案件の話が来て、役割の欄に「PMO支援」と書かれている。
このとき、単価はだいたい同じレンジに落ちます。経験年数が違っても、前職が違っても、担当する領域が違っても、なぜか近い数字に収束する。
これは実力の評価ではありません。値付けの仕組みのほうに理由があります。
PMOという言葉は、やっていることの幅がとても広い。議事録を書く人もPMO、全社の投資判断の材料を作る人もPMO。**その幅が値段に反映されないまま、ひとつの名前で流通している。**だから同じレンジに固まります。
この記事では、その仕組みを分解します。私はSAP導入のプロジェクトにPM・PMOの立場で入ってきましたが、単価が動いた瞬間は毎回、やる仕事を変えたときではなく、契約に書かれる言葉を変えたときでした。
PMOの契約は、ほぼ準委任である
値段の話の前に、契約の型を確認します。ここが起点だからです。
民法は、仕事を頼む契約を大きく2つに分けています。条文を引きます。
請負(632条)
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
委任(643条)と、準委任(656条)
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
PMOの仕事は、法律行為ではない事務です。したがって準委任になります。ここまではほぼ例外がありません。
そして、この2つは報酬の発生条件が違います。
| 何に対して払うか | 報酬の根拠 | |
|---|---|---|
| 請負 | 仕事の完成 | 632条。完成しなければ原則として払われない(634条に例外) |
| 準委任 | 事務の処理 | 648条。処理した事実に対して払われる |
準委任の受任者が負う義務は、644条にこう書かれています。
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
「完成させろ」とは書いていません。「本旨に従って、注意をもって処理しろ」と書いてある。
ここが、PMOの単価の天井を作っている場所です。契約の型そのものの違いは、準委任と請負の違いにまとめました。
なぜ「事務の処理」は時間で値付けされるのか
完成に対して払うなら、値段は「完成物の価値」で決まります。システムが動く、建物が建つ、レポートが出る。成果物が独立して存在するので、その価値で交渉できる。
一方、事務の処理に対して払う場合、価値が独立して存在しません。PMOの成果は、発注側のプロジェクトの中に溶けます。会議が回った、課題が消えた、遅延が起きなかった。起きなかったことは、証拠が残らない。
だから発注側は、測れるものを物差しにします。**時間です。**週何日、月何時間。
結果として、PMOの単価は「稼働×レート」で組まれます。そしてレートは、同じ役割名で過去に払った額を基準に決まる。案件票に「PMO支援」と書かれた瞬間、参照される過去の額が決まってしまうわけです。
単価を動かすには、参照される言葉のほうを変えるしかありません。
PMOの仕事を5段に分ける
ここからが本題です。PMOと呼ばれる仕事を、私は5段に分けています。
1段目|記録する
議事録を取る。課題管理表を更新する。進捗を集めて表にする。
**この段は、交代可能性が最も高い。**誰がやっても出てくるものが近いからです。単価は上がりません。上がらないことに構造上の理由があるので、ここで頑張っても報われにくい。
2段目|揃える
会議体を設計する。報告の粒度を統一する。フォーマットを決めて、各チームの出し方を揃える。
ここから少しだけ価値が見えます。「バラバラだったものが揃った」は、前後の差が発注側にも見えるからです。ただし、揃った後は維持の仕事になるので、単価は一度上がって止まります。
3段目|見つける
遅延の予兆を先に見つける。表に出ていない依存関係を掘る。「このまま行くと来月ここが詰まる」を、詰まる前に言う。
**この段から、経験の差がはっきり出ます。**見つけられる人と見つけられない人がいて、代わりがききにくい。
ただし問題があります。**見つけたことは、見つけた本人にしか見えていない。**先回りして手を打った結果、何も起きなかった月は、外からは「何もしていない月」に見えます。
だから3段目には記録する義務が付随します。後述します。
4段目|決めさせる
意思決定の選択肢を組み立て、それぞれの帰結を並べ、推奨を付けて、決める人の前に出す。決めるのは発注側ですが、決められる状態にするのはこちらという分担です。
**単価がはっきり動くのは、ここからです。**理由は単純で、この仕事は「意思決定の速度」に直結するからです。決まらない期間はプロジェクトのコストを毎日食います。**速く決まることの価値は、発注側にとって計算できる。**計算できるものには、値段が付きます。
5段目|決める
権限の委譲を受けて、一定の範囲を自分で決める。
独立の立場でここに入るのは、簡単ではありません。**責任の所在が曖昧になりやすいからです。**入るなら、範囲を契約書に書いておく必要があります(後述)。
どの段にいるかは、契約書の一文で決まっている
5段のどこにいるかは、実は本人の力量よりも先に、契約書の業務範囲の書き方で決まっています。
「プロジェクト運営の支援」とだけ書かれていれば、何をやっても1〜2段の値段です。やっている仕事が4段でも、契約が1段の言葉なら、更新時に参照されるのは契約の言葉のほうです。
だから、締結のときにやることは1つです。実際にやる仕事を、契約書の業務範囲に書かせる。
書かせ方は、動詞を変えるだけで足ります。
| 書かれがちな言葉 | 置き換える言葉 |
|---|---|
| プロジェクト運営の支援 | 週次進捗会議の設計・運営、および課題のエスカレーション基準の策定 |
| 課題管理 | 課題の起票・分類・期限管理、および期限超過時の代替案の提示 |
| 資料作成の支援 | ステアリングコミッティ向け意思決定資料の作成(選択肢・影響・推奨の提示を含む) |
右の書き方をすると、**次の更新のときに参照される過去の額が変わります。**この作業は、単価交渉より前にやる仕事です。値付けの型そのものはコンサルの単価はどう決まるかに、相場の分布はコンサルの単価相場に書きました。
「起きなかったこと」を記録する
3段目以降のPMOがいちばん損をするのは、成果が不可視だからです。
私がやっているのは、単純な記録です。稼働の中で、次の3つを月次で数えます。
- 予兆を指摘した回数と、そのうち実際に発生を防いだ数
- 決裁の場に出した論点の数と、その場で決まった数
- 自分が入る前と後で、決定までにかかった日数
3つ目がいちばん効きます。「◯◯の意思決定に平均11営業日かかっていたものが、5営業日になった」は、発注側が自分で検算できる数字です。検算できる数字は、更新の会話で強い。
逆に、検算できない自己申告(「品質が向上した」「関係が円滑になった」)は、値上げの根拠になりません。これは単価を上げるにも書きましたが、PMOの場合はとくに、測る対象を自分で決めて先に宣言しておく必要があります。後から探すと、都合のいい数字を拾ったように見えるからです。
PMO特有の危険──指揮命令が移りやすい
もう1つ、PMOにだけ強く効く論点があります。
PMOは、発注側の会議体の内側に入ります。席が発注側のフロアにあり、朝会に出て、発注側の管理職から日々の指示を受ける。この形は、契約が準委任でも、実態が雇用に近づきます。
労働者派遣法2条1号は、労働者派遣をこう定義しています。
労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい…
条文が線を引いている場所は「指揮命令」です。独立している人はどこにも雇用されていないので、この定義そのものには乗りません。ただし、発注側から日々の作業指示を受けている状態は、契約の型と実態がずれているという事実は残ります。ずれた状態が何と呼ばれ、どのリスクが顕在化するかは、偽装請負に整理しました。
受ける側として現実的にやることは、2つです。
1つ目。作業の指示を受ける相手を、契約上の窓口1人に絞る。「誰からでも依頼が飛んでくる」状態は、実態としていちばん危ない。
2つ目。成果物の単位で報告する。「今週やったこと」ではなく「今週出した成果物と、次の判断に必要な残り」で報告すると、事務の処理という契約の形に沿います。
なお、これは発注側を疑う話ではありません。**発注側の管理部門も同じリスクを気にしています。**だから先にこちらから整えると、むしろ信頼されます。
単価が上がるPMOの共通点
私が見てきた範囲で、単価が上がっていく人には共通点が3つあります。
**1. 会議を減らしている。**増やす人ではなく、減らす人。会議体を設計するというのは、本質的には「決めるために必要な最小の場」に絞る仕事です。増やすのは誰でもできます。
**2. 課題管理表に締切と担当が全部入っている。**当たり前のようで、これができている現場は多くありません。空欄がない表は、それ自体が「誰が何を決めるべきか」の一覧になります。
**3. 自分がいなくなった後の運用を、先に文書にしている。**逆説的ですが、**引き継げる形にしている人ほど、契約が続きます。**理由は、その文書が「この人は何をやっていたのか」の唯一の証拠になるからです。
3つ目は、案件を安く受けてしまう構造から抜けるためにも効きます。何をやったかが不可視なままだと、値段は下向きにしか動きません。
経歴に書くときの粒度
最後に、スキルシートや職務経歴に書くときの話をします。
**「PMOとして支援」は、読む側にとって情報量がゼロです。**その1行から分かるのは、その人がPMOと呼ばれる仕事をしたことがある、ということだけ。5段のどこにいたかが分かりません。
書くならこの粒度です。
◯◯億円規模の基幹システム刷新(対象:会計・購買)において、8チーム・約60名のプロジェクト運営を担当。週次の進捗会議とステアリングコミッティの設計・運営、課題のエスカレーション基準の策定、意思決定資料の作成(選択肢・影響・推奨の提示)まで。稼働は週4日、期間14か月。
規模・領域・体制・自分がやった動詞・稼働・期間。**この6つが入っていると、読む側は5段のどこかを判断できます。**判断できる書類は、単価の会話が早い。
書類の作り方そのものは、独立コンサルのスキルシートは、発注側のどこを見られているかに、当社が様式を決めたときの判断ごと書きました。
まとめ
- PMOの契約はほぼ準委任(民法656条・643条)。準委任の報酬は648条で「事務の処理」に対して払われ、請負(632条)の「完成」に対する報酬とは値付けの仕組みが違う。
- 事務の処理は価値が独立して存在しないので、測れる時間で値付けされる。だから同じ役割名の過去の額に収束する。
- PMOの仕事は記録する/揃える/見つける/決めさせる/決めるの5段。単価がはっきり動くのは4段目(決めさせる)から。意思決定の速度は発注側が金額で計算できるから。
- どの段にいるかは力量より先に契約書の業務範囲の言葉で決まっている。締結時に、実際にやる仕事を動詞で書かせる。
- 3段目以降の成果は「起きなかったこと」なので不可視。予兆の指摘数・決裁に出した論点数・決定までの日数を自分で先に宣言して測る。検算できない自己申告は値上げの根拠にならない。
- PMOは発注側の会議体に深く入るぶん指揮命令が移りやすい。派遣法2条1号が線を引いているのは指揮命令。窓口を1人に絞り、成果物の単位で報告する。
「調整役」という言葉は、褒め言葉として使われることが多い。ですが値段の世界では、交代可能だという意味にしかなりません。
売っているものを言い換えるところから始めるのが、いちばん近道でした。
関連記事:準委任と請負の違い/準委任契約とは/偽装請負/コンサルの単価相場/コンサルの単価はどう決まるか/単価を上げる/単価交渉/案件を安く受けてしまうとき/業務委託でコンサルを受けるとき、何が変わるか/業務委託契約書の見るべき場所/フリーランスのコンサルタントは何で食べているか
参考:民法632条・634条・643条・644条・648条・656条/労働者派遣法2条1号(いずれもe-Gov法令検索のAPIで条文原文を取得して引用、2026-08-13時点)
※本記事は条文と公表資料、および筆者自身の実務経験に基づく整理です。契約の性質決定や個別の契約の解釈は事情によって結論が変わるため、実際の判断は弁護士・社会保険労務士にご確認ください。