平日の昼下がりに、知らない固定電話から着信がある。出ると税務署の名前を名乗られる。
このときに多くの人がやることは、電話を切ってから検索することです。そして「税務調査 個人事業主」と打ち込む。この記事はそこに置いてあります。
先に結論を言います。**その電話の時点では、まだ何も決まっていません。**そして、この後の数週間の動き方で、最終的に払う金額が変わります。
まず、それは調査なのか行政指導なのか
いちばん最初に確かめるのは、日程でも税理士でもありません。いま受けているのが「調査」なのか「行政指導」なのかです。
税務署は、税務調査とは別に、行政指導としての連絡もします。提出された申告書に計算誤り、転記誤り、記載漏れ、法令の適用誤りがあるのではないかと思われる場合に、自発的な見直しを要請し、必要に応じて修正申告書の自発的な提出を要請するというものです。
この違いが、そのまま金額に出ます。
このような行政指導に基づき、納税者の方が自主的に修正申告書を提出された場合には、延滞税は納付していただく場合がありますが、過少申告加算税は賦課されません。
行政指導に応じて自分で直せば、過少申告加算税はかからない。ここが決定的です。
そして国税庁は、こう明記しています。
税務署の担当者は、納税者の方に調査又は行政指導を行う際には、具体的な手続に入る前に、いずれに当たるのかを納税者の方に明示することとしています。
明示されることになっている、ということは、聞いていい、ということです。「これは調査ですか、行政指導ですか」。この一言を最初に確認してください。答えが行政指導なら、対応の設計がまるごと変わります。
(当初の申告が期限後だった場合は、行政指導に応じた場合でも無申告加算税が原則5%かかります。期限後申告から入っている人はここが別勘定です。)
加算税は3段階で上がる
調査だった場合。過少申告加算税の率は、いつ修正申告したかで3段階に分かれます。
| いつ修正申告したか | 過少申告加算税 |
|---|---|
| 調査の事前通知の前に自主的に | かからない |
| 事前通知の後、更正を予知する前 | 5%(新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は10%) |
| 調査を受けた後(更正を予知した後)、または更正処分を受けた | 10%(同じく超える部分は15%) |
同じ誤り、同じ金額でも、気づいた順番で0%・5%・10%に分かれる。
だから、電話を受けてから調査官が来るまでの期間には意味があります。**この間に自分で帳簿を洗い直して、誤りが見つかったら自分から修正申告する。**それだけで、10%になるはずだった加算税が5%で止まります。何もせずに待って、調査官に指摘されてから直すのがいちばん高い。
ここで動くために必要なのは、日頃の帳簿と書類の保存です。数週間で自分の過去3年分を点検できる状態かどうかが、そのまま率になって返ってきます。
帳簿を出さないと、さらに乗る
令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するもの(令和5年分以降)については、帳簿まわりの加重措置があります。
- 調査で帳簿の提示または提出を求められて応じなかった場合、および帳簿への売上金額の記載等が本来の金額の2分の1未満だった場合――過少申告加算税に**10%**を加算
- 帳簿への売上金額の記載等が本来の金額の3分の2未満だった場合――**5%**を加算
「帳簿を見せない」は、選択肢としては存在しますが、費用のかかる選択肢です。
そもそも、正当な理由がないのに帳簿書類等の提示・提出を拒んだり、虚偽の記載をした帳簿書類等を提示・提出した場合には、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されることがあります。正当な理由とは、たとえば災害等により滅失・毀損して物理的に困難な場合などが想定されているもので、「見せたくない」は入りません。
なお、帳簿が電子データの場合の出し方も決まっています。提示は画面上で調査担当者が確認し得る状態にして見せる。提出はプリントアウトを渡すか、調査担当者が持参した記録媒体へコピーするか、e-Tax・オンラインストレージサービス・メールで送るか。会計ソフトを使っているなら、画面を見せる形で済むことが多いはずです。
事前通知で伝えられること/伝えられないこと
実地の調査を行う場合は、原則として、調査開始前に相当の時間的余裕を置いて、電話等で通知されます。伝えられるのは、実地の調査を行う旨、開始する日時・場所、対象となる税目・課税期間、調査の目的など。複数人で来る場合は、代表者の氏名・所属官署に加えて臨場予定人数も連絡されます。
一方で、伝えられないものもあります。
- なぜ自分のところに調査が来るのか――調査の目的(提出された申告書の記載内容を確認するため、など)は通知事項ですが、実地の調査を行う理由は法令上の通知事項ではなく、説明されません。
- 書面での通知――事前通知は原則として電話による口頭で、要望に応じて内容を記載した書面を交付することはありません。
- 何日前に来るか――一律には示されていません。
そして、事前通知が行われない場合もあります。申告内容、過去の調査結果、事業内容などから、通知すると違法または不当な行為を容易にし、正確な課税標準等・税額等の把握を困難にするおそれ、その他調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると判断された場合です。この場合、通知しなかった理由は説明されませんし、事前通知をしないこと自体は不服申立てのできる処分に当たりません。
日程は、口頭で変更を申し出ていい
ここは知られていない割に効きます。
事前通知の際には、あらかじめ都合を尋ねることとされていて、申告業務や決算業務の繁閑にも配慮して調査開始日時を調整することとされています。通知の後でも、一時的な入院、親族の葬儀、業務上やむを得ない事情が生じた場合などは、申し出れば変更を協議してもらえます。例示以外でも、理由が合理的と考えられれば協議されます。
しかも、変更の申出の方法は法令で定められていないため、口頭で差し支えありません。書面を作る必要はない。
納品直前の週に指定されたなら、そう言えばいい。強がって受けて、準備なしで当日を迎えるほうが損です。
税理士に受けてもらうなら、事前の手続がいる
顧問の税理士がいる場合、事前通知を税理士に対して行ってもらうには、税務代理権限証書に納税者の同意が記載されている必要があります。記載がなければ、本人と税理士の双方に通知されます。
調査終了時の説明も同じ構造です。調査結果の内容の説明等は、原則として本人に対して行われます。税理士にのみ説明してほしい場合は、その旨を調査担当者に伝えるか、同意する書面を提出することが必要です。令和6年4月1日以後は、税務代理権限証書の様式に「調査の終了の際の手続に関する同意」欄が設けられました。
つまり、電話が鳴ってから税理士を探すのでは、この設計は間に合いません。税理士に頼むかどうかの判断は、調査が来る前にしておくべきものです。
なお、税理士ではない記帳補助者に立ち会ってもらうことは、原則できません。調査に立ち会って本人の代わりに主張・陳述するのは税務代理行為だからです。ただし、日頃その人が記帳事務を担当しているような場合には、調査を円滑に進めるために調査担当者が必要と認めた範囲で同席することはあります。
帳簿を預けるとき(留置き)
事務所にスペースがない、量が多くて時間がかかる、といった理由で、帳簿書類を預かって税務署内で調査を続けたいと言われることがあります。
これは承諾を得て行うもので、承諾なく強制的に留め置かれることはありません。留め置く必要がなくなったときは遅滞なく返還すべきこととされていて、業務で使う必要があるなどの理由で返還を求めた場合、特段の支障がない限り速やかに返還されます。
すぐ返せない事情がある場合は、引き続き預かる旨とその理由が説明されます。それに納得できない場合、税務署に所属する職員が留置きを行っているなら、税務署長への再調査の請求または国税不服審判所長への審査請求ができます。
終わり方――修正申告の勧奨に応じると、失うもの
調査の結果、更正決定等をすべきと認められる非違があると、その内容が説明され、原則として修正申告(または期限後申告)が勧奨されます。
**この勧奨に応じるかどうかは、任意の判断です。**応じなければ、調査結果に基づいて更正等の処分が行われますが、応じなかったからといって、応じた場合と比べて不利な取扱いを受けることは基本的にありません。
ただし、応じると失うものがあります。
なお、修正申告を行った場合には、更正の請求をすることはできますが、不服申立てをすることはできません。
修正申告は自分の意思による申告であって、税務署の処分ではありません。だから処分の取消しを求める不服申立てという手段が使えなくなる。一方、後から「その修正申告自体が誤りだった」と考える場合の更正の請求は、法定申告期限から原則5年以内であれば可能です。
説明された内容に納得しているなら、修正申告で早く終わらせるのは合理的です。納得していないのに、その場の空気で押印するのが最悪の選択になります。
一方、誤りが認められなければ「更正決定等をすべきと認められない」旨が書面で通知されます。そして原則として、その税目・課税期間について再調査は行われません。例外は、取引先の調査などで新たに得られた情報に照らして非違があると認めるときです。
独立した個人が、いまからできること
- **電話が来たら、まず「調査か行政指導か」を確認する。**行政指導なら、自主的に直せば過少申告加算税はかからない。
- **調査だと分かったら、来る前に自分で帳簿を洗う。**事前通知の後・更正を予知する前の修正申告は5%、予知後は10%。ここに数%分の価値がある。
- **日程は口頭で調整を申し出ていい。**準備できない日程で受けない。
- **税務代理権限証書の同意欄を、平時に確認しておく。**調査が始まってからでは設計が間に合わない。
- **帳簿を、いつでも画面で見せられる状態にしておく。**提示・提出に応じられない状態は、そのまま加算税の加重につながる。
まとめ
- 税務署からの連絡には調査と行政指導があり、担当者は手続に入る前にどちらかを明示することとされている。行政指導に応じた自主的な修正申告なら、過少申告加算税は賦課されない。
- 過少申告加算税は、事前通知前に自主的に修正申告=なし/事前通知後・更正を予知する前=5%/調査後・予知後または更正処分=10%(いずれも当初の申告納税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は+5ポイント)。
- 令和5年分以降は、**帳簿の不提示や売上の記載不足で+10%または+5%**が加算される。正当な理由なく提示・提出を拒めば罰則(1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)もある。
- 事前通知では日時・場所・税目・課税期間・目的などが伝えられる。なぜ来るのかの理由は説明されない。書面での通知交付もない。
- **日程変更の申出は口頭で差し支えない。**入院・葬儀・業務上やむを得ない事情のほか、理由が合理的なら協議される。
- 税理士に事前通知や結果説明を受けてもらうには、税務代理権限証書の同意記載が要る。調査が始まってからでは遅い。
- 帳簿の留置きは承諾制。返還されない場合は再調査の請求・審査請求ができる。
- 修正申告の勧奨は任意。応じると不服申立てはできなくなるが、更正の請求は法定申告期限から原則5年以内なら可能。
税務調査は、隠していた人が罰を受ける場ではなく、申告内容を確認する手続です。手続である以上、こちらにも決められた権利と、動ける余地があります。個別の判断は、必ず所轄の税務署と顧問の税理士に確認してください。
参考:国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」(令和8年7月一部改訂)/国税庁 タックスアンサー No.2026「確定申告を間違えたとき」(令和7年4月1日現在法令等)