ITコンサルタントとして独立した人が、最初の半年で口をそろえて言うことがあります。
「案件は取れているのに、稼働が埋まらない。」
単価が下がったわけでも、声がかからないわけでもない。月の半分しか埋まらないという状態が起きます。これは能力の問題ではなく、独立すると案件の粒度が変わることによる、ほぼ構造的な現象です。
先に結論を書きます。
仕事の中身は変わらない。変わるのは、売られる単位である。
会社員のときはフェーズ単位で張り付いていたものが、独立するとフェーズの中の一部だけを切り出して発注されるようになります。そして上流の工程ほど、その一部が短い。
粒度が変わる、その理由を3つに分ける
1. 上流は期間が短く、下流は期間が長い
まず、単純に工数の総量が違います。
| 工程 | よくある期間 | 必要な人数 |
|---|---|---|
| 構想・企画 | 1〜3か月 | 少ない(数名) |
| 要件定義 | 2〜4か月 | 中 |
| 設計・実装・テスト | 6か月〜2年 | 多い |
| 移行・稼働後の定着 | 3か月〜 | 中 |
**上流は、期間も人数も小さい。**プロジェクト全体の中で最も濃い判断をする場所ですが、そこに必要な人日は全体の一部です。
会社員のときは、上流が終われば同じ会社の別のプロジェクトに移されるので、この短さが自分の稼働の問題として現れません。**組織が谷を吸収していた。**独立するとその吸収装置がなくなり、上流の短さがそのまま自分の空白月になります。
2. 組織の看板が外れると、上流に呼ばれにくくなる
上流の仕事は、発注側にとって説明が必要な買い物です。
構想フェーズに外部の人を入れるとき、社内では「なぜこの人なのか」を通す必要があります。会社員のときは、そこをファームの名前が担保していました。個人になると、担保が自分の実績そのものに変わります。
だから、独立直後にいきなり上流だけで売るのは、実は難易度が高い。「この領域なら、この人しかいない」と言える具体の縦深がある人は上流だけで通りますが、「上流全般ができます」だと、看板の代わりがありません。
3. 発注側が埋めたいのは「フェーズ」ではなく「穴」
これが一番効いています。
発注側が外部の人を探すとき、頭の中にあるのはこうです。
いま動いているこのプロジェクトの、どこが埋まっていないか。
要件定義はもう始まっている。設計も走っている。でもデータ移行の設計を書ける人がいない、業務側との調整が止まっている、テスト計画が誰も引けない。探しているのは「フェーズを担当する人」ではなく「この穴を埋める人」です。
したがって、提案資料に「構想策定・PMO」とだけ書いてあると、**相手は自分の穴と照合できません。**照合できない書類は、読まれずに次に流れます。
稼働を埋める、3つの型
では、どう埋めるか。実際に埋まっている人の形は、だいたい3つに分かれます。
型1:上流1本+実装寄りの支援を0.5本
もっとも現実的な埋め方です。上流の案件を主にしつつ、同じ領域の実装寄りの支援を薄く重ねる。
これが成立する条件は、その領域の実装を自分が理解していることです。設計や実装の場に入れるかどうかで、埋められる工数がまるで違います。上流しか経験がないと、この0.5本の側が取れません。
掛け持ちの実務上の注意(守秘、稼働報告、競業)は複数案件の掛け持ちと競業避止義務に分けて書きました。
型2:領域を縦に深く取る
もう一つは、工程で切らず、領域で切るやり方です。
会計、購買、生産、データ基盤、認証基盤、セキュリティ。特定の領域を、構想から実装まで通しで持てるなら、稼働は自然に長くなります。プロジェクトの期間そのものが自分の稼働になるからです。
私自身はSAPの財務会計(FI)でこの形を取ってきました。領域を縦に取ると、上流が終わったら抜ける、という切れ目がなくなります。
型3:推進・調整の役割で長く張る
3つ目は、進行や調整の役割で長期に入る形です。稼働は安定します。
ただし注意点があります。この役割は、名乗り方を間違えると値段が上がりません。「調整役」として売ると、代替可能な人と同じ土俵で比べられるからです。理由はフリーランスのPMOは、何を売っているのかとフリーランスのPMは成立するかに詳しく書きました。
稼働の形そのものも変わる
粒度と一緒に、働き方の条件も交渉の対象になります。会社員のときは会社が決めていた部分です。
当社は、独立支援サービスで需要側に提案するとき、**「初回の顔合わせは対面、その後は月1〜2回の出社、それ以外はリモート」**を初期の型として出しています。理由は2つです。
- **週5常駐を前提にすると、掛け持ちができない。**掛け持ちができないと、上流の短さを他の案件で埋められません。
- **常駐前提は、単価の交渉より先に候補者を減らします。**時期と稼働が合わない人は、単価の話まで到達しません。
ただし正直に書くと、**この型が通るかどうかは案件によります。**業務側との調整が中心の仕事は、対面の比率が上がります。「フルリモートで上流だけ」という条件は、現状もっとも案件数が少ない組み合わせです。
会社員のときは見えなかった、3つの実務
もう一つ、独立後に降ってくるものがあります。**契約と金の実務が、全部自分に来ます。**会社員のときは営業と管理部門がやっていた部分です。
1. 契約の形が変わる
準委任なのか請負なのかで、責任の範囲が変わります。「成果物の完成」を約束しているのか、「時間と労務の提供」なのか。ここを曖昧にしたまま始めると、検収の場で揉めます。準委任と請負の違いと業務委託でコンサルを受けるときに分けて書きました。
2. 稼働報告と精算幅が単価に効く
月額で契約していても、**実稼働が一定の幅を外れると金額が動きます。**下限を下回れば控除、上限を超えれば超過。この幅の作り方と、控除・超過の単価の計算方式で受取額が変わります。
これは知らないまま契約すると必ず損をする場所なので、発注側が払う金額と、自分が受け取る金額の差は何でできているかに、当社の台帳の計算そのものを開いて書きました。
3. 入金は、働いた翌月には来ない
締めがあり、支払サイトがあります。稼働した月の報酬が入るのは、早くて翌月末、遅ければその先です。**独立直後にここで詰まる人が多い。**手元資金の考え方はフリーランスの貯金に書きました。
明日からできること
稼働が埋まらない状態にいる人が、今日できることを4つ挙げます。
- 自分の提案資料から「上流」「PMO」という言葉を消して、書き直す。代わりに、領域(何の業務か)と動詞(何をやったか)で書く。読む側は自分の穴と照合しています。
- **直近3件の案件を、工程ではなく領域で並べ直す。**縦に繋がっているものがあれば、それが型2の芽です。
- **実装寄りの工程で、自分が入れる場所を1つ特定する。**データ移行、テスト計画、業務側の調整、受入支援。ここが型1の0.5本になります。
- **稼働条件を、自分から先に出す。**週何日、出社は月何回まで、いつから。後から出すと、話が進んだ後に流れます。
案件の取り方そのものは独立コンサルが案件を取るにはに、書類の書き方は独立コンサルのスキルシートは、発注側のどこを見られているかに書いてあります。
まとめ
- 独立して最初に起きるのは単価の問題ではなく、稼働が埋まらない問題。
- 原因は、仕事の中身ではなく売られる粒度が変わること。フェーズ単位から、工程の一部単位へ。
- 上流だけでは埋まらない理由は3つ。(1)上流は期間が短い (2)組織の看板が外れると上流に呼ばれにくい (3)発注側が埋めたいのはフェーズでなく「穴」。
- 会社員のときは、**組織が谷を吸収していた。**独立するとその吸収装置がなくなる。
- 埋め方は3つ。(1)上流1本+実装寄り0.5本 (2)領域を縦に深く取る (3)推進の役割で長く張る。ただし(3)は名乗り方を間違えると値段が上がらない。
- 働き方も交渉の対象になる。当社は**「初回対面+月1〜2回の出社+リモート」**を初期の型として提案しているが、通るかは案件による。「フルリモートで上流だけ」は最も案件数が少ない組み合わせ。
- 契約・精算幅・支払サイトが全部自分に来る。知らないまま契約すると確実に損をするのは精算幅。
案件が取れているのに稼働が埋まらないとき、多くの人は営業を増やそうとします。
ですが実際に効いたのは、売る単位を、相手が買っている単位に合わせ直すことでした。上流を諦めろという話ではありません。上流の隣に、自分が入れる工程を1つ持っておくだけで、月の空白は消えます。
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出典:稼働条件の初期提案(初回対面+月1〜2回の出社+リモート)は、当社(Never Red株式会社)が独立支援サービスで需要側に提示している方針の記録に基づきます。工程ごとの期間の目安は当社が関与したプロジェクトの範囲での観測であり、統計調査ではありません。
※本記事は当社の実務経験と社内記録に基づく整理です。契約条件や責任範囲の判断は個別の事情で結論が変わるため、実際の契約は弁護士にご確認ください。