「独立したら、もっと自由になれると思っていた」。そう感じて独立した人ほど、半年後にこの記事のような言葉を検索している気がします。フリーランスの不安、独立後の孤独、夜になると消えない焦り。検索窓にそういう言葉を打ち込んでいるなら、たぶん今、あなたは誰にも言えない種類のしんどさを抱えています。

私はアビームコンサルティング、アクセンチュアを経て独立し、今はNever Red株式会社という会社をやっています。専門はSAP(会社の会計・購買・在庫などを一本につないで動かす業務システム)の財務会計(FI=会社のお金そのものを扱う中核の領域)の導入です。経歴だけ見ると順調そうに見えるかもしれません。でも独立して一番こたえたのは、収入の不安定さでも、案件が切れる怖さでもありませんでした。孤独でした。この記事では、そのフリーランスの不安を「気合いで消す」という精神論ではなく、私が実際に付き合い方と仕組みでやわらげてきたやり方を、正直に書きます。

独立して一番こたえたのは、収入じゃなく孤独だった

独立する前、私が一番心配していたのはお金でした。案件が途切れたらどうしよう、来月の売上はどうなる。だから準備もしたし、いくらかの蓄えも作りました。ところが実際に独立してみると、想像していなかった方向から殴られました。誰とも話さない一日が、こんなにこたえるのか、と。

会社員のころは、隣の席に同僚がいました。煮詰まったら雑談できたし、判断に迷えば「これってどう思う?」と聞ける人がいた。会議の前後に交わす数分の世間話。あれが実は、心のバランスを保つ装置だったんだと、失ってから気づきました。独立後、平日の昼間に家で一人。チャットの通知音が一度も鳴らない日があると、「自分はもう、誰からも必要とされていないんじゃないか」という考えが、静かに、しつこく頭に居座るようになりました。仕事が回っていないわけではない。ただ、人の気配がないだけで、こうも足元が冷えるのかと驚きました。

そして厄介なのは、孤独が「不安」と手をつないでやってくることです。一人だと、小さな心配が増幅されます。お客さまからのメールの返信が一日遅れただけで、「何か失礼があったかな」「気を悪くさせたかな」と送信済みの文面を何度も読み返す。誰かに「考えすぎだよ」と一言言ってもらえれば収まる程度の不安が、相談相手がいないせいで、夜まで膨らんでいく。フリーランスの不安の正体は、案件やお金そのものよりも、「一人でそれを抱えている」という構造の方にあるのかもしれない。私はそう感じています。

フリーランスの不安には、名前のつく「正体」がある

不安というのは、輪郭がぼんやりしているほど大きく見えます。だから私が最初にやったのは、「自分が今、具体的に何を怖がっているのか」を紙に書き出すことでした。漠然とした不安に名前をつけると、少しだけ手で扱える大きさになります。

書き出してみると、私の不安はだいたい三つに分かれていました。ひとつは収入の不安。これは数字の問題なので、生活費の何ヶ月分の蓄えがあるか、今の案件はいつまで続くか、を具体的に計算すれば、怖さの輪郭が見えます。漠然と「お金が心配」なのと、「最悪、半年は持つ」と分かっているのとでは、夜の眠りが全然違いました。不安の重さは、貯金の額そのものより、「いつまで持つか把握しているか」で決まる。これは独立してから知ったことです。

二つ目は、評価の不安。「自分の仕事はちゃんと通用しているのか」という、誰も答えをくれない問いです。会社員なら上司や人事評価が一応の物差しをくれますが、独立すると、その物差しが消えます。次の依頼が来るかどうかだけが、唯一のあいまいな成績表になる。三つ目が、つながりの不安。冒頭に書いた孤独です。この三つは、効く手当てがそれぞれ違います。お金の不安に精神論で立ち向かっても効かないし、孤独に貯金は効かない。だから「不安」とひとくくりにせず、分けて、それぞれに合う手を打つ。これが出発点でした。お金まわりの不安については、フリーランス1年目の確定申告のように、手を動かして数字を見える形にすると、小さくなる部分もあります。

不安は「消す」ものではなく「付き合う」もの

正直に言います。フリーランスをやっている限り、不安はゼロにはなりません。何年やっても、案件が一区切りつく前後には、ふっと足元が冷たくなる感覚がやってきます。だから私は、ある時点で「消そう」とするのをやめました。消そうとすればするほど、消えない不安の方に意識が向いて、かえって大きくなる。消すのではなく、付き合う。同居する相手として扱う方が、ずっと楽になりました。

付き合い方として効いたのは、不安を感じる時間帯を観察することでした。私の場合、不安が一番ふくらむのは夜と、日曜の夕方です。逆に、朝、体を動かして仕事に手をつけている時間帯は、ほとんど不安を感じない。つまり私の不安は、暇と疲れと暗さに比例して湧いてくるらしい。だったら、夜に重い判断や将来の資金計算をしないと決めるだけで、被害はかなり減ります。「これは今考えることじゃない、朝の自分に渡そう」。そう自分に言って、先送りにする。逃げているようですが、夜の自分は判断力が落ちているので、これは逃げではなく、まともな運用だと思っています。

もうひとつ、私が手放したのは「ちゃんとしていなきゃ」という思い込みです。独立すると、誰も褒めてくれないし、誰も叱ってくれません。すると人は、自分で自分を際限なく追い詰めはじめます。もっとやらなきゃ、休んでいる場合じゃない、と。でも、自分を追い詰めることと成果は比例しません。むしろ、すり減った頭からはいい仕事は出ない。私自身、焦って詰め込んだ時期ほど、後で見返すと粗い仕事をしていました。不安と付き合うというのは、自分に少しだけ甘さを許可することでもあった。これは独立して何年か経って、ようやく腹に落ちた感覚です。

孤独をやわらげる「仕組み」を、意志に頼らず置く

孤独は、気持ちでどうにかしようとすると失敗します。「寂しいから誰かに連絡しよう」と思っても、落ち込んでいる時ほど、人に連絡するのは億劫になる。元気な時にしか人とつながれないなら、一番つながりたい時に限ってつながれない。だから私は、気分に左右されないように、つながりを仕組みとして先に置くことにしました。意志ではなく、段取りで孤独を防ぐ、という発想です。

具体的にやったことは、地味です。まず、朝の散歩を疑似的な通勤にしました。家を出て光を浴び、少し歩いて戻る。たったそれだけで、一日中こもり続ける日との心の状態が変わります。次に、月に何度か、必ず人と会う予定を先にカレンダーへ入れてしまう。仕事の打ち合わせでも、昔の同僚とのランチでもいい。「予定が入っているから会う」という構造にして、気分でその日に会う・会わないを決めないようにしました。それから、同じ立場の人とゆるくつながれる場所を一つ持つこと。同業の集まりでも、勉強会でも、SNSでもいい。同じ不安を持つ人が「あ、自分だけじゃなかったんだ」と分かるだけで、孤独はずいぶん軽くなります。

仕事の面でも、孤独をやわらげる工夫はできます。私は意識して、長く付き合える相手と仕事をするようにしました。単発で切れていく案件ばかりだと、毎回ゼロから関係を作る消耗がたまるし、相手が自分を信頼してくれているのかも毎回ふりだしに戻る。継続して声をかけてもらえる相手が数社あるだけで、「来月も自分には居場所がある」という感覚が生まれます。それは売上の安定以上に、心の支えになりました。営業が苦手で、その関係づくりの一歩が踏み出せないという人は、フリーランスの営業が怖い人へも読んでみてください。怖さの正体をほどく話を書いています。

それでも踏み出せない人へ、孤独は「準備できる」

ここまで読んで、「やっぱり独立は怖い」と感じた人もいると思います。孤独や不安がこわくて踏み出せない、その気持ちは本物です。否定しません。ただ、ひとつだけ伝えたいのは、フリーランスの孤独や不安は「予測できる」ものだ、ということです。予測できるものには、準備ができる。準備できていれば、来た時にパニックになりにくい。

独立して心が折れる人の多くは、お金が尽きたからではなく、「こんなはずじゃなかった」という不意打ちにやられます。順調だと思っていたのに、ある日ふいに孤独が襲ってきた、こんな感情は想像していなかった、というギャップに足をすくわれる。だったら最初から「半年後あたりに孤独がくるかもしれない」「自分は夜と日曜に弱るらしい」と知っておくだけで、来た時に「ああ、これか。聞いていたやつだ」と受け止められます。正体を知っているだけで、被害はずいぶん小さくなる。私はそう思っています。

そして、これは独立をすすめる話ではありません。会社の中にいながら自分の専門を深める道も、立派な選択です。ただ、もし踏み出すなら、一人で抱え込まないでください。私自身、独立してから一番悔やんでいるのは、しんどかった時期に、誰にも相談しなかったことです。強がって、一人で乗り越えようとして、ずいぶん遠回りをしました。不安は、口に出して分け合うだけで小さくなります。孤独は、誰かに「自分も同じだった」と言ってもらえた瞬間に、ふっと軽くなる。あなたが今感じている不安は、独立した人がだいたい通る道です。一人で抱えなくて、大丈夫です。これだけは、本気でそう思っています。