「報酬が入らないんですが、貸倒損失で経費にできますか」。

この質問を受けたら、私はまず順番を止めます。経費にする話は最後です。落とせば税金が少し減るだけで、手元のお金は戻りません。100万円の未回収を経費にしても、返ってくるのはその税率分だけです。残りは消えたままです。

だから先にやることがあります。

まず回収する。順番は5つ

**1. 事実の確認。**請求書が届いているか、宛先と締め日が合っているか。「払わない」のではなく「請求が経理に回っていない」だけ、というケースが実際にあります。まずここを潰します。請求書の形式は請求書の書き方に。

2. 期日を根拠に催促する。「まだですか」ではなく「契約書の第◯条で支払期日は◯月◯日です」と書く。契約書がないなら、ここで手が止まります。業務委託契約書を作る理由の半分はこれです。

3. フリーランス新法の60日ルールを使う。これが効きます。フリーランス・事業者間取引適正化等法では、発注事業者は、成果物の納品や役務の提供を受けた日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、その期日までに報酬を支払わなければなりません。しかも検査の有無にかかわらずです。「検収がまだなので払えない」は理由になりません。制度の全体像はフリーランス新法に整理しました。

**4. 書面で残す。**内容証明郵便で、金額・期日・支払わない場合の対応を明記して送る。ここで動く相手は少なくありません。同時に、公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口(フリーランス・トラブル110番など)に相談できます。実際に勧告が出た事例も公表されています。

**5. 法的手続き。**支払督促、少額訴訟(60万円以下の金銭請求)。金額と相手の資力を見て判断します。

ここまでやって、それでも取れない。そこで初めて税務の話になります。

大前提:売上に計上していなければ、落とせない

意外に多い勘違いがここです。

貸倒損失は「一度、売上として計上した債権が回収できなくなった」から必要経費になります。つまり、まだ売上に入れていない請求は、貸倒損失にできません。入れていないものは、引けません。

青色申告で発生主義の記帳をしていれば、納品した時点で売掛金として計上済みなので問題ありません。一方、入金があった時点だけを記録する運用をしている人は、そもそも売上に入っていないので、貸倒損失という論点自体が発生しません。記帳の方式については白色申告青色申告に書きました。

落とせる3つの類型

所得税基本通達は、貸倒れを3つに分けています。どれかに当てはまらないと、必要経費にはなりません。

**類型1:法律上の貸倒れ。**更生計画認可の決定、再生計画認可の決定などによって、法律上、債権が切り捨てられた場合。あるいは、債務者の支払能力からみて弁済を受けられないことが明らかなときに、書面で債務免除を通知した場合。

ポイントは「書面で」です。口頭で「もういいです」と言っても記録に残りません。免除するなら、内容証明で残してください。

**類型2:事実上の貸倒れ。**債務者の資産状況・支払能力等からみて、全額が回収できないことが明らかになった場合。一部でも取れる見込みがあるうちは対象になりません。担保があるときは、それを処分してからです。

「連絡が取れない」だけでは足りません。相手の事業実態を裏づける資料――登記が閉鎖された、事業所が撤去された、破産手続の通知が届いた――を集めておく必要があります。

類型3:形式上の貸倒れ。ここが実務でいちばん使われます。継続的な取引をしていた相手との取引を停止した時以後、1年以上が経過した場合。売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を、必要経費にできます。

2つ、注意点があります。

  • **継続的な取引が前提です。**1回きりの単発案件の未回収には、この類型は使えません。
  • **備忘価額を残します。**全額をゼロにするのではなく、1円を帳簿に残す。「この債権はまだ存在している」という印です。あとで相手から入金があったときに、処理の起点になります。

消費税も戻せることがある

見落とされがちですが、課税事業者なら消費税側でも調整があります。

売掛債権が貸倒れになったとき、その貸倒れとなった金額に対応する消費税額を、貸倒れが生じた課税期間の売上に対する消費税額から控除できます。所得税で経費にするのとは別の、消費税の中の話です。

ただし、認められる要件は決まっています。そして採用している課税方式によって扱いが変わります。本則課税、簡易課税、2割特例のどれで申告しているかで結論が違うので、ここは自己判断せず税理士に当ててください。消費税の基本はフリーランスの消費税に。

あとから入金があったら

貸倒損失として落とした債権が、後年になって回収できることがあります。相手が再建した、破産手続で配当が出た、といったケースです。

このときは、回収した年の収入として計上します。消費税も同じで、回収した課税期間の売上に対する消費税額に足し戻します。

備忘価額1円を残しておく意味はここです。帳簿から完全に消してしまうと、この処理の起点が失われます。

次から同じ目に遭わないための4つ

税務処理は事後対応です。本命は予防のほうにあります。

  1. **支払期日を契約書に書く。**新法の60日は上限であって、標準ではありません。納品月の翌月末のように具体的に決めて、書面に落とす。
  2. **着手金を取る。**新規の相手、金額の大きい案件、初回は特にです。全額を後払いにしない。単価と条件をどう持っていくかは単価交渉に書きました。
  3. **与信を見る。**登記情報は数百円で取れます。設立年、資本金、代表者の変更履歴。新規で大きい金額を動かす前に一度見ておく。
  4. **1社に寄せない。**取引先が1社だと、その1社の未払いが即座に生活を止めます。案件の入口を複数持つ理由のひとつはこれです。

まとめ

  • 貸倒損失は最後の処理。先に回収を尽くす。経費にしても戻るのは税率分だけ。
  • 武器はフリーランス新法の60日ルール。納品日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、検査の有無にかかわらず払う義務がある。
  • 売上に計上していない請求は、そもそも落とせない
  • 類型は3つ。法律上(書面での債務免除を含む)、事実上(全額回収不能が明らか)、形式上(継続的な取引の停止後1年以上備忘価額1円を残す)。
  • 消費税でも調整できるが、課税方式によって扱いが変わる。自己判断しない。
  • あとから入金があったら、回収した年の収入に戻す。
  • 予防は、支払期日の明記・着手金・与信・取引先の分散の4つ。

貸倒れの判定は、資料の揃い方で結論が変わる領域です。落とすと決める前に、国税庁の案内と顧問の税理士に、自分の資料を見せて確認してください。