PMは「プロジェクトの成否に責任を持つ役割だ」と説明されます。

一方で、独立して入る人は**仕事の完成を約束する契約を結んでいません。**結んでいるのはたいてい準委任です。完成しなかったときに、契約上の責任を負う立場ではない。

では、フリーランスのPMは何を預かっているのか。

この問いを曖昧にしたまま入ると、起きることは1つです。**契約上は完成責任がないのに、実態としては完成責任を背負わされる。**しかも報酬の形は準委任のままなので、責任だけが増えます。

私はSAP導入のPMとしてファームを出て独立しました。この記事は、その立場が成立する条件と、成立しない現場の見分け方を、条文の線引きから書きます。

責任を3層に分ける

「責任」という言葉が、3つの違うものを指しています。まず分けます。

第1層|完成責任

仕事を完成させる義務。民法632条です。

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

**完成しなければ、報酬は原則として発生しません。**これがいちばん重い責任です。

そして請負には、契約不適合責任が効きます。559条が売買の規定を有償契約に準用しており、562条は買主の追完請求権をこう定めています。

引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。

**出したものが契約の内容に合っていなければ、直せと言われる。**これが完成責任の中身です。

第2層|遂行責任

準委任で負うのはこちらです。644条。

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

**完成ではなく、処理の質。**契約した内容を、その職業の人に期待される水準でやる義務です。

第3層|説明責任

契約の条文には出てきませんが、実務ではいちばん時間を使う層です。なぜそうしたか、いま何が起きているか、この先どうなるかを、決める人に説明する義務。

フリーランスのPMが実際に預かるのは、**第2層と第3層です。**第1層は、ふつうベンダーか元請けが負っています。

報酬の形が違う、という帰結

この線引きは、抽象的な話ではありません。切れたときにいくら受け取れるかが変わります。

請負の場合、634条にこう書かれています。

次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。

可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるとき」という条件が付きます。完成物の一部が独立して役に立たなければ、この条件を満たしません。

準委任の場合、648条3項です。

受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。二 委任が履行の中途で終了したとき。

**条件は「中途で終了したこと」だけ。**利益が出たかどうかを問われません。

途中で終わったとき条件
請負(634条)可分な部分が利益になる範囲で注文者が利益を受けること
準委任(648条3項)履行の割合に応じて中途終了したこと

**準委任のほうが、途中で切れたときに強い。**これは、独立の立場でPMをやることの数少ない構造的な利点です。切られたときの実務は業務委託を途中で切られたらにまとめました。

では、何を預かるのか

完成責任を負わないPMが預かるものを、私は1つに絞っています。

決める場を、決まる状態に保つこと。

プロジェクトが止まる原因は、技術的な難しさより、決まらないことであることが圧倒的に多い。誰が決めるか分からない、材料が揃っていない、決めたことが伝わっていない。この3つで止まります。

だから独立のPMがやるのは、こうです。

  1. 決裁のラインを1本に引き直す(誰が、何を、いつまでに決めるか)
  2. 決めるための材料を、決める人が読める形で出す
  3. 決まったことを、実行する側に届くところまで運ぶ

**完成させるのは実行側です。決まる状態を保つのがこちら。**この分担が明示されていれば、フリーランスのPMは成立します。

成立する現場の4条件

逆に言うと、次の4つが揃っていない現場では成立しません。私は入る前に必ず確認します。

条件1|発注側にオーナーが立っている。

決裁権を持つ人が、発注側の中に実在すること。ここが空席の現場に入ると、**PMが事実上のオーナーになります。**そして責任だけがこちらに来て、権限は来ません。「PMがいないので入ってほしい」という依頼は、この状態であることが多い。

条件2|完成責任の所在が、第三者から見て明確。

誰が完成を約束しているのか。ベンダーなのか、元請けなのか、複数社なのか。曖昧なまま入ると、空席が埋まっていない場所にPMが吸い込まれます。

条件3|権限の範囲が契約書に書いてある。

「何を決めてよいか」ではなく「何は決めてはいけないか」を書いておくと、揉めません。予算、要員、スコープの変更。この3つは、たいてい発注側の決裁事項です。

条件4|報告の相手が固定されている。

誰に報告するかが決まっていない現場は、指示の出どころも決まっていません。これは偽装請負のリスクに直結します。

契約書に書かせる3つの文言

上の条件を、契約の言葉にします。私が入れているのは3つです。

1. 業務の性質

本業務は、民法第656条に定める準委任とし、乙は業務の完成につき責任を負わない。

一文で足ります。これが無いと、後から「PMなんだから完成させるのが仕事でしょう」という会話が始まります。

2. 決定権限の留保

本プロジェクトにおけるスコープ、予算、要員に関する決定は甲が行う。乙は選択肢および推奨案の提示を行う。

「決めるのは発注側」と書いてあること自体が、こちらを守ります。

3. 指示の窓口

乙に対する業務上の連絡および依頼は、甲の定める責任者を通じて行う。

これは実務の効率のためでもあり、契約と実態のずれを防ぐためでもあります。この点は業務委託契約書の見るべき場所にも書きました。

契約と実態がずれる、いちばん多い形

PMという役割は、発注側の組織の中に深く入ります。だから、ずれます。

労働者派遣法2条1号は、労働者派遣をこう定義しています。

労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい…

条文が線を引いているのは、指揮命令です。独立している人は誰にも雇用されていないので、この定義そのものには当てはまりません。ただし実務では、次の状態が積み重なると、契約の型と実態がずれていきます。

  • 出退勤を発注側の勤怠システムで管理されている
  • 業務の依頼が、契約上の窓口を通らず複数の人から直接来る
  • 発注側の社員と同じ評価面談を受けている
  • 休暇の取得に発注側の承認が要る

**1つ2つなら現場の運用の問題ですが、全部そろうと契約の性質そのものが疑われます。**受ける側から先に整えるほうが早い。整理は準委任と請負の違い偽装請負に分けて書きました。

減額とやり直しに、法律が効く場面

もう1つ、PMの立場で知っておくと効く条文があります。フリーランス新法5条です。継続的な業務委託について、発注側の禁止行為が並んでいます。

一 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと。 二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。

そして2項に、こうあります。

二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後…に給付をやり直させること。

PMの現場で効くのは、2項2号のほうです。プロジェクトの前提が変わって、作った計画やドキュメントを全面的に作り直すことになる。これはよく起きます。こちらの責めに帰すべき事由がないのにやり直しをさせられ、報酬が据え置かれる形は、この条文が名指しで禁じている行為です。

言い方は「条文違反だ」ではなく、こうです。

前提が変わった分の工数は、当初の範囲に入っていません。追加の見積もりを出します。

法律を持ち出さなくても、**知っていると言い方が変わります。**新法の全体像はフリーランス新法とはに整理しました。

入る前に聞く5つの質問

最後に、私が初回の面談で必ず聞く5つを出します。1つでも答えが濁ったら、条件を詰めてから受けます。

  1. このプロジェクトの完成責任は、契約上どこにありますか。(ベンダーか、元請けか、発注側の内製か)
  2. スコープの変更を決めるのは、どなたですか。(役職名と氏名で)
  3. 私の前任は、なぜ抜けましたか。(空席の理由に、その現場の構造が出ます)
  4. 週次の報告は、誰に対して行いますか。(窓口の固定)
  5. いま、いちばん決まっていないことは何ですか。(決まっていないことを言える現場は、たいてい健全です)

5つ目が本命です。**「特にありません」と返ってくる現場のほうが、危ない。**大規模なプロジェクトで決まっていないことがゼロということは、起きません。見えていないだけです。

まとめ

  • 責任は3層。完成責任(請負・民法632条)/遂行責任(準委任・644条の善管注意義務)/説明責任。独立のPMが預かるのは第2層と第3層で、第1層はふつうベンダーか元請けが負う。
  • 途中で終わったときの報酬は、請負が634条(可分な部分で注文者が利益を受ける範囲)、準委任が648条3項(履行の割合)準委任のほうが条件が緩い。
  • 預かるものは1つ。**「決める場を、決まる状態に保つこと」。**完成させるのは実行側。
  • 成立の条件は4つ。発注側にオーナーがいる/完成責任の所在が明確/権限の範囲が契約書にある/報告の相手が固定されている。
  • 契約書に入れる文言は3つ。準委任である旨・決定権限は発注側にある旨・指示の窓口を通す旨。
  • 派遣法2条1号が線を引くのは指揮命令。勤怠管理・窓口を通らない依頼・評価面談・休暇の承認がそろうと、契約と実態がずれる。
  • フリーランス新法5条2項2号は、こちらの責めによらない「やり直し」を名指しで禁じている。前提が変わったら追加の見積もりを出す。

「PMは責任を持つ役だから、独立の立場では無理だ」という言い方を、私は正確ではないと思っています。

**負っているのは完成責任ではなく、決まる状態を保つ責任。**そこを言葉にできれば、この立場は成立します。曖昧にしたまま入ると、成立しません。

同じプロジェクト運営の側でも、PMOの値付けはまた別の構造で決まります。そちらはフリーランスのPMOは、何を売っているのかに分けて書きました。

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参考:民法559条・562条・632条・634条・643条・644条・648条・656条/労働者派遣法2条1号/特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)5条(いずれもe-Gov法令検索のAPIで条文原文を取得して引用、2026-08-13時点)

※本記事は条文と公表資料、および筆者自身の実務経験に基づく整理です。契約の性質決定や個別の契約の解釈は事情によって結論が変わるため、実際の判断は弁護士にご確認ください。