独立して自分で発注元を開拓していると、あるとき気づきます。同じ内容の連絡なのに、返事の温度が月によって違う。

去年の11月に送ったときは「ちょうど来期の話をしているところです」と返ってきたのに、今年の6月に同じ相手へ同じことを書いたら「いまは動かせる枠がなくて」で終わった。こちらの腕が落ちたわけではありません。相手の側に、使えるお金があるかどうかが違っただけです。

発注側のお金には暦があります。枠が積まれる月、枠が確定する月、枠が余っているかどうかが見える月、枠が消える月。この暦は相手の決算月で決まっていて、こちらの都合とは無関係に動いています。

この記事は、その暦を月に置き直して、声をかける月を決めるための整理です。

先に結論|相手の予算には、入り口が3つある

「予算がない」と言われたとき、その言葉は3つのうちのどれかを指しています。どれなのかで、次にやることが変わります。

入り口相手が使うお金声をかける月こちらが渡すもの
①翌期の枠に載せるまだ存在しない、これから積むお金期末の4〜6か月前積む理由になる材料(金額はまだ要らない)
②今期の残りに入るすでにあるが、使い道が決まっていないお金期末の2〜3か月前年度内で終わる形と、その金額
③枠の外から通すどこにも無いお金いつでも(ただし通りにくい)止めたときに起きることの説明

多くの人は③しか使っていません。**「案件ありませんか」という連絡は、ほぼ全部③です。**枠が無いところに、枠を作ってくださいと頼んでいる形になる。だから通りにくい。

①と②は、**相手の暦を知らないと月を外します。**順に書きます。

予算の暦を、月に置き直す

まず暦そのものです。ここでは3月決算の会社を例にします(4月始まりでない会社は後で扱います)。

発注側で起きていることこちらの打ち手
4〜5月期が始まる。枠は付いたが、使い道はまだ固まっていない①で仕込んだ話が動く月。着手の相談をする
6〜9月上期。枠は動いているが、新しい話は入りにくい種まき。実績と近況を置いておく
10〜11月下期が始まる。上期の使い残しが見え始める**②の窓が開く。**残っている枠の話ができる
10〜12月翌期の計画づくりが始まる**①の窓が開く。**積む理由の材料を渡す
1〜2月翌期の数字が固まっていく①を金額の形にする。ここを過ぎると入らない
3月期末。使い切れない枠が消える②の駆け込み。ただし受け方に注意(後述)

この表で大事なのは、①と②の窓が10〜12月に重なっていることです。同じ相手に、同じ時期に、性質の違う2つの話ができる。ここが1年でいちばん厚い月になります。

逆に6〜9月は、何を送っても動きにくい月です。ここで反応が薄いことを、自分の売り方の問題だと受け取らないほうがいい。

入り口①|翌期の枠に、名前ごと載せてもらう

いちばん効くのに、いちばんやっている人が少ないのがこれです。

会社の予算は、担当部門が「来期これをやるので、これだけ要ります」と積み上げて作られます。**その積み上げの会話は、期末の4〜6か月前に始まっています。**3月決算なら、10月から12月あたり。

このとき、担当者の手元にあるのは「やりたいこと」であって、「誰に頼むか」ではありません。ここに自分の名前を置けるかどうかが、翌期に声がかかるかどうかを決めます。

渡すものは、見積書ではありません。この時期に金額を出すと、かえって話が止まります。担当者がまだ社内に説明していない段階なので、金額だけ先に届いても置き場所がないからです。

渡すのは、担当者が社内で使える材料です。

  • その工程を外に出した会社で、何が変わったか(社名を出さずに、変わった項目だけ)
  • どれくらいの期間と体制で終わる話なのか(金額ではなく、月数と人数の形)
  • やらなかった場合に、いつ何が詰まるか

3つ目が効きます。予算の積み上げは、やりたいことの一覧を上が削っていく作業です。削られずに残るのは、やらないと困ることが書いてある行です。

そして1〜2月を過ぎると、翌期の数字はほぼ固まります。「4月から何かありませんか」と3月に聞くのは、決まった後に行くということです。

入り口②|今期の枠の、残りに入る

もうひとつは、すでにあるお金の使い残しです。

年度の途中で計画は必ずずれます。止まった案件、採用できなかった人、後ろ倒しになった投資。そのぶんの枠が、使われないまま残ります。この残りは、下期に入ると担当者にも見えてきます。

そして多くの組織で、使い残した枠は翌期に持ち越せません。

これは国のお金では、条文にはっきり書かれています。国の会計年度は4月1日から翌年3月31日まで(財政法11条)で、各会計年度の経費はその年度の歳入で支弁する(同12条)。そして**「繰越明許費の金額を除く外、毎会計年度の歳出予算の経費の金額は、これを翌年度において使用することができない」(同42条本文)**。翌年度に繰り越すには、あらかじめ国会の議決を経た繰越明許費(同14条の3)にしておくか、42条但書の事故繰越に当たる必要があります。

民間企業にこの条文が適用されるわけではありません。ただし当社が見てきた範囲では、事業部に配られた予算を年度をまたいで持ち越せない運用にしている会社は多いです。持ち越せないなら、担当者には「使い切る」以外の選択肢がありません。年度末に発注が寄るのは、担当者の性格ではなく、この仕組みのほうが理由です。

だからこの窓で出す提案は、形が決まります。

  • **年度内で終わること。**またぐなら、またぐ前の部分だけで完結する切り方にする
  • **金額を先に出すこと。**①とは逆で、ここは枠に収まるかどうかがすべてです
  • **着手から成果物までが短いこと。**3月末に納品できない話は、その枠には乗りません

ただし、この窓の受け方には注意がある

年度末の駆け込みは、金額が動きやすい代わりに、足元を見られやすい時期でもあります。「枠が消えるので、この金額でお願いしたい」と言われたとき、その金額が自分の水準より低いことがある。

ここで下げると、**翌期以降その金額が基準になります。**駆け込みで取った1件が、来年の自分の単価を決めてしまう。単価の決め方そのものはコンサルの単価はどう決まるかコンサルの単価相場に分けて書きました。すでに下げて受けてしまった関係を戻す手順はフリーランスの単価交渉のしかたにあります。

年度末に受けるなら、金額ではなく範囲を縮めて合わせる。これが当社が置いている線です。

入り口③|枠が無いまま、稟議で通す

3つ目は、どこにも枠が無い状態から通す道です。通らないわけではありませんが、通るのは「止まっているものがある」ときだけです。

期中に枠外で予算を取るには、担当者が自分の上に説明を通す必要があります。その説明が成立するのは、だいたい次のどれかです。

  • 期限が外から来ている(制度対応、監査の指摘、システムの保守期限)
  • 人が抜けて、回らなくなった工程がある
  • 動いている案件が止まっていて、止まっている損が見えている

つまり③は、自分の売り込みではなく、相手側の事故から入る道です。だから「何かありませんか」では届かない。届くのは、相手が困っている場所を名指しできているときだけです。

どんな会社のどの部門から発注が出るのか、工程が立っている時期をどう見るかは独立コンサルに発注が出る会社は、どんな会社かに分けて書きました。この記事はお金の暦だけを扱います。

相手の決算月を、推測しないで調べる

ここまでの話は、相手の決算月が分かって初めて使えます。「たぶん3月でしょう」で動くと、まるごと半年ずれます。

調べ方は4つあります。

  1. **会社のウェブサイト。**IRのページがあれば決算期は必ず出ています。上場していなくても、会社概要に「決算期」を書いている会社は多い
  2. **決算公告。**株式会社は、定時株主総会の終結後遅滞なく貸借対照表を公告しなければならないと定められています(会社法440条1項)。官報や自社サイトの「電子公告」に載っている場合があり、そこから期末が読めます
  3. **定時株主総会の時期から逆算する。**定時株主総会は毎事業年度の終了後一定の時期に招集する(会社法296条1項)とされているので、総会の月が分かれば期末はその手前です
  4. **面談で聞く。**いちばん早い。「御社の期はいつ始まりますか」は、失礼な質問ではありません。発注の段取りを一緒に考えている側の質問として、普通に受け取られます

4つ目を避ける人が多いのですが、聞かれた側からすると、期を確かめてから提案してくる相手のほうが話しやすいはずです。

4月始まりでない会社を、どう扱うか

日本では3月決算の会社が多いのですが、**全部ではありません。**外資系の日本法人は親会社に合わせて12月決算のことが多く、小売や教育では2月決算、9月決算の会社もあります。

やることは単純で、上の月別の表を、自分でずらして書き直すだけです。期末の月を決めれば、①の窓は期末の4〜6か月前、②の窓は期末の2〜3か月前、と同じ形で置けます。

12月決算の会社なら、①の窓が7〜9月、②の窓が10〜11月、駆け込みが12月。**3月決算の会社と、窓がきれいにずれます。**複数の発注元を持つなら、決算月の違う相手を混ぜておくと、自分の側の谷が浅くなります。

自分の暦と、相手の暦を重ねる

最後に、自分の側です。相手の暦だけ分かっても、自分の契約が終わる月と噛み合っていなければ意味がありません。

自分の状況重ねてみる相手の月動く順番
契約が3月末で終わる3月決算の相手=②の駆け込みと同時期先に延長の確認。並行して②へ
契約が9月末で終わる3月決算の相手=下期の入り口②の残り枠を当たる
いま稼働が埋まっている期末の4〜6か月前の相手①だけ仕込む。着手は先でいい
3か月以内に空きが出る決算月が近い相手を優先②を軸に、③は事故のある相手だけ

いまの案件が終わる前に何をするかは案件が終わる1か月前に、何を始めておくかに、稼働が空く月がどう作られるかは独立コンサルの「谷の月」はどう作られるかに書きました。この記事は相手の暦、あちらは自分の暦です。重ねて使ってください。

月がずれているとき、待つ以外にやる3つ

暦を調べた結果、いま動かない月だと分かることがあります。そのとき「3か月待つ」だけにしないための、3つです。

  1. **①の材料を、いまのうちに作る。**やらなかった場合に何が詰まるかを、相手の業務の言葉で1枚にしておく。窓が開いてから作り始めると間に合いません
  2. **決算月の違う相手を、いま当たる。**3月決算の相手が動かない月は、12月決算の相手の窓が開いていることがあります
  3. **いま入っている案件の報告を、材料に変えておく。**毎月出している稼働報告に3行足しておくと、更新の会話がこちらから始められます。やり方は月末の稼働報告に、何を書くと次の更新につながるかに書きました

どれも、月を待っている間にできることです。

やらないこと、3つ

  • 月を理由に値引きしない。「今月中なら」と言われたときに下げると、その金額が次の基準になります
  • **期末の駆け込みを、年またぎの話に膨らませない。**その枠は今期のものです。来期の話は①の窓で、別の会話として立てる
  • **決算月を推測で決めない。**半年ずれると、1年ぶん機会を落とします。調べるのに要るのは数分です

この記事で、やらないこと

線を引いておきます。

この記事が扱っているのは、相手のお金の暦から、声をかける月を決めるという一点です。

まとめ

  • 「予算がない」は3つの意味がある。①まだ積んでいない②今期の残りがどこにあるか見えていない③どこにも枠が無い
  • ①の窓は期末の4〜6か月前。渡すのは見積書ではなく、やらないと何が詰まるか
  • ②の窓は期末の2〜3か月前。ここは逆に金額と、年度内で終わる形が要る
  • ③は自分の売り込みでは通らない。相手側に止まっているものがあるときだけ通る
  • 年度末に発注が寄るのは担当者の性格ではなく、使い残した枠が持ち越せない仕組みのため。国のお金では財政法42条本文がそれを明文で定めている
  • 相手の決算月は**推測しない。**サイト・決算公告・株主総会の時期・面談で直接、の4つで調べられる
  • 4月始まりでない相手は、**窓がずれるだけで形は同じ。**決算月の違う相手を混ぜると、自分の谷が浅くなる
  • 年度末に受けるときは、金額を下げるのではなく範囲を縮めて合わせる

案件が来ない月に、送る数を増やしたくなります。ですが当社が見てきた限り、動かない月に量を足しても、動かない月の記録が増えるだけでした。

先に、相手の期がいつ始まるかを確かめる。それだけで、同じ1通が届く月に届きます。

独立してからの案件の受け方全体は独立コンサルのはじめ方にまとめてあります。


出典:国の会計年度と繰越の扱いは、財政法(昭和二十二年法律第三十四号)11条・12条・14条の3・42条をe-Gov法令検索で条文原文により確認しました(2026年9月22日取得)。決算公告の義務は会社法440条1項、定時株主総会の招集時期は同296条1項によります。**民間企業の予算編成の時期、枠を翌期に持ち越せるかどうかは法令で定められたものではなく、会社ごとの社内ルールです。**本記事の月別の整理は、当社(Never Red株式会社)が独立後に自分で発注元を開拓してきた範囲の観測であり、統計調査ではありません。相手の会社の運用は必ず個別に確認してください。