3月に所得税を払い、6月に住民税の通知が来て、それで終わりだと思っていた8月。

税務署ではない差出人から、封筒が届きます。都道府県税事務所。中身は納税通知書で、納付書が2枚入っている。

これが個人事業税です。独立して数年、いちばん「聞いていない」と言われるのがこの税金です。

誰にかかるのか

条件は2つだけです。

**1. 法律で決められた業種に該当すること。**地方税法が定める業種は70あり、ここに当てはまる事業だけが対象になります。すべての個人事業主にかかるわけではありません。

2. 事業の所得が、事業主控除の額を超えること。事業主控除は年290万円。年の途中で開業・廃業した場合は、事業を行った月数で月割りになります。

この2つを両方満たしたときだけ、通知書が来ます。逆に言えば、所得が290万円以下なら、業種が該当していても税額は出ません。

計算の順番――ここに落とし穴がある

式はシンプルです。

(事業の所得 + 青色申告特別控除額 − 各種控除 − 事業主控除290万円)× 税率

問題は2番目の項です。

**所得税で使った青色申告特別控除は、個人事業税では認められません。**引いた分を足し戻してから計算します。65万円の控除を取って所得税を圧縮した人でも、事業税の土俵では65万円が戻ってくる。

数字にすると効きます。青色申告特別控除65万円を引いたあとの事業の所得が400万円だったとします。

  • 400万円 + 65万円 = 465万円
  • 465万円 − 290万円 = 175万円
  • 175万円 × 5% = 87,500円

所得税の感覚で「400万から290万を引いて110万、その5%で55,000円だな」と見積もると、3万円以上ずれます。この差が、8月末の資金繰りに効いてきます。

青色申告そのものの仕組みは青色申告に書きました。所得税では強力な控除ですが、税目が変われば効き方が変わる、という一例です。

税率は業種で分かれる

区分は3つです。

  • 第1種事業(5%)――物品販売業、請負業、コンサルタント業、デザイン業、広告業など、いちばん幅の広い区分です。
  • 第2種事業(4%)――畜産業、水産業、薪炭製造業。
  • 第3種事業(5%)――医業、歯科医業、弁護士業、税理士業、公認会計士業など。ただしこの区分のうち、あんま・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業と、装蹄師業だけは**3%**です。

独立して経営や業務の相談を受ける仕事は、たいてい第1種の「コンサルタント業」に当たります。税率5%。ここは素直に受け入れる場所です。

区分表に名前がない仕事

やっかいなのは、一覧に自分の職業名が載っていない場合です。

システムエンジニア、プログラマ、文筆業。70業種の一覧に「システムエンジニア」という項目はありません。だからといって自動的に対象外になるわけではなく、実態が「請負業」などに当たるかどうかで判断されます。そしてこの判断は、都道府県によって運用が割れます。

実務で起きるのはこういうことです。似た働き方をしている2人のうち、片方には通知が来て、片方には来ない。あるいは、開業届の「職業」欄に何と書いたかで扱いが変わる。

もし自分の仕事が境界線上にあると思うなら、通知書が届いた時点で終わりではありません。都道府県税事務所に、契約書と業務の実態を持って説明する余地はあります。ただし「納得できない」だけでは動きません。契約の形(成果物を納めているのか、時間を提供しているのか)と、裁量の大きさを、資料で示す必要があります。契約の型そのものは準委任と請負の違いに整理しました。

申告書は、原則いらない

安心していい点もあります。

所得税の確定申告、または住民税の申告をしていれば、個人事業税のために別の申告書を出す必要は原則ありません。都道府県は確定申告のデータを受け取って、そこから税額を計算します。だから通知書は「向こうから」来ます。

例外は、事業をやめたときです。廃業する場合は、その年の分について別途の手続きが必要になることがあります。

納期は8月と11月

納税通知書は8月上旬から中旬に届き、納期は原則として8月と11月の2回。第1期分・第2期分の納付書が同封されています。税額が小さい場合は8月に一括、という扱いになることもあります。

ここで効いてくるのが、8月末という日付です。個人事業者の消費税の中間納付の納期限も8月31日。年1回の対象になっている人は、同じ月に2種類の納付書を抱えることになります。

7月末には予定納税の第1期があり、8月末に事業税と消費税。夏は、独立して2年目以降のいちばん現金が減る季節です。売上のいい月ではなく、この時期に手元がいくら残っているかで資金繰りを組んでおく。

払った事業税は、翌年の経費になる

もうひとつ、覚えておくと少し救われる点があります。

個人事業税は、所得税の計算上、必要経費になります。所得税や住民税は経費になりませんが、事業税は租税公課として落とせます。

つまり今年8月と11月に払った分は、来年の確定申告で所得を押し下げます。現金が出るのは先、効いてくるのは後。順番だけずれている、と理解しておくと気持ちの整理がつきます。経費の線引き全般は経費はどこまでに。

通知が来る前にできる4つ

  1. **開業年は月割になる。**年の途中で始めた年は、290万円がまるごとではなく月数按分です。初年度の見積もりを甘くしない。
  2. **290万円のラインを頭に置く。**このラインを少し超えたあたりの人は、経費の計上漏れがそのまま税額になります。領収書の回収は8月ではなく、12月までに終わらせる仕事です。
  3. **法人化の判断材料に足す。**所得税・住民税・消費税だけで法人化を考える人が多いのですが、事業税も材料のひとつです。法人化の損益分岐は、税目をひとつ落とすと簡単にずれます。
  4. **通知書を捨てない。**納付が終わっても、翌年の経費計上の根拠になります。帳簿と書類の保存と同じ引き出しに入れておく。

まとめ

  • 個人事業税は都道府県の税。8月上旬〜中旬に納税通知書が届き、納期は原則8月と11月の2回。
  • 対象は法律で決められた業種に該当し、事業の所得が事業主控除290万円を超えた人。開業年は月割。
  • 計算では所得税で使った青色申告特別控除を足し戻す。ここを忘れると見積もりが数万円ずれる。
  • 税率は第1種5%・第2種4%・第3種5%(あんま等と装蹄師業のみ3%)。独立して相談業を営むなら通常は第1種のコンサルタント業
  • 一覧に職業名がない仕事は、実態で判断され、都道府県によって運用が割れる。説明する余地はあるが、資料が要る。
  • 確定申告をしていれば、事業税の申告書を別に出す必要は原則ない
  • 払った事業税は翌年の必要経費になる。現金の出は先、効果は後。

業種の区分と運用は、都道府県ごとに案内が出ています。自分の仕事がどの区分に入るのか、境界線上だと感じたら、通知書を持って都道府県税事務所と顧問の税理士に確認してください。判断は、契約書と実態の資料で決まります。