独立して年金の上乗せを調べると、必ずiDeCoと国民年金基金が並んで出てきます。掛金が全額所得控除になる。第1号被保険者の枠は同じ。説明はどこも似ている。

ところが加入している人の数は、まるで違います。

厚生労働省の社会保障審議会に国民年金基金連合会が出した資料によると、iDeCoの現存加入者は290.0万人(令和5年3月末時点)。対して国民年金基金の現存加入者は33.5万人(令和5年2月時点)。ほぼ10倍の差です。

同じ枠を取り合っている制度で、ここまで開く。その理由が、この制度のいちばん大事なところだと思っています。

どういう制度か

国民年金基金は、国民年金法(昭和34年法律第141号)にもとづく公的な私的年金です。厚生年金のない第1号被保険者が、自分で二階部分を作るための箱だと考えるとわかりやすい。

厚生労働省は加入できる人・できない人を、こう整理しています。

加入できる人

  • 20歳以上60歳未満の自営業者やフリーランスなどの国民年金第1号被保険者
  • 60〜65歳の国民年金任意加入被保険者
  • 海外居住者の任意加入被保険者

加入できない人

  • 厚生年金・共済組合加入者(第2号被保険者)
  • サラリーマンの被扶養配偶者(第3号被保険者)
  • 65歳以上で任意加入している人
  • 国民年金保険料の免除を受けている人
  • 農業者年金の被保険者

最後から2つ目が独立初期にはききます。売上が立たず国民年金保険料の免除を受けている間は、基金には入れません。土台(国民年金)を納めていることが前提の制度です。

iDeCoとの違いは3つ

厚労省の審議会に出された比較表が、いちばん短い整理になっています。

① 予定利率1.5%で、受け取る額があらかじめ決まる

国民年金基金の予定利率は1.5%。iDeCoが「運用商品を選択して自己で運用」なのに対し、こちらは加入したときの条件で将来の受取額が決まります。相場を見なくていい。値動きで気持ちが揺れない。運用が苦手な人にとって、これは実利のある性質です。

裏返すと、物価が上がったときに受取額は追いついてきません。1.5%は「決まった1.5%」であって、それ以上でも以下でもない。

② 1口目は必ず終身年金。一時金では受け取れない

加入は口数単位で、1口目は終身年金。2口目以降で有期年金との組み合わせができます。掛金の額は加入口数・性別・給付の型によって決まる仕組みです。

そして一時金での受け取りは不可。iDeCoが年金でも一時金でも受け取れる(一時金なら退職所得控除)のに対し、基金は「毎年もらう」形しかありません。

③ 掛金の控除の名前が違う

  • 国民年金基金の掛金 → 社会保険料控除
  • iDeCoの掛金 → 小規模企業共済等掛金控除

国税庁は社会保険料控除の対象に「国民年金基金の加入員として負担する掛金」を明記しています。控除できる額は「その年に実際に支払った金額の全額」。

受け取るときは、どちらも公的年金等控除の対象です。基金の遺族一時金は非課税とされています。

掛金の上限は、この12月に上がる

ここが今年の話です。

掛金の月額上限は6万8,000円。これはiDeCoと合算した枠で、両方をフルには積めません。

厚生労働省は、この上限について「令和8年12月分の掛金から上限が月額7万5,000円に引き上げられる予定」と案内しています。第1号被保険者の拠出限度額が、iDeCoと国民年金基金の共通枠として7,000円ぶん広がる。年額にすると84,000円です。

課税所得が高い年ほど、この7,000円は効きます。ただし施行前の話なので、実際に枠を使い切る設計をするときは最新の情報を確認してください。

いちばん重い制約:やめられない

比較表の「中途脱退・解約」の欄には、こう書かれています。

不可(掛金中断、2口目以降の掛金減額、増額は可)/一時金の受け取りは不可

つまり、できるのは掛金を止めることと、2口目以降を減らすことだけ。1口目の終身年金は外せず、「解約して返してもらう」という選択肢が制度上ありません。

iDeCoも原則60歳まで引き出せませんが、拠出をやめて運用指図者になるという逃げ道があります。国民年金基金には、それに当たるものがない。加入資格を失うのは、第2号被保険者になる・保険料の免除を受けるといった事由が起きたときであって、自分の意思で抜けることはできません。

加入者数が10倍違う理由は、たぶんここです。入口の説明はよく似ているのに、出口の設計がまったく違う。

付加年金とは併用できない

見落としやすい点をひとつ。日本年金機構はこう書いています。

国民年金基金は、付加年金を代行しています。このため、国民年金基金に加入する方は、付加保険料を納める必要がなくなります

付加年金(月400円)を納めている人が基金に入ると、付加保険料は納めなくなります。両方を積み増すことはできません。年金の上乗せの箱を順番に整理した記事で「まず付加年金から」と書きましたが、基金に進むならそこは入れ替わります。

正直に書きます

私はいま法人の代表なので第2号被保険者で、国民年金基金には入れません。個人事業主だった期間に入っていたら、法人化した時点で加入資格を失っていたことになります。

そのとき払い込んだぶんは将来の年金として残るので、掛け捨てではありません。ただ、独立して数年のうちに法人化する可能性が少しでもあるなら、「終身年金を一階ぶん作る」という重い決断を初期にする必要は薄いと思っています。

私が先に埋めたのは小規模企業共済でした。理由は単純で、掛金を売上に合わせて動かせるからです。独立初期にいちばん怖いのは、税ではなく資金繰りが詰まることでした。

国民年金基金が向いているのは、たぶんこういう人です。**第1号被保険者のまま続ける見通しが立っていて、相場を見るのが嫌いで、受け取る額が決まっていることに価値を感じる人。**そこに当てはまるなら、iDeCoより先に検討していい制度だと思います。

まとめ

  • 国民年金基金は国民年金法にもとづく公的な私的年金。対象は20歳以上60歳未満の第1号被保険者と、60〜65歳・海外居住の任意加入被保険者。第2号・第3号・保険料免除中の人は加入できない
  • **予定利率は1.5%**で受け取る額があらかじめ決まる。iDeCoは自己運用。
  • 1口目は必ず終身年金。2口目以降で有期年金と組み合わせ可。一時金での受け取りは不可
  • 掛金は社会保険料控除(iDeCoは小規模企業共済等掛金控除)。受け取る年金はどちらも公的年金等控除。遺族一時金は非課税
  • 掛金の上限は月6万8,000円でiDeCoとの合算枠。令和8年12月分から月7万5,000円へ引き上げ予定(年84,000円ぶん枠が広がる)。
  • **中途脱退・解約は不可。**できるのは掛金の中断と2口目以降の減額・増額まで。iDeCoの「運用指図者になる」に当たる逃げ道がない。
  • 付加年金とは併用できない(基金が付加年金を代行)。
  • 加入者数はiDeCo 290.0万人に対し、国民年金基金は33.5万人。

年金の上乗せは、制度の優劣ではなく自分が第1号被保険者でい続けるかどうかで答えが変わります。掛金額や型の選び方は年齢・性別でも動くので、実際に申し込む前に基金と年金事務所、それから税理士に自分の数字で確認してください。

参考:厚生労働省「国民年金基金制度」/日本年金機構「国民年金基金(用語集)」/国民年金基金連合会「第22回社会保障審議会企業年金・個人年金部会 ヒアリング資料」(令和5年5月17日、国民年金基金と個人型確定拠出年金(iDeCo)の比較・制度概況)/国税庁タックスアンサーNo.1130「社会保険料控除」/国民年金法(昭和34年法律第141号)