12月25日に成果物を納品した。検収も通った。請求書も出した。入金は1月20日

この売上は、どちらの年の数字か。

独立1年目の私は、通帳を見ながら考えていました。入っていないのだから来年だろう、と。**間違いです。**12月の売上として、今年の申告に入ります。

同じことが経費側でも起きます。12月に発注した外注費を、実際に振り込むのは1月末。これも今年の必要経費です。

つまり、**通帳の残高の動きと、申告書に書く数字は、最初から一致しない。**この前提を持たずに12月を迎えると、翌年3月に帳簿を作り直すことになります。

原則は「権利確定主義」

国税庁のタックスアンサーNo.2200は、こう書いています。

その年において収入すべき金額は、年末までに現実に金銭等を受領していなくとも、「収入すべき権利の確定した金額」になります。

さらに、

実際に金銭等を受領したか否か、また、代金を請求したか否かは関係ありません。

**請求書を出したかどうかすら関係ない。**権利が確定した時点で、その年の売上です。

これが発生主義(正確には権利確定主義)と呼ばれる考え方で、所得税の原則です。現金の出入りで記録する現金主義は、あくまで例外として一部の人にだけ認められている、という関係になります。

では「権利が確定した日」はいつか

抽象的な話に聞こえますが、所得税基本通達36-8が取引の型ごとに日付を決めています。独立して仕事を受ける人に関係が深いのは(4)と(5)です。

(4) 請負による収入金額については、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の提供を完了した日

(5) 人的役務の提供(請負を除く)による収入金額については、その人的役務の提供を完了した日。ただし、人的役務の提供による報酬を期間の経過又は役務の提供の程度等に応じて収入する特約又は慣習がある場合におけるその期間の経過又は役務の提供の程度等に対応する報酬については、その特約又は慣習によりその収入すべき事由が生じた日

自分の契約が請負なのか準委任なのかで、見る場所が変わります。

契約の型収入すべき日
請負(成果物の引渡しあり)引き渡した日
請負(引渡しを要しない)約した役務の提供を完了した日
準委任など人的役務の提供役務の提供を完了した日
上記のうち、期間の経過に応じて報酬を受ける特約がある場合その特約により収入すべき事由が生じた日

最後の行が実務では効きます。

月額固定で稼働する契約、たとえば「月末締め・翌月末払い」でコンサルティングを提供している場合、期間の経過に応じて報酬を受ける特約があるケースに当たります。したがって収入すべき日はその月の締め日であって、翌月末の入金日ではない。

12月分の稼働は、入金が1月末でも12月の売上。これが月額契約のいちばん普通の形です。

なお、成果物の引渡しの日をいつと見るかは、通達36-8の2・36-8の3が「出荷した日」「相手方が検収を完了した日」などを挙げたうえで、その者が継続して収入金額に計上することとしている日によるとしています。継続して同じ基準でというのが条件です。年ごとに都合よく変えることはできません。

経費側は「債務確定主義」

売上と対になるのが必要経費です。国税庁のNo.2210はこう書いています。

その年に支払った場合でも、その年に債務の確定していないものはその年の必要経費になりませんし、逆に支払っていない場合でも、その年に債務が確定しているものはその年の必要経費になります。

債務が確定しているかどうかは、次の3つをすべて満たすかで見ます。

  1. その年の12月31日までに債務が成立していること
  2. その年の12月31日までにその債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
  3. その年の12月31日までに金額が合理的に算定できること

2番目が実質的な関門です。契約書にサインしただけ(=債務は成立)では足りず、役務や物の提供が済んでいる必要がある。

だから、12月に発注して1月に納品される外注は、12月の経費になりません。逆に、12月中に作業が終わっている外注費は、支払いが1月末でも12月の経費です。

12月の取引を、どちらの年に入れるか

まとめるとこうなります。

12月に起きたこと入る年使う勘定科目
12月に納品、1月入金今年売掛金
12月分の稼働(月末締め)、1月末入金今年売掛金
12月に作業完了した外注、1月末払い今年未払金
12月使用分の通信費、1月引落し今年未払費用
12月にカードで買った備品(引落しは翌月)今年未払金
1月分の家賃を12月に前払い原則は翌年(例外あり/後述)前払費用
1月着手の案件の代金を12月に受領翌年前受金

いちばん誤解が多いのは最後の2行です。

**前受金は売上ではありません。**着手金を12月に受け取っても、役務の提供が翌年なら、その年の収入にはならない。通帳にお金が入っているぶん、売上に立ててしまいがちですが、立てると本来より多い税金を先払いすることになります。

逆に未払金・未払費用を落とすと、経費が足りなくなる。12月に働いてもらった分の請求書が1月に届くタイプの取引は、意識して拾わないとそのまま消えます。

例外:小規模事業者の現金主義

原則が発生主義でも、例外として現金主義を選べる人がいます。国税庁の手続案内(A1-12)はこう書いています。

  • 手続対象者:小規模事業者の要件に該当する青色申告者
  • 小規模事業者:その年の前々年分の不動産所得の金額及び事業所得の金額(事業専従者給与(控除)の額を必要経費に算入しないで計算した金額)の合計額が300万円以下である方
  • 提出時期:適用を受けようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に新たに開業した場合は、開業した日から2月以内)
  • 手続根拠:所得税法施行令第197条

「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を出す必要があります。青色申告の承認申請と同時にやる場合は、「所得税の青色申告承認申請書、現金主義の所得計算による旨の届出書」という一体の様式があります。

判定は前々年です。今年の売上ではありません。開業3年目に「去年は300万円を超えたけれど、前々年は開業前で0円だから使える」という順序になる。

ただし、代償があります

現金主義を選ぶと、青色申告特別控除は10万円にとどまるとされています。55万円・65万円の控除は「正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳」していることが前提だからです。

差は最大55万円。所得税率5%の人でも、住民税10%と合わせれば8万円前後の差になります。記帳の手間を減らすために選んだつもりが、手取りでは負けることが普通に起きる。

適用の可否と控除額の関係は個別事情で変わるので、届け出る前に税務署か税理士で確認してください。

私の結論を先に書くと、会計ソフトを使うなら現金主義を選ぶ理由はほとんどありません。会計ソフトは請求書の発行日で売掛金を立て、入金消込で残高を消す動きが標準です。発生主義のほうが素直に回る。

「1年以内」なら前払いを今年の経費にできる

前払費用は原則として今年の経費になりませんが、所得税基本通達37-30の2に例外があります。原文はこうです。

前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。

短期前払費用の特例と呼ばれます。条件は2つ。

  1. 支払った日から1年以内に提供を受ける役務であること
  2. 継続して同じ処理をしていること

事務所家賃を年払いにする、サーバー代やソフトの年額プランを12月に更新する。こうした「一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受ける」ものが対象です。

利益が出た年だけ年払いに切り替えて経費を作る、という使い方はできません。継続適用が要件なので、一度その処理にしたら翌年以降も同じにする。逆に言えば、翌年以降は「前払い分がすでに経費になっている」状態が続くので、初年度以外に節税効果は出ません。

なお、これは「一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受ける」費用の話です。単発の外注費や、物の購入代金には当てはまりません。

期ずれは「損得」ではなく「どこに効くか」

期ずれを直しても、生涯で払う税金の総額は基本的に変わりません。今年か来年かの違いです。

それでも直す価値があるのは、ずれた金額が3か所に波及するからです。

**ひとつめは所得税の税率。**所得税は超過累進なので、600万円と400万円を2年に分けるのと、800万円と200万円に偏らせるのとでは、合計税額が変わります。

ふたつめは消費税。課税事業者になるかどうかの判定は基準期間の課税売上高1,000万円です。12月の売上をどちらの年に入れるかで、2年後の納税義務が動く可能性があります。恣意的に動かせるという意味ではなく、正しく入れないと判定を間違えるという意味です。

みっつめは翌年の生活費。住民税国民健康保険料も前年の所得で決まります。所得が1年ずれれば、支払いのピークも1年ずれる。手元資金の設計が狂います。

そして、税務調査で最も基本的に見られるのが期ずれです。売上の計上漏れと外注費の前倒しは、通帳と請求書を突き合わせれば機械的に出てきます。悪意がなくても指摘は成立する。

私の運用:12月だけ特別扱いしない仕組みにする

やっていることは3つです。

**1. 締め日を全部そろえる。**受注も発注も「月末締め・翌月末払い」に寄せます。締め日がばらけていると、12月の判定が案件ごとに変わって手に負えなくなる。請求書の形を最初に決めるときに、ここまで決めてしまう。

**2. 請求書の発行日で売上を立てる。**入金日ではなく発行日で記帳する運用にしておけば、12月に何もしなくても自動的に発生主義になります。電子帳簿保存の要件を満たす形で請求書を保存しておけば、後から突き合わせる作業もいらない。

**3. 12月に「未着の請求書」を数える。**12月に作業が終わっているのに請求書が届いていない外注を、月末にリストで持っておく。これだけで未払金の落としがほぼ消えます。

税額を減らす工夫ではありません。3月に帳簿を作り直さないための工夫です。独立してからの時間の使い方としては、こちらのほうが効きました。

まとめ

  • 所得税の原則は権利確定主義。国税庁は「年末までに現実に金銭等を受領していなくとも、収入すべき権利の確定した金額」「代金を請求したか否かは関係ありません」と明記している。
  • 権利確定の日は取引の型で決まる(所基通36-8)。請負は引渡日または役務の提供を完了した日、人的役務の提供は完了した日。ただし期間の経過に応じて報酬を受ける特約があればその日=月額契約は締め日が収入すべき日。
  • 経費は債務確定主義。①12月31日までに債務が成立②給付をすべき原因となる事実が発生③金額が合理的に算定できる、の3つをすべて満たせば、未払いでも今年の経費
  • **前受金は売上ではない。未払金を落とすと経費が足りない。**12月の取引はこの2方向で漏れる。
  • 現金主義の特例は前々年分の不動産所得と事業所得(専従者給与控除前)の合計が300万円以下の青色申告者が、適用年の3月15日までに届け出た場合(所令197)。ただし青色申告特別控除は10万円にとどまるとされ、手取りでは不利になりやすい。
  • 短期前払費用(所基通37-30の2)は、支払日から1年以内に提供を受ける役務で、継続して同じ処理をしている場合に支払時の経費が認められる。単年の駆け込みには使えない。
  • 期ずれは損得ではなく、所得税の累進・消費税の1,000万円判定・翌年の住民税と国保の3か所に効く。そして税務調査でいちばん機械的に出てくる論点でもある。

12月の判断を毎年ゼロから考えないために、締め日と記帳の起点を先に固定しておく。これが独立してから覚えたことのなかで、いちばん地味で、いちばん効きました。制度の細部は改正もあるので、自分の契約に当てはめるときは国税庁の最新情報と税理士で確認してください。

参考:国税庁タックスアンサーNo.2200「収入金額とその計算」/No.2210「必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)/所得税基本通達36-8「事業所得の総収入金額の収入すべき時期」・36-8の2・36-8の3/同37-30の2「短期の前払費用」/国税庁「A1-12 現金主義による所得計算の特例を受けるための手続」(所得税法施行令第197条)/No.2070「青色申告特別控除」