「独立すると年金が減るらしい」——独立を考える人がよく気にする話です。結論から言うと、確かに土台は細ります。ただし、その差を埋める上乗せの箱がいくつも用意されています。問題は減ること自体より、上乗せを何も設定しないまま数年が過ぎることです。会社員から独立し、その後法人化した立場で、老後資金を後回しにしないための順番を正直に整理します。

まず、なぜ「減る」のか

会社員のときは、年金が二階建てになっています。

  • 一階:国民年金(基礎年金) — 全国民共通の土台。
  • 二階:厚生年金 — 給与に応じて上乗せされ、保険料は会社と折半。

独立すると、この二階の厚生年金が外れて、一階の国民年金だけになります。国民年金の満額は年額で約80万円台(月額にすると7万円弱)。ここだけで老後を賄うのは現実的ではありません。だから「減る」というのは正しい認識です。ただし、下がった分を自分で積み増す仕組みが、税優遇つきで複数あります。

上乗せの箱は、大きく三つ+一つ

独立後に検討できる上乗せは、性格の違う箱に分かれます。全部やる必要はなく、掛金の負担と目的で順番をつけるのがコツです。

① 付加年金 — 一番小さく、一番効率がいい入口

国民年金に月400円を上乗せするだけの制度です。地味ですが、受け取り時は「200円 × 納めた月数」が毎年上乗せされる設計で、2年受給すれば元が取れる計算になります。掛金が小さく手続きも軽いので、まず入れておいて損のない入口です(後述の国民年金基金とは併用できない点だけ注意)。

② iDeCo(個人型確定拠出年金) — 掛金が全額所得控除

自分で積み立て、自分で運用して、原則60歳以降に受け取る制度です。独立後の最大の利点は、掛金が全額その年の所得控除になること。国民年金だけの人は上限が比較的大きく設定されています。運用は自己責任で元本保証ではありませんが、「税を軽くしながら老後資金を貯める」という一石二鳥の性格が魅力です。原則60歳まで引き出せないので、使う予定のないお金を回すのが前提になります。

③ 国民年金基金 — 二階部分を作り直すイメージ

厚生年金の代わりに、独立者向けに用意された二階建て。掛金が全額所得控除で、受け取り額があらかじめ決まっている(確定給付に近い)のが特徴です。iDeCoが「運用の成果次第」なのに対し、こちらは「決まった額を受け取れる」安心感がある反面、途中で自由に増減しにくい・脱退しにくいという硬さもあります。iDeCoと合算した掛金上限の枠内で、両者をどう配分するかを考えることになります。

+α 小規模企業共済 — 「退職金」を自分で作る箱

厳密には年金ではありませんが、独立者の老後設計では外せません。掛金が全額所得控除で、廃業・引退時にまとまった共済金を受け取れる、いわば自分用の退職金制度です。月1,000円から7万円まで柔軟に設定でき、契約者向けの貸付制度もあるため、流動性を残しつつ節税もしたい人が最初に検討しやすい箱です。

私がやっている順番

正解は人それぞれですが、判断の軸として私の順番を書いておきます。

  1. 付加年金 — まず入れる。負担が軽く効率がいいので迷う理由がない。
  2. 小規模企業共済 — 次に厚くする。全額控除で節税しつつ、いざというとき引き出せる柔軟性を残せるから。
  3. iDeCo — 手元資金に余裕が出てきたら。長く引き出せない前提で、余剰資金だけを回す。
  4. 国民年金基金 — 「受け取り額を確定させたい」気持ちが強いときに、iDeCoとの枠を配分して検討。

順番の背景にあるのは、流動性(引き出しやすさ)と節税と確実性のバランスです。独立初期は売上が読みにくいので、いきなり引き出せない箱に大きく張ると資金繰りが苦しくなります。まず軽い箱と柔軟な箱から固め、余裕が出たら長期の箱を厚くする——この順番が、私には無理がありませんでした。

正直な制約とつまずきどころ

  • どれも「所得があってこそ」の優遇 — 掛金の所得控除は、その年に十分な課税所得がある人ほど効きます。赤字や低所得の年に無理して満額を入れても、節税メリットは目減りします。売上に合わせて掛金を調整できる箱(小規模企業共済など)を軸にすると崩れにくい。
  • iDeCoと国民年金基金は上限を共有 — 二つを両方フルには積めません。合算の枠内での配分になります。
  • 引き出せない期間の長さを甘く見ない — iDeCoは原則60歳まで、国民年金基金も途中解約が基本できません。生活防衛資金(数ヶ月分の現金)を別に確保したうえで回すのが鉄則です。
  • 免除・猶予の履歴は将来に響く — 独立初期に国民年金保険料の納付が苦しいときは、未納で放置せず免除・猶予の申請を。手続きしておけば受給資格期間に算入され、後から追納もできます。

まとめ

独立で年金の土台が細るのは事実です。ただ、それは「減って終わり」ではなく、付加年金・iDeCo・国民年金基金・小規模企業共済という上乗せの箱を、自分の資金繰りに合わせて組み立てるという設計の問題です。全部を一度にやろうとせず、軽い箱・柔軟な箱から順に固めていく。老後資金は、独立して数年経ってから慌てるより、初期に小さくでも仕組みを作っておくほうがずっと楽になります。制度の詳細や上限額は改定されることがあるので、実際に始める前には最新の公式情報で確認してください。