職務経歴書を何十枚も読んでいると、経理の志望動機はだいたい3つに収まります。
- 数字に強く、正確な作業が得意です
- 縁の下から会社を支える仕事にやりがいを感じます
- 簿記2級を取得し、より専門性を高めたいと考えました
悪いことは書いていません。でも、3人並ぶと見分けがつかない。見分けがつかない書類は、内容ではなく職歴の年数だけで比較されます。それは書いた人にとって損な勝負です。
なぜこうなるのか。志望動機を「気持ち」で書こうとしているからです。
経理は、志望理由が言いにくい職種
営業なら「売りたい」、開発なら「作りたい」と言える。経理には、それに当たる言葉がありません。「決算を締めたい」と言う人はいない。
だから多くの人が、性格(正確・几帳面)と資格(簿記)に逃げます。すると全員おなじ文章になる。構造的にそうなる職種なので、まずそこは自分のせいではないと思っていい。
問題は次です。採る側は、志望動機欄で「動機」を読んでいない。
採る側が確かめている3つ
私は自分の会社で人を採っています。経理まわりの職務経歴書も読みます。志望動機の数行で見ているのは、正直に書くとこれだけです。
1. 辞めない理由があるか
経理は引き継ぎが重い仕事です。決算を1回まわせるようになるまで、どんなに早くても数か月かかる。だから「1年で辞めない人か」を見ます。
給与や勤務地しか理由がない人は、条件が良いところが出たら動きます。それは責められることではないけれど、採る側はそう読みます。その会社でなければならない理由が1つあるか。1つで足ります。
2. うちの経理の、どの層をやるつもりか
これがいちばん差がつきます。あとで詳しく書きます。
3. 数字を読んでから来たか
上場企業なら、決算短信も有価証券報告書も全部公開されています。それを1枚も見ずに「御社の成長性に魅力を感じ」と書いてある。経理の求人でこれは効きません。数字を扱う仕事に応募しながら、その会社の数字を見ていないと言っているのと同じだからです。
「経理」は、5つくらい別の仕事の総称
求人票に同じ「経理」と書いてあっても、中身はまったく違います。ここを分けずに書くから、志望動機がぼやける。
| 層 | 主な仕事 | 求人票に出る言葉 |
|---|---|---|
| 記帳・支払 | 伝票起票、経費精算、振込、請求書処理 | 「日次業務」「経費精算」「未経験可」 |
| 月次・年次決算 | 締め、引当、税務対応、監査対応 | 「月次決算」「決算業務全般」「日商簿記2級以上」 |
| 連結・開示 | 連結決算、開示書類、監査法人対応 | 「連結決算」「開示」「上場企業経験」 |
| 管理会計 | 予実管理、原価、事業別の採算、経営への報告 | 「FP&A」「予実」「管理会計」 |
| 仕組み側 | 会計システムの導入・移行、業務設計 | 「ERP」「基幹システム刷新」「業務改善」 |
求人票の言葉を読めば、募集している層はほぼ分かります。そして層が分かれば、書くべき志望動機は自動的に決まる。
連結・開示の募集に「正確な作業が得意です」と書いても刺さりません。そこで欲しいのは、期日を落とさずに監査法人とやり合える人です。管理会計の募集に「縁の下から支えたい」と書くと、逆効果になることさえある。そこは前に出て説明する仕事だからです。
自分がどの層にいて、どの層へ行きたいのかは、経理からの転職の記事にも書きました。層を1段上げる転職なのか、横に移る転職なのかで、書き方は変わります。
志望動機の材料は、3か所から取れる
気持ちを絞り出す必要はありません。材料は外にあります。
1. 決算短信と有価証券報告書
売上と利益の推移、セグメント別の内訳、キャッシュ・フローの形。ここから1つだけ、引っかかった数字を拾ってください。
「売上は伸びているのに営業利益率が3期連続で下がっている」「海外セグメントの比率が5年で2倍になっている」。この一行が書けるだけで、他の応募者と完全に分かれます。そのうえで「原価の見え方を整える仕事に関わりたい」とつなげれば、動機ではなく仕事の話になります。
有価証券報告書には従業員数と平均勤続年数も載っています。経理の人数規模も、そこからある程度推測できます。
2. 求人票の職務内容
箇条書きの1行ずつに、自分の経験を突き合わせます。全部埋まる必要はありません。埋まる行と埋まらない行を自分で把握していることが、面接で効きます。
3. 面接での逆質問
「決算の締め日は何営業日ですか」「使っている会計システムは何ですか」「連結の子会社は何社ですか」。これらは踏み込んだ質問ですが、経理の面接では歓迎されます。答えを聞いたうえで、二次面接の志望動機を差し替えていい。
3段で組む
型はこれだけです。例文をそのまま使うのではなく、骨組みだけ借りてください。
- 事実……これまで何を、どの規模で、どこまでやったか(数字で)
- 接点……その経験が、この会社のどこで効くか(求人票と決算数字から)
- 初年度……入って1年で何をするつもりか
3を書ける人がほとんどいません。だから書くと目立ちます。
たとえば「月次決算を8営業日から5営業日に短縮した経験があります。御社は決算早期化を課題に挙げておられるので、まず現状の締めの工程を棚卸しするところから入りたいです」。これは志望動機の形をしていますが、実質は提案書です。
書けることは、やれることの予告になります。そして採用は結局、入ってから何が起きるかの想像で決まります。
未経験、30代、40代の場合
未経験なら、事実の欄に書くものが職歴以外になります。簿記の学習内容そのものではなく、前職で数字に触れた場面を探してください。売上の集計、原価の管理、在庫の棚卸、請求書の発行。どの職種にも必ず何かあります。資格の位置づけは経理の資格の記事に整理しました。
30代は、層を明示するのがいちばん効きます。「決算を一通りまわせて、次は連結に行きたい」と言い切る。
40代は、事実より接点を厚くします。同規模・同業種での経験、システム移行を経験している、人を育てた経験がある。詳しくは40代の経理転職の記事に書きました。
書かないほうがいいこと
- 前職の批判……環境が理由だと、環境が変われば同じことが起きると読まれます
- 働き方だけを主軸にする……大事な条件ですが、志望動機の中心には置かない
- 資格を取りたいという意欲だけ……取ってから言う話です
- 「安定しているから」……経理を守りの仕事だと思っていると受け取られます
最後の1つは特に注意してください。いまの経理は守りの部署ではありません。制度もシステムも動き続けていて、その真ん中にいるのが経理です(経理とAIの記事)。
私自身、経理から会計システムの導入側へ移るとき、最初はまるで通りませんでした。「幅を広げたい」と書いていたからです。
書き方を変えたのは、面接官に「で、あなたが入ると何が変わるんですか」と聞かれてからでした。そこから、やりたいことではなく持ち込める資産——決算のどこで詰まるかを知っている、現場の勘定科目の付け方を知っている——を軸に書き直した。通り始めたのはそのあとです(経理からSAPへ移った話)。
志望動機は、気持ちを伝える欄ではありません。あなたが入った後の景色を、相手の頭の中に作る欄です。そう考えると、書くために必要なのは自己分析より、相手の数字を読む2時間だと分かります。
いま経理を辞めたい気持ちのほうが強いなら、書く前に読むべきものが別にあります。経理をやめたいと思ったときの記事を先にどうぞ。
※本記事は2026年7月時点の筆者の実務経験と、採用する側として書類を読んだ範囲の観察に基づく整理です。選考の基準は企業ごとに異なります。開示資料の入手先は各社のIRページおよび金融庁のEDINETをご確認ください。