独立して2年目の冬、仕事用のノートパソコンを28万円で買いました。「経費で落とせるから」と自分に言い聞かせて、少し良いものにしたのを覚えています。
年明けの確定申告で、そのままの金額を経費の欄に書こうとして手が止まりました。10万円を超える買い物は、その年に全額を経費にできるとは限らない。 減価償却という言葉は知っていましたが、自分の28万円がどの扱いになるのかが分からなかった。
結論から言うと、私はその年、特例を使えず3年に分けて落とすことになりました。 理由は後述しますが、知っていれば違う買い方ができた話です。この記事では、備品を買うときに必ず頭に浮かべてほしい3本のラインを整理します。制度には期限や細かい条件があるので、実際の処理は国税庁の最新情報と顧問税理士で確認してください。
そもそも、なぜ全額落とせないのか
税務の考え方はこうです。長く使うものは、使う年数に分けて費用にする。
10万円の椅子を5年使うなら、その価値は5年かけて減っていく。だから購入した年に全額を費用にするのではなく、年ごとに分けて計上する。これが減価償却です。パソコンの法定耐用年数は、一般的なものでおおむね4年とされています。
つまり原則で言えば、28万円のパソコンは4年に分けて経費になる。1年目に落とせるのは、購入月にもよりますが数万円です。「経費で落ちるから」と考えて買った私の当初の目算は、ここで崩れました。
ただし、原則には例外があります。金額によって、もっと簡単に処理できる道が用意されている。それが10万・20万・30万という3本のラインです。
ライン1:10万円未満なら、その年に全額
取得価額が10万円未満のものは、買った年に全額を経費にできます。 消耗品費などで処理して終わりです。減価償却の計算も、資産としての管理も要りません。
キーボード、モニター、外付けドライブ、椅子。この価格帯で収まるものは、悩む必要がありません。独立初期にいちばん多いのがここなので、まずこのラインだけ覚えておけば大半は片づきます。
ライン2:30万円未満なら、青色申告者は特例で全額
ここが本命です。青色申告をしている中小事業者は、取得価額30万円未満のものを、買った年に全額経費にできる特例があります。少額減価償却資産の特例と呼ばれるものです。
条件がいくつかあります。
- 青色申告であること。 白色申告では使えません。
- 年間の合計で300万円が上限。 1台ごとに30万円未満であっても、合計額に天井があります。
- 確定申告書に必要な明細を添えること。 使うと決めたら、書類の記載が要ります。
- 適用期限がある。 租税特別措置法の特例なので期限が定められており、これまで延長が繰り返されてきました。買う前に最新の状況を確認してください。
私が28万円のパソコンで一括計上できなかった理由は、まさに1つ目です。独立初年度を白色で通していて、その年もまだ青色に切り替えていなかった。 青色申告の承認申請を後回しにしていたツケが、思わぬところで出ました。青色の価値は65万円の控除だけではない、と痛感した出来事です。
ライン3:20万円未満なら、3年で均等に
もうひとつ、覚えておくと効く選択肢があります。取得価額が20万円未満なら、一括償却資産として3年で均等に経費にできるという扱いです。青色でなくても使えます。
「30万円の特例があるのに、なぜ3年に分ける道を選ぶのか」と思うかもしれません。理由が2つあります。
ひとつは、白色申告の人にとっては、これが最短の道だから。4年の減価償却より3年のほうが早く落とせます。
もうひとつは、償却資産税との関係です。事業用の資産を一定額以上持つと、自治体に申告して償却資産税がかかることがあります。一括償却資産として処理したものは、この対象から外れる扱いになっています。細かい話ですが、備品を積み上げていく人ほど効いてきます。
つまずきやすい罠:税込か、税抜か
判定額を見るときに、意外と間違えるのがここです。10万円・20万円・30万円という線を、税込で見るか税抜で見るかは、あなたの経理方式で決まります。
税抜経理をしているなら税抜金額で判定します。税込経理をしているなら税込金額です。そして、免税事業者は税込経理になるため、税込で判定することになります。
数字で見ると怖さが分かります。本体価格298,000円のパソコンは、税抜なら30万円未満で特例の射程に入りますが、税込にすると30万円を超えて、特例から外れる。「29万円台だから大丈夫」と思って買った1台が、判定基準の違いだけで4年償却になるわけです。
自分がどちらの経理方式かは、会計ソフトの設定と消費税の立場で決まっています。買う前に一度確認しておいてください。
もうひとつの罠:プライベート兼用なら按分が要る
パソコンを仕事だけに使っている人は、実際には多くありません。私用と兼ねているなら、事業で使っている割合だけが経費になります。
たとえば事業割合が7割なら、28万円のうち経費にできるのは19万6千円ぶん。この按分は、10万・20万・30万の判定そのものではなく、経費にできる金額のほうに効きます。 判定は購入額で行い、按分は計上額で行う、という順番です。
按分の考え方は家事按分に詳しく書きました。何がどこまで経費になるかの全体像は経費はどこまで認められるかを先に読むと迷いません。
私がいま、備品を買う前にやっていること
失敗を踏まえて、いまはこの順番で考えています。
- 10万円未満に収まらないか、まず見る。 収まるなら悩みが消えます。分割購入で無理に下げるのは危険なので、あくまで自然に収まる範囲で。
- 超えるなら、税込か税抜かを確認して30万円のラインとの距離を測る。 29万円台は要注意です。
- 青色申告か、300万円の枠が残っているかを確認する。 年末に大きな買い物が続いた年は、枠を先に使い切っていることがあります。
- その年の所得を見て、急いで落とすべきか判断する。 赤字の年に無理して一括計上しても、効果は薄い。利益の出ている年に寄せるほうが理にかなっています。
「経費で落とせる」は、支出がゼロになるという意味ではありません。 減るのは税金の一部であって、現金は出ていく。ここを取り違えると、必要のない買い物を増やすだけになります。私が28万円のパソコンで学んだのは、税制の知識より先にその順番でした。
なお、特例の適用期限や細かい要件は改正で動きます。金額の大きい買い物をする前には、国税庁の最新情報を確認し、判断に迷うときは顧問税理士に相談してください。