独立して2年目の冬、39度の熱を出して3日寝込みました。
つらかったのは熱そのものより、治りかけの夜に請求書を作ったときです。その月の稼働時間を数えて、寝込んだ3日分がそのまま金額から消えているのを見ました。会社員だった頃、同じ3日は有給休暇で埋まっていた。埋めていたのが自分の権利だったと、失ってから知りました。
この記事は「業務委託に有給はない」で終わらせず、では何を契約で握るのかまで書きます。
結論:年次有給休暇は「労働者」の権利
年次有給休暇は労働基準法に定められた制度で、対象は「労働者」です。
業務委託や請負といった形態で働く場合は、注文主から受けた仕事に対して報酬が支払われるという建て付けになるため、注文主の指揮命令を受けない**「事業主」として扱われ、基本的に労働者としての保護は受けられません**。年休も、そこに含まれます。
契約の型そのものの違いは準委任と請負の違いにまとめました。ここを曖昧にしたまま「常駐しているのだから会社員と同じでは」と考えると、話が噛み合わなくなります。
ただし、実態が労働者なら話は変わる
例外があります。契約書の表題が業務委託でも、働き方の実態から注文主の支配下にあると判断されれば、労働者として扱われます。
判断の物差しは「使用従属性」と呼ばれ、指揮監督下の労働かどうかと、報酬が労務に対する対償かの2つを軸に総合的に見ます。実務でよく挙がる要素はこのあたりです。
- 仕事の依頼を断る自由があるか
- 業務の進め方について具体的な指揮命令を受けているか
- 勤務場所と勤務時間が拘束されているか
- 自分の代わりに他人を使うこと(代替性)が認められているか
- 報酬が成果ではなく時間の長さで決まっていないか
- 仕事に使う機械や器具をどちらが負担しているか
これらが軒並み「会社員と同じ」に寄っているなら、契約の名前にかかわらず労働者と判断される余地があります。厚生労働省は労働者性に疑義がある人向けの相談窓口を労働基準監督署に設置しています。心当たりがあるなら、ネットで議論する前にそこへ行くのが早い。
ただし現実には、この判断を争いながら同じ現場で働き続けるのはかなりしんどい。私は「争える」ことと「争うべき」ことは別だと思っています。多くの場合、次に取るべき手は次の見出しの話です。
実務で効くのは、有給ではなく「精算方式」
休みが金額に響くかどうかは、報酬の決め方でほぼ決まります。よくある3つを並べます。
1. 時間精算(稼働時間 × 単価) 休んだ分がそのまま減ります。私が寝込んだ月がこれでした。いちばん素直で、いちばん体調に弱い。
2. 月額固定+下限・上限の精算幅 「月140〜180時間で月額いくら、下回れば控除、上回れば追加」という型です。下限を割らなければ、多少休んでも金額は動きません。実務ではこれが最も守りになります。幅の広さが、そのまま休める余地になる。
3. 成果物単位(請負) 納期と成果物で決まるので、途中で休んでも金額は変わりません。ただし遅れれば自分で取り返すことになります。
つまり交渉すべきは「有給をください」ではなく、「精算の下限を何時間にしますか」です。 前者は制度上通らない話ですが、後者はただの条件交渉なので、普通に議論のテーブルに乗ります。私はこの一行を変えてから、体調で金額が揺れる幅がはっきり小さくなりました。
契約前に見る場所は業務委託契約書で最低限みるべき場所に、条件の詰め方は単価交渉に書いています。
「休む前提」で単価を組む
もうひとつ、根っこの話をします。
会社員時代の年収を12で割って、そのまま月額の目標にしていないでしょうか。私はしていました。これは休みをゼロと見積もる計算です。
現実には、年末年始も夏季も体調不良もある。会社員なら年次有給休暇に加えて会社の休日で吸収されていた分が、独立すると全部こちらの持ち出しになります。だから**「1年のうち何か月分の報酬が実際に立つか」を先に置いて、そこから逆算する**ほうが実態に合います。
そのうえで、この差額は単価に乗せるしかありません。同じ手取りを目指すなら、会社員時代の月給を上回る水準が要るという当たり前の結論になります。相場の掴み方はコンサル単価の相場を、手取りの感覚はフリーランスの手取りを見てください。
長く休むリスクに備えるなら、所得補償の考え方がフリーランスの保険にあります。有給の代わりを制度に求められない以上、代わりは単価と保険で作るしかないというのが、いまの私の整理です。
買いたたきには、いま法律の側から線が引かれた
なお、2024年11月に施行されたフリーランス新法では、1か月以上の継続的な業務委託について、受注者に責任がないのに報酬を減額することなどが禁じられています。「休んだから」という理由で一方的に金額を動かされた場合、根拠を求める材料にはなり得ます。
詳細はフリーランス新法に整理しました。ただしこれは有給を作る法律ではありません。あくまで、決めた条件を守らせるための法律です。
熱を出した3日は、いまでも思い出します。あのとき悔しかったのは失った金額ではなく、休むという選択に値札がついていたことでした。
値札そのものは消せません。ただ、契約の一行で小さくすることはできます。
※本記事は2026年7月時点で公開されている公的機関の情報をもとに、独立した個人の実務目線で整理したものです。労働者性の判断は個別事情によって結論が変わります。実際のトラブルでは、必ず労働基準監督署などの公的な窓口でご確認ください。