先に、こちらの不格好な事実から書きます。
当社は、独立コンサルの受け入れ先になりうる会社を46社ぶんリスト化して持っていました。会社名、事業の内容、規模、なぜ候補に入れたかの理由まで書いてある。見た目はきちんとした見込み客リストです。
2026年8月に、そのリストへ需要を書く列を足しました。空きポジション数、職種、単価帯、開始時期。あわせて、その会社に聞いたのかどうかを記録する列も足して、46行すべてを埋めました。
結果は、こうです。
- 需要の4項目が実データで埋まった行=1社
- 残り45社は4項目とも「記載なし(未確認)」(4列×45社=180セル)
- 需要側として当社から打診した社=0社
1年近くかけて作った名簿に対して、こちらから聞いた会社はゼロでした。この記事は、その実測をそのまま書いたものです。同じことは、独立して自分で発注元を開拓している人のリストにも起きていると思います。
名簿と、見込み客リストの違い
作ったものを見返して分かったのは、私たちが持っていたのは見込み客リストではなく名簿だったということです。
名簿には、相手が誰かが書いてあります。社名、業種、規模、拠点、なぜ候補になるかの理由。全部そろっていて、読み物としては成立している。
見込み客リストには、相手に何があるかが書いてあります。いま空いている枠があるのか、どんな職種か、いくらの水準か、いつ始まるのか。この4つが無いと、リストを開いても次の行動が決まりません。
私たちの46行には、前者しか無かった。だから、開くたびに「よくできた資料だ」と思って、閉じていた。動かないリストは、たいてい情報が足りないのではなく、種類が違います。
足した4つの列と、5つ目の列
そこで足したのが、この4つです。
| 列 | 何を書くか |
|---|---|
| 空きポジション数 | いま何人ぶんの枠が空いているか |
| 職種 | どんな役割で探しているか |
| 単価帯 | いくらの水準の話か(先方が言った金額をそのまま書く) |
| 開始時期 | いつから始まる話か |
そして、この4つと同じくらい大事な5つ目を足しました。その会社に、需要を聞いたのかどうかを記録する列です。値は「未接触/接触済・未聴取/聴取中/聴取済/先方非開示」の5つから選ぶ形にしました。
5つ目が要る理由は、次の章に書きます。ここが、この整理でいちばん効いた部分でした。
空欄には、2つの意味がある
需要の列を空けたまま運用すると、後から読んだ人(数か月後の自分を含む)は、その空欄を**「空きが無い」と読みます**。実際には、たいてい**「聞いていない」**です。
この2つは、まったく違います。
- 空きが無い:確かめた結果。この会社は当面ふさがっている。次に見るのは数か月後でいい
- 聞いていない:まだ何も分かっていない。明日にでも枠が立っているかもしれないし、半年前から立っているかもしれない
空欄のままでは、この区別がつきません。だから、空欄を空欄のままにせず、聞いていない行には「記載なし(未確認)」と書いて欄を残しました。45社ぶん、180セル。埋めた側としては気持ちのいい作業ではありませんが、これを書いた瞬間に、リストの意味が変わりました。
「45社は空きが無い」ではなく「45社は聞いていない」。同じリストが、あきらめの記録から、やることの一覧に変わったわけです。
リストが動かないとき、たいてい足りていないのは会社の数ではなく、「聞いたかどうか」を書く欄のほうです。
なぜ、それまで気づけなかったのか
ここは自分たちの落ち度なので、範囲をつけて正確に書きます。
46社のリストには、実は一度、点検が入っていました。ただしその点検で見ていたのは、**「元にした資料に需要の4項目を書く列があるか」**でした。列があるかどうかを機械的に判定して、無いものは需要情報なし、と分類していた。
つまり、列の有無で分類しただけで、1行ずつ中身を見ていなかった。判定した本人も「これは行ごとの実データ判定ではない」と但し書きを残していました。但し書きは正しかったのに、その但し書きが読まれないまま、リストは「需要情報なし」という顔をして半年近く置かれていたことになります。
自動化や機械判定を入れると、こういう事故が起きます。判定した範囲と、判定していない範囲の境目が、成果物の上では見えなくなるからです。
埋まった1社は、こちらから聞いたから埋まったのではない
唯一埋まった1社の話をします。社名も金額も書けませんが、埋まった経緯は書けます。
その1社の需要は、別件で向こうから来た連絡の中に入っていました。募集の人数、役割、水準、期間まで、先方の文面に書いてあった。こちらが聞きに行ったのではありません。受け取っていたのに、名簿の側に転記されていなかっただけです。
しかもその連絡は、独立コンサルの受け入れ先を探すために来たものではなく、こちらの既存のメンバーに向けた打診でした。原文に、当社が独立支援の文脈で使っている語は一つも入っていません。
つまり、当社が持っていた唯一の需要情報は、営業の成果ではなく、受け身で届いていたものだった。46社に対して能動的に動いた結果は、いまのところ何もありません。これが実態です。
この整理を、自分のリストに当てるなら
ここからは、独立して自分で発注元を開拓している方に向けて書きます。私たちが46行でやったことは、そのまま個人のリストに縮小できます。
手順1|いま持っている名簿を開いて、列を数える。
社名、担当者、会った日、メモ。ここまでで止まっているなら、それは名簿です。上の4つの列(枠・職種・水準・時期)が入っているかを見てください。
手順2|「聞いたかどうか」の列を足す。
これを足すのが先です。需要の列だけ足すと、また空欄が並んで、その空欄を「脈なし」と読むことになります。聞いていないのか、聞いて空きが無かったのかを分けて記録する。5段階も要りません。「聞いていない/聞いた・空き無し/聞いた・枠あり」の3つでも足ります。
手順3|空欄には「未確認」と書き込む。
面倒に見えますが、ここが効きます。空欄は判断を先送りしますが、「未確認」の3文字は次の行動を指定します。
手順4|すでに受け取っている情報を、先に転記する。
新しく聞きに行く前に、過去のメールや打ち合わせのメモを見返してください。私たちの唯一の実データがそうだったように、すでに手元にある可能性が高い。ここで1件でも埋まれば、リストは「1件は実在する」状態から始められます。
手順5|それから、聞く。
順番として、聞くのは最後です。列が無いまま聞きに行くと、返ってきた話を書く場所が無く、記憶に置くことになります。そして記憶に置いた需要情報は、1か月で消えます。
打診してどれくらい返事が返ってくるかは受け入れ先に自分で打診すると、返事はどれくらい返ってくるかに、当社が3社に送った実測を書きました。合わせて読むと、手順5の期待値の置き方が分かると思います。
4つの項目を、そのまま質問にする
需要の4項目は、質問に直すと4つの文になります。私たちが列を設計するときに使った形をそのまま置きます。
- 「いま、外部に出している枠はありますか」(空きポジション数)
- 「どういう役割で探されていますか」(職種)
- 「その枠は、どれくらいの水準で動いていますか」(単価帯)
- 「開始はいつ頃を見ていますか」(開始時期)
順番が大事です。金額を3番目に置いています。 1問目から水準を聞くと、話が値段の交渉になって、そこで終わる。枠と役割を先に聞くと、相手は情報を出しやすく、こちらも自分が当てはまるかを先に判断できます。
そして4問とも、返ってこなかった場合の記録の仕方を決めておくこと。「答えてもらえなかった」と「聞けなかった」は違います。前者は先方非開示、後者は未確認です。ここを混ぜると、次に見返したときにまた同じ会社へ同じ質問をすることになります。
4つの列は、放っておくと腐る
もう一つ、運用してみて分かったことがあります。需要の情報は、名簿の情報より速く古くなります。
社名や事業内容は、1年経ってもだいたい同じです。しかし「いま枠が空いているか」は、数週間で変わる。だから4つの列には、いつ聞いた話かを書く欄を必ず隣に置きます。私たちのリストでも、需要の4列の右に「その根拠をいつ確認したか」の列を足しました。
日付が無い需要情報は、時間が経つと事実なのか記憶なのか分からなくなります。半年前に聞いた「枠がある」を、今日の事実として扱ってしまう。これは、空欄を「空きが無い」と読み違えるのと同じ種類の事故です。
目安として、私は3か月を超えた需要情報は未確認に戻すつもりで運用しています。消すのではなく、聞いた事実と日付は残したまま、状態の列だけを戻す。記録は残し、判断だけを更新するのが、後から読む自分にとっていちばん親切でした。
単価の列は、自分の希望を書く欄ではない
一つだけ、運用上の注意を書いておきます。
単価帯の列には、相手が言った金額をそのまま書きます。自分が取りたい金額を書く欄ではありません。ここを混ぜると、リストが「自分の希望の一覧」に変わり、相手の実態が消えます。
自分の値付けをどう作るかは別の話で、コンサルの単価相場や単価の決め方に分けて書きました。リストに書くのは相手の事実、値付けは自分の判断。この2つを同じ列に入れないでください。
発注が出る会社かどうかは、また別の話
需要の列を足しても、そもそも独立の人に発注が出ない会社であれば、聞いても空欄が並ぶだけです。どんな会社に発注が出るのかは、同じ46社を実査して独立コンサルに発注が出る会社は、どんな会社かに規模・部門・タイミングの3条件で整理しました。
順番としては、発注が出る条件でリストを絞り、絞った先で需要の4項目を埋めるのが正しい。46社を全部同じ熱量で追う必要はありません。案件がどの経路から来ているかを整理したフリーコンサルの案件はどこから来ているのかも、絞り込みの材料になります。
この整理でも、解けていないこと
自分たちの仕事の弱いところも書いておきます。
- 過去の連絡を探した範囲が、メールのドメイン一致だけでした。本文の中に社名だけが出てくる場合は拾えていません
- メール以外は見ていません。 チャット、電話のメモ、商談の記録は走査していない。「他に需要情報が無い」とは言えません
- 唯一埋まった1社の情報が、いまも生きているかは未確認です。確認できているのは1か月前の時点まで
- その1社を実際に取りに行けるかは、別の判断が要ります。 契約の形が請負や派遣に寄っていないか、法令の線に触れないか。ここは列を埋めただけでは決まりません
つまり、列を足したことで分かったのは「聞いていない」という事実であって、需要が46社ぶん眠っていることが分かったわけではありません。ここを混ぜて「見込みが46社ある」と言い始めた瞬間に、また名簿に戻ります。
まとめ
- 当社は46社の見込み客リストを持ちながら、需要を書く列を1本も持っていなかった
- 列を足して46行を埋めたところ、実データで埋まったのは1社、需要側として打診した社は0社だった
- 名簿には相手が誰かが書いてある。見込み客リストには相手に何があるかが書いてある。この差で、開いた後の行動が決まる
- 需要の4列は、空きポジション数・職種・単価帯・開始時期
- それと同じくらい、「聞いたかどうか」の列が要る。空欄は「空きが無い」ではなく、たいてい「聞いていない」
- 空欄のままにせず、「未確認」と書いて欄を残す。3文字書くだけで、リストが行動の一覧に変わる
- 単価の列には、相手が言った金額を書く。自分の希望を書くと相手の実態が消える
- 聞きに行く前に、すでに手元にある連絡を転記する。唯一の実データは、受け身で届いていた
見込み客リストが動かないとき、追加すべきは会社の数ではありません。その1社に、まだ聞いていないという事実を書く場所です。当社の場合、それを書ける形にするのに46行ぶんの手間がかかり、そこで初めて自分たちが何もしていなかったことが見えました。