「インボイスの登録、やめられますか」という相談が、この夏になって増えました。

理由ははっきりしています。2割特例が令和8年分で終わるからです。負担を薄く保っていた仕組みが外れる前に、そもそも登録を続けるのかを決めたい。順番としては正しい問いです。

ただ、手続きの話に入る前に、いちばん誤解されている点を先に書きます。登録をやめることと、消費税を納めなくてよくなることは、別の話です。

出す紙は1枚

必要なのは「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」です。税務署に提出します。理由を説明する欄も、取引先の同意も要りません。

問題は期限です。

期限は「翌課税期間の初日から起算して15日前」=12月17日

翌年の1月1日から登録の効力を失わせたいなら、その日から起算して15日前の日までに出す必要があります。個人事業者の課税期間は暦年なので、12月17日です。

遅れるとどうなるか。届出そのものは受理されますが、効力が失われるのは翌々課税期間の初日になります。2026年12月18日に出したら、登録が外れるのは2028年1月1日。1年まるごとずれるということです。

もう一つ。この期限は、12月17日が土日祝でも翌営業日に繰り延べられません。2026年の12月17日は木曜日なのでその心配はありませんが、「休みだから月曜でいい」は通らない、と覚えておいてください。

やめても、免税に戻れるとは限らない

ここが本題です。登録を外しても、次の2つの関門を通らなければ課税事業者のままです。

**関門1:基準期間の課税売上高。**個人事業者の基準期間は2年前です。2027年分なら2025年分の課税売上高。これが1,000万円を超えていれば、インボイスの登録とは関係なく課税事業者です。この線の意味はフリーランスの消費税に整理しました。

関門2:登録から2年のルール。免税事業者が経過措置によって、令和5年10月1日を含む課税期間以外の課税期間に登録を受けた場合、登録を取りやめても、登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までは免税事業者になれません。制度開始と同時に登録した人は対象外ですが、2024年以降に登録した人は自分の登録日から数える必要があります。

つまり、やめられるかどうかは登録日と2年前の売上で決まる。届出書を出す前に、この2つを確認してください。

いま「やめるか」が論点になっている理由

2割特例——納める消費税を売上税額の2割で済ませる仕組みは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間が対象です。暦年で申告する個人事業者にとって、令和8年9月30日は令和8年分(2026年1月〜12月)の中にあるので、令和8年分が最後になります。中身はインボイスの2割特例に書きました。

そのうえで、令和8年度税制改正で個人事業者向けの受け皿が置かれました。令和9年分と令和10年分について、納付税額を売上税額の30%とする措置——いわゆる3割特例です。法人には同様の延長は用意されていません。あわせて、2割特例や3割特例を使ったあとに簡易課税へ移るときの届出のタイミングも、申告期限までに出せる方向で緩和されています。

改正が続く領域です。数字を判断に使う前に、国税庁の案内で最新の内容を確認してください。

やめる前に、この4つを順番に置く

  1. **取引先はどこか。**相手が課税事業者で本則課税なら、登録を外した分は相手の負担になります。相手が免税事業者や一般消費者中心なら、影響はほぼありません。
  2. **やめられるのか。**基準期間の課税売上高と、登録日からの2年ルール。ここで止まるなら、そもそも議論が要りません。
  3. **手取りはいくら変わるのか。**免税に戻れば、受け取った消費税相当額は手元に残ります。一方で、値引きを求められる可能性がある。2割特例・3割特例で納める額と、値引き交渉に負けたときの減収を並べて比べます。
  4. **いつやるのか。**外すと決めたら12月17日。やめない場合も、2027年からは本則課税・簡易課税・3割特例のどれで行くかを決める年になります。

実務で忘れやすいこと

  • **取引先への連絡。**義務ではありませんが、黙って請求書の登録番号が消えると相手の経理が止まります。切り替わる月の請求書を出す前に一報を入れる。
  • **請求書のひな形。**登録番号の欄と、税率ごとの区分の書き方を直します。基本形は請求書の書き方に。
  • **会計ソフトの設定。**課税事業者から免税事業者に変わる年をまたぐと、税区分の設定が残ったままになりがちです。

まとめ

  • 出す紙は「登録の取消しを求める旨の届出書」1枚。個人事業者の期限は12月17日
  • 遅れると効力が失われるのは翌々年。1年ずれる。
  • やめる=免税に戻る、ではない。基準期間の課税売上高1,000万円と、登録日以後2年のルールの2つを通る必要がある。
  • 2割特例は令和8年分が最後。令和8年度税制改正で、令和9年分・令和10年分の個人事業者向けに売上税額の30%とする措置が置かれた。
  • 判断の順番は、取引先→やめられるか→手取り→期限。

登録を続けるかどうかの基本的な考え方はインボイス、登録すべきかにあります。制度は改正が続いています。実際に届出を出す前に、国税庁の案内と顧問の税理士で、自分の登録日と売上に当てはめて確認してください。