月額や時間精算の業務委託で稼働していると、月末に稼働報告を出します。日付があって、時間があって、合計があって、下に一言。ほとんどの人が、ここを精算のための書類として書いています。
それ自体は、間違っていません。契約上、稼働報告は精算と検収の根拠だからです。**ただ、その報告は更新の場で一度も開かれません。**開かれないというより、開いても使えない。時間の合計から「この人を続けるべきか」は出てこないからです。
私は独立してから、この1枚の使い方を途中で変えました。時間の表はそのまま残して、下に3行だけ足す。それだけで、更新の会話の入り方が変わりました。この記事は、その3行の話です。
稼働報告を、本当に読んでいるのは誰か
まず、書き方の前に読み手を確かめます。ここを取り違えると、何を足しても外れます。
稼働報告を受け取るのは、あなたの窓口になっている担当者です。でも**その人は、最終的な読み手ではありません。**更新の時期になると、担当者は自分の上司か、購買か、予算を握っている部署に対して、この外注費を来期も置く理由を説明させられます。稟議の形をとる会社もあれば、部内の予算会議で口頭という会社もありますが、どこかで必ず「続ける理由」を言葉にする場面があるという点は共通しています。
そのとき担当者の手元にあるのが、時間の表だけだったらどうなるか。担当者は、自分の記憶から理由を作ることになります。記憶は薄れますし、担当者が替わっていれば記憶そのものがありません。担当者が交代した場合に何が起きるかは発注側の担当者が替わったときに別途書きました。
つまり稼働報告に足すべきものは、担当者が上に説明するときに、そのまま転記できる材料です。あなたの働きぶりのアピールではありません。ここを間違えると、読んだ相手が身構えます。
時間の集計だけで終わっている報告に、何が起きているか
時間の表だけの報告を続けていると、更新の場でこういう会話になります。
「あの人、今月も予定どおり稼働してますね」 「そうですね。……で、何か進みましたっけ」
悪気があるわけではありません。担当者も忙しくて、あなたの領域を毎日追ってはいない。だから、あなたが報告に書かなかったことは、その会社の中で起きなかったこととして扱われます。
もう一つ起きるのが、比較のされ方です。時間の表しか材料がないと、判断は自然と「時間あたりいくらか」の比較に寄ります。この土俵に乗ると、条件の話は下方向にしか動きません。単価の話をどう扱うかはコンサル単価の上げ方に書いたので、ここでは触れません。この記事で言いたいのは、報告の書き方ひとつで、比較される土俵が変わるということだけです。
足すのは、3行
前置きが長くなりました。具体に入ります。時間の表の下に、次の3行を足します。
1行目:この月に、終わったこと 着手した、進めた、ではなく、終わったことです。区切りがついたもの。
2行目:この月に、決まったこと/決められなかったこと 会議で結論が出たもの。出なかったものも、両方書きます。
3行目:来月、判断が要ること あなたの手では決められない、相手が決める必要があるもの。
3行です。それぞれ1〜2文で足ります。**長く書くほど読まれません。**担当者が5秒で読めて、そのまま上に持っていける長さが上限です。
3行の書き方|主語を、相手の側に置く
書き方には、ひとつだけコツがあります。主語を自分ではなく、相手の業務に置くことです。
同じ事実でも、こう変わります。
| 自分が主語(使われない) | 相手の業務が主語(転記できる) |
|---|---|
| 「月次の資料を作成しました」 | 「月次の締めのうち、〇〇の工程が手作業から外れました」 |
| 「〇〇について検討しました」 | 「〇〇は判断材料が揃い、来月の会議で決められる状態になりました」 |
| 「会議に参加しました」 | 「△△の論点は、A案で進める方向で合意しました」 |
左は、あなたが何をしたかの記録です。右は、相手の会社の中で何が動いたかの記録です。担当者が上に説明するとき使えるのは、右だけです。
そして、右のほうが書くのは簡単です。自分の作業を振り返るより、「この1か月で、相手の側で何が変わったか」を思い出すほうが、範囲が狭いからです。
2行目を、両方書く理由
「決められなかったこと」も書くのは、気が引けるかもしれません。自分の進捗が悪く見えるのではないか、と。
逆です。**決まらなかったことを毎月書いている人は、翌月の相手の動きが変わります。**その1行が、相手の側の宿題として可視化されるからです。そして更新の場で、担当者が「進まなかったのは外注のせいではない」と説明できる材料にもなります。
書かずにおくと、決まらなかったものは「何となく進んでいない案件」として全部あなたの側に寄ります。書いておくほうが、自分を守ります。
3行目は、相手の予定を動かす
3行目の「来月、判断が要ること」は、いちばん効きます。
これを書いておくと、担当者は月初にその判断を自分の予定に入れます。入れてもらえると、あなたの翌月の仕事が止まらない。報告書でありながら、翌月の段取りを兼ねているのがこの行です。
ここに書くのは、相手が決めるものだけにします。自分で決められることを混ぜると、判断を投げているように見えます。
書かないほうがいい、3つ
足す話ばかりしましたが、入れないほうがいいものもあります。
1. 数字の盛り 「工数を50%削減」のような数字は、根拠を全部出せるとき以外は書かないでください。更新の場で上の人から根拠を聞かれたとき、担当者が答えられないと、その報告ごと信用されなくなります。盛った1行より、確かな1行のほうが遠くまで効きます。
2. 他の人の評価 「〇〇さんの対応が遅く」のような書き方は、たとえ事実でも書きません。報告は転記されます。転記された先で、あなたの知らない関係に当たります。遅れている事実を書きたいなら、人ではなく工程を主語にします。
3. 契約条件の話 稼働報告に、単価や契約期間の話を混ぜないでください。精算の書類に条件交渉が混ざると、読み手は身構えます。条件の話は別の場でやる。切り出す場所とタイミングの話はコンサル単価の上げ方と業務委託の契約期間にあります。
出す形式は、「相手が転送しやすいか」で決める
3行の中身が決まったら、次はどこに書くかです。ここで多くの人が、添付ファイルの中だけに書いてしまいます。
添付は、開かれません。正確には、精算の担当者は開きますが、**その先に転送される段階で中身が読まれません。**転送する人は、自分がその場で説明できる文だけを本文に書き写します。だから、添付の中にしかない文は、そこで消えます。
私が置いている形は、こうです。
- 時間の集計の表は、これまでどおり添付(精算の根拠なので形式を変えない)
- 3行は、メールやチャットの本文に書く
- 本文の3行は、そのまま引用符で囲んで転送できる文にしておく
チャットで報告している場合も同じです。長いスレッドにせず、月末の1通に3行をまとめて置く。担当者がその1通を上司に転送すれば済む形にします。
**形式を変えるだけで中身は同じです。**それでも、読まれる確率が変わります。
相手が読んでいる気配がないとき
3か月続けて、3行に対して何の反応もない。この状態は、実際に起きます。
反応がない理由は、だいたい2つです。担当者にとって、その3行が使いどころのない情報か、担当者自身が更新の判断に関わっていないか。前者なら書き方を直せますが、後者は書き方の問題ではありません。
見分け方は、1度だけ聞いてみることです。更新の時期の2〜3か月前に、こう置きます。
来期の体制を決めるとき、どなたに何を説明されますか。私の側で用意しておいたほうがいい材料があれば、月の報告に入れておきます。
この聞き方には、値上げの気配も、催促の気配もありません。「あなたの手間を減らしたい」という形なので、断られる理由がない。そして返ってくる答えで、相手が更新の判断に関わっているかどうかが分かります。
ここで「実は私は判断しない」と分かった場合は、報告を厚くしても届きません。届く先を探す動きに切り替えます。窓口の構造そのものが変わる場面は発注側の担当者が替わったときに書きました。
送る前の、30秒
出す直前に、2つだけ確かめます。
① この3行を、担当者はそのまま上司に転送できるか。 自分の宣伝が混ざっていると、転送できません。転送できない報告は、担当者の中で止まります。
② 3行のうち、相手の会社の言葉で書けているものはいくつあるか。 自分の業界用語で書くと、担当者の上の人には伝わりません。相手が会議で使っている言葉に直します。
この30秒が、月に1回。年に12回です。
12か月ぶん溜まったとき、何が変わるか
3行を毎月書き続けると、1年で12か月ぶんの記録になります。これが効いてくるのは、次の3つの場面です。
更新の会話のとき。「この1年で、御社の側で何が変わったか」を、あなたが記憶からではなく記録から出せます。相手も同じものを持っている。同じ資料を見ながら話すのと、それぞれの記憶で話すのとでは、着地がまるで違います。
**担当者が替わったとき。**後任にとって、あなたの過去は空白です。12か月ぶんの記録があれば、その空白を埋められます。ここでの動き方は発注側の担当者が替わったときに詳しく書きました。
**次の案件を探すとき。**この12行は、そのまま職務経歴の材料になります。案件が終わってから思い出して書くのと、毎月書きためたものを並べ直すのとでは、具体の濃さが違います。ただし、**発注側の社名や案件の中身をそのまま外に出すことはできません。**ここは契約の守秘の範囲を必ず確認してください。
この報告で、やらないこと
最後に、線を引いておきます。稼働報告は万能ではありません。次のものは、別の場所の話です。
- 精算の控除・超過、支払サイト、間に挟まる項目は発注側が払う金額と、自分が受け取る金額の差へ
- 休んだ月の請求の書き方は業務委託に有給はあるのかへ
- 報告の確認期間が契約書で空欄になっている問題は業務委託契約書の、空欄のまま渡される4か所へ
- 更新されないと分かったあとの動き方は業務委託の契約が更新されないと分かった月にやることへ
- 参画する前の顔合わせで何を聞くかは参画前の顔合わせへ
この記事が扱っているのは、稼働中の毎月、1枚の報告の下に3行足すという一点だけです。
まとめ
- 稼働報告の最終的な読み手は担当者ではなく、担当者が更新の場で説明する相手
- 時間の集計だけの報告は、更新の場で使えない。使えないと、判断は時間あたりの比較に寄る
- 足すのは3行——その月に終わったこと/決まったこと・決められなかったこと/来月に判断が要ること
- 主語を自分ではなく、相手の業務に置く。転記できる形で書く
- 決まらなかったことも書く。書かないと、全部あなたの側に寄る
- 書かない3つ——数字の盛り・他の人の評価・契約条件の話
- 出す前の30秒——そのまま転送できるか/相手の言葉で書けているか
稼働報告は、精算のために出す書類です。その形は変えなくていい。**下に3行足すだけで、同じ書類が、更新の材料に変わります。**1か月ぶんでは何も起きません。12か月ぶん溜まったときに、初めて効きます。来月の月末から、3行だけ足してみてください。
独立してからの案件の受け方全体は独立コンサルのはじめ方にまとめてあります。
この記事の3行の型と書き方は、筆者が独立して業務委託で受けてきた中で置いている整理であり、発注側の社名・案件内容・実際の報告書の文面は含みません。契約上、稼働報告が何の根拠になるか(検収・精算・確認期間)は契約書によって異なります。ご自身の契約書の該当条項を必ず確認してください。