契約書のひな形を作ると、たいてい条項を1つずつ考えます。手数料の条項、直接取引の条項、返還金の条項、存続の条項。一つひとつは、それぞれもっともらしく書けます。

問題は、条項どうしがぶつかることです。しかもこの衝突は、普段は表に出ません。ある特定の出来事が起きた瞬間にだけ、2つの条項が反対を向きます。

当社は、独立したコンサルタントを企業に配置する契約のひな形を持っています。2026年7月に第1版を作り、8月に全条を突き合わせたところ、同じ型の衝突が4か所見つかりました。この記事は、そのとき何が起きていて、どう直したかの記録です。

なお、契約書を受け取る側としての読み方は業務委託契約書はどこを読むかに書きました。この記事は直す側の話です。ひな形の条文そのものは載せません。載せても、他社の契約には当てはまらないからです。

そして先にお断りしておきます。**ここに書くのは論点の整理であって、法的な最終判断ではありません。**当社の文書も、この後で弁護士の確認を経る前提で作っています。

衝突は、条項ではなく「定義」から始まっていた

見つかった衝突の出発点は、第2条にありました。「採用(成約)」という言葉の定義です。

その定義には、雇用契約と業務委託契約の両方が入っていました。つまり、発注企業が当社の紹介した人と契約を結んだとき、それが雇用であっても業務委託であっても、同じ一語で拾われる書き方になっていた。

定義そのものは、素直に書けば自然にこうなります。人が仕事に就く形は一つではないからです。

ところが、その定義を使う条項が、別の条項と衝突しました。

  • 第3条には、「当社が許可を保有しない場合、雇用関係のあっせんに該当する紹介は行わない。この契約は業務委託による起用に限って適用する」という趣旨の項がありました
  • 第5条には、「紹介の後、一定期間内に発注企業がその人を採用(成約)した場合は、当社の紹介によるものとみなして手数料の対象とする」という趣旨の項がありました

片方は「雇用は対象外」と言い、もう片方は「採用(成約)なら対象」と言う。そして「採用(成約)」の定義には雇用が入っている。

1つの言葉の定義が、2つの条項を反対方向に引っ張っていた。

どの事実が起きたときに、衝突が表面化するか

条文を眺めているだけでは、この矛盾は目に入りません。具体的な出来事に当てはめて初めて見えます。

いちばん起きやすいのは、これです。

業務委託で入ったコンサルタントが、稼働の途中、または終了した後に、そのクライアントに正社員として雇われる。

現場としては、決して珍しいことではありません。一緒に働いて、お互いに合うと分かったのだから、自然な流れですらあります。

ところが、この1つの事実に対して、2つの条項が正反対の答えを出します。

条項この事実をどう扱うか
業務委託に限定する条項雇用への転換はこの契約の外 → 手数料は発生しない
みなし採用の条項「採用(成約)」に雇用が含まれる → 手数料が発生する

契約書というのは、揉めたときに開くものです。そして揉めるのは、まさにこういう場面です。普段は表に出ない衝突が、いちばん都合の悪い日に出てくる。

なぜ放置できなかったか

この衝突を放置できなかった理由は、当社の状況にあります。

2026年8月11日、当社は許認可の実査を行い、職業安定法30条1項の有料職業紹介事業の許可を保有していないことを確定させました。それまで社内文書には「保有しているかは未確認」という留保が残ったまま、複数の成果物がその留保を運び続けていました。

許可を持たないまま、雇用関係の成立に対して手数料を受け取れば、無許可で有料の職業紹介を業として行ったと評価され得ます。当社が確認した限り、同法64条1号の罰則は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。

ここで重要なのは、実際に請求したかどうかではありません。

契約書に「請求できる」と書いてあること自体が、運用の意思として読まれ得る。

だから、ひな形の段階で塞ぐのがいちばん安い。運用ルールで気をつける、という対処では足りないと判断しました。

全条を突き合わせたら、同じ型があと3か所あった

最初に見つけたのは1か所です。そこだけ直して終わりにしなかったのは、同じ定義を使っている条項が他にもあるはずだと考えたからです。実際、ありました。

1. 直接取引の条項──同じ欠陥で、しかもより危険だった

「当社を通さずに直接採用してはならない。違反した場合は手数料相当額を支払う」という趣旨の条項です。ここも同じ「採用(成約)」の定義を使っていました。同じ経路で雇用を拾います。

さらに悪いことに、この条項は存続条項によって、契約が終わった後も生き残る設計でした。みなし採用の条項は契約期間中の話ですが、直接取引の条項は契約終了後まで、許可のない手数料請求権を残す構造になっていた。

1か所だけ直して、こちらを残していたら、同じ事故が形を変えて再発します。

2. 返還金の条項──雇用前提の文言が残っていた

紹介した人が早期に離脱したときの返還金の条項に、「雇用・業務委託契約が終了したときは」という趣旨の文言が残っていました。業務委託限定で運用する契約に、雇用を前提とした言葉が混ざっている。

実害は小さい箇所です。ただし、**契約と実態が一致していない箇所は、後で必ず読み手を迷わせます。**直しました。

3. 類型を選ぶ書式──許可がないのに選べてしまった

第3条の冒頭は、雇用/業務委託/その両方、から選ぶ書式になっていました。そして「許可を保有しない場合」の条項は、その後ろに事後的な救済として置かれていた。

つまり、選択の段階で誤った選択肢を選べてしまう書式だったということです。ここには、選択の時点で誤りが起きないよう、ただし書を入れました。

4. 冒頭の前提説明──事実が1か月古いままだった

ひな形の冒頭に置いた注記が、「現時点で許可を保有しているかは未確認です」と書かれたままでした。実査で未保有と確定した後も、複数の関連文書がこの古い留保を運び続けていた。

**文書は、更新されない限り、書いた日の事実を延々と運びます。**確定した事実に書き換えました。

どちらを生かしたか、その理由

衝突している2つの条項は、どちらか一方を生かすしかありません。当社は、業務委託に限定する側(コンプライアンス側)を生かしました。

理由は3つです。

  1. **逆にすると、許可がないまま雇用に係る手数料を受ける構造が契約に残る。**契約で取れる手数料と、無許可営業と評価されたときの損失は、桁が違います
  2. **限定する条項は「許可を保有しない場合」という条件付きなので、許可を取得すれば自動的に外れる。**将来の選択肢を殺しません
  3. **手数料が発生する時点そのものは動かしていない。**動かしたのは、どの成約が対象になるかという範囲だけです

3つ目は、地味ですが実務では大事です。**直す範囲を最小にすると、他の条項への波及が読めます。**あちこち同時に動かすと、次の衝突を自分で作ることになります。

雇用に転換したときの落とし所

では、業務委託で入った人がクライアントに雇われることになったら、どうするのか。

選択肢は3つありました。無視する、自動的に課金する、そして事前の通知と協議に落とす。当社は3つ目にしました。

新設した項の趣旨はこうです。発注企業は、業務委託で起用しているコンサルタントを雇用に切り替えようとするときは、あらかじめ書面で当社に通知する。その場合の取扱い(手数料の要否と額を含む)は、上位の優先条項に反しない範囲で、別途協議して定める。

この形にした理由は、許可を取得した後であれば、この協議で有償化できるからです。取得前は優先条項が効いて無償になる。

許可の取得が、そのまま回収可能な売上に変わる設計にした。

コンプライアンスのために何かを諦めたのではなく、取得のインセンティブを契約構造の側に埋め込んだ、というのが正確なところです。

直し方の順番──1つずつ潰さず、上位で経路を塞ぐ

ここがこの改訂でいちばん考えたところです。

見つかった衝突を1条ずつ直すこともできました。定義を分ける、条項ごとに但し書きを足す。実際、それでもその時点の問題は解けます。

ただ、それをやると**次にこのひな形へ条項を足したときに、同じ漏れが再発します。**足した人が、過去の但し書きを全部知っているとは限らないからです。

そこで、条項を潰すのではなく、上位で経路そのものを塞ぐ優先条項を新設しました。趣旨はこうです。

  • 他のいかなる規定にもかかわらず
  • 当社が許可を保有しない間は
  • 雇用関係の成立に関して、名目を問わず対価を請求せず、受領もしない
  • この契約の規定のうち、この項に抵触する部分は、その限りで適用しない

そして、**存続条項にもこの項を加えました。**契約が終わった後も効くようにするためです。直接取引の条項が終了後も生きている以上、蓋のほうも終了後まで生きていないと意味がありません。

直し方効く範囲弱点
条項を1つずつ修正するいま見つかっている箇所条項を足すたびに漏れが再発する
定義を分ける定義を使う全条項定義を使わない新条項には効かない
上位の優先条項を置く契約全体。将来の追加条項にも及ぶ条項間の優劣の書き方が適切かの確認が要る

3つ目を選びましたが、**この書き方で意図どおり優先するかどうかは、弁護士に確認すべき事項として残しています。**ここは自分たちで「これで適法」と断ずる領分ではありません。

自分の契約書で、同じ型を探す手順

ここまでは当社の話です。受け取る側でも発注する側でも、同じ型は自分の契約書で探せます。手順は3つです。

1. 定義の条項から読む

多くの契約書は第2条あたりに定義があります。まずここを読んで、1つの言葉が複数の状態を拾っていないかを見ます。「業務」「成果物」「関係会社」「採用」あたりは、広く定義されがちです。

2. その言葉を使っている条項を、全部拾う

定義した言葉は、契約書の中で何度も出てきます。検索して全部拾い、**それぞれの条項が同じ前提で書かれているかを確認します。**当社の場合、この作業で3か所目と4か所目が見つかりました。

3. 存続条項を読む

契約が終わった後も生き残る条項が、必ずどこかに列挙されています。**ここに載っている条項は、終了後の世界でも効き続けます。**終了後に効いて困る内容が入っていないかを確認します。

この3ステップは、条文の知識がなくてもできます。必要なのは、同じ言葉を追いかける根気だけです。

契約が終わるときの実務は業務委託契約の解約に、受け取る側の下請法・取適法まわりの整理は下請法と取引適正化法に分けて書いています。

決めないことを、決めておく

改訂版でも、金額や期間の欄は空欄のまま残しました。類型の選択、みなし期間、支払時期、返還の対象期間と率、損害賠償の上限方式、契約期間、合意管轄、手数料の額。この8か所です。

**埋めなかったのは、締結のときに個別に決める設計を維持するためです。**ひな形の段階で数字を入れると、その数字が既定値として一人歩きします。空欄のままにしておけば、締結のたびに必ず議論が発生します。

同じ理屈で、弁護士に確認すべき論点も文書の末尾に列挙して残しました。優先条項の効き方、許可取得の前後で有償・無償が変わる設計が発注側にとって不当に不利益でないか、直接取引の違約金の水準が合理的か。確認していないことを「確認していない」と書いておくのは、文書を安全に運ぶための最低条件です。

隣に、もう一本の線がある

最後に、契約書の外の論点を1つだけ。

業務委託の形で人が入っても、**現場で指揮命令が発注者へ移ってしまえば、契約書の表題とは違う評価になります。**当社は登録しているコンサルタントを雇用していないため、その場合の落ち先は労働者派遣ではなく、職業安定法4条8項にいう労働者供給になります。

供給は同法44条で禁止されており、45条により労働組合等でなければ許可を受けられません。派遣は許可を取れば適法にできますが、**供給にはその道がない。**だからこの線は、派遣よりも厳しく引く必要があります。

指揮命令の線がどこにあるかは請負と準委任の違い偽装請負とは何かに書きました。契約書をいくら整えても、現場の運び方が契約と違えば、契約書のほうが負けます。

まとめ

  • 契約書の衝突は条項ではなく定義から始まる。1つの言葉が複数の状態を拾っていないかを最初に見る
  • 衝突は普段は見えない。具体的な出来事に当てはめて初めて表面化する
  • 1か所直して終わりにすると、同じ型が別の条項で再発する。同じ定義を使う条項を全部拾う
  • **存続条項に載っている条項は、契約終了後も効き続ける。**蓋もそこまで届かせる必要がある
  • 直し方は、条項を個別に潰すより上位で経路を塞ぐ優先条項のほうが、将来の追加に耐える
  • コンプライアンス側を生かすときは、条件付きにして将来の選択肢を殺さない設計にする
  • 金額や期間は空欄のまま残す。既定値の一人歩きを防ぐ
  • 確認していないことは「確認していない」と文書に書く。法的な最終判断は弁護士の領分

当社が独立したコンサルタントとどういう契約の形で仕事をしているかは、サービスの案内にまとめています。契約の形が気になる方こそ、先に読んでいただくのがいいと思っています。


出典:本記事は当社の内部文書「0037e 条項衝突の論点整理(2026年8月14日)」および「人材紹介契約ひな形 新旧対照表(2026年8月14日)」、許認可の実査報告(2026年8月11日)に基づいています。条項本文は掲載していません。法令の適用については、個別の事案ごとに専門家にご確認ください。