本番稼働まで、2社分やりました」と書けるかどうか。**この一行で通り方が変わります。

入口③|経理・財務から、業務の知識ごと持ち込む

私がいちばん強いと思っているのがこの入口です。

自社にSAPが入るとき、業務側からユーザー代表としてプロジェクトに入る人がいます。決算を回している人、仕訳の意味が分かる人。そこでSAPの画面と自分の業務が地続きになる経験をした人が、そのままこの領域に移ってくる。

  • 入りやすさ:SAPの知識は薄いので、書類だけ見れば不利に見えます。ただし業務側の理解は、あとから覚えるのがいちばん難しい部分です
  • 最初の案件までの時間:中くらい。SAPの操作と設定の考え方を覚える期間が要ります
  • 詰まる場所:自信のなさ。「システムが分からない」と思い込んで手前で止まる人が多い

FI/COの領域は、システムを触れるだけでは務まりません。決算の流れ、仕訳の意味、原価計算の考え方が分かっていないと、要件を正しく設計に落とせない。この「業務×システム」の掛け算ができる人が少ないから、この領域の単価は高く保たれていますSAPコンサルの単価に分解しました)。

経理から移る具体的な道筋は経理からSAPへ転身するにまとめています。

入口④|SAP専業のパートナー企業に入り、案件に乗る

4本目が、SAPの導入を専門にしている会社に入る道です。SAP専業のブティック、SIerのSAP部隊、ERP導入を主戦場にしている中堅ファーム。

この入口の良いところは、会社の売上がSAPで立っているので、SAPの案件が確実に回ってくることです。総合ファームだと、SAP以外の案件に配属されることがあります。

  • 入りやすさ:会社の規模によります。少人数のブティックは、そもそも育成の余力が薄い
  • 最初の案件までの時間:短い。ただし次の導入案件の立ち上がりに合わせるので、タイミングに左右されます
  • 詰まる場所:担当範囲が狭く固定されやすいこと。同じモジュールの同じ工程を繰り返す形になりがち

4本を、同じ物差しで並べると

入口入りやすさ最初の案件までの時間いちばん詰まる場所
①新卒でファーム広い短い入ったあと。工程が偏る
②SAP経験者の中途経験の書き方次第短い職務経歴書。工程とモジュールが書けていない
③経理・財務から書類上は不利中くらい自信。システム側で止まる
④SAP専業に入る会社規模による短い(案件の立ち上がり待ち)担当範囲が固定される

並べてみると分かることがあります。①②④は「入るところ」に山がある入口で、③は「入ったあとが速い」入口です。

そして、どの入口でも共通して詰まるのは、SAPの知識ではありませんでした。「自分が何をやったか」を、工程とモジュールの粒度で言えるかどうかです。ここができていない人は、入口の種類にかかわらず止まります。

20代で入るなら、有利なのは「入れること」、足りないのは「業務の厚み」

「20代でSAPコンサルに転職したいのですが、どこから入るのがいいですか」という相談も、よく受けます。4本の入口を、年代の軸でもう一度見ておきます。

まず、なぜ年齢が入口に効くのか。未経験の人を採る会社は、現場に出しながら育てる期間の費用を、何年で回収できるかで判断しています。気分の問題ではなく計算の問題です(この構造はSAPコンサルへの転職は何歳まで間に合うかに詳しく書きました)。回収に使える年数が長いぶん、**20代は業務知識がゼロでも、入口①と④がかなり広く開いています。**私が見てきた範囲でも、新卒・第二新卒の入口は20代半ばまで、パートナー企業の入口は20代から30代前半が中心でした(観測であって統計ではありません)。

ただし、20代の有利はここまでです。入れることと、入ったあとに売れる形になることは別だからです。20代で入った人に足りないのは、たいてい業務の厚みでした。決算を締めたことがない、仕訳がなぜ立つのかを業務の言葉で説明できない。入口①④は、この足りない部分を埋めないまま工程だけを回せてしまう入口でもあります。

そこで、20代の人には「今いる場所」から入口を選んでもらっています。

20代の今いる場所いちばん近い入口20代のうちに足しておくもの
学生・社会人1〜2年目で、まだ業務の経験が薄い①新卒・第二新卒でファーム最初の現場で、お金が伝票から決算までどう流れるかの地図を描けるようにする
事業会社の経理・財務にいる③(業務の厚みがまだ薄ければ①④も候補)自分の業務を、SAPのどの機能で回すかを説明する練習
SIerや情シスで、SAPの運用・開発に触れている②SAP経験者の中途触った工程とモジュールを、経歴書に1行ずつ書ける粒度にする
SAP以外のITで数年やってきた④SAP専業のパートナー企業簿記レベルの会計の基礎。システムの会話はできても、会計の言葉が入ってこないため

迷いやすいのは、2行目の「20代で経理にいる人」です。③の入口は業務の厚みで評価される入口なので、年次の決算を一通り自分で回したことがあるかどうかで、私は分けて考えます。回したことがあるなら③の看板で行ける。まだなら、③で書類を出して薄く見られるより、①④の広い入口を使って配属先でFIを希望するほうが早いことが多い。どちらが近いかは、経理として何を締めてきたかで決まります。

もう一つ、20代で入る人に必ず伝えていることがあります。面接で「最初の1年で、どのプロジェクトのどの工程に入りますか」と聞くことです。答えが具体的なら育てる型がある。「案件次第です」しか返ってこないなら、工程が固定されないように自分で動く必要があります。この一問の意味は未経験からコンサルになる道は、いま何本あるかにも書きました。

そして、20代で入ったこと自体は、独立を早めてはくれません。独立して単価の根拠になるのは、導入案件を何本、どの工程まで通したかです。年数ごとに何が身につくかは未経験からSAPコンサルになるまでの実際の年数に置いてあります。30代以降で入る場合の線は、上の転職の記事とSAPコンサルは何歳まで働けるかの側で扱っています。

資格は、どの入口の何番目に置くか

「まず資格ですよね」と聞かれることが多いので、正直に書きます。

**4本のどの入口でも、資格は最初ではありません。**私自身、資格を握りしめてこの領域に入ったわけではなく、案件の中で実務を覚えました。詳しくはSAPコンサルに資格はいるのかに書いています。

ただし、③の入口だけは事情が少し違います。**業務側から移る人は、SAPを触った証明が手元に何もない。**そのときに資格が「手前の一歩」として効く場面はあります。資格制度の内容は更新されるので、受験要件や必要なトレーニングは必ずSAP公式でご確認ください。

未経験から入るなら、まず入口を1本に決める

未経験からこの領域を目指す人がいちばん消耗するのは、4本を同時に検討してしまうことです。求人を見て、資格を調べて、ロードマップを読んで、また求人に戻る。動いているようで、どの入口にも近づいていない。

自分の今の職歴からいちばん近い1本を選んで、そこだけを詰めるほうが速い。入口を1本に決めたあとの具体的な順番と年数は、未経験からSAPコンサルになるまでの実際の年数にまとめています。

そして、入口の先に何があるか

この記事は「なるには」の話ですが、書いている私自身は、SAPコンサルとして独立したあとの景色のほうを長く見ています。

正直に言うと、入口①〜④のどれを通っても、独立できるかどうかは別の問題です。分かれ目は、会社の看板の内側で「案件が降ってくる状態」に慣れきってしまったかどうかでした。この話はSAPコンサルとして独立するに書いています。

入口を選ぶときに、その先まで一度見ておくと、選び方が変わります。少なくとも私は、入ってから知りました。

まとめ

SAPコンサルになるには、入口は4本あります。

  1. 新卒でファームに入り、配属で当たる(広いが、入ったあと工程が偏る)
  2. SAP経験者として中途で移る(経験の書き方が全部)
  3. 経理・財務から業務の知識ごと持ち込む(書類上は不利だが、いちばん代えがきかない)
  4. SAP専業のパートナー企業に入る(案件は確実に来るが、範囲が固定されやすい)

20代で入る場合は、入れることが有利で、業務の厚みが足りない。今いる場所から近い入口を選び、足りない側を20代のうちに足しておく。経理にいる人は、年次の決算を自分で回したかどうかで③か①④かを分ける。

4本を比べるより先に、**自分の今の職歴からいちばん近い1本を決める。**それが、この領域でいちばん時間を節約する方法です。

自分がどの入口に近いのか、独立まで見据えると何が足りないのかを整理したい方は、フリーコンサル アカデミーの内容も見てみてください。