独立して2年目の秋、ふと気づきました。今年、健康診断を受けていない。

会社員のときは、放っておいても受けさせられていました。総務からメールが来て、日程が指定されて、行かないと催促が来る。バリウムを飲んで、面倒くさいと文句を言いながら、それでも毎年受けていた。あれは「受けていた」のではなく、「受けさせられていた」んだと、なくなってから理解しました。

フリーランスには、誰も催促してくれる人がいません。予約も、支払いも、日程を空けるのも全部自分。しかも仕事を1日止めれば、その分の売上は消える。だから優先順位がじりじり下がって、気づけば1年、2年と飛ぶ。 独立して体を壊す人の話を聞くたびに、これは他人事ではないと思います。

この記事は、フリーランスが健康診断をどう受けるかを、どこで受けるか・いくらかかるか・費用はどう扱われるのかの3点に分けて、私が調べて実際にやった順番で書きます。税務の扱いはご自身の状況によるので、最終的には税理士か税務署で確認してください。

まず知っておくべき事実:義務がない、そして経費にならない

フリーランスの健康診断には、会社員と決定的に違う点が2つあります。

1つ目。受ける義務がない。

会社が従業員に健康診断を受けさせるのは、法律上の義務だからです。会社は「やらないと違反になる」からやっている。ところが個人事業主が自分自身に健診を受けさせる義務は、そもそも法律のどこにも書かれていません。 誰も怒らないし、誰も困らない。困るのは、数年後の自分だけです。

2つ目。自分の健診費用は、原則として経費にならない。

ここは独立した人がよく引っかかるところです。「仕事のために健康を保つのだから、経費だろう」と考えたくなる。私も最初そう思いました。でも扱いは逆です。

  • 事業主本人の健康診断費用は、事業に直接関係しない個人の支出とみなされ、必要経費にはできないというのが原則の考え方です。義務づけられていないことも、経費性が認められない理由として説明されます。事業用の口座から払ってしまった場合は「事業主貸」で処理する、という整理になります。
  • 一方で、従業員を雇っている場合、その従業員の健診費用は福利厚生費として経費にできるとされています。ただし、全員が同じ内容を受けられること、常識の範囲の金額であること、事業主が医療機関に直接支払うことなど、条件がつきます。

つまり、同じ健康診断でも「自分の分」と「人の分」で扱いが真っ二つに割れる。 皮肉な話ですが、一人でやっているうちは、自分の体のためのお金がいちばん税務上の後ろ盾を持ちません。経費の線引き全般はフリーランスの経費はどこまでにまとめたので、あわせて読んでみてください。

なお、健康診断や人間ドックの費用は、医療費控除も原則として対象外です。「治療ではなく、健康状態を調べるためのもの」だからです。ただし例外の考え方があって、健診で異常が見つかって、そのまま治療を受けることになった場合には、その健診費用も医療費控除の対象に含めて考えられるという扱いが説明されています。ここは判断が分かれやすいところなので、該当しそうなら領収書を捨てずに残して、確定申告のタイミングで税理士に見せるのが確実です。

どこで受けるか:フリーランスの選択肢は3つ

会社の健診がない以上、自分で場所を選ぶことになります。大きく3つです。

① 自治体の健診(国民健康保険の特定健診など)

国民健康保険に入っている人には、自治体が実施する健診の枠があります。市区町村から案内が届いて、指定の医療機関で受けられる形式が一般的です。

  • 費用は無料か、数百円〜数千円程度の自己負担で受けられる自治体が多い。
  • ただし、主な対象は40歳以上という設計になっていることが多く、いわゆるメタボ健診(特定健康診査)の枠組みが中心です。
  • 39歳以下向けの健診を独自にやっている自治体もありますが、内容も費用も自治体ごとにバラバラです。

まずやるべきは、自分の市区町村のサイトで「健診」を調べること。 送られてくる封筒を捨てているだけで、実は無料の枠を持っていた、という人はかなりいます。私も最初の年、案内を「保険の広告か」と思って処理していました。あれは損でした。国保そのものの仕組みはフリーランスの国民健康保険に書いています。

② 医療機関の健診コースを自費で受ける

自治体の枠に当てはまらない、あるいは内容が薄いと感じるなら、病院やクリニックの健診コースを自分で予約して自費で受ける形です。

  • 会社員のときと同じような一般的な健診コースで、おおむね1万円前後から。
  • 人間ドックまで広げると、数万円の世界になります。オプションを積むほど上がる。
  • 金額は医療機関と内容で大きく変わるので、予約前に必ず総額を確認してください。

全額自腹で、経費にもならない。これが独立して健診が飛びやすい最大の理由です。**「1日つぶれて、数万円出て、しかも税金は1円も安くならない」**となれば、後回しにしたくなるのが人情でしょう。私もその引力を毎年感じます。

③ 国保組合や自治体の人間ドック補助を使う

見落とされがちなのがこれです。

  • 業種によっては国民健康保険組合があり、健診や人間ドックの補助を用意している場合があります。
  • 市区町村や国保でも、人間ドックの費用の一部を補助する制度を持っているところがあります。

条件も金額も自治体・組合ごとに違うので一般化はできませんが、「自分が入っている保険と自治体に、補助があるか」を一度だけ調べる価値は確実にあります。 一度調べれば、あとは毎年その枠を使うだけです。

私がやっている受け方

参考までに、私の運用を書きます。大したことはしていません。面倒くささを、仕組みで殴っているだけです。

  • 年に1回、健診の予約を「案件」として扱う。 仕事の予定と同じカレンダーに、先に日付を置いてしまう。空いたら入れる、では永久に空きません。
  • 繁忙期を外して、最初から日程を決めておく。 私は期の切れ目に寄せています。ここに置くと、案件の谷と重なって外しにくい。
  • 同じ場所で受け続ける。 毎年変えると、数値の推移という一番大事な情報が読めなくなる。去年と比べて何が動いたか、それが健診の値打ちです。
  • 費用は「税金が安くなるかどうか」で考えない。 ここは割り切りました。経費にならないことに文句を言っても現実は変わらないので、設備投資ではなく、事業の継続費用だと思って払うことにしています。

私にとって、これは節約する場所ではありません。一人でやっている以上、私が止まれば売上はゼロになる。 独立して失敗する要因を並べたときに、実は一番怖いのは案件が取れないことではなく、体が動かなくなることでした。代わりがいないというのは、そういうことです。

健診を飛ばすことの、本当のコスト

最後に、いちばん言いたいことを書きます。

フリーランスにとって、健康診断を飛ばすコストは「病気の発見が遅れる」だけではありません。フリーランスには、私生活の病気で働けなくなったときの補償が、ほとんどないという構造の問題があります。

会社員なら、私病で長期離脱しても健康保険から傷病手当金が出ます。ところが国民健康保険には、原則としてこの傷病手当金がありません。 倒れた瞬間に、治療費が出ていく一方で、収入が止まる。両側から殴られる形になる。業務中のケガや通勤災害についてはフリーランスの労災保険で特別加入の話を書きましたが、あれも私生活の病気は守ってくれません。

つまり、こういうことです。

  • 会社員の健診は、「早期発見できたらラッキー」の制度。 倒れても、後ろに傷病手当金がある。
  • フリーランスの健診は、「倒れないための唯一の防波堤」に近い。 後ろに何もないから、前で止めるしかない。

だから、立場としてはフリーランスのほうが健診の価値が高いはずなのに、義務もなく、補助も薄く、経費にもならない。 ここに制度と現実のねじれがあります。ねじれに文句を言っても始まらないので、私は**「誰も催促してくれないなら、自分で催促する仕組みを作る」**という結論にしました。カレンダーに置く。それだけです。

まとめ

  • フリーランスに健診の義務はない。 受けないと困るのは、数年後の自分だけ。
  • 事業主本人の健診費用は、原則として必要経費にならない(事業用口座から払ったら事業主貸)。従業員分は条件つきで福利厚生費になり得る。
  • 健診・人間ドック代は医療費控除も原則対象外。 ただし異常が見つかって治療につながった場合は、対象に含めて考えられる扱いがある。領収書は残す。
  • 受け方は①自治体の健診(主に40歳以上・安い) ②自費の健診コース(1万円前後〜) ③国保組合や自治体の人間ドック補助の3つ。まず自分の市区町村と加入先の制度を調べる。
  • 国保には傷病手当金がない。 倒れたときの受け皿が薄いぶん、フリーランスにとって健診の価値は会社員より高い。

税務の扱いはご自身の申告内容によりますし、自治体の健診や補助の中身は毎年変わります。この記事を入口にして、最後は市区町村のサイトと、顧問税理士か税務署で確認してください。

独立して増える「誰も言ってくれない手続き」の全体像は、フリーランスの社会保険フリーランスの年金にも書きました。健診は、その中でいちばん先送りされやすくて、いちばん取り返しがつかないやつです。カレンダーを開いて、日付を1つ置くところまで、今日やってしまってください。