単価が決まって、稼働日数も決まって、あとは契約書を交わすだけ。そこまで来て、最後に手が止まる欄があります。契約期間です。
「まずは3か月で」と言われる。あるいは「6か月でお願いします」と書かれた雛形が送られてくる。どちらでもいい気がして、そのまま返す。私も最初の何本かは、そうしていました。
期間の欄は、いつまで働くかを決める欄ではありません。いつ次の話ができるかを決める欄です。ここを短くすると、次の話が早く来ます。長くすると、次の話が遠くなる。それだけの違いに見えて、実務では3つのものが動きます。
この記事は、期間だけを扱います。単価の決め方はコンサル単価の決め方に、週何日で受けるかは稼働日数の決め方に、契約書全体のどこを読むかは業務委託契約書で最低限みるべき場所に分けて書いています。
期間の欄は「次の話ができる日」を決めている
契約期間を決めるというのは、満了日を決めることです。そして満了日というのは、その日までに双方が「続けるか、やめるか」を判断する期日でもあります。
つまり期間を決めた瞬間に、次の3つの日付が自動的に決まります。
- 相手が続けるかどうかを考える日(満了の1〜2か月前)
- こちらが条件を出し直せる日(同じく満了の手前)
- こちらが次を探し始めるべき日(満了から逆算した日)
3か月契約なら、この3つが年に4回来ます。6か月契約なら年に2回。1年契約なら年に1回です。
期間は、働く長さではなく、交渉の回数を決めている。
この見方に変えると、「まずは3か月で」という言葉の意味も変わります。あれは「短くお試しで」という意味だけではなく、「3か月ごとに条件を見直す関係にしましょう」という意味でもあります。相手にとっても、こちらにとっても。
3か月と6か月で、実際に変わる3つ
具体的に何が変わるのかを並べます。
| 3か月 | 6か月 | |
|---|---|---|
| 終わり方 | 更新しないだけで終わる。理由の説明が薄くても成立する | 途中でやめる話は「中途解約」になり、予告と理由の話になる |
| 条件を出し直せる回数 | 年4回。ただし実績が薄いうちは材料がない | 年2回。1回あたりに材料を積める |
| 次を探し始める時期 | 開始から1か月半で逆算が始まる | 開始から4か月ごろまでは腰を据えられる |
| 相手の稟議 | 小さく通せる。決裁者が下がることがある | 金額が大きくなり、決裁者が上がることがある |
| こちらの読みにくさ | 3か月先までしか見えない | 半年先まで見える |
順に補足します。
1|切られ方が変わる
これがいちばん大きい違いです。
**3か月契約は、更新しないという形で終わります。**満了して次を結ばない。契約上は誰も悪くないので、相手は理由を詳しく説明しなくても済みます。突然ではないけれど、こちらから食い下がる材料も少ない。
**6か月契約を途中でやめる話は、中途解約になります。**契約書に「◯日前までに書面で通知」と書いてあれば、その手続きが要る。相手にとっては、更新しないより一段重い判断です。だから、途中でやめる方向には動きにくい。
この違いは、独立して1年目の私にはピンときませんでした。腹に落ちたのは、3か月契約が2回更新されたあと3回目で止まったときです。止まった理由は「体制が変わったので」でした。それ以上は聞けませんでした。更新しないことに、理由はあまり要らない。
不更新と分かった月に何をするかは業務委託が更新されないときに、途中で切られる側の話は業務委託を途中で切られたらに書きました。
2|値上げを言い出せる時期が変わる
単価の話を正面から出せるのは、更新の手前です。稼働の途中に切り出すこともできますが、通りにくい。相手の予算が動くのは更新のタイミングだからです。
3か月契約なら、年4回その機会が来ます。回数だけ見れば有利です。
ところが、実際にやってみると分かることがあります。**最初の1〜2回は、材料がありません。**3か月しか働いていない段階で単価を上げてくれと言っても、こちらに示せる実績が薄い。「何が変わったから上げるのか」に答えられない。
だから私は、**回数が多いこと自体を有利とは考えていません。**大事なのは、1回あたりに何を積めているかです。
- 3か月契約:機会は多いが、1回あたりの材料が薄い。2回目の更新(6か月時点)から効いてくる
- 6か月契約:機会は少ないが、1回で半年分の実績を持ち出せる。最初の更新から材料がある
単価の話をどう組み立てるかは単価交渉の進め方に順番を書きました。ここで言いたいのは、期間を決めた時点で、次に値段の話ができる日も決まっているということです。それを知らずに期間を決めると、上げたいと思ったときに卓がありません。
3|次の営業を始めるタイミングが変わる
契約が切れる前に動き出す。これができるかどうかで、収入の谷の深さが変わります。
逆算の目安は、満了の1〜1.5か月前です。話が来てから契約締結まで、私の場合は3〜6週間かかることが多かった。だから満了の1か月前に動き出すと、切れ目なくつながる確率が上がります。
これを期間に当てはめると、こうなります。
- 3か月契約:開始から1か月半で、もう次の逆算が始まる。実質、腰を据えられるのは6週間
- 6か月契約:4か月ごろまでは目の前の仕事に集中できる
3か月契約を悪く言いたいわけではありません。ただ、3か月で受けるなら、営業の時間を最初から予定に入れておく必要がある、ということです。ここを入れずに3か月契約を回すと、更新されなかった月に何も準備がない状態になります。
稼働が空く前に打てる手は稼働に空きが出たときに書きました。
期間より効くのは、自動更新の有無
ここまで期間の長さを比べてきましたが、実務でそれ以上に効く欄があります。自動更新かどうかです。
契約書の期間条項は、たいていこの2つのどちらかです。
- 自動更新型:「期間満了の◯か月前までに、いずれからも申し出がないときは、同一条件でさらに◯か月更新する」
- 都度合意型:「更新は、双方が書面で合意した場合に限る」
この違いは、黙っていたときにどうなるかの違いです。
自動更新型は、黙っていれば続きます。安定はしますが、同一条件で続くという点に注意が要ります。単価を上げたいなら、こちらから期日までに申し出る必要がある。申し出の期限を過ぎると、また同じ金額でもう1期です。
都度合意型は、黙っていれば終わります。毎回きちんと話す関係になる代わりに、忘れられると終わります。
私は、**自動更新型のほうが好きです。**ただし条件が1つあって、更新の申し出期限をカレンダーに入れておくこと。ここを入れずに自動更新を受けると、同じ単価が何期も続きます。3か月の自動更新で1年放置すれば、年4回あったはずの機会を4回とも見送ったことになります。
自動更新は、安定と引き換えに、こちらが動く日を自分で管理する義務を引き受ける仕組み。
予告期間と、セットで読む
期間の欄だけを見ても、実は判断できません。予告期間と組で読む必要があります。
契約書には、たいてい2つの予告期間が書かれています。
- 更新しない旨の申し出の期限(例:満了の1か月前まで)
- 中途解約の予告期間(例:1か月前までに書面で通知)
この2つと契約期間を並べると、「最悪の場合、いつ収入が止まるか」が計算できます。
- 6か月契約で、中途解約の予告が1か月前 → 最短で、開始から2か月目に通知が来て3か月目に終わる可能性がある
- 3か月契約で、不更新の申し出が1か月前まで → 2か月目に通知が来て、3か月目で終わる
つまり、6か月契約でも中途解約の予告が短ければ、実質の安全圏は3か月契約と大差がないことがあります。期間の長さだけで安心しないでください。
なお、いわゆるフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律・2024年11月1日施行)は、一定期間以上の継続的な業務委託について、中途解除や不更新の際に原則30日前までの予告を求めています。ただし「継続的」に当たるかどうかは契約の期間や実態で判断されるため、自分のケースが対象かどうかをここで断定することはできません。制度の全体像はフリーランス新法とはに、下請法から名前が変わった取適法との関係は下請法と取引適正化法に整理しました。個別の当てはめは、公的な相談窓口や弁護士に確認してください。
実務で効くのは、契約書に書かれた予告期間が、その法律の想定より短くないかを見ておくことです。短ければ、締結の前に「ここを◯日にしていただけますか」と言えます。締結後には言えません。
初回は短く、2回目から長く
では、実際にどう決めるか。私が今やっている置き方を書きます。
初回は3か月。2回目の更新から6か月。
理由は3つあります。
**理由1|初回は、こちらも相手を見ている。**現場に入ってみないと分からないことがあります。想定と違う範囲を求められる、決裁者が不在で何も決まらない、報告先が5人いる。3か月なら、合わなかったときに引き返せます。
**理由2|短いほうが、始まりやすい。**金額が小さくなるので、相手の稟議が軽くなります。「まず3か月分」なら部長決裁で通るが、「6か月分」だと役員決裁、という会社は珍しくありません。決裁者が1段下がるだけで、開始が2週間早まることがあります。
**理由3|2回目は、材料を持って行ける。**3か月やった実績を持って、「次は6か月でお願いしたい」と言えます。このとき、**期間を延ばす提案と単価の話を同時に出さない。**期間だけ先に固めて、単価は次の更新に回すほうが通りました。
逆に、最初から6か月で受けたほうがいいのは、開始までの準備が重い案件です。環境の払い出しに1か月、業務の理解に1か月かかるような案件を3か月で受けると、慣れたころに満了します。これは相手にとっても損なので、素直にそう言えば通りやすい。
独立して最初の1件をどう作るかは独立コンサルの始め方に、最初の値付けは最初の案件をいくらで出すかに書きました。
相手が期間を決めている理由
期間の欄は、こちらの都合だけで決まりません。相手側にも事情があります。知っておくと、交渉の言い方が変わります。
1|予算の期。多くの会社は、年度や半期で予算を組みます。だから「期末までの契約にしたい」という要望が出ます。この場合、期間の長さは相手の都合ではなくカレンダーの都合なので、ぶつかっても意味がありません。素直に合わせて、次の期の話を早めに始めるほうが得です。
**2|稟議の単位。**契約総額がいくらを超えると決裁者が上がる、という線が社内にあります。期間を短くすると総額が下がり、その線を下回ることがある。相手の担当者が「まず3か月で」と言うとき、この事情であることが実際にあります。
**3|プロジェクトのフェーズ。**要件定義まで、設計まで、というフェーズの切れ目で期間を切る。この場合、期間の話は工程の話です。フェーズの終わりがいつかを聞けば、期間の理由が分かります。
**4|前任者の抜け方。**前にいた人が急に抜けた案件だと、短期で様子を見たいという心理が働きます。これは言われないことが多いですが、引き継ぎ資料が薄いときは疑ってよいと思います。
聞き方は、期間そのものを問うより、**「この期間で区切るのは、何かの区切りに合わせてですか」**が角が立ちません。予算期なら予算期と返ってきます。
期間の欄で、確認する5つ
締結前に見るところをまとめます。上から順に見れば足ります。
- **期間の始まりと終わり。**開始日が「契約締結日」なのか「業務開始日」なのか。準備期間が長い案件だと、この2つがずれます
- **自動更新か、都度合意か。**そして自動更新なら、申し出の期限は何日前か。この日付をカレンダーに入れる
- **中途解約の予告期間。**何日前か、書面が要るか、双方に同じ条件か。片方だけ短いことがあります
- 更新後の条件。「同一条件で更新する」と書いてあるか。単価改定の余地をどう残すか
- **期間と、支払いサイトの関係。**満了月の稼働分が、いつ入るか。満了の翌々月払いなら、終わってから2か月は入金が続きます。ここは資金繰りの起点になります
3番目の「片方だけ短い」は、実際にあります。相手からは30日前、こちらからは60日前、という書き方です。気づいたら言えば直ります。言わなければ直りません。
短く/長くしてほしいときの言い方
最後に、言い方です。期間の話は、単価より通りやすい。金額が動かないからです。
短くしてほしいとき
「まず短く」と言うと、腰が引けていると受け取られることがあります。こちらの都合ではなく、相手の判断材料として出すと通ります。
「初回は3か月にしていただけますか。3か月やったところで、こちらの入り方が御社の進め方に合っているかを一度ご確認いただきたいので。合っていれば、その先は長めでお願いしたいと思っています」
「合わなければ抜けたい」ではなく「一度見てほしい」に置き換える。先に長期の意思を示しておくのがポイントです。
長くしてほしいとき
こちらは、続ける前提の提案として出します。
「次の更新は6か月でお願いできますか。3か月ごとだと、着手して形になる手前で区切りが来てしまうので、◯◯の部分まで一続きで見たほうが早いと思っています」
仕事の中身から入るのは、稼働日数を増やしてもらうときと同じです。期間が足りないという不満ではなく、期間を延ばすと何が良くなるかの話にする。
言わないほうがいい言い方
- 「安定したいので長くしてください」:こちらの都合だけの話になり、相手に返すものがありません
- 「短くしておいて、途中で抜けるかもしれないので」:わざわざ言う必要のないことです。契約書の中途解約条項がその役割を果たします
- 「他の話も来ているので、期間は短めで」:他社の存在を持ち出すと、期間の話が急に交渉になります。分けて話したほうが早い
打診そのものを断るときの言い方は案件の断り方に、業務委託という契約の形そのものは業務委託でコンサルをするということにまとめました。
まとめ
- 契約期間は「働く長さ」ではなく、次の話ができる日を決める欄。3か月なら年4回、6か月なら年2回、条件を出し直す機会が来る
- 3か月と6か月で変わるのは3つ。切られ方(更新しないだけで終わるか、中途解約の話になるか)、値上げを言い出せる時期(機会の回数と、1回あたりの材料の厚み)、次の営業を始める時期(満了の1〜1.5か月前から逆算)
- 機会が多いこと自体は有利ではない。3か月契約は最初の1〜2回、示せる材料が薄い
- 期間より効くのは自動更新かどうか。自動更新は安定と引き換えに、申し出の期限を自分で管理する義務が付いてくる
- 期間だけでは判断できない。中途解約の予告期間とセットで読むと、最短でいつ収入が止まるかが計算できる
- 実務の置き方は、初回3か月・2回目から6か月。短いほうが稟議が軽く、開始が早い
- 相手が期間を決める理由は、予算の期・稟議の単位・フェーズの切れ目・前任者の抜け方。区切りの理由を聞けば、交渉すべき欄かどうかが分かる
- 確認は5つ。開始日の定義/自動更新と申し出期限/中途解約の予告/更新後の条件/満了後の入金
- 言い方は、期間の不満ではなく仕事の中身から。短くするときは、先に長期の意思を示す
期間の欄は、単価ほど緊張しません。だからこそ、なんとなく埋めてしまいます。ただ、この欄で決まっているのは、次に自分が動ける日です。そこだけ意識して埋めておくと、更新のたびに慌てなくて済みます。
自分の場合はどう組み立てるか整理したい方は、独立支援のご案内もご覧ください。
※本記事は2026年9月時点の一般的な情報を、独立した個人の実務目線で整理したものです。法令の適用や契約の解釈は個別の事情により異なります。具体的なトラブルは、弁護士やフリーランス向けの公的相談窓口にご相談ください。