業務委託で仕事を受けていると、振り込まれた金額が請求額とずれていて、「あれ、少ない」と戸惑うことがあります。差の正体はたいてい源泉徴収です。逆に、まったく引かれずに満額入ってくる契約もある。私も独立してしばらくは、なぜ引かれる相手と引かれない相手がいるのか、うまく説明できませんでした。この記事では、業務委託の源泉徴収を「引く側(発注者)」と「引かれる側(受注者)」の両面から整理します。制度や税率は変わるので、最終的な判断は必ず国税庁の情報や税理士に確認してください。

そもそも源泉徴収を「引く義務」があるのは支払う側

最初にひっくり返しておきたい前提があります。源泉徴収は、報酬を受け取る側がやる手続きではありません。報酬を支払う側(発注者)が、支払うときに所得税をあらかじめ差し引いて、本人の代わりに国に納める制度です。だから「自分は源泉徴収の手続きをしなきゃいけないのか」と身構える必要は、受注者側にはありません。引くかどうかを決めて実行するのは、あくまで払う側です。

ここが分かると、次の疑問が自然に出てきます。では、払う側はどんなときに引かなければならないのか。ポイントは二つ、「支払う相手が誰か」と「報酬の中身が何か」です。契約書に「業務委託」と書いてあるかどうかは、実は源泉徴収の要否とは直接関係ありません。

引くかどうかは「相手」と「報酬の中身」で決まる

まず相手。源泉徴収の義務が生じるのは、原則として支払う側が法人か、従業員を雇っている個人事業主のときです。従業員のいない個人がフリーランスに外注する場合は、そもそも源泉徴収の義務が生じないケースが多い。同じ仕事でも、発注元が大企業か、一人でやっている個人かで、引かれたり引かれなかったりするのはこのためです。

次に報酬の中身。源泉徴収の対象になる報酬は、範囲が決められています。原稿料、デザイン料、講演料、税理士や弁護士など特定の士業への報酬、といった「人的な役務」が代表例です。一方で、私が本業にしているようなITの設計・開発やシステム導入の業務委託、経営コンサルティングの報酬は、この対象範囲に含まれないことが多く、引かれずに満額振り込まれるのが通常です。だから同じ「業務委託」でも、ライターやデザイナーは引かれ、システム系は引かれない、という差が出ます。

税率も押さえておきます。源泉徴収される所得税は、報酬額の10.21%(一回の支払で100万円を超える部分は20.42%)です。この0.21%は復興特別所得税を含んだ率です。消費税の扱いは、請求書で報酬と消費税を明確に分けて書いていれば、報酬部分のみを源泉徴収の対象にできます。分けずに総額で書くと、総額に対して引かれることがある。ここは請求書の書き方ひとつで金額が変わる、地味に大事なところです。

受け取る側がやることは「請求書」と「確定申告」

受注者側が実務でやるべきことは、突き詰めると二つだけです。

一つは請求書。源泉徴収の対象になる仕事なら、請求書に「報酬」「消費税」「源泉徴収税額」「差引請求額」を分けて書いておくと、支払う側の処理が明確になり、消費税分まで引かれる事故を防げます。対象外の仕事なら、そもそも源泉の行は不要です。自分の仕事が対象かどうか分からないときは、報酬の中身(役務の種類)で判断し、迷えば相手の経理担当に「御社では源泉徴収されますか」と一言確認するのが早い。恥ずかしいことではなく、実務では普通のやり取りです。

もう一つは確定申告。源泉徴収は、あくまで所得税の「前払い」です。年間の所得が確定して税額を計算した結果、前払いしすぎていれば差額が戻ってきます。フリーランスは経費を差し引くと、源泉で引かれた額のほうが本来の税額より多くなることがよくあり、その場合は還付されます。だから引かれること自体を損だと思う必要はありません。ただし戻すには確定申告が必須で、支払調書や自分の帳簿から、年間でいくら源泉徴収されたかを正しく集計する必要があります。ここを取りこぼすと、払いすぎた税金がそのまま国に残ってしまいます。

「引かれなかった」ときと、自分が外注を出す側になったとき

実務で戸惑いやすい二つの場面に触れておきます。

一つ目。対象の仕事なのに発注者が源泉徴収してくれなかった、というケース。この場合でも、あなたが確定申告で正しく所得を申告し、必要な所得税を納めれば、あなた自身に不利益はありません。源泉が「されなかった」だけで、税金は確定申告で精算されるからです。引かれていない分、手元に入った金額から自分で納めることになるので、使い切らずに取り分けておく意識だけ持っておけば大丈夫です。

二つ目。事業が育って、今度は自分が誰かに外注を出す側になる場面。従業員を雇うと、あるいは対象の報酬を支払うと、今度はあなたが源泉徴収する義務を負います。引いた税額は原則として翌月10日までに納付する必要があり、納め忘れるとペナルティの対象になります。受け取る側だったときには意識しなかった義務が、払う側に回った瞬間に発生する。独立して数年で外注を使い始める人は多いので、この切り替えは頭の隅に置いておくといいと思います。

まとめ

業務委託の源泉徴収は、「業務委託」という契約名ではなく、支払う相手が誰か・報酬の中身が何かで要否が決まります。引く義務があるのは支払う側で、受け取る側がやるのは請求書を正しく書くことと、確定申告で精算することの二つ。ITやコンサルの報酬は引かれないことが多く、引かれる仕事でも確定申告で戻ることは珍しくありません。引かれた・引かれなかったに一喜一憂するより、年間の数字を正しく集計して精算する。その一点を押さえておけば、源泉徴収は怖いものではなくなります。