業務委託契約を結んで、客先に常駐している。
なのに朝礼に出て、勤怠システムを打刻して、休むときは「申請」して、毎朝その日のタスクを振られる。
これは偽装請負ではないのか。独立して常駐案件に入った人が、半年くらいで一度は考えることです。
先に結論を書きます。「偽装請負」という一語で呼ばれているものの中には、法律上まったく別の2つの問題が入っています。自分がどちらの立場にいるかで、見るべき基準が違います。ここを分けないまま調べても、答えは出ません。
まず、自分がどちらの形かを見る
**形A:間に会社が入っている。**発注者と、自分が契約している会社があり、自分はその会社の労働者として常駐している。あるいは、自分の会社が請け負った業務に、自分が入っている。この形で発注者から直接の指揮命令が飛ぶと、労働者派遣事業に当たるのではないかという問題になります。これが本来の「偽装請負」です。
**形B:自分ひとりで直接受けている。**発注者と自分が業務委託契約を直接結んでいる。従業員はいない。この場合、派遣かどうかではなく、自分が労働基準法上の「労働者」に当たるのではないかという問題になります。世間では「偽装フリーランス」と呼ばれることが多い形です。
同じ現場の風景でも、契約の並び方で適用される条文が違う。まずここを確定させてください。
形Aの基準――37号告示
判断のものさしは、**労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号、最終改正 平成24年厚生労働省告示第518号)**です。
告示は、請負の形の契約で自分の雇う労働者を働かせている事業主でも、次の2つのどちらも満たしていなければ、労働者派遣事業を行う事業主とするという立て方をしています。「両方満たしていない限り派遣とみなす」という、かなり厳しい書き方です。
要件1:自分の雇う労働者の労働力を、自ら直接利用していること。
- 業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行う――業務の遂行方法に関する指示、業務の遂行に関する評価。
- 労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行う――始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇。時間外労働や休日労働の指示。ただし単なる把握は除くとされています。
- 企業秩序の維持・確保のための指示その他の管理を自ら行う――服務上の規律、配置の決定と変更。
要件2:請け負った業務を、自己の業務として相手方から独立して処理していること。
- 業務の処理に要する資金を、すべて自らの責任の下に調達し、支弁する。
- 業務の処理について、民法・商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負う。
- 単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。具体的には、自己の責任と負担で準備・調達する機械、設備、器材(簡易な工具を除く)または材料・資材で業務を処理するか、自ら行う企画または自己の有する専門的な技術・経験に基づいて業務を処理するか、どちらかに当たること。
そして告示の第3条には、こう書かれています。要件を形式的に満たしていても、法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたもので、真の目的が労働者派遣を業として行うことにあるときは、免れることができない。
契約書を整えるだけでは終わらない、という宣言です。
独立して働く人にとって、要件2の最後の項目は読む価値があります。自ら行う企画、または自分の専門的な技術・経験に基づいて処理していること。単価を上げる話と、法的な立ち位置を守る話が、ここで一本につながっています。
形Bの基準――労働者性
ひとりで直接受けている場合、37号告示は正面からは当たりません。代わりに使われるのが、**昭和60年12月19日の労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」**です。
この報告は、労働者かどうかを契約の形式ではなく実態で判断する、と最初に言い切っています。雇用契約か請負契約かという名前は関係ない。見るのは使用従属性、つまり「指揮監督下の労働」であるかと、「報酬が労務の対償か」の2つです。
指揮監督下の労働かどうかは、こう分解されます。
**1. 仕事の依頼・業務従事の指示に対する諾否の自由があるか。**断れるなら対等な当事者で、指揮監督関係を否定する重要な要素になる。断れないなら、指揮監督関係を推認させる要素になる。
**2. 業務遂行上の指揮監督があるか。**業務の内容と遂行方法について具体的な指揮命令を受けているか。ただし報告は、通常注文者が行う程度の指示にとどまる場合は指揮監督を受けているとは言えないとも書いています。ここが線です。「この論点を来週までに整理してください」は注文者の指示。「明日は9時に来て、まずこの資料の体裁を直して」は別のものです。
さらに、通常予定されている業務以外の業務に従事することがある場合は、一般的な指揮監督を受けているとの判断を補強する重要な要素とされています。契約書に書いていない雑務を当たり前に振られている状態は、ここに効きます。
**3. 拘束性があるか。**勤務場所と勤務時間が指定され、管理されているか。ただし業務の性質上や安全の確保上、必然的に指定される場合があるので、その指定が業務の性質によるものか、遂行を指揮命令する必要によるものかを見極める必要がある、とされています。客先のセキュリティ上、作業場所が限定されるのは前者です。
**4. 代替性があるか。**本人に代わって他の者が労務を提供できるか、自分の判断で補助者を使えるか。代替性が認められていれば、指揮監督関係を否定する要素のひとつになります。
報酬の側では、時間給を基礎として計算される、欠勤すると応分に控除される、残業に別の手当が出るといった性格が、使用従属性を補強するとされています。時間精算の常駐案件が神経質になる理由がここです。
これらで決まりきらない場合に、事業者性(機械・器具の負担、報酬の額が同種業務の正規従業員に比べて著しく高額か、業務上の損害に責任を負うか、独自の商号を使っているか)と、専属性の程度(他社の業務に従事することが制度上制約されていないか、報酬に固定給的・生活保障的な性格がないか)が加わります。
最後に、裁判例が労働者性を肯定する方向の補強事由として挙げているものも列挙されています。採用時の選考過程が正規従業員とほとんど同じ、報酬を給与所得として源泉徴収している、労働保険の適用対象にしている、服務規律を適用している、退職金制度や福利厚生を適用している。発注者が自分を労働者だと認識していると推認される事実です。
常駐の現場に当てはめる
上の基準を、実際の風景に当てはめると、こう読めます。
線を越えやすいサイン
- 勤怠システムで始業・終業を打刻し、遅刻や早退が管理されている(拘束性)
- 休みを取るのに「申請」と「承認」がいる(拘束性・企業秩序)
- 毎朝その日のタスクを振られ、進め方まで指示される(業務遂行上の指揮命令)
- 契約に書いていない業務が当たり前に回ってくる(一般的な指揮監督の補強)
- 報酬が時間単価で、稼働が減ると比例して減り、超過分に別建ての手当が出る(報酬の労務対償性)
- 客先の就業規則・服務規律がそのまま適用されている(企業秩序)
- 他社の仕事を受けることが事実上できない(専属性)
立場を保つ側の事実
- 依頼を断ったことが実際にある(諾否の自由)
- 進め方は自分で決め、報告は結果と進捗で行っている
- 成果や期間で報酬が決まっている
- 自分の道具、自分の商号、自分の責任で瑕疵に対応している(事業者性)
- 他社の仕事も並行して持っている(専属性の否定)
どれかひとつで決まるものではありません。報告は繰り返し「総合判断」と書いています。だからこそ、事実を一つずつ自分の側に寄せていくしかない。
線を越えていたら、何が起きるのか
形Aなら、これは主として発注者と、間に入っている会社の問題です。労働者派遣法の枠組みの問題であり、指導や、労働契約の申込みをしたとみなされる制度に発展することがあります。自分が罰せられる話ではありません。
形Bで自分が労働者と評価された場合、結果はもう少し複雑です。労働基準法の保護が及ぶので、労働時間や割増賃金の話ができるようになる一方で、フリーランス・事業者間取引適正化等法の適用はなくなります。形式は業務委託でも、実態として労働基準法上の労働者に当たる場合には労働関係法令が適用され、この法律は適用されない、というのが政府の整理です。新法の中身はフリーランス新法にまとめました。
守ってくれる法律が変わる。ここが本質です。「どちらが得か」ではなく、どちらの入口に立っているかを自分で把握していない状態が、いちばん危ない。
実務でやる5つ
- **契約書で、成果か時間かをはっきりさせる。**準委任なら善管注意義務のもとで役務を提供する、請負なら仕事の完成。どちらの型なのかを曖昧にしたまま常駐しない。型の違いは準委任と請負の違いに、契約書で見るべき場所は業務委託契約書に書きました。
- 報告の形を、指示待ちから進捗報告に変える。「次は何をしましょうか」を口癖にしない。「この論点をこう進めます」と先に置く。実務の中身であり、同時に記録になります。
- **常駐先の勤怠・服務ルールをそのまま受け入れない。**稼働の把握と、労働時間の管理は別ものです。告示も「単なる把握は除く」と書いています。作業時間の共有は必要でも、承認を要する休暇申請にする必要はありません。有給の扱いについては業務委託と有給休暇に整理しました。
- **裁量の記録を残す。**依頼を断った記録、進め方を自分で決めた提案書、成果物そのもの。争いになったとき効くのは記憶ではなく資料です。
- **取引先をひとつにしない。**専属性は判断要素のひとつであり、同時に交渉力そのものでもあります。複数の案件を掛け持ちすることは、実務上の分散でもあり、立場の防御でもあります。
まとめ
- 「偽装請負」は2つの別問題の総称。間に会社が入る形なら37号告示、ひとりで直接受けているなら労働者性。まず自分の形を確定させる。
- 37号告示は、労働力を自ら直接利用していること(業務遂行・労働時間・企業秩序の管理)と、独立して処理していること(資金・事業主としての責任・単なる肉体的労働力の提供でないこと)の両方を求める。形式を整えても、故意の偽装なら免れない。
- 労働者性は契約の名前ではなく実態で見る。諾否の自由、業務遂行上の指揮監督、拘束性、代替性、報酬の性格。補強要素として事業者性と専属性。
- 通常注文者が行う程度の指示は、指揮監督ではない。線はここにある。
- 労働者と評価されると保護の入口が労働関係法令に切り替わり、フリーランス新法の適用はなくなる。
- 守るのは契約書と、日々の事実の積み上げ。記録が立場をつくる。
実際の判断は、契約書と現場の実態を並べて総合的に行われます。自分の案件が気になるなら、契約書と業務の実態が分かる資料を持って、都道府県労働局の相談窓口や、フリーランス・トラブル110番などの公的な窓口に当ててください。ひとりで結論を出す領域ではありません。