発注側から契約書が送られてきて、開いてみると、いくつか**〔 〕**が残っている。日数の欄、期間の欄、支払いの欄。

こういうとき、私は長いあいだ「先方がまだ埋めていないだけだろう」と思っていました。実際そのとおりです。悪意で空けているわけではありません。

ただ、独立してしばらくして、自分が発注する側の契約書を作る立場になって、見え方が変わりました。**空欄は「まだ決めていない」という意思表示で、決めていない欄は、後で決める人の都合のいいほうに埋まります。**そして後で決めるのは、たいてい先に決める必要がなかったほうです。

当社は、独立したコンサルタントを企業に配置する座組の業務委託契約ひな形を持っています。2026年7月に、この契約がフリーランス新法の観点でどうなっているかを全条点検しました。第1条から最後まで、1条ずつ「この条項のままだと誰が損をするか」を判定していく作業です。

結果、受注側が損をする場所は、条文が悪いところではなく、空欄のところに集中していました。

この記事は、そのとき「このまま出してはいけない」と判定した箇所を、受け取る側の確認項目に置き換えたものです。契約書全体をどの順番で読むかは業務委託契約書で最低限みるべき場所に書いたので、この記事はその先、個別の欄の中身だけを扱います。

先にお断りしておきます。**ここに書くのは社内の整理であって、法的な最終判断ではありません。**当社の改訂案も、この後で弁護士の確認を経る前提で作っています。そして後述するとおり、改訂案は起案しただけで、採るかどうかはまだ決めていません。

なぜ空欄が危ないのか

契約書の空欄には、2種類あります。

  • 締結のたびに決めるべき欄(金額、期間、稼働日数)
  • 決めておかないと、後で片方が困る欄(日数の上限、予告の期間、費用の負担者)

前者は空いていて当然です。むしろ、ひな形の段階で数字を入れると、その数字が既定値として一人歩きします。

問題は後者です。**空いたまま締結すると、その欄は「決まっていない」のではなく「争いになったら強いほうが決める」状態になります。**そして契約の場面で強いのは、たいてい払う側です。

空欄は中立ではない。埋めない側にとって都合よく働く。

以下、当社の点検で「空欄のままでは出せない」と判定した順に並べます。

1|検収・確認の期間が空いている

当社のひな形は、稼働報告の確認について、こう書いてありました。

甲は稼働報告を受領後〔 〕日以内に確認し、異議があれば書面で通知する。期間内に異議がなければ確認したものとみなす。

条文の構造は悪くありません。期間内に異議がなければ確認とみなす、という一文は受注側を守る側の書き方です。問題は日数が空いていることです。

日数が空いていると、「みなす」が発動しません。いつまで経っても確認が終わらない状態が作れてしまう。そして確認が終わらないと、請求ができない。請求ができないと、入金がありません。

さらにもう1つ、当社のひな形には無かったものがあります。確認の遅れが支払期日に影響しない、という切断の一文です。これが無いと、確認が2週間遅れた月は、支払いも2週間遅れます。

受け取る側が見るところ

  • 確認・検収の期間は、日数で書かれているか
  • 期間を過ぎたら確認したものとみなす、という一文があるか
  • 確認が遅れても支払期日は動かない、と書いてあるか

3つ目が書かれている契約書は、正直あまり見ません。無いのが普通です。ただ、**無いと分かったうえで受けるのと、気づかずに受けるのは違います。**支払いが遅れたときに、こちらから話を切り出せるかどうかが変わります。

2|支払サイトが空いている

当社のひな形の支払方法は、こうでした。

〔当月分を当月末締め翌月末日まで/別紙に定める方法〕により振り込む。

記入例が入っているだけで、確定していません。当社の点検では、この欄を最重要と判定しました。理由は、当社にとっては上流の条件だからです。

当社が企業から入金を受ける日が遠いほど、当社が登録しているコンサルタントへ払う日も遠くなるか、あるいは自己資金で先に払うことになります。上流のサイトが、下流の支払いを決めてしまう。

これは、受け取る側から見ても同じ構造です。間に一社入っている案件では、自分の入金日は、その会社が発注元から回収する日に縛られます。

受け取る側が見るところ

  • 締め日と支払日が、両方とも日付で書かれているか
  • 「翌月末」なのか「翌々月末」なのか。この1か月の差は、独立直後の手元では大きい
  • 請求書の提出期限が別に書かれていないか(提出が遅れると1か月ずれる設計になっていることがあります)

なお、支払期日については、フリーランス新法も、2026年1月に下請法から名前が変わった取適法も、受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内という同じ形を取っています。ただし自分の取引がその対象になるかは、発注側の規模や取引の内容で変わります。当社も、自社が取適法の適用を受けるかどうかは弁護士への確認事項として残したままです。

3|解約の予告期間が空いている、または短い

当社のひな形は、中途解約について「〔 〕か月前までに書面で通知」とだけ書き、記入例が1か月でした。更新については「満了の〔1〕か月前までに意思表示がなければ自動更新」。

点検で問題になったのは、1か月では、当社が下流に予告を出す時間が残らないことでした。企業から1か月前に「終わりです」と言われても、当社がコンサルタントへ同じだけの予告を出せば、告げるのと同時に終わることになります。

だから当社の改訂案では、上流の予告を2か月前に延ばす方向で起案しました。上流を長く取らないと、下流を守れないからです。

受け取る側が見るところ

  • 中途解約の予告は何日前か。空欄なら、そのまま締結しない
  • 予告期間が双方で同じか。相手からは30日前、こちらからは60日前、という非対称は実際にあります
  • 更新しない旨の申し出期限は何日前か。この日付をカレンダーに入れる

契約期間そのものの決め方は業務委託の契約期間は3か月か6か月かに、更新されないと分かった月にやることは業務委託が更新されないときに分けて書きました。

なお、フリーランス新法は一定期間以上の継続的な業務委託について、中途解除・不更新の際に原則30日前までの予告を求めています。ただし「継続的」に当たるかどうかは契約の期間や実態で判断されるため、自分の契約が対象かどうかをここで断定することはできません。個別の当てはめは公的な相談窓口や弁護士に確認してください。

4|料金改定に、いつからの話かが書いていない

当社のひな形には、こういう条項がありました。

範囲や稼働が前提を超える場合その他料金の変更を要する事由が生じたときは、甲乙協議のうえ料金を改定することができる。

一見、公平です。協議のうえ、と書いてある。

点検で引っかかったのは、「いつからの分に効くのか」が書いていないことでした。将来分に限る、という限定が無い。ということは、すでに働いた分にさかのぼって下げる読み方が、文面上は残ります。

実際にそんな運用をする気は当社にはありません。ありませんが、**契約書に読める余地が残っていること自体が、後で効きます。**揉めたときに開くのが契約書だからです。

受け取る側が見るところ

  • 料金改定の条項に、「将来分について」「改定日以降の稼働について」といった限定があるか
  • 改定の発議はどちらからでもできるか。片方だけが改定を求められる書き方になっていないか
  • 「協議のうえ」の先が書かれているか。協議が整わなかったときにどうなるかは、たいてい書かれていません

単価そのものの話の運び方は単価交渉の進め方に、下げてほしいと言われたときの向き合い方はコンサルの単価相場と合わせて読んでもらえればと思います。

5|仕様変更の費用を、誰が持つか書いていない

これは空欄ですらなく、条項そのものが無かった箇所です。

当社のひな形には、業務範囲の条項も報酬の条項もありましたが、発注側の都合で範囲が変わったときの費用を誰が負担するかを定めた条項がありませんでした。

範囲の変更は、必ず起きます。要件が固まっていなかった、経営の方針が変わった、担当者が交代した。理由はさまざまですが、「じゃあこっちも見てもらえますか」は日常的に起きます。

このとき、費用の負担者が書かれていないと、変更は無償で吸収されます。吸収するのは、いちばん下流にいる人です。

受け取る側が見るところ

  • 業務範囲の条項に、「付随する業務を含む」のような広い一文が無いか。あると、範囲は際限なく広がります
  • 範囲を変更するときの手続きが書かれているか(書面での合意が要るのか、口頭でよいのか)
  • 変更に伴う費用の負担者が書かれているか

3つ目が書かれている契約書は、ほとんど見たことがありません。だからこそ、範囲の変更が来たときに、その場で「これは範囲の外なので、別途お見積りします」と言えるかどうかが実力になります。契約書は、そのときに背中を押してくれる紙にしかなりません。

6|間に一社入るとき、元の発注者名を教えてもらえるか

ここは少し専門的ですが、間に一社入る形で働いている人には効きます。

当社のひな形には、秘密保持の条項がありました。相手から開示された一切の情報を秘密として保持する、という標準的な書き方です。

点検で見つかったのは、この条項と、法令上の明示義務がぶつかり得ることでした。

再委託の形で仕事を回す場合、支払期日の計算に特則が用意されています。ただし特則を使うには、元の発注者の名称や、元の発注日、元の支払期日を、下流に明示する必要があると整理されています。ところが秘密保持の条項は、まさにその情報を出すなと言っている。

**当社は、この点を弁護士への確認事項として残しました。**秘密保持の除外事由に「法令上の明示義務の履行に必要な範囲」を足す案は起案しましたが、採否は決めていません。

受け取る側が見るところ

  • 間に一社入っている案件で、元の発注者が誰かを教えてもらえるか
  • 秘密保持の除外事由に、法令に基づく開示が入っているか
  • 自分が下流でさらに誰かに再委託する予定があるなら、それが禁止されていないか

元の発注者名が分からないままでも仕事は回ります。ただ、**支払いが遅れたときに、どこで止まっているのかが分かりません。**それだけの話ですが、それが分からないのは実務ではけっこう苦しい。

7|自分が法の保護対象かどうかを、契約書が判別していない

最後は、いちばん地味で、いちばん根本的な箇所です。

当社のひな形は、登録コンサルタントを「個人事業主または法人」とだけ定義していました。この定義には、ある情報が抜けています。従業員を雇っているかどうかです。

フリーランス新法の保護を受けるのは、大まかに言って従業員を使用しない個人・一人法人です。人を雇った瞬間、保護の枠から外れます。つまり、契約書の定義が従業員の有無を問うていないと、発注する側は、目の前の相手にこの法律が適用されるのかどうかを把握できません。

把握できていないということは、守る前提が立っていないということです。当社は、この点を「不足」と判定し、定義に従業員の有無を含める案と、登録者の台帳に判定の列を足す運用の両方を起案しました。

受け取る側が見るところ

  • 契約書の定義条項が、自分をどう定義しているか。「個人事業主」なのか「事業者」なのか
  • 自分が人を雇っている、あるいは雇う予定があるなら、保護の枠から外れる可能性があることを知っておく
  • 発注側が新法を意識しているかは、予告期間と支払期日の書き方に出ます。この2つが明確に書かれている契約書は、たいてい点検を経ています

人を雇うと何が変わるかはフリーランスが人を雇うときに別立てで書きました。

当社の改訂は、まだ採用していない

ここまで「起案した」と書いてきました。正確に書いておきます。

**この点検で作った改訂案は、条項ごとの差分としてまとめてありますが、採るかどうかはまだ決めていません。**ひな形の本体にも反映していません。理由は2つあります。

1つは、どの改訂を採るかで条番号が変わるからです。新しい条項を1つ入れると、後ろが全部ずれます。ずれた状態で弁護士に見てもらうと、「どの版を見たか」が曖昧になります。

もう1つは、確認していないことがまだ残っているからです。当社の点検は、法令の内容を二次的な情報までしか追えていない箇所があります。条番号や日数について、原典で裏を取れていない項目には、その旨の印を1件ずつ付けたうえで社内文書に残しました。

確認していないことを「確認していない」と書いておくのは、文書を安全に運ぶための最低条件

なお、同じ座組のもう1本のひな形(人材紹介側)については、条項どうしの衝突を2026年8月に実際に直しています。そちらの話は業務委託契約のひな形は、どこが衝突するかに書きました。直したものと、まだ直していないものがあるというのが、いまの正確な状態です。

渡された契約書で、今日からやれる3つ

条文の知識がなくてもできることだけを書きます。

**1|〔 〕を全部数える。**まず読まずに、空欄だけを探します。数えたら、それぞれについて「これは締結時に決める欄か、決めておかないと困る欄か」を分けます。金額と期間は前者、日数と負担者は後者です。

**2|日数が入っている欄を、時系列に並べる。**確認の日数、支払いの日数、予告の日数。この3つを並べると、最悪の場合いつ収入が止まり、いつ最後の入金があるかが計算できます。この計算ができれば、その契約書は読めたことになります。

**3|非対称な欄を探す。**同じ性質の義務が、双方で違う数字になっていないか。予告期間、損害賠償の上限、解除の要件。**非対称は、指摘すれば直ることが多い箇所です。**言わなければ直りません。

そして、どうしても分からない欄があったら、そのまま聞いてください。**「ここは空欄のままでよいのでしょうか」は、失礼な質問ではありません。**むしろ、契約書を読む人だと思われます。私の経験では、この一言で関係が悪くなったことは一度もありません。

契約の種類そのものの見分け方は準委任と請負の違いに、秘密保持契約で直す場所はNDAは守る契約ではないに、現場での指揮命令の線は偽装請負とは何かに、それぞれ分けて書いています。

まとめ

  • 発注側の契約書は、たいてい悪意で書かれていない。危ないのは条文ではなく空欄。空欄は、後で決める人の都合のいいほうに埋まる
  • 空欄には2種類ある。締結のたびに決める欄(金額・期間)と、決めておかないと片方が困る欄(日数・負担者)。後者が空いていたら埋めてもらう
  • 当社が自社のひな形を点検して「このままでは出せない」と判定したのは7か所。検収の日数/支払サイト/解約の予告/料金改定の効き方/仕様変更の費用/元発注者名の開示/保護対象かの判別
  • 検収は、日数と「みなす」の一文に加えて、確認の遅れが支払期日に影響しないという切断の一文まであるかを見る
  • 料金改定の条項は、将来分に限る限定があるか。無いと、さかのぼって下げる読み方が文面上残る
  • 範囲の変更に伴う費用の負担者を書いた契約書はほとんど無い。だから、その場で「範囲の外です」と言えるかどうかが実力になる
  • 当社の改訂案は起案しただけで、採否は未確定。ひな形本体にも反映していない。確認していないことは、確認していないと書いて残してある
  • 今日からやれることは3つ。空欄を数える/日数を時系列に並べる/非対称な欄を探す

契約書を読むというのは、条文を理解することではないと思っています。決まっていない場所を見つけて、決めてもらうことです。それなら、法律を知らなくてもできます。

当社がどういう契約の形で仕事をしているかは、独立支援のご案内にまとめています。


出典:本記事は当社の内部文書「フリーランス新法 適合ギャップ分析と運用チェックリスト(2026年7月23日)」および「契約ひな形 改訂条項ドラフト(同日)」に基づいています。条項本文は掲載していません。同文書には、法令の条番号・日数について一次情報で裏を取れていない項目が含まれており、その旨を1件ずつ明記したうえで弁護士への確認事項として残しています。本記事は社内の整理であり、法律意見ではありません。法令の適用については、個別の事案ごとに専門家にご確認ください。

※本記事は2026年9月時点の情報です。法令の適用や契約の解釈は個別の事情により異なります。具体的なトラブルは、弁護士やフリーランス向けの公的相談窓口にご相談ください。