「コンサル 個人 始め方」と検索する人は、独立するかどうかはもう決めていることが多いです。迷っているのは、決断ではなく順番のほうです。

何から手を付ければいいのか。開業届が先か、案件が先か。名刺は作るべきか。法人にすべきか。

先に結論を書きます。

最初にそろえるのは、営業ではない。「最初の1件が決まった瞬間に、必ず必要になるもの」だけを先に置く。

それは3つです。

  1. 名乗り — 屋号と開業届。相手が支払先として登録できる状態
  2. 契約の型 — 準委任か請負か。何を約束して、何を約束しないか
  3. 入金までの導線 — 請求書の様式、締めと支払期日、そこまで持ちこたえる手元資金

この3つは、案件が決まってから用意すると**必ず着手が遅れます。**そして遅れた分は、まるごと自分の空白期間になります。

なぜ「営業から」ではないのか

独立の準備というと、多くの人が案件探しから始めます。順番として間違ってはいません。ただ、実際に詰まるのはそこではありませんでした。

私の場合、最初の話がまとまってから実際に稼働を始めるまでに、**2週間近くかかりました。**理由は単純で、相手の購買部門から「支払先として登録するので、屋号・口座・インボイスの登録番号を送ってください」と言われて、そのどれも持っていなかったからです。

相手は待ってくれます。ただ、その2週間は請求できません。

そしてもう一つ。稼働を始めてから最初の入金までは、締めと支払サイトの分だけさらに待ちます。**月末締めの翌月末払いなら、8月に働いた分が入るのは9月末です。**準備ができていないと、この待ち時間の頭に、さらに2週間が積み上がります。

だから、営業より先に受け口を作る。受け口は、作るのに時間がかからないのに、無いと全部が止まる場所だからです。

1つめ:名乗り──屋号と開業届

屋号は「何屋か」が分かる名前にする

屋号は無くても事業はできます。個人名のままでも契約はできます。ただ、実務では屋号があったほうが早い場面が3つあります。

  • 屋号名義の銀行口座を作れる(事業のお金と生活費が分かれる)
  • 発注側の購買システムに「取引先名」として登録しやすい
  • 検索されたときに、何をやっている人か伝わる

名前を決めるとき、私が一つだけ勧めているのは、凝った造語より、業務が分かる語を入れておくことです。あとで名刺やサイトの一行目を書くときに、説明の手間が減ります。詳しくはフリーランスの屋号の付け方に書きました。

開業届と青色申告承認申請は「2枚セット」

ここが期限のある唯一の場所です。

書類提出先期限
個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)納税地の税務署事業を始めた日から1か月以内
所得税の青色申告承認申請書納税地の税務署その年の1月16日以降に開業した場合、開業から2か月以内

開業届は、期限を過ぎても実質的な罰則はありません。**問題は2枚目のほうです。**青色申告承認申請書を出し忘れると、初年度は白色申告になり、65万円の控除を丸ごと落とします。

**2枚同時に出す。**独立を決めた日に、これだけはカレンダーに入れてください。書き方の各欄は開業届の書き方に、初年度の申告の流れは青色申告のやり方に分けて書いてあります。

屋号名義の口座は、開業届の控えがあると作れます。事業用口座を分ける話にも書きましたが、分けるのは節税のためではなく、確定申告の作業量を減らすためです。

インボイスの登録は「相手を見てから」でいい

登録番号を求められる場面は確かにあります。ただ、登録するかどうかは、**取引相手が誰かで判断が変わります。**免税事業者のまま始める選択肢もあり、経過措置も残っています。急いで決める必要はありません。判断材料はインボイス登録の要否経過措置に整理しました。

2つめ:契約の型──何を約束して、何を約束しないか

まず、準委任か請負かを自分で言えるようにする

個人でコンサルを始めるとき、契約の形はだいたい業務委託です。ただ業務委託という言葉自体は契約類型の名前ではなく、中身は準委任請負のどちらかに寄ります。

  • 準委任:時間と労務の提供を約束する。成果物の完成そのものは約束しない
  • 請負:成果物の完成を約束する。完成しなければ報酬が発生しない

コンサルの仕事は準委任で回ることが多いのですが、契約書のタイトルが「業務委託契約書」でも、中の条文が請負になっていることがあります。ここを読まずに押印すると、検収の場で揉めます。私は一度やりました。違いは準委任と請負の違いに書いています。

契約書で最低限見る場所

すべての条文を読むのが理想ですが、最初の1件で時間がないなら、見る場所を絞ってください。

  1. 報酬と稼働の幅 — 月額いくらで、実稼働が何時間から何時間までなら定額か。下限を下回ったとき、上限を超えたときの単価はいくらか
  2. 締めと支払期日 — いつ締めて、いつ払うか
  3. 検収・確認の期間 — 相手が稼働報告を確認する期間に上限があるか。ここが無期限だと、支払が動きません
  4. 中途解約の予告期間 — 何日前に言われるか。ここが短いと、次を探す時間が取れません
  5. 成果物の権利 — 作った資料が誰のものになるか

読む順番は業務委託契約書のチェックの順番に、解約まわりは途中で切られたときに分けてあります。

発注側には、条件を明示する義務がある

2024年11月1日に施行されたフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、発注した側が、給付の内容・報酬額・支払期日などを書面または電磁的方法で明示することが求められています。

つまり、「条件を書面でください」と言うのは、こちらのわがままではありません。

私は、当社が発注する側になったときにこの法律を自社の契約に当てはめる作業をしました。そのとき分かったのは、世の発注側も、決して整っていないということです。悪意があるわけではなく、単に契約書と発注書が追いついていない。だから、受ける側が「書面でください」と言うことは、相手の実務を助けることにもなります。この話はフリーランス新法に、発注する側として合わせるとき、どこを直すことになるかに、当社の実例で書きました。

なお、法律の各条文の適用範囲は個別事情で変わります。実際の判断は、公的機関の公表資料と専門家の確認を必ず取ってください。制度の全体像はフリーランス新法とはに整理しています。

3つめ:入金までの導線──最初の入金は最短でも翌月末

請求書の様式は、先に一枚作っておく

請求書は、案件が決まってから作ると必ず慌てます。必要なのは、屋号・住所・振込先・請求番号・件名・数量と単価・消費税・(登録していれば)登録番号。フォーマットの中身は請求書の書き方にまとめました。

**先に一枚、空の様式を作っておく。**それだけで、初回の請求が15分で終わります。

入金までの日数を、最初に数える

ここは正直に書きます。稼働した月の報酬は、翌月には入りません。

段階かかる時間の目安
話がまとまる → 契約締結・支払先登録1〜2週間
稼働開始 → 当月末締め最大1か月
締め → 支払期日翌月末が一般的。それより長い条件もある

つまり、**8月に話がまとまっても、最初の入金は10月にずれ込むことがあります。**独立直後にここで詰まる人がいちばん多い。手元にいくら置いておくべきかはフリーランスの貯金に、生活費と事業費の分け方も含めて書きました。

なお、**発注側が払う金額と自分が受け取る金額は、間に会社が入ると一致しません。**何が差し引かれているのかは発注側が払う金額と、自分が受け取る金額の差に、当社の台帳の計算そのものを開いて書いてあります。

最初の1件は、そろえた後に来るのではない

ここまで3つを「先に置く」と書きましたが、**案件探しを止めて準備する、という意味ではありません。**3つとも、着手から完了まで実質は数日です。並行して動かします。

最初の1件が来る経路は、実際にはだいたい3つに分かれます。

経路1:前職の周辺から

もっとも多い経路です。元同僚、元上司、前の案件で一緒だった発注側の担当者。独立を伝えた相手の数が、そのまま初速になります。

ただし、**在職中の競業避止義務と、顧客の引き抜きに当たらないかは先に確認してください。**ここは感情ではなく契約の問題です。競業避止義務に整理しました。

経路2:同業からの再委託

すでに独立している人や小規模ファームが受けた案件の一部を受ける形です。単価は直より下がりますが、**最初の1件としては早い。**そして、この形は再委託になるため、支払期日の扱いが直の契約と違う場合があります。

経路3:直の相談から

発注側が直接探して声をかけてくる形です。単価はいちばん高くなりますが、**「この領域ならこの人」という具体の縦深がないと発生しません。**独立直後に一本目でここを狙うのは、現実的ではありません。

3つの経路の取り方そのもの——誰に何をどう伝えるか、何を売ると決めるか、値段をどう置くか——は、独立コンサルの始め方独立コンサルが案件を取るにはに書いてあります。この記事はあくまで、決まったときに受けられる状態を作る側の話です。

先に作らなくていい、3つのもの

逆に、後回しでよかったものも書いておきます。

  1. 法人 — 最初は個人で始めて問題ありません。所得と消費税と信用の3つのサインが出てから考える話です。私が合同会社から株式会社にしたときの判断の順番はフリーランスの法人化に書きました
  2. ホームページ — 最初の1件は検索からは来ません。作るなら、実績が数件たまってからのほうが中身が書けます
  3. 凝った意匠の名刺やロゴ — 相手が見ているのは屋号ではなく、何をやった人かです

最初の30日を、順番で置くと

やること
1〜3日目屋号を決める。開業届と青色申告承認申請書を書いて出す
3〜7日目屋号名義の口座を開く。請求書の様式を1枚作る
1〜2週目契約の型(準委任/請負)と、契約書で見る5点を自分の言葉で言えるようにする
1〜4週目並行して、独立を伝える相手を洗い出して連絡する(経路1)
随時インボイス登録の要否を、実際の取引相手を見て判断する

**期限があるのは開業届と青色申告承認申請書だけです。**それ以外は、早いに越したことはないという程度のものです。

まとめ

  • 「始め方」でつまずくのは決断ではなく順番。最初にそろえるのは営業ではなく、決まった瞬間に必要になるもの
  • そろえるのは3つ。名乗り(屋号・開業届)/契約の型(準委任か請負か)/入金までの導線(請求書・締め・支払期日・手元資金)
  • 期限があるのは**開業届(1か月以内)と青色申告承認申請書(開業から2か月以内)の2枚だけ。**同時に出す
  • 契約書で最低限見るのは5点。報酬と稼働の幅/締めと支払期日/確認期間/解約予告/成果物の権利
  • 発注側には取引条件を明示する義務がある(フリーランス新法)。書面を求めるのはわがままではない
  • **最初の入金は最短でも翌月末。**8月に決まっても10月にずれることがある
  • 最初の1件の経路は3つ。**前職の周辺/同業からの再委託/直の相談。**一本目は経路1がいちばん早い
  • 法人・ホームページ・凝った名刺は後回しでいい

独立した人を6年見てきて思うのは、準備が足りなくて失敗した人より、準備が終わるのを待って動き出せなかった人のほうが多いということです。

そろえるものは、意外と少ない。3つ置いたら、あとは声をかけながら整えていけば間に合います。

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出典:開業届(事業開始から1か月以内)および青色申告承認申請書(その年の1月16日以降の開業は開業から2か月以内)の期限、フリーランス新法の施行日(2024年11月1日)と取引条件の明示に関する記載は、当社が2026年7月に自社の契約ひな形を点検した際に整理した内容に基づきます。当社の点検では公的機関の原典PDFを取得できておらず、複数の二次情報が一致する範囲までで止めています。着手・入金までの日数の目安は当社および当社が関与した取引での観測であり、統計調査ではありません。

※本記事は当社の実務経験と社内記録に基づく整理です。税務の手続きと法令の適用は個別の事情で結論が変わります。実際の判断は税務署・税理士、および公的機関の公表資料でご確認ください。