独立してから、いちばん多く聞かれた質問はこれです。
「結局、何の仕事をしているんですか」
会社員のときは、この質問に会社名で答えられました。社名を言えば、相手が業界の輪郭を勝手に埋めてくれる。独立するとそれが使えません。「コンサルタントです」と答えると、たいてい相手の顔に「で、何を?」と書いてあります。
6年やって分かったのは、この質問に答えられないうちは、単価も決められないということでした。自分が何を売っているのかを言葉にできないと、値段のつけようがない。
この記事では、実際に受けてきた案件を4つの型に分けて、それぞれで報酬がどう作られているかを分解します。
案件は、だいたい4つの型に落ち着く
会社ごと・テーマごとに違うように見えて、契約の形と稼働の入り方で分けると、案件は4種類に収まります。
| 型 | 期間の目安 | 稼働の入り方 | 報酬の形 | 単価が動く要因 |
|---|---|---|---|---|
| 常駐支援型 | 6か月〜数年 | 週3〜5日、相手のプロジェクトに入る | 月額(人月) | 稼働日数・役割の階層 |
| スポット支援型 | 数週間〜3か月 | 週1〜2日、論点単位 | 月額または回数単価 | 論点の難度・意思決定への近さ |
| 成果物納品型 | 1週間〜2か月 | 稼働時間は問われない | 一式(固定) | 成果物の再利用価値 |
| 顧問・アドバイザリー型 | 6か月〜(更新) | 月2〜4時間+随時 | 月額(低め・継続) | 相談の重さ・意思決定の頻度 |
私の6年でいちばん多かったのは常駐支援型です。SAPの導入・保守や決算の仕組みづくりのように、終わりが来るまで抜けられない仕事は、この形になります。
いちばん利益率が高かったのは成果物納品型でした。ただし数は続きません。「1回作って終わり」だから、次の月には売上がゼロに戻る。
そして精神的にいちばん効いたのが顧問型です。金額としては小さい。けれど入る月と入らない月がない。この違いは後で効いてきます。
報酬の性質は、契約類型が決めている
型の話は営業上の分け方です。お金の性質を決めているのは、契約が準委任か請負かのどちらかという点です。ここは民法にはっきり書いてあります。
まず委任。民法第643条。
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
そして第656条。
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
**「法律行為でない事務」=コンサルティングの実務は、ここに入ります。**これが準委任です。常駐支援・スポット支援・顧問は、ほぼ全部これになります。
一方の請負は第632条。
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
**「仕事を完成すること」を約束している。**成果物納品型はこちらです。
違いが最も生々しく出るのは、途中で終わったときです。準委任の側は民法第648条3項。
受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。 一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。 二 委任が履行の中途で終了したとき。
**やった分は請求できる。**プロジェクトが中止になっても、そこまでの稼働は消えません。
請負の側は民法第634条。
次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。
**「注文者が利益を受ける」部分に限られる。**8割書いた資料が、相手にとって使えない状態なら、そこは報酬になりません。この一語が、成果物納品型を受けるときの怖さです。
もうひとつ、準委任には第651条があります。
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
**いつでも切れる。**2項で「相手方に不利な時期」の解除には損害賠償の規定がありますが、原則は「いつでも」です。常駐で週5日入っている案件が来月止まる可能性は、条文の側から見ればずっと開いています。
契約書のどこを見るかは業務委託契約書、最低限みるべき場所に、両者の線引きは準委任と請負の違いと準委任契約とはに分けて書きました。
単価を決めているのは、稼働の量ではない
独立したての頃、私は単価を「自分の会社員時代の年収 ÷ 稼働月数 × 何割増し」で組み立てていました。これは間違いです。
そう考えると、値付けの根拠が自分の側の事情になる。相手にとっては何の理由にもなりません。
実際に単価を決めているのは、この一点です。
「この人が抜けたとき、代わりが見つかるまでに何か月かかるか」
代替までの時間が長いほど、単価は上がります。逆に言えば、募集をかければ2週間で埋まる役割は、どれだけ丁寧に働いても単価が上がりません。
だから単価を上げる方向は、原理的には3つしかない。
- **代替の効かない領域に寄せる。**私の場合はSAPのFI(会計)でした。会計の実務が分かり、かつ設定まで触れる人の母数が小さい。SAPコンサルの単価に相場感を分けて書いています。
- **意思決定に近い位置に入る。**手を動かす役割より、決める人の隣にいる役割のほうが替えが効きません。
- **その会社固有の事情を知っている状態を作る。**継続案件が強いのはこれです。半年入っていれば、社内の誰よりその領域に詳しくなっていることがある。
逆に、稼働時間を増やして総額を上げるのは単価を上げたことにならない。週3を週5にすれば売上は増えますが、上限にすぐ当たります。1週間は7日しかない。
このあたりの具体的な決め方は単価の決め方と単価を上げる、相場そのものは独立コンサルの単価相場にまとめました。
「食べている」の実体は、単価ではなく稼働率
ここがいちばん誤解されるところです。
独立の話になると単価の数字ばかりが出ますが、年間の収入を決めているのは単価ではなく、稼働していた月の数です。
単価が高くても、年に4か月空けば総額は落ちます。単価が中くらいでも12か月埋まっていれば上回る。掛け算のうち、変動が大きいほうは稼働月数です。
そして独立してみると分かるのは、空白月は必ず来るということでした。プロジェクトの終わりと次の始まりが、都合よく月初でつながることはまずない。契約が3月末で切れて、次が5月開始、という1か月が普通に生まれます。
この1か月に何をしているか。営業です。しかもその営業は無報酬です。会社員のときは、案件と案件のあいだも給料が出ていました。あれは会社が空白を吸収してくれていた、というだけの話でした。
だから私は、いまは3つの型を意図的に混ぜています。
- 常駐支援型を1本:収入の土台。ただし切れたときの穴も大きい
- 顧問型を複数:金額は小さいが、空白月を作らない
- 成果物納品型を随時:空いた時間に入れる。単発なので継続前提にしない
顧問型の月額が、常駐案件が切れた月の生活費を支えます。金額の大きさではなく、途切れなさで選んでいるということです。
仕事が途切れたときの動き方は仕事がないとき、案件を取りに行く手順は独立コンサルが案件を取る方法に書きました。
案件は、どこから来ているのか
6年ぶんの案件の入口を数えると、経路は3つでした。
**1. 前職・前々職からの紹介。**初年度はこれが大半です。一緒に働いた人が転職先で困っていて声がかかる、という形。ここには営業活動というものがありません。過去に一緒に働いた時間が、そのまま入口になっている。
**2. 案件を扱う事業者からの紹介。**登録しておくと案件情報が来る形です。空白月を埋めるには早い。ただし報酬の一部が事業者側に残る構造なので、同じ案件でも直接契約より手取りは下がります。ここは取引条件の問題であって善悪の話ではありません。
**3. 直接の依頼。**発信を見た人、過去のクライアントの担当者が別の会社に移った先、など。時間はかかりますが、単価の交渉余地がいちばん大きいのはこの経路です。
独立1年目は1と2でしのぎ、3を育てる。これが現実的な順番だと思っています。私自身、3が案件全体の主軸になるまでに3年かかりました。
営業が苦手だという感覚については営業が怖いに、条件を下げて受けてしまう場面については案件を安く受けるに分けています。
会社員の年収と、同じ数字で並べてはいけない
「独立したら収入がどれくらい変わるか」を考えるとき、月額 × 12 を会社員時代の年収と直接比べる人が多い。ここは並べられません。差し引かれるものが3つあります。
**1. 社会保険が全額自己負担になる。**会社員のときは労使折半でした。厚生年金・健康保険の半分を会社が払っていた部分が、そのまま自分に乗ります。詳しくは業務委託と社会保険とフリーランスの国民健康保険に。
**2. 非稼働時間が報酬にならない。**営業、見積、契約書の確認、請求書の発行、経理、確定申告。会社員のときは他の部署がやっていた仕事が、全部自分の時間になります。ここは売上を生みません。
**3. 有給がない。**休むと、その日の分がそのまま消えます。業務委託に有給はあるかで条文から整理しました。
一方で乗るものもあります。経費として落とせる範囲が変わること、そして単価の交渉が自分の裁量になること。手取りベースでどう変わるかはフリーランスの手取りに計算を置きました。
支払いの側は、法律で少し守られている
独立すると「取引条件は相手が決めるもの」と思い込みがちですが、支払いに関しては近年かなり強い規律が入りました。
フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、業務委託をする側に、給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めることを求めています。取引条件の明示義務もここに入っています。
取適法(中小受託取引適正化法・2026年1月に下請法から改称)でも、支払期日の規律は同じ形です。そして支払いが遅れた場合の遅延利息は年14.6%。
適用対象になるかどうかには要件があるので、そこはフリーランス新法と下請法から取適法へに分けて書きました。仮にどちらの対象にもならない取引でも、民法419条による遅延損害金は残ります(報酬が振り込まれないとき)。
**「言いにくいから黙って待つ」の反対側に、条文がある。**これは独立してから知って、いちばん助かった部類の知識でした。
明日からやれること
**1. 直近3年の案件を、4つの型に分類してみる。**常駐・スポット・成果物・顧問。どの型に偏っているかで、収入の途切れやすさが分かります。
2. 契約書を開いて、準委任か請負かを確認する。「業務委託契約書」というタイトルは両方に使われます。中途終了時に何が請求できるかが変わるので、ここは1本ずつ見てください。
**3. 自分の役割の「代替までの時間」を見積もる。**募集をかけて何週間で埋まるか。2週間で埋まる役割なら、単価交渉の前に寄せる領域を変えるほうが早い。
**4. 空白月をゼロにする手を1つ増やす。**顧問型でも、スポットでもいい。単価を10%上げるより、空白を1か月減らすほうが総額への効きが大きい局面はよくあります。
まとめ
- フリーランスのコンサルタントの案件は、常駐支援・スポット支援・成果物納品・顧問の4つの型にだいたい収まる。
- 報酬の性質を決めているのは契約類型。準委任(民法643条・656条)は履行の割合に応じて請求でき(648条3項)、請負(632条)は注文者が利益を受ける可分な部分に限られる(634条)。
- 準委任は各当事者がいつでも解除できる(651条)。常駐案件は構造として途切れうる。
- 単価を決めているのは稼働の量ではなく、代わりが見つかるまでの時間。上げる方向は「領域を寄せる/意思決定に近づく/固有事情を持つ」の3つ。
- 年間収入を左右するのは単価より稼働月数。空白月は必ず来るので、途切れない型を混ぜて土台にする。
- 案件の入口は過去の同僚からの紹介/案件を扱う事業者/直接依頼の3経路。1年目は前2つ、3年かけて3つ目を育てる。
- 会社員の年収とは並べられない。社会保険の全額負担・非稼働時間・有給なしが差し引かれる。
- 支払期日は受領日から起算して60日以内という規律がフリーランス新法・取適法の両方にある。遅延には年14.6%(適用対象外でも民法419条の年3%)。
冒頭の質問に、いまはこう答えています。「会社の会計の仕組みを、動く状態にする仕事です」。
コンサルタントという肩書きは、何をしているかを説明していない。説明していないものには値段がつかない。単価の話は、たいていその手前で止まっています。
関連記事:独立コンサルの単価相場/単価の決め方/単価を上げる/単価交渉/独立コンサルが案件を取る方法/仕事がないとき/準委任と請負の違い/業務委託契約書の見方/フリーランスの手取り/SAPコンサルの単価
参考:民法第632条・第634条・第643条・第648条・第651条・第656条(e-Gov法令検索)/特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(同)/中小受託取引適正化法(同)
※本記事は条文と公表資料、および筆者自身の実務経験に基づく整理です。契約の効力や報酬の請求可否は個別の文言と事情によって変わるため、実際の対応は弁護士・税理士にご確認ください。