独立して最初に届いた契約書に、私は印紙を貼りませんでした。貼るものだと知らなかったからではなく、貼らなくていい契約書だったからです。ただ、それを自信を持って言えるようになったのは、だいぶあとのことでした。

「業務委託契約書」というタイトルは、印紙税の世界では何の意味も持ちません。判断されるのは、中身だけです。

大前提:印紙が要るかどうかは「文書の種類」で決まる

印紙税は、印紙税法の別表第一に列挙された文書(課税文書)にだけかかります。リストに載っていない文書は、どれだけ金額が大きくても不課税です。

そして重要なのが、ここに委任・準委任契約書は載っていないという事実です。

  • 準委任(稼働に対して払う) → 課税文書ではない → 印紙は不要
  • 請負(成果物の完成に対して払う) → 第2号文書 → 印紙が必要

つまり、押印の前に見るべきは印紙のことではなく、準委任か請負かという契約の型です。ここが決まれば、印紙の話は自動的に決まります。

コンサルティングやITの支援業務で「月◯人日で稼働し、成果物は報告書」という形なら、準委任であることが多い。一方、「このシステムを納品する」「この記事を◯本納品する」という完成義務がある形は請負です。タイトルではなく条文で判断されるので、契約書の中身が実質どちらなのかを見ます。

請負だった場合、いくら貼るのか

第2号文書(請負に関する契約書)の印紙税額は、契約金額の階級で決まります。

契約金額印紙税額
1万円未満非課税
1万円以上100万円以下200円
100万円超200万円以下400円
200万円超300万円以下1,000円
300万円超500万円以下2,000円
500万円超1,000万円以下1万円
1,000万円超5,000万円以下2万円
契約金額の記載がないもの200円

なお、建設工事の請負契約書には期限つきの軽減措置がありますが、ITやコンサルの契約には関係しません。

期間が続く契約は、別の枠で4,000円になる

もうひとつ知っておきたいのが第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)です。こちらは契約金額に関係なく一律4,000円

売買や請負などの取引を継続して行うために、単価や支払方法などを定めた基本契約書が対象になります。ただし、契約期間が3か月以内で、更新の定めがないものは除かれます

第2号と第7号の両方に当てはまる場合は、契約金額の記載があれば第2号、なければ第7号という整理です。「基本契約書には単価だけ書いて、金額は個別の発注書で決める」という一般的な形だと、第7号の4,000円になりやすい。

ここでも効いてくるのは、あくまで請負の要素があるかどうかです。準委任の基本契約書であれば、第7号にも当たりません。

見落としやすい、消費税の区分記載

これは知っているだけで得をします。消費税額を区分して記載していれば、その消費税額は記載金額に含めなくてよい(第1号・第2号・第17号文書が対象)。

  • 「請負金額 110万円」とだけ書く → 記載金額110万円 → 400円
  • 「請負金額 100万円、消費税額 10万円」と書く → 記載金額100万円 → 200円

同じ取引なのに、書き方だけで税額が変わります。「本体価格と消費税額を分けて書く」。これは自分が契約書を作る側になったときに、必ずやっておきたい一手です。

電子契約なら、印紙は要らない

紙をやめると、印紙代はゼロになります。

印紙税は、課税文書を作成したことに対してかかります。そしてこの「作成」とは、文書を作って相手方に交付することを指します。契約内容を電磁的記録としてやりとりし、紙の現物を交付しないのであれば、課税文書を作成したことにならない。これが電子契約に印紙が不要とされる理由です。国税庁の文書回答事例でも、注文請書を電子メールで送信した場合について同じ考え方が示されています。

ただし、印刷して製本し、相手に手渡せば話は別です。「電子で送ったあと、紙でも一部ください」と言われたときが分かれ目になります。

第7号文書の4,000円は、年に何本も基本契約を結ぶ立場になると地味に効いてきます。電子契約サービスの月額と比べてみる価値はあります。

貼らなかったら、どうなるか

まず、印紙を貼らなくても契約は有効です。契約書の効力と印紙税は別の話。ここで慌てる必要はありません。

問題になるのは税務調査です。

  • 貼るべき印紙を貼らなかった場合 → 過怠税は原則、本来の印紙税額の3倍(本来の税額+その2倍)
  • 調査を受ける前に自主的に申し出た場合 → 1.1倍に軽減
  • 印紙を貼ったが消印しなかった場合 → その印紙の額面金額に相当する過怠税

200円を惜しんで600円払う、という構図です。判断に迷ったら、貼っておくか、税務署に文書の種類を確認するほうが早い。

誰が貼るかについては、共同で作成した文書は当事者が連帯して納付義務を負います。実務では、2通作って各自が保管分に貼る、あるいは片方が全額負担すると契約書に書いておく、という運用が多い。そこも交渉の対象です。

押印の前に、この順番で見る

  1. 準委任か請負かを条文で確認する(ここで大半が決まる)
  2. 請負なら、契約金額の記載があるか。あれば第2号、なければ第7号の可能性
  3. 期間が3か月を超える、または更新の定めがある基本契約書なら第7号を疑う
  4. 自分が作る側なら、本体価格と消費税額を分けて書く
  5. そもそも電子契約にできないかを相手に聞いてみる

契約書のチェックは印紙だけではありません。支払条件や解約予告、成果物の権利のほうが、金額としてはずっと大きく効きます。印紙は、その最後の確認事項くらいの位置づけで十分です。


「業務委託契約書」という名前は、印紙税の判断には使えない。使えるのは、中身が請負なのか準委任なのか、という一点だけ。

私は今、契約書を受け取ったらまず条文を読んで型を確かめ、そのうえで電子契約にできないかを聞くようにしています。そのほうが、貼るか貼らないかで悩む時間が丸ごと消えるからです。

※本記事は2026年7月時点の一般的な情報を、独立した個人の実務目線で整理したものです。文書の種類の判定は個々の契約内容によって異なり、税額や取扱いは制度改正により変わることがあります。実際の判断は、国税庁の資料および所轄の税務署・税理士に必ずご確認ください。

参考:国税庁 タックスアンサー No.7102(請負に関する契約書)/No.7104(継続的取引の基本となる契約書)/No.7118(消費税等の額が区分記載された契約書等の記載金額)/No.7131(印紙税を納めなかったとき)/文書回答事例「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係」