11月になると、会社員時代の同期から同じ質問が来ます。「年末調整の紙、そっちはどうしてるの?」

**来ません。**個人事業主に年末調整はない。

そう答えると、次に返ってくるのが「でも報酬から10%引かれてるよね、あれが年末調整じゃないの?」です。違います。あれは源泉徴収で、精算する場所は年末調整ではなく確定申告です。

ここまでは、独立して1年もすれば体で覚えます。問題はその先。人を雇った瞬間、自分が年末調整をする側になるという話が、まったく共有されていない。専従者給与を出しはじめた年の12月に、はじめて気づく人が多い。

順に整理します。

そもそも年末調整とは何をする手続きか

国税庁のタックスアンサーNo.2665は、こう定義しています。

年末調整は、役員または使用人に対する毎月の給与等から源泉徴収をした所得税および復興特別所得税の合計額と、その人が1年間に納めるべき所得税および復興特別所得税の額との差額を精算するものです。

主語は給与を払う側です。そして対象は「役員または使用人」、つまり給与所得者

この年末調整の対象となる人は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を年末調整を行う日までに提出している一定の人です。

事業所得しかない個人事業主は、そもそもこの枠の外にいます。だから紙が来ない。

報酬の源泉徴収は、年末調整では精算されない

ここを混ぜると資金繰りの見通しを間違えます。

給与の源泉徴収は、扶養の状況を織り込んだ源泉徴収税額表を使い、毎月の天引き額が年税額に近くなるように設計されています。だから12月に少し調整すれば終わる。

一方、業務委託の報酬から引かれる10.21%は、経費も所得控除もいっさい考慮していない、粗い前払いです。経費を引いた後の実際の税額とは大きく乖離するのが普通で、そのズレは確定申告でしか精算されません

給与所得者業務委託で働く人
毎月の天引き源泉徴収税額表(扶養等を反映)報酬の10.21%(一律)
年内の精算年末調整なし
最終の精算原則なし(一部は確定申告)確定申告
精算のタイミング12月の給与翌年3月申告 →還付は申告後

引かれすぎたぶんが戻るのは、早くても翌年の春です。会社員のときの「12月の給料が少し多い」という感覚は、独立すると消えます。手取りの設計を組むときは、この4か月のズレを前提に置いてください。

人を雇うと、立場が反転する

ここからが本題です。

従業員を雇う、あるいは配偶者や子に青色事業専従者給与を払う。どちらの場合も、あなたは源泉徴収義務者になります。そして12月には、雇っている人の年末調整をする側に回る。

国税庁は、12月に行う年末調整の対象者をこう書いています。

12月に行う年末調整の対象となる人は、会社などに1年を通じて勤務している人や、年の中途で就職し年末まで勤務している人(青色事業専従者も含みます。)です。

括弧の中が重要です。専従者給与を出しているなら、その人の年末調整はあなたの仕事だと国税庁が明記している。

ただし、次の2つに当てはまる人は除かれます。

  • 1年間に支払うべきことが確定した給与の総額が2,000万円を超える
  • 災害減免法の規定により、その年の給与に対する所得税等の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人

年の中途で年末調整をするケースもあります。国税庁が挙げるのは5つで、実務でよく出るのは次の2つです。

  • 12月に支給されるべき給与等の支払を受けた後に退職した人
  • パートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が123万円以下である人(退職後その年に他の勤務先から給与の支払を受ける見込みのある人は除く)

最後の「123万円」は、令和7年度税制改正で給与所得控除の最低保障額が65万円に上がった後の数字です(改正前は103万円)。去年までの資料を見て103万円で判断すると外します。

1月31日に、3つの期限が重なる

年末調整は12月で終わりません。その後の1か月がむしろ本番です。同じ1月31日に、宛先の違う3つの提出が来ます。

何をどこへ期限
給与所得の源泉徴収票本人(受給者)へ交付翌年1月31日まで(中途退職者は退職後1か月以内)
源泉徴収票+法定調書合計表所轄税務署翌年1月31日まで
給与支払報告書従業員が住んでいる市区町村翌年1月31日まで(休日の場合は翌営業日)

宛先が3つあることに気づかず、税務署に出して終わりにしてしまう人がいます。市区町村への給与支払報告書は、その人の翌年の住民税を決める書類です。出していないと、従業員側で住民税の課税がおかしくなる。

なお、税務署に提出する源泉徴収票には提出範囲の定めがあり、全員分を出すわけではありません。一方で本人への交付は全員分です。ここは範囲が違うので混同しないでください。

さらに、外注先へ支払った報酬がある場合は支払調書も同じ時期に絡んできます。1月は、給与と外注の両方の書類が一斉に来る月です。

納期の特例を取っていると、1月20日が効いてくる

給与の支給人員が常時10人未満なら、源泉徴収した所得税等を半年分まとめて納められます。国税庁No.2505の説明です。

この特例の適用を受けていると、その年の1月から6月までに源泉徴収した所得税および復興特別所得税は7月10日、7月から12月までに源泉徴収した所得税および復興特別所得税は翌年1月20日が、それぞれ納付期限となります。

対象は給与・退職金からの源泉徴収と、税理士、弁護士、司法書士などの一定の報酬からの源泉徴収に限られます。デザイナーや講演料など、それ以外の報酬の源泉は特例の対象外で、原則どおり翌月10日納付です。ここを混ぜると納付漏れになります。

そして実務上のポイントがひとつ。年末調整で還付が出ると、12月の源泉徴収税額から差し引く形になるので、1月20日に納める金額はその分減ります。場合によってはゼロになる。「納付書の金額が0円だから出さなくていい」ということはないので、0円でも提出してください。

申請は「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出します。却下の通知がなければ提出した月の翌月末日に承認があったものとみなされ、翌月に源泉徴収する分から適用されます。人を雇うと決めた時点で、開業届まわりと一緒に出しておくのが楽です。

令和7年度税制改正で、令和8年分の源泉徴収事務が変わった

ここは今年の実務に直結します。国税庁の特設ページによれば、改正は原則として令和7年12月1日に施行され、令和7年分以後の所得税について適用されました。

1. 基礎控除が合計所得金額に応じた階段になった

合計所得金額基礎控除額
132万円以下95万円(改正前48万円)
132万円超336万円以下88万円(令和9年分以後は58万円)
336万円超489万円以下68万円(令和9年分以後は58万円)
489万円超655万円以下63万円(令和9年分以後は58万円)
655万円超2,350万円以下58万円(改正前48万円)

655万円以下の区分の上乗せ(37万円・30万円・10万円・5万円)は居住者についてのみ適用があり、令和9年分以後は58万円に戻る期間限定の加算です。合計所得金額2,350万円超の基礎控除額に改正はありません。

2. 給与所得控除の最低保障額が55万円→65万円

これに伴い、「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」が令和7年分以後、「源泉徴収税額表」が令和8年分以後改正されました。

3. 特定親族特別控除が創設された

19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円超123万円以下の親族(配偶者・青色事業専従者・白色事業専従者を除く)を「特定親族」といい、1人につき最高63万円を控除します。年末調整で適用を受ける人からは「給与所得者の特定親族特別控除申告書」の提出を受ける必要があります。

さらに、令和8年1月以後に支払うべき給与については、親族の合計所得金額が58万円超100万円以下の場合に、この控除が毎月の源泉徴収の際に適用されることになりました。年末にまとめて、ではありません。

4. 扶養親族等の所得要件が上がった

  • 扶養親族・同一生計配偶者の合計所得金額の要件:58万円以下(改正前48万円以下)
  • ひとり親の生計を一にする子の総所得金額等の要件:58万円以下(改正前48万円以下)
  • 勤労学生の合計所得金額の要件:85万円以下(改正前75万円以下)

家内労働者等の特例で必要経費に算入する最低保障額も65万円(改正前55万円)になりました。

実務で今年やること

国税庁は令和8年分以後の源泉徴収事務の留意点をこう挙げています。

  • 従業員から提出を受ける扶養控除等申告書に、源泉控除対象親族の記載が正しく行われているか確認する
  • 新たな源泉徴収税額表に基づき、各月(日)の源泉徴収を行う

つまり、去年と同じ税額表を使い続けていると、毎月の天引き額が違ったまま12月まで走ることになります。会計ソフトや給与計算ソフトを使っているなら、令和8年分の税額表に更新されているかを一度確認してください。

様式も、令和8年分では扶養控除等(異動)申告書・従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書・公的年金等の受給者の扶養親族等申告書・給与所得に対する源泉徴収簿が変更されています。

その前に:それは本当に「給与」か

年末調整の話をする前に、決めておくべきことがあります。払っているものが給与なのか、外注費なのか。

給与なら源泉徴収と年末調整の義務が生じ、社会保険の論点も出てきます。外注費なら報酬の源泉徴収の対象になるかどうかを個別に判定し、年末調整はありません。消費税の扱いも変わります。

そして、この区分は契約書の題名では決まりません。実態で判定されます。手伝ってもらっている人の働き方が、時間拘束と指揮命令を伴うものになっていないか。外注費と給与の線引きは、人を雇うときに最初に固めるべき論点です。ここを曖昧にしたまま年末を迎えると、年末調整どころか過去分の源泉徴収まで遡ることになります。

私の判断

いま人を雇うかどうかを考えるときに、私が最初に見るのは単価でも稼働でもなく、この一連の事務が回るかです。

毎月の給与計算と源泉徴収。半年に一度の納付。12月の年末調整。1月の3つの提出。そして今年のように改正が入れば、税額表と様式の差し替え。

金額に直せば大した負担ではありません。ただ、期限が全部「向こう都合」で決まっているのがきつい。案件が山場のときに1月31日は待ってくれません。

だから、人を入れると決めた時点で、給与計算をソフトに乗せるか、税理士に月次で入ってもらうかを先に決めています。人件費より先に、事務のコストを見積もる。順番を逆にすると、12月に詰みます。

「それは本当に給与か」という問いは、支払う側になった瞬間に重くのしかかります。受け取る側だったときに自分の契約の型を理解しておくと、この判断で迷いません。型の違いは準委任と請負の違いに、押印前に見る場所は業務委託契約書で最初にみる場所に書きました。

まとめ

  • 年末調整は給与を払う側が給与所得者に対して行う手続き。事業所得だけの個人事業主は対象外なので、自分の分は確定申告で精算する。
  • 業務委託の報酬から引かれる**10.21%**は経費も所得控除も反映しない粗い前払いで、年末調整では精算されない。還付は早くても翌年春。
  • **人を雇う、または青色事業専従者に給与を払うと、自分が年末調整をする側になる。**国税庁は対象者に「青色事業専従者も含みます」と明記している。
  • 12月の年末調整から除かれるのは、給与総額2,000万円超の人と、災害減免法で徴収猶予・還付を受けた人。
  • 年の中途の年末調整で実務に出やすいのは、12月の給与を受けた後の退職者と、その年の給与総額123万円以下で退職したパートタイマー等(改正後の数値)。
  • 1月31日に3つ。源泉徴収票の本人交付、税務署への法定調書合計表、市区町村への給与支払報告書。宛先が違う。
  • 納期の特例は給与の支給人員が常時10人未満が条件で、7〜12月分の納期限は翌年1月20日。対象は給与・退職金と税理士・弁護士・司法書士等の一定の報酬に限られる。
  • 令和7年度税制改正により、令和8年分以後の源泉徴収税額表が改正され、特定親族特別控除が毎月の源泉徴収にも適用される。税額表と様式の更新を今年中に確認する。
  • その前に、払っているものが給与か外注費かを実態で確定させる。ここを曖昧にすると過去分に遡る。

年末調整は「難しい手続き」ではありません。期限が向こう都合で、しかも改正がそこに乗るというだけです。だからこそ、人を入れる前に事務の受け皿を決めておく。制度の細部は毎年動くので、令和8年分の実務に入る前に国税庁の最新情報と税理士で確認してください。

支払う側に回るかどうかの前に、自分の報酬の水準を確かめておいてください。目安はコンサルの単価相場にあります。

参考:国税庁タックスアンサーNo.2665「年末調整の対象となる人」(令和7年4月1日現在法令等/所法190、194、198、復興財確法30、所基通190-1、災免法3)/No.2505「源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」(所法183、199、204、216〜219ほか)/国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」(改正の概要・令和8年分以後の給与の源泉徴収事務・各種様式)/No.7411「『給与所得の源泉徴収票』の提出範囲と提出枚数等」/国税庁「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」