「次の更新はしない方向で」。更新面談の終わりに、そう言われることがあります。

トラブルがあったわけではない。揉めてもいない。ただ、契約期間が満了して、その先が無い。切られたのではなく、続かなかった。この状態を、私は「不更新」と呼んで、途中解除とは別のものとして扱っています。

途中で切られる話は業務委託を途中で切られたらに書きました。この記事はその隣の話です。**満了で終わると分かった、その月に何をするか。**打てる手も、打つ順番も、解除とは違います。

解除と不更新は、まったく別の場面

見た目は同じ「終わり」ですが、実務ではここが違います。

  • 解除は、期間の途中で相手が終わらせる。相手側に理由の説明が求められ、こちらには精算や賠償の論点が残ります
  • 不更新は、期間が満了して次を結ばない。契約上は誰も悪くありません。だから交渉の材料が少ない代わりに、こちらに残っている時間は長いことが多い

この「時間が残っている」が唯一にして最大の武器です。解除は突然来ますが、不更新はたいてい満了の1〜2か月前に分かります。同じ喪失でも、使える時間がまるで違う。

新法が求めている、30日前の予告

いわゆるフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律・2024年11月1日施行)は、継続的な業務委託について、契約を更新しない場合も原則として30日前までの予告を求めています。予告なく終わった場合に、こちらが求めれば理由の開示を受けられる点も同じです。

ただし「継続的」に当たるかどうかは契約の期間や実態で判断されます。自分のケースが対象かどうかは断定できないので、微妙なときは公的な相談窓口で確認してください。詳しくはフリーランス新法とはにまとめています。

実務で効くのは、「30日前には言ってもらえるはずのことだ」と知っていることです。更新面談の場で「更新の可否はいつ確定しますか」と聞けるかどうかが、残り時間を1か月変えます。

分かった直後に確認する、4つ

感情の処理より先に、事実を4つ押さえます。ここを飛ばすと、あとで揉めます。

  1. 最終稼働日はいつか。 契約書の満了日と、現場での実際の最終日がずれていることがあります
  2. 最後の請求と入金日はいつか。 満了月の稼働分が、いつ入るか。ここが資金繰りの起点です
  3. 引継ぎはどこまでが範囲か。 満了後の質問対応まで求められるなら、それは新しい仕事です。無償で受けるか有償にするかを先に決めます
  4. 成果物と実績を、どこまで外に出していいか。 社名を出せるか、案件の内容をどう表現していいか。守秘の範囲を、関係が良いうちに確認しておきます

契約書のどこを見るかは業務委託契約書で最低限みるべき場所に書いた3点(予告期間・報酬精算・違約金)がそのまま使えます。

理由を聞く。ただし3つの型で聞く

「なぜ更新されないんですか」は、聞いていい質問です。角も立ちません。ただ、漠然と聞くと「予算の都合で」で終わります。

私は3つの型を用意して、どれに当たるかを確かめます。型が分かると、次の打ち手が変わるからです。

型1|予算。 来期の予算が付かなかった、外注枠が縮小した。この場合、あなたの働きは評価されている可能性が高い。次の予算期に声がかかる余地があるので、終わり方を丁寧にするのが最善手です。

型2|フェーズ。 構想や要件定義が終わり、設計・開発に移る。役割が要らなくなっただけで、これも評価の話ではありません。次フェーズで必要になる役割を自分から提案できる唯一の型です。

型3|評価。 期待した成果が出なかった、相性が合わなかった。いちばん聞きたくない型ですが、ここだけは正確に聞く価値があります。何が足りなかったのかを一度だけ具体的に聞いておくと、次の案件で同じことをやらずに済みます。

型を確かめる質問はシンプルで足ります。「来期はこの領域自体が動かない、ということでしょうか」。予算やフェーズなら、たいていここで説明が返ってきます。

やってはいけないのは、値下げの申し出

いちばん多い失敗が、**「単価を下げるので続けさせてください」**です。気持ちは分かります。私も一度、口から出かかったことがあります。

効かない理由が3つあります。

理由1|予算とフェーズには、値下げが効かない。 枠そのものが無いのだから、安くしても入れる場所がありません。効かない手で自分の値段だけが下がります。

理由2|評価が理由なら、値下げは答えになっていない。 期待に届かなかった話を、金額の話にすり替えることになります。相手からは「そこではない」と見えます。

理由3|一度下げた単価は、同じ相手には戻せない。 しかも社内では引き継がれます。次に別の担当者から声がかかったとき、参照されるのは下げたあとの金額です。

条件を緩めるなら、順番があります。①稼働日数(週3日でも受ける)②働く時間帯や場所 ③範囲(得意でない領域も受ける)。単価は最後です。この順番と、そもそも稼働が空く前に打つ手は稼働が空く3つのパターンに詳しく書きました。値段そのものの作り方は単価交渉コンサルの単価相場を参照してください。

残り30日を、4つに割る

時間の使い方を決めておくと、不安で手が止まりません。私が使っている割り方です。

最初の3日|事実を固める。 上の4点を確認し、理由の型を確かめる。この3日はまだ動かない。動くと足元を見られます。

4〜10日目|声をかける。 過去の発注元、元同僚、以前断った相談。売り込みではなく状況共有で十分です。「10月から動けます」の一行が仕事になることは実際にあります。ここがいちばん確率が高い時間帯です。

11〜20日目|手元を整える。 経歴と実績の書き直し、いま終わる案件の1行を足す。終わった直後は記憶が鮮明なので、この時期の書き直しがいちばん濃く書けます(スキルシートの書き方)。

21〜30日目|条件を緩める判断。 ここで初めて①②③の順に緩めます。ここまで来ても単価は動かさない。次の契約が決まらないまま満了した場合の考え方は仕事がないときにやったことに書きました。

終わり方が、次を作ることがある

最後に、いちばん実利のある話をします。

**不更新の終わり方は、次の発注に直結します。**引継ぎを丁寧にやった相手から、半年後に別の話が来ることは珍しくありません。予算やフェーズが理由なら、なおさら確率は高い。

だから最終日に3つやります。引継ぎ資料を頼まれた以上に渡す。担当者に個人の連絡先を渡す。そして**「次に動くときは声をかけてください」を口に出して言う**。言わないと、相手はこちらが忙しいと思って遠慮します。


不更新は事故ではありません。契約が満了しただけです。それでも収入は減るし、落ち込みます。

ただ、**残っている30日をどう使ったかで、3か月後の景色は本当に変わります。**最初の3日で焦って値段を下げない。それだけは守ってください。

いま自分の準備がどこまで進んでいるかを確かめたい方は、独立支援のご案内をご覧ください。

※本記事は2026年8月時点の一般的な情報を、独立した個人の実務目線で整理したものです。法令の適用や契約の解釈は個別事情により異なります。具体的なトラブルは、弁護士やフリーランス向けの公的相談窓口にご相談ください。