経理の実務を何年か積んで、個人で経理代行を受けようと考え始めると、検索の途中で必ずこの言葉に出会います。
「経理代行は違法ですか」
税理士の資格は持っていない。記帳も決算も、会社の中では毎月やってきた。それを外から引き受けた瞬間に、何かの線を越えるのか。
先に結論を書きます。
資格が要るかどうかは、作業の種類では決まらない。税の判断を、他人のために引き受けるかどうかで決まる。
仕訳を入れる、証憑を整理する、請求書を出す、試算表を作る。こうした**記帳の代行そのものは、税理士でなければできない仕事として法律に並んでいません。**一方で、申告書を自分の判断で作る、税務署に代わりに出る、「これは経費になります」と答える。この3つは、報酬をもらっていなくても、税理士でない人が繰り返し行ってはいけない仕事です。
この記事で扱わない範囲を、先に書いておきます。
- 何社受ければ生活が成り立つか、単価はいくらかは経理代行のフリーランスで食べていけるかの側です
- 経理の経験のどこが外で売れるか、独立の形の選び方は経理から独立できるかにあります
- 簿記・FASS・USCPAなど資格の選び方は経理に資格はいるのかに分けました
この記事が扱うのは、その手前です。受けてよい仕事と、受けてはいけない仕事の線。
以下の条文は、e-Gov法令検索の原文と、国税庁の「税理士制度のQ&A」「税理士法基本通達」で確かめた範囲だけを書きます。個別の業務が線のどちら側に入るかの最終的な判断は、税理士・税務署・専門家にご確認ください。
税理士でなければできない仕事は、3つに決まっている
線を引くために、まず条文を見ます。
税理士法2条1項は、税理士の業務(法律の言葉では「税理士業務」)を、他人の求めに応じて、租税に関して、次の3つを行うことを業とすることと定めています。
| 条文上の名前 | 条文の中身(要約) | 経理代行の場面で出てくる形 |
|---|---|---|
| 税務代理 | 税務署などへの申告・申請や、調査・処分に関する主張や陳述を、代理し、または代行すること | 税務署からの問い合わせに、顧客の代わりに答える/調査に立ち会って説明する |
| 税務書類の作成 | 税務署などに出す申告書などを作成すること | 法人税・消費税・所得税の申告書を、自分の判断で作る |
| 税務相談 | 申告や申告書の作成に関して、税額の計算の基礎になる事項について相談に応じること | 「この支出は経費になりますか」「この売上は今期ですか」に答える |
そして52条が、税理士または税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除き、税理士業務を行ってはならないと定めています。違反した場合の罰則は59条1項4号で、2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。
ここで、いちばん誤解されやすい言葉があります。「業とする」です。
国税庁の税理士法基本通達2-1は、「業とする」を反復継続して行う、または反復継続して行う意思をもって行うこととし、必ずしも有償であることを要しないとしています。
つまり、**「お金をもらっていないからいい」「サービスで少し見てあげただけ」は、線の外に出る理由になりません。**顧問先に毎月「ついでに」申告書を作ってあげる。無料だからと税の相談に乗り続ける。どちらも、繰り返している時点で線の内側です。
記帳の代行は、その3つに入っていない
では、経理代行の中心にある記帳はどうか。
条文の3つをもう一度見てください。仕訳を入れること、帳簿をつけること、試算表を作ることは、3つのどれにも書かれていません。
記帳の代行が条文に出てくるのは、税理士法2条2項です。ここには、税理士は、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができると書かれています。これは、税理士が記帳の代行も「できる」と定めた規定で、記帳の代行を税理士だけの仕事にした規定ではありません。
国税庁の「税理士制度のQ&A」問2-3は、この2項について、税理士業務と、財務書類の作成や記帳の代行などの事務(会計事務)が、実務では併せて行われることが多い実情を考慮した規定だと説明しています。
ただし、正直に書いておきます。問2-3は「税理士が、税理士業務に付随しない記帳の代行をしてもよいか」という税理士の側の問いへの回答です。**税理士でない人の記帳代行を、国税庁が直接「問題ない」と書いた箇所を、私は見つけられていません。**だからこの記事では「記帳の代行は誰でもできる」とは書きません。書けるのは、記帳の代行は、52条が禁じている3つの中に書かれていない、というところまでです。
そのうえで、実務の線はこう引けます。
帳簿をつけるところまでは会計の仕事。帳簿から税の数字を決めるところからが、税の仕事。
線の近くにある仕事は、「誰が判断したか」で分かれる
困るのは、この2つの間にある仕事です。経理代行を受けていると、決算の前後で必ず線の近くに寄っていきます。
ここで効くのが、国税庁の基本通達にある2つの定義です。
- 税務書類の「作成」とは、申告書などを自己の判断に基づいて作成することをいい、単なる代書は含まれない(基本通達2-5)
- 税務相談の**「相談に応ずる」**とは、税額の計算の基礎になる事項について、具体的な質問に対して答弁し、指示し、または意見を表明すること(基本通達2-6)
どちらも、見ているのは作業の量ではなく判断の主体です。同じ数字を画面に打ち込む作業でも、判断を下したのが顧客(またはその顧問税理士)で、自分はそれを書き写しただけなのか。自分が判断して、その結果を顧客に渡したのか。そこで線の側が変わります。
国税庁のQ&A問6-2には、この考え方が分かりやすく出ている例があります。事業者から番号の収集を受託した人が、法定調書に番号だけを記入する場合、番号以外の部分を事業者自身が自分の判断で作成しているなら、「税務書類の作成」には当たらない、という回答です。書類に手を入れたかどうかではなく、中身を誰が判断したかで見ていることが分かります。
これを経理代行でよく出てくる仕事に当てはめると、次のように並びます。
| 仕事 | 線との距離 | 受けるときの形 |
|---|---|---|
| 証憑の整理・仕訳の入力・帳簿の作成 | 3つに含まれていない | そのまま受ける |
| 請求書の発行・支払データの作成・入金の消込 | 3つに含まれていない | そのまま受ける |
| 月次の試算表の作成・残高の照合 | 3つに含まれていない | そのまま受ける |
| 決算整理(引当・減価償却・未払計上) | 近い。税の数字を決める判断が混ざる | 処理方針を顧客か顧問税理士が決め、自分は方針どおりに入れる |
| 申告書の下書き・申告ソフトへの入力 | 近い。自分が判断すれば「作成」に寄る | 判断は税理士、自分は資料の準備と転記に役割を分ける |
| 年末調整にともなう法定調書・給与支払報告書、償却資産の申告 | 近い。書類そのものが税務署や市区町村に出るもの | 受ける範囲を税理士と先に決めてからにする |
| 「これは経費になりますか」への回答 | 税務相談そのもの | 受けない。事実の整理までにして、判断は税理士へ |
| 税務署からの問い合わせ・調査への対応 | 税務代理そのもの | 受けない |
真ん中の3行は、「受けてはいけない」とも「受けてよい」とも、この表では決めていません。同じ名前の仕事でも、顧客に顧問税理士がいるか、誰が判断を下すかで中身が変わるからです。決めるのは、受ける前に判断を誰が持つかを、顧客と税理士の3者で言葉にしておくことです。
給与まわりには、もう1本の線がある
経理代行の相談では、給与計算も一緒に頼まれることがよくあります。ここには税理士法とは別の線があります。
社会保険労務士法27条は、社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、2条1項1号から2号までの事務を業として行ってはならない、と定めています。その中身は、労働・社会保険の法令にもとづいて行政機関に出す申請書・届出書などの作成、その提出の手続の代行、法令にもとづく帳簿書類の作成などです(同法2条1項)。
つまり、給与の計算そのものと、社会保険の届出書を作って出すことは、別の仕事として扱う必要があります。入社・退社のたびに必要になる届出を「ついでに」引き受けると、この線に触れます。
ひとつ、税理士法との違いにも気づいておいてください。社会保険労務士法27条には「報酬を得て」という言葉が入っています。税理士法のほうは、上に書いたとおり有償でなくても「業とする」に当たり得るとされています。同じ感覚で「無料なら大丈夫」と考えると、税の側で踏み外します。
いちばん踏みやすいのは、口頭の「これ、経費で落ちますか」
線を越えるのは、たいてい申告書ではありません。毎月のやりとりの中の、口頭の一言です。
経理代行を受けていると、顧客はこちらを「会社のお金に詳しい人」として見ています。だから、仕訳の確認のついでに聞かれます。
「この食事代、会議費でいけますよね」 「この機械、一括で経費にできますか」
ここで「いけますよ」と答えるのは、基本通達2-6の「具体的な質問に対して答弁し、意見を表明する」そのものです。しかも毎月の顧客とのやりとりなので、反復継続の形がすでにできています。
かといって、「それは税理士に聞いてください」とだけ返すと、顧客の側は困ります。私が置いている返し方は、事実の整理までは自分がやり、判断の問いを税理士への質問の形にして渡すことです。
事実を整理すると、参加者は社外の方が2名、1人あたりの金額はこのくらい、目的は〇〇の打ち合わせです。どの科目で処理するかは、顧問の〇〇先生に確認していただけますか。確認用に、この3点をまとめたメモをお送りします。
こうすると、顧客は税理士に聞く手間が減り、税理士は判断に必要な事実がそろった状態で答えられます。自分の仕事の価値も、線の外に出ないまま上がります。経理代行の単価の天井を外す話は経理代行のフリーランスで食べていけるかの「単価の天井と、その外し方」に書きましたが、線の手前で判断の材料を整える力は、その天井を外す方向にも効きます。
受けてよい範囲は、契約書と見積書に書いておく
線を守るのは、気をつけることではなく、最初に紙で決めておくことです。
私が勧めるのは、業務委託の契約書(または発注書・見積書)の業務範囲に、次の3行を入れることです。
| 書いておくこと | 書き方の例 | 目的 |
|---|---|---|
| 受ける仕事 | 証憑の整理、会計ソフトへの仕訳入力、月次試算表の作成、請求書の発行 | 範囲を作業の名前で固定する |
| 受けない仕事 | 税務代理、税務書類の作成、税務相談は本契約の範囲に含まない | 線を顧客と共有する |
| 判断の持ち主 | 税務上の処理方針は、委託者または委託者の顧問税理士が決定する | 決算の前後で役割がぶれないようにする |
2行目を書くのは、顧客を突き放すためではありません。**顧客が「全部やってくれる人」だと思い込んでいると、決算の直前に申告書まで期待されます。**そのとき断れば関係が傷つき、断らなければ線を越えます。最初に書いておけば、その場面そのものが起きにくくなります。
業務委託の契約書の読み方は業務委託契約書に書かれていなければおかしい7項目に、準委任と請負の違いは準委任と請負の違いに分けてあります。
顧客に顧問税理士がいないときは
小さな会社や個人事業主から経理代行を頼まれると、顧問税理士がいないことがあります。このとき、申告書を作る人がいないまま、記帳を受けた自分に期待が寄ってきます。
ここでやることは2つです。
- **受ける前に、申告を誰がするのかを顧客に確認する。**顧客が自分でするのか、決算だけ税理士に頼むのか。決まっていないなら、決まってから受ける
- **税理士とつながっておく。**記帳を受ける自分と、申告を受ける税理士を、最初から組にして提案できるようにしておく
2つ目は、線を守るためだけでなく、仕事の入口にもなります。記帳の手が足りない税理士事務所から声がかかる、という形もあります。税理士事務所との連携を入口にする話は経理代行のフリーランスで食べていけるかの「入口2|税理士事務所との連携」に書きました。
ただし、組み方にも線があります。国税庁のQ&Aは、税理士が守るべき義務の1つとして**非税理士に対する名義貸しの禁止(税理士法37条の2)**を挙げています。自分が申告書を作って、税理士の名前で出してもらうという形は、組み方として成り立ちません。組むときは、判断と署名を税理士が持ち、自分は記帳と資料の準備を持つ。この分け方を崩さないでください。
やってはいけない3つ
最後に、経理代行を始めたばかりの時期に取りがちな手を3つ書きます。
1. 「無料だから」と申告書を作る
上に書いたとおり、税理士業務は有償であることを要しないとされています。記帳の顧客に喜ばれたくて、決算期に申告書まで「サービスで」作る。これを毎年続ければ、反復継続の形がそろいます。
2. 税の判断を、自分の言葉で答える
「たぶん大丈夫です」「普通はこう処理します」も、具体的な質問への答えです。**言い切らなければいいのではなく、判断を返さないことが線です。**事実の整理と、税理士への質問の形にするところまでにしてください。
3. 資格の有無を、顧客にあいまいにする
「経理の専門家」と名乗るのは構いません。ただ、顧客が税理士だと思い込んだまま取引が始まると、あとで申告の責任をめぐって揉めます。最初の打ち合わせで「私は税理士ではないので、申告と税の判断は税理士の先生に」と一度言っておく。それだけで、以後の線が守りやすくなります。
資格を取るべきか、取らずに線の手前で売るか
ここまで読むと、「それなら税理士を目指すべきか」と考える人もいると思います。
私の答えは、どちらかに決める前に、自分が売りたいのがどちらの仕事かを見ることです。
| 売りたい仕事 | 必要なもの |
|---|---|
| 帳簿を正しく、早く、止めずに回すこと | 税理士の資格は要らない。締めの速さと、判断の材料を整える力で売る |
| 税の判断と、申告の責任を持つこと | 税理士の資格が要る。取るまでは、その部分は受けられない |
経理代行を独立の仕事として始めるなら、まず前の行で始め、税理士と組む側に回るのが現実的だと私は考えています。線の手前の仕事に集中できるからです。資格の選び方と、実務で効く順番は経理に資格はいるのかに書きました。
まとめ
- 資格が要るかどうかは、作業の種類ではなく、税の判断を他人のために引き受けるかどうかで決まる
- 税理士でなければできないのは、税務代理・税務書類の作成・税務相談の3つ(税理士法2条1項・52条)。違反は2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(59条1項4号)
- 「業とする」は反復継続のことで、有償であることを要しない(基本通達2-1)。無料でも線の外には出ない
- **記帳の代行は、その3つに書かれていない。**ただし、税理士でない人の記帳代行を国税庁が直接認めた記述は、筆者は確認できていない
- 線の近くの仕事(決算整理・申告書の下書き・年末調整など)は、誰が判断したかで分かれる(基本通達2-5・2-6)。判断は税理士、自分は資料と転記に役割を分ける
- 給与まわりでは、社会保険の届出書の作成と提出の代行に社会保険労務士法の線がある(同法2条・27条)
- いちばん踏みやすいのは、口頭の「これ経費になりますか」。事実の整理までを返し、判断は税理士への質問の形で渡す
- 契約書と見積書に受ける仕事・受けない仕事・判断の持ち主の3行を書いておく
- 税理士と組むときは、判断と署名を税理士が持つ。自分が作った申告書を税理士の名前で出す形は成り立たない
経理代行は、線の手前だけでも仕事として十分に成り立ちます。むしろ線を最初に言葉にできる人のほうが、顧客からも税理士からも安心して任されます。
いまの経験で、どこまでを外から受けられるかを一度整理しておきたい方は、30秒の独立準備度チェックから入ってみてください。登録は要りません。
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出典:税理士法2条(税理士の業務)・52条(税理士業務の制限)・59条(罰則)、社会保険労務士法2条(社会保険労務士の業務)・27条(業務の制限)は、e-Gov法令検索の原文(2026-09-18取得)で確認しました。「業とする」の意味(基本通達2-1)、「作成する」「相談に応ずる」の意味(同2-5・2-6)は国税庁「税理士法基本通達 第2条《税理士業務》関係」、記帳の代行等と税理士業務の関係(問2-3)、非税理士が行えない業務と罰則・法定調書への番号記入の例(問6-1・6-2)、税理士の主な義務の一覧(問6-4)は国税庁「税理士制度のQ&A」(いずれも2026-09-18閲覧)によります。仕事ごとの線との距離の表と、口頭の質問への返し方は、筆者が経理の実務と独立後の業務で置いている整理であり、国税庁や税理士会の見解を示すものではありません。狙いの検索語「経理代行 フリーランス」は、当サイトの Google Search Console の実測(2026-09-15取得・直近28日)で表示がある語です。検索回数の実数は取得していません。
※本記事は条文と公表資料にもとづく一般的な整理です。個別の業務が税理士業務・社会保険労務士の業務に当たるかどうかは、業務の中身と事情によって判断が変わります。判断に迷う場合は、税理士・社会保険労務士・所轄の税務署などにご確認ください。