フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)についての記事は、受け取る側から書かれたものがほとんどです。制度の全体像は、当社もフリーランス新法とはに受け手の目線で書きました。
この記事は、その逆側です。発注する側として、自社を法律に合わせようとしたときに何が起きたか。
当社は2026年7月に、自社の契約ひな形2本を1条ずつ点検しました。業務委託基本契約書(全25条)と人材紹介契約書(全19条)です。その作業で出た結論を、社内資料の記述に照らして書きます。
先に、いちばん重要なことを書きます。
最初にやるべきは、条文を読むことではない。「自社のどの契約が、義務のかかる側の契約なのか」を特定することである。
当社は、ここで一度つまずきました。
点検した2本は、義務がかかる側の契約ではなかった
当社の契約ひな形2本は、どちらも「クライアント企業 ⇄ 当社」の契約でした。当社が受注する側の契約です。
新法が義務を課すのは、そこではありません。「当社 ⇄ 登録している独立コンサルタント」の発注関係のほうです。
そして点検の結果、**その契約書と発注書が存在していませんでした。**契約書で担保できている義務は、点検した時点でゼロだったということです。
これは怠慢だったのかというと、少し違います。当社の契約ひな形には「登録コンサルタントとの契約側で別途手当てします」という注記が書いてありました。必要なことは認識されていたのに、着手されていなかった。
発注する側として合わせようとする会社は、まずここを確認してください。
- 自社が受注する側の契約と、自社が発注する側の契約が、両方そろっているか
- 発注する側の契約に、**発注のたびに出す書面(発注書)**が付いているか
ここが無いまま条文を読んでも、直す場所が見つかりません。
それでも「受注側の契約」を直すことになった理由
意外だったのはここです。義務がかかるのは発注側の契約なのに、受注側の契約——つまりクライアントとの契約——にも直す場所が出ました。
理由は単純です。クライアントから当社への条件が、当社から独立コンサルタントへの義務を履行できるかどうかを、そのまま決めてしまうからです。
当社は、これを「上流条項」と呼んで整理しました。具体的には4か所です。
上流1:支払サイト
当社のひな形は、支払方法の条項が空欄のままでした(記入例だけが入っている状態)。
**クライアントの支払サイトが長いと、当社は自己資金で独立コンサルタントに先払いすることになります。**新法は、報酬の支払期日を「受領日から60日以内のできる限り短い期間内」に定めることを求めているとされます。つまり、上流の入金より先に、下流の支払期日が来る月が生じます。
だから、**上流の支払サイトに契約で上限を切る必要がある。**これは法律の要求ではなく、義務を守れる資金繰りを作るための実務です。
上流2:検収・確認の期間
稼働報告をクライアントが確認する期間も、空欄でした。
**確認が延びるほど、当社側の受領と支払が滞ります。**ここに上限を置き、さらに「クライアントの確認遅延が、当社から独立コンサルタントへの支払期日に影響しない」という切断の条項を入れる必要がある、と整理しました。
上流3:料金改定の条項に、遡及の余地があった
当社のひな形には「甲乙協議のうえ料金を改定することができる」とだけ書いてありました。
**改定を将来分に限定する文言がありません。**読み方によっては遡っての値引きが可能に見えます。そして遡及値引きを受ければ、そのまま独立コンサルタントへの支払減額に直結します。新法が禁じているとされる「報酬の減額」に、自社が回ってしまう構造です。
上流4:解約予告の期間
ここが、点検でいちばん効いた発見でした。
当社のひな形は、中途解約の予告期間が空欄で、記入例が「1か月前」でした。一方、継続的な業務委託の解除・不更新については、少なくとも30日前までの予告が求められるとされています。
クライアントから1か月前に通知を受けた場合、当社が独立コンサルタントへ30日前予告を出す時間が、ほとんど残りません。
上流と下流の予告期間が同じだと、間に立つ側は必ず間に合わない。上流の予告期間を、下流より長く取る必要があります。
契約書では守れないものが、4つある
点検してもう一つ分かったのは、契約書を直しても守れない義務があるということです。当社の整理では4つでした。
1. 単価の決め方(買いたたきの回避)
当社のひな形は金額を別紙と個別契約に委ねていて、本文に単価がありません。つまり契約書では守れない。
守るのは運用のほうです。**単価をどう決めたかの協議記録を残す。**相場に照らして著しく低い額を一方的に定めていないことを、後から示せる状態にしておく。契約書ではなく記録の問題です。
2. 募集情報の表示
自社サイト、ランディングページ、記事、SNSの文面。登録者を募る表示が対象になり得ます。
虚偽の表示や誤解を与える表示だけでなく、**古い情報を放置することも問題になるとされています。**当社は、掲載中の単価や案件量に関する表現を洗い出して直す作業を、この点検から派生させました。契約書ではなく、掲載物の点検です。
なお、**個別のダイレクトメッセージが「広告等」に含まれるかは、当社では確認できていません。**社外の専門家への確認事項として残しています。
3. ハラスメント相談窓口
相談体制の整備が求められるとされていますが、当社には窓口が存在しませんでした。
ここは、窓口を作れば終わりではありませんでした。**独立コンサルタントの就業場所は、クライアントの現場です。**当社に窓口を置いても、クライアントの協力がなければ事実確認も配置の変更もできません。クライアントとの契約に協力の条項を入れる必要がある、というのが当社の整理です。
4. 育児・介護等への配慮
通院、時短、在宅といった申出を受ける窓口と、記録と、クライアントとの協議手順。当社には、契約にも運用にも存在しませんでした。
これも就業場所がクライアントの現場である以上、当社だけでは配慮を実行できません。
その前に:相手が対象かどうかを判定していなかった
点検の最後に、根本的な穴が見つかりました。
新法の保護の対象は、従業員を使用しない個人、または代表者以外に役員がなく従業員を使用しない法人とされています。
当社の契約ひな形は、登録コンサルタントを「個人事業主または法人」とだけ定義していて、**従業員の有無を問うていませんでした。**登録者の管理台帳にも判定の列がありませんでした。
つまり、誰に新法が適用されるのかを、当社が把握できない状態だったということです。
発注する側としては、ここが入口です。**契約書と台帳に、判定の項目を作る。**これが無いと、他のすべての義務が「誰に対して」なのか決まりません。
もう一つの法律との関係(当社は結論を出せていない)
2026年1月1日に、旧下請法が改正されて中小受託取引適正化法(取適法)になったとされています。資本金の基準に加えて従業員の基準が追加された、という解説が複数あります。
当社の資本金は1,000万円ちょうどです(2026年6月30日効力の変更登記)。役務提供の委託についての資本金基準は「1,000万円超」とされているため、現時点では非該当と整理し得るというのが当社の暫定的な見方です。
ただし、これは**当社の整理であって、専門家の確認を取れていません。**そして、増資して1,000万円を超えた瞬間に、両方の法律が重なって適用され得ます。資本政策と法令の適用が連動するということです。
当社の契約ひな形の注記は、改正前の法令名(下請代金支払遅延等防止法)のままでした。法令名が古いままの注記は、点検すればすぐ見つかります。
発注する側の、実務チェックリスト
当社が実際に点検して出た順番で並べます。
| # | 確認すること | 直す場所 |
|---|---|---|
| 1 | 自社が発注する側の契約書は存在するか | 契約書(新規作成) |
| 2 | 発注のたびに出す書面(給付内容・報酬額・支払期日等)があるか | 発注書の様式(新規作成) |
| 3 | 相手が対象事業者かを判定する項目が、契約書と台帳にあるか | 契約書+管理台帳 |
| 4 | 支払期日は受領日から起算して定めているか | 発注側の契約書 |
| 5 | 上流(クライアント)の支払サイトに上限が入っているか | 受注側の契約書 |
| 6 | 上流の検収・確認期間に上限と、下流への影響を切る条項があるか | 受注側の契約書 |
| 7 | 料金改定の条項が、将来分に限定されているか | 受注側の契約書 |
| 8 | 上流の解約予告期間が、下流への予告期間より長いか | 受注側の契約書 |
| 9 | 上流都合の仕様変更の費用を、誰が負担するか定めているか | 受注側の契約書 |
| 10 | 単価の決定過程の記録を残す運用があるか | 運用(記録) |
| 11 | 掲載中の募集情報が、現在の実態と合っているか | 掲載物の点検 |
| 12 | ハラスメント相談窓口と、上流の協力条項があるか | 運用+受注側の契約書 |
| 13 | 育児・介護等の申出窓口と、上流との協議手順があるか | 運用+受注側の契約書 |
**1〜3が土台です。**ここが無い状態で4以降を直しても、義務の主体も相手も決まっていないので、直した先がありません。
当社が、まだ決められていないこと
正直に書きます。この点検は、まだ完了していません。
- **改訂の条項案は起案しましたが、採否は決めていません。**どれを採るかで条番号が動くため、ひな形の本体は差し替えていません
- **社外の専門家への確認は、点検時点で完了していませんでした。**確認したい論点を13件に整理したところで止まっています
- **公的機関の原典資料を取得できていません。**条番号・日数・人数は、複数の二次情報が一致する範囲までで止めており、社内資料でも要確認の印を付けています
- **再委託の支払期日の特則を使うかどうかも、決めていません。**使う場合、上流の社名等を独立コンサルタントに明示する必要が生じ得るとされており、上流との秘密保持と衝突します。方針が決まらないと、支払条項が書けません
**この記事も、当社の暫定的な整理です。**法令の解釈として読まないでください。
受け取る側の人へ
最後に、受け取る側で読んでいる人向けに書きます。
発注する側は、悪意で整っていないわけではないことが多いです。当社がそうでした。契約書と発注書が追いついていなかっただけです。
だから、**条件を書面で求めることは、相手を責める行為ではありません。**むしろ、相手の実務が整うきっかけになります。
書面で確認すべき項目は、受け取る側の目線で業務委託契約書のチェックの順番に、途中で切られたときの話は業務委託を途中で切られたらに、間に会社が入ったときに金額がどう変わるかは発注側が払う金額と、自分が受け取る金額の差に書いてあります。
まとめ
- 発注する側が最初にやるのは条文を読むことではなく、自社のどの契約が義務のかかる側かの特定
- 当社は点検して、義務のかかる側の契約書と発注書がそもそも存在しないことが分かった
- 受注側の契約にも直す場所が出る。上流の条件が、下流への義務の履行可能性を決めるから
- 上流で直す4か所は、支払サイト/検収・確認期間/料金改定の遡及/解約予告の期間
- 上流と下流の解約予告が同じ長さだと、間に立つ側は必ず間に合わない
- 契約書では守れないものが4つ。単価決定の記録/募集情報の表示/ハラスメント窓口/育児・介護の配慮
- 最も根本の穴は、相手が対象事業者かを判定する項目が契約にも台帳にも無かったこと
- 当社の資本金は1,000万円ちょうど。もう一つの法律の該当性は未確認のまま。増資すると重なり得る
- **この点検は完了していない。**改訂の採否も、専門家の確認も、原典の取得も残っている
契約書を直す作業だと思って始めたのですが、実際には自社の取引の構造を見る作業でした。
そして分かったのは、間に立つ会社は、上流の条件をそのまま下流に流すと、必ずどこかで違反する側に回るということです。上流で止めなければ、止められません。
関連記事:フリーランス新法とは/業務委託を途中で切られたら/業務委託契約書のチェックの順番/発注側が払う金額と、自分が受け取る金額の差/準委任と請負の違い/偽装請負/下請法と独占禁止法/独立した人に仕事が渡るまでの、法律上の線引き/秘密保持契約
出典:本記事の記述は、当社(Never Red株式会社)が2026年7月23日に作成した社内資料「契約ひな形のフリーランス新法 適合ギャップ分析と運用チェックリスト」(義務別ギャップ17件・条項マッピング45行・運用チェックリスト・出典と要確認17件)および同日付の改訂条項ドラフトに基づきます。当社の資本金1,000万円(2026年6月30日効力)は変更登記の社内記録によります。法令の条番号・日数・適用範囲については、当社は公的機関の原典資料を取得できておらず、複数の二次情報が一致する範囲までで止めています。社内資料でも該当箇所に要確認の印を付けています。
※本記事は当社の実務経験と社内記録に基づく整理であり、法令の解釈を示すものではありません。実際の適用判断は、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の公表資料および弁護士にご確認ください。