「独立したい。でも、自分には派手な実績も人脈もない」。経理の仕事をしてきたあなたが、独立を考えるたびにブレーキを踏んでしまうのは、たぶんそこではないでしょうか。営業ができるわけでもない、コンサルみたいに大きな案件を一発で取れるわけでもない。月によって収入が乱高下するなんて、住宅ローンを抱えていたら怖くて踏み出せない。私は独立前、その不安を毎晩のように転がしていました。
私はSAP(エスエーピー。会社の会計・購買・在庫・人事などを一本につないで動かす業務システム)の財務会計の導入を、プロジェクトマネージャー(計画から完成まで責任を持つ人)として長くやってきました。そのなかで、何十社という会社の経理の現場に入りました。だから正直に言います。経理の実務経験は、独立してから一番「裏切らない」資産です。とくに経理代行、つまり「会社の経理を外から代わりにやる」仕事は、派手さはないけれど、フリーランスとして波の小さい収入を作る現実的な入口になります。この記事では、その始め方と、盛らない単価の現実を、私が見てきたままに書きます。
経理代行とは「会社の手を借りる相手」になること
経理代行というのは、平たく言えば、その会社の経理を外部の人間として引き受ける仕事です。仕訳(取引を借方・貸方に振り分けて記録すること)の入力、請求書の発行と支払いの管理、月次の試算表(その月の数字をまとめた一覧)づくり、給与計算の補助、年に一度の決算の準備。会社のなかで経理担当者がやっていたことを、社外のフリーランスとして請け負います。資格でいうと、簿記の知識があれば土台は足ります。
世の中の小さな会社は、経理の専任を一人雇うほどの仕事量はないけれど、社長や奥さんが本業の片手間でやるには重すぎる、という状態のところがとても多い。月に数日ぶんの経理のために正社員を雇うのは割に合わない。かといって放っておくと、決算の直前に一年分の領収書の山と格闘して泣くことになる。私がSAP導入の現場で出会った中小企業の経営者も、機能の話をしているはずなのに、ふとした瞬間に「うちは経理が回ってなくてね」と本音をこぼす人が少なくありませんでした。需要は、地味だけれど確実にあります。
ここで大事なのは、経理代行は「特別なスキルを新しく身につける仕事」ではない、ということです。あなたが会社員時代にやってきた仕訳や月次の作業が、ほぼそのまま値段になる。難しい理論を勉強し直す必要はありません。これは未経験から飛び込む独立とはまったく違う、経験者だけが持つアドバンテージ(有利な持ち札)です。
なぜ経理代行は「波の小さい収入」を作れるのか
フリーランスで一番こわいのは、収入のジェットコースターです。今月は40万、来月は8万。これでは生活の計画が立ちません。独立を諦める人の多くは、稼げないからではなく、「読めない」から心が折れるんです。私自身、独立した最初の数か月で一番つらかったのは金額の小ささより、来月の入金が見えない不安のほうでした。
経理代行が強いのは、まさにここです。経理の仕事は、毎月必ず発生します。請求書は毎月出るし、支払いは毎月あるし、月次の締めは毎月やってくる。だから一度契約すると、その会社からは毎月決まった金額が入ってくる「顧問」のような形になりやすい。スポット(単発)で大きく稼いで次が読めない仕事とは、性質がまるで違います。会社員時代の月給に近い固定の収入を、何社か積み重ねていく。この「積み重ね」ができることが、経理代行の一番の値打ちです。
たとえば、1社あたり月3万〜8万円くらいの顧問料を、数社持つ。そうやって読める固定収入の土台を先に作っておくと、たとえ新しい引き合いが無い月でも、生活費は守られます。私の周りで独立して長く続いている人は、ほぼ全員が「読める収入の土台」を先に作っています。派手な単発で一発当てるより、地味な固定をいくつ積めるか。これが独立を「続けられるかどうか」を分けます。同じ独立の不安については経理のフリーランスで本当に食べていけるのかでも掘り下げているので、あわせて読んでみてください。
経理代行フリーランスの単価の現実 ── 盛らずに正直に書きます
ここは、いちばん正直に書かなければいけないところです。世の中には「経理代行で月収100万!」みたいな景気のいい話が転がっていますが、最初からそんな数字にはなりません。期待値を盛ると、現実とのギャップで心が折れます。だから、私が見てきた範囲の目安だけを書きます。
経理代行の単価の考え方は、ざっくり二つです。ひとつは「月いくら」の顧問契約。取引の量や、どこまでやるかにもよりますが、小規模な会社で月3万〜8万円あたりが目安になることが多い。もうひとつは「時間いくら」で、在宅でこなす実務作業だと時給1,500円台から、慣れて任される範囲が広がると2,000円台というあたりから始まることが多いです(いずれも目安で、地域・取引量・あなたの経験でかなり動きます。保証はできません)。決算の補助など専門性の高い部分は別途上乗せできますが、入力中心の作業は単価が伸びにくい、というのも正直なところです。
だから現実的な絵はこうです。最初は1社、2社と契約を取り、月数万円の土台を作る。慣れてきたら社数を増やし、入力代行から「数字を読んで社長に説明する」ところまで踏み込んで単価を上げていく。半年から1年くらいかけて、月の固定収入を会社員時代の手取りに近づけていく。これが、私が見てきたなかで一番現実的で、一番崩れにくい伸び方です。なお、ここで焦って最初の案件を安く受けすぎると、あとから値上げが言い出せず自分の首を絞めます。値付けで迷ったら最初の案件をつい安く受けてしまうのはなぜかも読んでおいてください。
どこから始めるか ── 最初の一歩は驚くほど地味
「で、どうやって最初の1社を見つけるの」。ここが、独立で一番つまずくところです。営業が怖い、という相談を私は本当によく受けます。でも安心してください。経理代行の最初の入口は、見知らぬ会社への飛び込み営業ではありません。
一番手堅いのは、いまの会社や前職のつながりです。退職するときに「もし経理で手が足りなくなったら、外から手伝えますよ」と一言残しておく。あなたの仕事ぶりを一番よく知っているのは、これまで一緒に働いた人たちです。知らない相手にゼロから信用してもらうより、すでにあなたの仕事を見てきた人から始めるほうが、何倍も早い。次に、税理士事務所との連携です。税理士の先生は、顧問先の「日々の記帳が回っていない」という悩みを抱えていることが多く、安心して任せられる経理代行の人を探していることがあります。一人の先生とつながると、その先に何社もの顧問先がいる場合がある。地味ですが、効率のいいルートです。
そのうえで、クラウド会計ソフト(会計の作業をインターネット上でやるしくみ。freeeやマネーフォワードなど)を一通り触れるようにしておくと、強い武器になります。いまの小さな会社の多くはクラウド会計を使っていて、それを在宅で操作できる人は重宝されます。逆に言えば、紙とエクセルだけしか知らないと選ばれにくい。ここは独立前に自分で無料プランを触って慣れておくだけでも、見え方がだいぶ変わります。
経理代行の「その先」も見据えておく
最後に、少しだけ先の話をします。経理代行は素晴らしい入口ですが、入力作業だけを続けていると、いつか単価の天井にぶつかります。手を動かす作業は、どうしても「時間の切り売り」になりやすいからです。1日は24時間しかなく、入力を増やすほど自分の時間が削られていく。
だから、経理代行で土台を作りながら、少しずつ「数字を使って会社の役に立つ」方向に重心を移していくことを、私はおすすめしています。月次の数字を見て「先月より仕入れが増えていますね、ここを一度見直しませんか」と社長に話せる人は、ただの入力代行ではなく、会社の相談相手になります。そうなると、頼られ方も、いただける金額も変わってくる。私自身、出発点は経理の実務でした。そこから、会社のお金そのものを扱うSAPの財務会計の導入や経理改革という、より上流の仕事へ広がっていったんです。地味な日々の経理は、決して行き止まりではありません。
経理代行は、「下積みの安い仕事」ではありません。会社員時代に積み上げてきた経理の力を、そのまま現金に換えられる、経験者だけの正直な独立の道です。派手さはないけれど、波が小さく、続けやすく、しかも先の伸びしろもある。独立の第一歩を「何で食べるか」で迷っているなら、まずは自分が一番得意なこの土俵で、最初の1社を取りにいく。そこから始めるのが、私が見てきたなかで一番堅実なやり方です。経理を軸にした独立の全体像は経理代行でフリーランスとして独立する道でも整理しているので、次の一歩の参考にしてください。