「スマホ代って、何割くらい経費にしてますか」

独立したばかりの人から本当によく聞かれます。相手が欲しいのは「5割」「7割」という数字です。でも、この質問には正解の割合がありません。割合を当てる作業ではなく、区分の根拠をつくる作業だからです。

そして根拠づくりを詰めていくと、たいていの人は途中で気づきます。按分に頭を使うより、回線を分けてしまったほうが早い、と。

まず、法律がどう書いてあるか

自宅と仕事が混ざった支出は「家事関連費」と呼ばれます。根拠は所得税法45条と所得税法施行令96条です。

必要経費にできるのは、業務の遂行上必要であり、かつその必要な部分を明らかに区分できる金額に限られます。青色申告なら、取引の記録などに基づいて業務に直接必要であったことが明らかにされる部分、という書き方になります。

ここで効いてくるのは「明らかに区分できる」のほうです。何割が妥当かを法律は定めていません。定めているのは、説明できる形で分けてあるかです。

按分の根拠は、3つのどれかで作る

通信費は、電気代や家賃と違って使用量が数字で残ります。だから根拠を作りやすい支出です。

1. 通話・通信の実績から

キャリアの明細で、業務の通話時間や件数の比率を出します。いちばん強い根拠ですが、毎月やると心が折れます。代表的な1か月だけ集計して、その割合を年間に適用するのが現実的です。集計した月の明細をPDFで残しておけば、それが根拠資料になります。

2. 業務日数から

週5日稼働なら、5÷7で約71%。週4日なら約57%。休業日を除いた稼働日数を暦日数で割るだけです。単純ですが、説明が一行で終わるという強みがあります。

3. 使用時間から

1日24時間のうち、業務で使う時間が10時間なら10÷24で約42%。在宅で境目が曖昧な人には合いません。

どれを選んでもいい。大事なのは選んだ根拠を一度紙かファイルに書いて、毎年同じ基準で通すことです。年によって割合をふらつかせると、根拠がないと言っているのと同じになります。按分の考え方そのものは家事按分の記事で家賃・光熱費も含めて整理しました。

いちばん強いのは、按分しないこと

ここが本題です。

按分は「一部が業務」という状態を説明する技術です。だったら、一部ではなく全部を業務にすればいい

仕事用の回線を1本増やします。格安SIMなら音声つきで月1,000円台から、データ専用ならさらに下がる。デュアルSIM対応の端末なら、いま使っているスマホにeSIMを足すだけで2番号になります。端末を2台持つ必要すらありません。

そのうえで、

  • 名刺・請求書・契約書に載せる番号は、仕事用の番号に統一する
  • 取引先からの連絡は仕事用へ寄せる
  • 支払いは事業用の口座かカードから

こうすると、その回線の料金は100%が通信費になります。按分の計算も、根拠資料の保管も、税務調査で聞かれたときの説明も、まとめて消えます。

月1,000円台の追加コストで、毎年の説明コストをゼロにする。これは経費の話というより、時間の使い方の話です。私は口座もカードも同じ発想で分けています(事業用口座の記事)。

副産物もあります。仕事用の番号は、夜と休日に電源を落とせる。プライベートの番号に取引先が入っていると、それができません。

端末代は、通信費とは別の話

月々の料金と、機種代金は処理が違います。金額で3本の線が引かれます。

取得価額処理
10万円未満その年の必要経費(消耗品費など)に一括
10万円以上20万円未満一括償却資産として3年均等で償却できる
30万円未満青色申告なら少額減価償却資産の特例で一括(年間合計300万円まで)
上記を超える通常の減価償却

判定は取得価額で行います。事業割合を掛けたあとの金額ではありません。ここを勘違いすると、12万円の端末を「7割だから8.4万円、10万円未満で一括」と処理してしまう。判定は12万円で行い、按分は経費に落とす段階でかけます。

分割払いで買った場合も、判定は分割の月額ではなく本体価格の総額です。通信料と端末代が一体の請求書になっているなら、内訳を分けて記帳します。

少額減価償却資産の特例は青色申告限定で、適用期限は令和8年3月31日までです(少額減価償却資産の特例の記事)。20万円未満で3年均等を選ぶ道との使い分け、償却資産税の扱いの違いは減価償却の記事にまとめました。

なお10万円以上のスマートフォンを減価償却する場合、耐用年数はパソコン(4年)とは別の区分で判定します。機種と用途で見解が分かれる領域なので、10万円を超えたら顧問税理士に確認してください。

つまずきやすいところ

家族名義の回線

家族名義の契約でも、実際に事業主が負担していれば経費にできる余地はあります。ただし説明は重くなる。事業用の口座から引き落としになっていること、業務で使っている実態があることの両方が要ります。新しく引くなら最初から自分名義にしてください。これは手間ではなく事故予防です。

自宅のWi-Fi・光回線

家族も使うなら按分対象です。自宅で1人で働いていて、家族が別回線を使っているなら業務割合は上がります。ここも「同居人が何人いて、誰が使っているか」を一行書いておくだけで説明が通ります。

ポケットWi-Fi・テザリング

外での作業用に契約したポケットWi-Fiは、業務専用にしやすい支出です。持ち歩いて客先とカフェでしか使わないなら、全額を通信費で処理する説明が立ちます。

保存の形

キャリアのWeb明細は、いまや紙で届きません。電子取引でやりとりしたデータは、2024年1月から電子のまま保存する必要があります。印刷して綴じる運用は要件を満たしません(電子帳簿保存法の記事)。毎月PDFを落として月別フォルダに入れるだけの作業を、月初のルーティンにしてください。

通信料は課税仕入れなので、消費税の課税事業者は仕入税額控除のためにインボイスの保存も要ります。携帯各社は登録番号入りの明細を出しているので、そこも一緒に落としておく(インボイスの記事)。

記帳の落としどころ

  • 月々の通信料 → 通信費
  • 10万円未満の端末 → 消耗品費
  • 10万円以上の端末 → 工具器具備品として資産計上し、償却
  • 按分がある科目は、期末にまとめて家事按分の仕訳を1本

按分を毎月やる必要はありません。年末に1回、決めた割合で振り替えるだけで足ります。会計ソフトにはこの機能が入っています。


経費の相談で「何割までいけますか」と聞かれるたびに思うのは、問いの向きが逆だということです。

税務署が見ているのは割合の大小ではなく、その割合に理由があるかどうか。理由を作るのが面倒なら、理由が要らない状態にしてしまえばいい。仕事用の回線を1本引く、というのはそういう選択です。

どこまでが経費かという線引きの全体像は経費はどこまで認められるかの記事にまとめました。通信費はその中でも、自分の手で境界を引き直せる数少ない支出です。悩む時間があるなら、契約を1本足すほうが早い。

※本記事は2026年7月時点の情報に基づく整理です。制度の要件や適用期限は改正により変わります。個別の判定は国税庁の公表情報および顧問税理士でご確認ください。

参考:所得税法45条/所得税法施行令96条/国税庁「No.2210 やさしい必要経費の知識」「No.2100 減価償却のあらまし」「No.2106 定額法と定率法による減価償却」/中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例(適用期限 令和8年3月31日)/国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」「インボイス制度特設サイト」