会社を辞めてフリーランスになると、給料と一緒に「会社が半分払ってくれていた社会保険」も消えます。私はそのことを、頭では分かっていたつもりでした。それでも独立した翌月に届いた保険料の通知を見て、正直に言うと青ざめました。この記事は、フリーランスの社会保険を制度のとおりに細かく解説するものではありません。会社員から独立して、健康保険・年金・働けない時の備えで実際に慌てた私が、どの順番で何を考えればいいかという判断の地図を、当事者の言葉で渡します。

先に大事な前提を一つ。社会保険・税金のルールは改正されますし、有利・不利の分かれ目は所得や家族構成で大きく変わります。この記事は考え方の整理です。具体的な金額や手続きは、必ずお住まいの市区町村・年金事務所・税理士など、最新の公式情報で確認してください。

会社員のときは、社会保険の半分を会社が払っていた

最初に、当たり前すぎて見落としがちなことを書きます。会社員のあいだ、健康保険と厚生年金の保険料は、会社と自分で半分ずつ負担していました。給与明細に天引きで載っていた金額は、本当はその倍が払われていた、ということです。

独立すると、この「会社が払っていた半分」が丸ごと自分に乗ります。さらに会社員時代は、給料から自動で引かれて、自分で手続きをする場面はほとんどありませんでした。フリーランスになると、入る制度を選ぶのも、払うのも、期限を守るのも、全部こちらの仕事になる。お金の重さと、手間の重さが同時に来る——これが、私が独立直後にいちばん面食らった部分でした。

だから社会保険は、独立を決める前の単価の計算にも関わってきます。手取りで欲しい額だけを見て値付けすると、ここで足が出ます。値付けの土台については独立コンサルの単価の決め方に書いたので、あわせて読んでもらえると、なぜ社会保険を先に知っておくべきかが腑に落ちると思います。

フリーランスの社会保険は、大きく三つに分けて考える

社会保険と一言で言うと範囲が広くて混乱します。私は独立のとき、頭の中をこの三つに分けて、ようやく整理がつきました。

  1. 健康保険:病院にかかったときの自己負担を抑える仕組み。フリーランスは入り方を自分で選ぶ。
  2. 年金:会社員の厚生年金から、国民年金に切り替わる。将来の受給額や、上乗せの手段が変わる。
  3. 働けない時の備え:会社員にあった傷病手当金などが、フリーランスでは原則なくなる。ここを自分で補う必要がある。

順番に見ていきます。どれも「知らずに独立した人がつまずく」場所です。

健康保険は、国民健康保険か任意継続か——まず両方を比べる

会社を辞めて健康保険から外れると、主な選択肢は三つです。

  • 国民健康保険に入る:お住まいの市区町村が運営する制度。保険料は前年の所得などで決まります。
  • 前職の健康保険を任意継続する:退職前の健康保険を、原則として最長2年間そのまま続けられる仕組み。ただし、会社が払ってくれていた分も自分で負担するので、在職中の天引き額より高くなることが多いです。
  • 家族の扶養に入る:配偶者などの被扶養者になる方法。所得などの条件があります。

私がここで強く伝えたいのは、「国民健康保険」と「任意継続」は、必ず両方の金額を出して比べるということです。どちらが安いかは、前年の所得や自治体によって逆転します。私自身、なんとなく国保だと思い込んでいて、後から任意継続のほうが条件次第で違ったと知り、ちゃんと比べなかった自分を悔やみました。

★とくに注意したいのが、保険料は「前年の所得」で決まるという点です。独立1年目は、会社員時代の高い所得をもとに計算されるため、収入が落ちたタイミングで高い保険料の通知が届きます。私が青ざめたのは、まさにこれでした。「今は稼いでいないのに、なぜこの金額」という落とし穴です。

手続きには期限があるものもあります。退職してから慌てないよう、辞める前に、市区町村の窓口と前職の健康保険の両方に金額を確認しておくのがいちばん安全です。

年金は厚生年金から国民年金へ——「減る」前提で上乗せを考える

会社員のときは厚生年金に入っていましたが、フリーランスは国民年金に切り替わります。ここで知っておくべきなのは、一般論として、将来受け取れる年金は会社員のときより少なくなりやすいということです。厚生年金という上乗せの部分がなくなるからです。

これは脅しではなく、対策がある話です。国民年金に上乗せする手段がいくつか用意されています。

  • 付加年金:国民年金に少額を上乗せして納め、将来の受給を増やす仕組み。
  • 国民年金基金 / iDeCo(個人型確定拠出年金):自分で老後資金を積み立てる制度。掛金が所得控除の対象になる点も大きい。
  • 小規模企業共済:個人事業主や小規模法人の役員のための「退職金を自分で積む」制度。これも掛金が所得控除の対象になります。

ここで大事なのは、年金の上乗せと節税が、フリーランスでは同じ話になりやすいということです。掛金が控除になる制度は、将来の備えをしながら今の税負担も軽くできる。ただし、どれをいくら使うかは所得や資金繰りで変わるので、必ず最新の制度内容と上限額を公式情報・専門家で確認してください。私は独立直後、目の前の保険料に気を取られて年金の上乗せを後回しにしてしまい、これはもっと早く手を打てばよかったと思っています。

会社員にあった「働けない時の保障」は、自分で補う

これが、見落とされがちだけれど、いちばん大事かもしれません。会社員のときは、病気やケガで働けなくなったときの傷病手当金や、出産時の手当など、働けない期間を支える仕組みがありました。フリーランスが入る国民健康保険には、原則としてこれらがありません。

つまりフリーランスは、**「働けない=収入ゼロ」**という現実と、自分で向き合う必要があります。私はここを軽く見ていて、独立して一度体調を崩したときに、収入が止まる怖さを初めて肌で知りました。家族がいる人ほど、ここは早めに考えてほしい。

備え方は人それぞれですが、一般的には次のような選択肢があります。

  • 生活防衛資金を厚めに持つ:数か月分の生活費を、使わないお金として確保しておく。
  • 就業不能や医療をカバーする民間の保険を検討する:公的な保障の薄い部分を補う。
  • 収入源を一つに依存しない:一つの案件が止まっても、ゼロにならない状態をつくる。

どれが正解かは状況によりますが、「働けない月が来ても、すぐには詰まない」状態を先につくる——これが、フリーランスの社会保険を考えるうえでの本当のゴールだと、私は思っています。

私が今、独立する人に伝えている順番

最後に、ここまでを実際の手順にまとめます。私が独立のときにこの順番で動いていれば、あんなに慌てなかった、という反省そのものです。

  1. 辞める前に、健康保険の金額を両方出す:国民健康保険と任意継続、それぞれいくらになるかを市区町村と前職に確認し、安いほうを選ぶ。期限のある手続きも先に把握する。
  2. 年金の切り替えと、上乗せ・節税をセットで考える:国民年金への切り替えは必須。そのうえで、iDeCoや小規模企業共済など、備えと節税を兼ねる制度を、上限を確認しながら検討する。
  3. 働けない時の備えを先につくる:生活防衛資金と、必要なら民間の保障で、収入が止まったときの底を用意する。
  4. これらを全部、単価に織り込む:社会保険は「あとで払うコスト」ではなく、独立した瞬間から発生する固定費です。値付けの段階で計算に入れておく。

社会保険の手続きは、開業届やインボイスといった独立の入口の手続きと同じタイミングで一気に来ます。その入口の流れは個人事業主の開業届・インボイス入門に、確定申告でつまずかないための準備はフリーランス1年目の確定申告にまとめたので、足元から順に固めてください。

フリーランスの社会保険は、難しいというより「会社が代わりにやってくれていたことを、自分でやるようになるだけ」です。怖いのは、知らないまま独立して、保険料の通知で初めて気づくこと。私がそうでした。だから、辞める前に一度だけ数字を出してみてください。それだけで、独立してからの足元が、ぐっと安定します。