業務委託で仕事をしていると、遅かれ早かれこの疑問に行き当たります。
発注側は、いくら払っているのか。
自分の受取額は分かる。でも、発注側が払っている金額との差が何でできているのかは、たいてい誰も説明してくれません。だから「取られている」という感覚だけが残ります。
当社は2026年7月31日に、この差を1行で見るための精算台帳を自社用に作りました。独立支援サービスで人を配置したときに、発注側への請求と受け手への支払を同じ行で管理するためのものです。
この記事は、その台帳を開いて、間に挟まる項目を全部並べたものです。一般論ではありません。
先に、現在地を正直に書いておきます。**この台帳の実データ行は、記事執筆時点で0行です。**入っているのは架空のサンプル3件だけで、配置の実績はまだありません。以下の数字はすべて、その台帳の計算式が実際に返した値です。実取引の金額ではありません。
差は、6つの項目でできている
結論から並べます。
| # | 項目 | 誰の側で発生するか |
|---|---|---|
| 1 | 精算幅による控除・超過 | 発注側/受け手側の両方(別々に設定される) |
| 2 | 控除・超過の単価の計算方式 | 契約で決める(3通りある) |
| 3 | 発注側と受け手側の幅のずれ | 間に立つ会社が負担 |
| 4 | 消費税とインボイスの経過措置 | 課税事業者かどうかで変わる |
| 5 | 支払サイトの差(立替) | 金額ではなく時間の差 |
| 6 | 間に立つ会社の取り分 | 交渉の対象 |
1つずつ、数字で書きます。
1. 精算幅による控除・超過
月額で契約していても、**実際に働いた時間が一定の幅を外れると金額が動きます。**この幅を精算幅(清算幅)と呼びます。
当社の台帳の既定値は、こうなっています。
- 基準時間:月160時間
- 精算幅:下限140時間/上限180時間
この幅の中で働いている限り、金額は月額のままです。下限を下回れば控除、上限を超えれば超過が加算されます。
月額1,200,000円の契約で計算するとこうなります(台帳のサンプル行の実値)。
| 実稼働 | 幅との関係 | 金額 |
|---|---|---|
| 132時間 | 下限を8時間下回る | 1,131,429円(68,571円の控除) |
| 145〜180時間 | 幅の中 | 1,200,000円(変動なし) |
| 192時間 | 上限を12時間超える | 1,280,000円(80,000円の加算) |
**60時間の稼働差に対して、金額差は約15万円しかない。**幅の中は動かないので、当然こうなります。これが「働いた分だけもらえる」わけではない、ということの中身です。
2. 控除・超過の単価は、3通りの決め方がある
ここが契約書で見落とされやすい場所です。同じ月額・同じ精算幅でも、控除と超過の単価の出し方が3通りあり、金額が変わります。
| 方式 | 控除単価 | 超過単価 | 月額1,200,000円・幅140-180・基準160hのとき |
|---|---|---|---|
| 上下割 | 月額÷下限 | 月額÷上限 | 控除 8,571.43円/h/超過 6,666.67円/h |
| 中間割 | 月額÷((下限+上限)÷2) | 同左 | どちらも 7,500円/h |
| 基準時間割 | 月額÷基準時間 | 同左 | どちらも 7,500円/h |
上下割は、**控除の単価が高く、超過の単価が安い。**つまり、**下回ったときは多く引かれ、超えたときは少なく足される。**発注側に有利な方式です。当社が調べた範囲では、国内でもっとも多く使われている置き方でした。
**契約書に方式が書いていなければ、それは決まっていないということです。**決まっていないまま初回の精算月を迎えると、その場で相手の解釈になります。
3. 発注側と受け手側で幅がずれると、誰かが差を飲む
これは、間に会社が入る取引だけで起きる話です。
発注側との契約の精算幅と、受け手との契約の精算幅は、**別々の契約なので別々の数字になり得ます。**そして両者がずれていると、実稼働がその差の中に入ったときに、片側だけ金額が動きます。
当社の台帳で、発注側の幅だけを150〜170に変え、受け手側を140〜180のままにした状態を検証したところ、**同じ案件の粗利が188,571円から113,142円に減りました。**差の75,429円は、間に立つ当社が負担する分です。
だから当社の台帳は、発注側の幅と受け手側の幅を別々の列で持ち、不一致を自動で検知するようにしてあります。ここを1つの数字で持っていると、契約時に気づけません。
**受け手の側から見たときの実務上の意味はこうです。**自分の契約書の精算幅は、発注側の契約書の精算幅と同じとは限らない。同じかどうかを聞いてよいし、聞いて答えられない相手とは、精算月に揉めます。
4. 消費税とインボイスの経過措置──2026年10月1日に段が変わる
金額の差には、消費税も効きます。
自分が免税事業者の場合、発注側(あるいは間に立つ会社)は、**支払った消費税相当額を全額は控除できません。**経過措置で控除できる割合が決まっており、2026年10月1日に、この割合が下がります。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日〜2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日〜2029年9月30日 | 50% |
| 2029年10月1日〜 | なし |
この記事を書いている2026年8月14日時点で、80%の期間は残り約7週間です。
控除できない分は、発注側の負担になります。だから実務では、その分を支払額から引くという話が持ち出されることがあります。
当社は、この点について**「免税事業者への支払額を減額しない」という方針を台帳に記録しました。**理由は、減額がフリーランス新法第5条の禁止行為に当たり得ると考えたためです(この当てはめは当社の理解であり、弁護士の確認事項として留保しています)。控除できない消費税は当社が負担する、という前提で数字を組んでいます。
経過措置そのものの詳しい仕組みはインボイスの経過措置とインボイスの2割特例に分けて書きました。
5. 支払サイトの差──金額ではなく、時間の差
これは受取額を減らしませんが、手元の資金には効きます。
発注側からの入金と、受け手への支払は、**同じ日ではありません。**当社の台帳の既定値は、発注側からの入金が30日、受け手への支払が30日です。
そして重要なのは、受け手への支払期日は、発注側からの入金と無関係に走るということです。
フリーランス新法第4条は、発注事業者は給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、その期日内に支払わなければならないとしています。再委託の場合には、再委託である旨・元委託者・元委託の支払期日を明示することを条件に、元委託の支払期日から30日以内とする特例があります。
つまり、**「発注側から入金があってから払う」という運用は成り立ちません。**入金が遅れても、支払期日は動かない。したがって、**間に立つ会社は、入金前に支払う場面が構造的に発生します。**これを当社の台帳では立替として日数と金額で持ち、資金繰りに先に載せる設計にしました。
受け手の側から見れば、ここは自分を守っている規定です。「元請けから入ってから」と言われた場合、それが法の想定と合っているかは確認してよい。新法の全体像はフリーランス新法とはに整理しました。
なお、当社は**この条文の一次情報での確認をまだ完了していません。**公開されている複数の解説で内容が一致していることまでを確認した段階で、条番号・項番の細目は弁護士の確認事項として留保しています。確認していないことを、確認したように書かないというのが当社の方針です。
6. 間に立つ会社の取り分
最後が、いちばん知りたい項目でしょう。先に結論を書きます。当社は、この率をまだ決めていません。
台帳には、決めるべき項目として3つの枠が用意してあります。
- 粗利率(対売上)の目標レンジ 下限
- 粗利率(対売上)の目標レンジ 上限
- 絶対に割らない床(警告閾値)
2026年7月31日時点で、この3つはいずれも未入力です。だから、「当社の取り分は何%です」と書けません。**隠しているのではなく、決まっていません。**決まっていない状態で数字を書くほうが、この記事の趣旨に反します。
そのうえで、設計思想だけは書けます。当社の台帳は、粗利率について上限も警告に出します。
下限だけでなく上限も見る理由は、粗利率が高すぎる状態は、受け手から見れば単価を叩かれている状態だからです。これがフリーランス新法第5条の「買いたたき」に当たり得ると考え、上限超過も同じ画面に出す設計にしました(この当てはめも弁護士の確認事項として留保しています)。
**取り分が高いことを、システム側で自分に警告させる。**これが、当社がこの器を作ったときにいちばん時間を使った判断です。
そのほか、細かいが金額に効くもの
上の6項目のほかに、契約書で決まっていないと後で効いてくるものがあります。当社の台帳では、いずれも入力項目として持っています。
| 項目 | 当社の仮置き | なぜ効くか |
|---|---|---|
| 端数処理 | 切捨 | 時間単価の計算で毎月発生する |
| 基準時間 | 月160時間 | 単価の分母になる |
| 稼働報告の確認期間 | 5営業日 | 確認が終わらないと請求が立たない |
| 中途解約の予告期間 | 2か月 | 収入が切れるまでの猶予そのもの |
| 実稼働時間の上限(異常値の検知) | 300時間 | 入力誤りと過重稼働を拾うため |
**「仮置き」と書いてあるとおり、これらは当社の実績値ではありません。**一般的な置き方を仮に入れてあるだけで、確定した数字ではない、という状態を台帳の上でも区別しています。
契約前に聞いてよい、7つの質問
ここまでを、受け手の側から使える形に落とします。**契約前に聞いて構いません。**答えられない相手とは、精算月に必ず揉めます。
- 精算幅の下限と上限は何時間ですか。
- 控除と超過の単価は、どの方式で計算しますか。(上下割/中間割/基準時間割)
- 発注側との契約の精算幅は、私の契約と同じですか。
- 稼働報告の締めはいつで、確認にどれだけかかりますか。
- **支払期日は、給付の受領日から何日ですか。**再委託の特例を使いますか。
- 私が免税事業者の場合、支払額を変えますか。
- 端数処理は切上・切捨・四捨五入のどれですか。
7つとも、契約書に書いてあるか、書いてなければ今決められる項目です。単価そのものの決め方はコンサルの単価はどう決まるかに、税と社会保険を引いた後の手取りはフリーランスの手取りに分けて書きました。
まとめ
- 発注側が払う金額と受け取る金額の差は、6つの項目でできている。
- **(1)精算幅の控除・超過。**幅の中は金額が動かない。月額1,200,000円・幅140-180時間なら、132時間で1,131,429円、192時間で1,280,000円。
- **(2)控除・超過の単価の計算方式が3通りある。**上下割だと控除8,571.43円/h・超過6,666.67円/h と非対称。下回ると多く引かれ、超えても少ししか足されない。
- **(3)発注側と受け手側で幅がずれると、間に立つ会社が差を飲む。**当社の検証では粗利が188,571円→113,142円に減った。
- **(4)インボイスの経過措置は2026年10月1日に80%→50%へ下がる。**残り約7週間。当社は免税事業者への支払額を減額しない方針を記録した。
- (5)支払サイトの差は、金額ではなく時間の差。新法第4条は受領日から60日以内(再委託の特例は30日以内)と定めており、「入金があってから払う」は成り立たない。
- (6)間に立つ会社の取り分。当社はこの率をまだ決めていない。隠しているのではなく未確定。ただし台帳は粗利率の上限超過も警告する設計にした。取り分が高すぎる状態は買いたたきに当たり得るため。
- この記事の数字は台帳のサンプル行の実値であり、実取引ではない。台帳の実データ行は現時点で0行。
差の中身を知らないままだと、「取られている」という感覚だけが残ります。中身が分かると、交渉できる項目とできない項目が分かれる。
上の7つの質問のうち、**単価そのものは1つも含まれていません。**それでも、この7つを詰めるだけで受取額は動きます。
関連記事:フリーランスの手取り/コンサルの単価はどう決まるか/コンサルの単価相場/単価の交渉/インボイスの経過措置/インボイスの2割特例/フリーランス新法とは/業務委託でコンサルを受けるとき/準委任と請負の違い/独立した人に仕事が渡るまでの法律上の線引き
出典:精算幅・計算方式・支払サイト・立替・粗利率の枠は、当社(Never Red株式会社)の配置マージン精算台帳(2026年7月31日版)および換金工程の運用台帳(2026年8月10日版)の設計記録と検証ログに基づきます。金額はいずれも同台帳の架空サンプル行に対して計算式が返した値であり、実取引の金額ではありません。インボイスの経過措置の割合(80%/50%)および特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)第4条の支払期日は、2026年8月14日時点で公開されている複数の解説で内容が一致していることを確認した段階であり、条番号・項番の細目は当社の一次情報での確認が未了です。
※本記事は当社の社内記録に基づく整理です。税務・法務の当てはめは個別事情で結論が変わるため、実際の判断は税理士・弁護士にご確認ください。