独立して数年やってきて、いちばん危なかったのは、仕事が無い月ではありませんでした。
全部埋まっていた月です。
週5日、3社ぶんの稼働で予定表が真っ黒で、請求額も過去いちばん多くて、自分では「うまくいっている」と思っていました。そして3か月後、その月に何も種をまいていなかったツケが、そのまま空白として返ってきました。
このとき分かったのは、稼働率100%というのは達成ではなく、次の3か月ぶんの入口を作る時間をゼロにした状態だということです。
先に、この記事が扱わない範囲を書いておきます。
- 1件ごとの稼働日数をどう決めるか(週3か週5か、契約書での書かれ方、後から増やす・減らすときの言い方)は週3で受けるか、週5で受けるかに全部書きました。この記事では繰り返しません。
- 稼働が空きそうなときの予兆と手当ては独立コンサルの「谷の月」はどう作られるかに分けてあります。
この記事が扱うのは、その2つの間にある全案件を合計した稼働率と、その上限をどう決めるかだけです。契約1本の話でも、空いた月の話でもありません。
そもそも、その稼働率は何で割った数字か
「今月は稼働率100%です」と言うとき、多くの人(数年前の私を含めて)は、分子しか数えていません。埋まっている日数を数えて、それが週5日ぶんあったら100%と呼んでいる。
でも、率は割り算です。分母を決めていなければ、その数字は何も意味していません。
分母の置き方は、実質2つです。
- A:営業日を分母にする。 月20日(週5日×4週)を分母にして、そのうち何日が請求できる稼働かを見る。100%は20日全部が客先の仕事、という意味になります。
- B:自分が働くと決めた日数を分母にする。 たとえば月16日と先に決めて、そのうち何日が埋まっているかを見る。この場合の100%は16日です。
Aで100%を目指すと、営業も、請求書も、渡す資料の作り直しも、確定申告も、全部が「余った時間」でやることになります。余った時間は存在しないので、結果として全部が夜と週末に移動します。
Bは、最初から4日を自分の事業のために取ってあります。同じ「100%」でも、意味がまるで違う。
稼働率の問題は、数字が高いことではありません。分母を決めないまま高くしていることです。
なお、契約書の中に「稼働率60%」といった書き方で出てくることがありますが、あれは相手の1か月に対する占有率であって、この記事の分母とは別のものです。契約書側の読み方は稼働日数の記事の契約書の章にあります。ここで扱うのは、自分の1か月を分母にした、自分の側の数字です。
100%で最初に消えるのは、休みではない
週5日を全部埋めると、真っ先に消える作業があります。休みではありません。休みは、意外と後から取り返せます。
消えるのは、成果が出るまでに時間がかかる作業です。
- 過去に一緒に仕事をした人への近況連絡
- 打診が来たときの、受けないにしても返す返事
- 職務の棚卸しと、渡す資料の作り直し
- 自分が何をやる人なのかを、聞かれる前に説明できる形にしておくこと
- 見積もりと提案の型を作り直すこと
これらは、やらなくても今月の請求額は1円も減りません。減るのは3か月後です。
案件は、声をかけてから稼働が始まるまでにリードタイムがあります。私の実感では最短で3〜4週間、普通は2〜3か月。先方の予算の確保、体制の説明、契約の確認、着任日の調整。どれも自分の努力では短縮できません(この構造は谷の月の記事に詳しく書きました)。
つまり、入口を作る作業を今月やめると、穴が開くのは3か月後です。因果が3か月ずれているから、100%で回している最中は危なさがまったく体感できません。今月の数字は最高だからです。
請求できないが、必ず要る時間を足し算する
「じゃあ何時間残せばいいのか」を、感覚ではなく足し算で出します。
私が実際に使っている時間を、種類ごとに書き出すとこうなりました。
| やること | 1件あたり | 月に何件 |
|---|---|---|
| 過去の発注者・元同僚への近況連絡(売り込みは書かない) | 15分 | 4〜6件 |
| 打診への返信(受けない場合の「いつなら動ける」も含む) | 20分 | 2〜3件 |
| 初回の面談 | 60分+前後の準備30分 | 1〜2件 |
| 渡す資料(職務の棚卸し)の更新 | 90分 | 月1回 |
| 見積もりと提案の1枚 | 60分 | 1件 |
足すと、月におよそ6〜8時間。ここに請求書の作成、経費の整理、契約書の確認といった事務が月3〜4時間乗るので、合計で月10時間前後、つまり月1.5日ぶんです。
大事なのは合計値そのものではなく、この数字の性質です。
これは「暇なときにやる作業」の合計ではありません。稼働が埋まっていても発生し続ける固定費です。 固定費を「空いた時間でやる」と決めた瞬間、実行率はゼロに近づきます。
月20日のうち1.5日。率にすれば7〜8%。だから私は、受注の上限を実質90%あたりに置いている、というのが正確な言い方になります。
数字は人によって違って構いません。件数が多い人は増えるし、1社に長く入っている人は減ります。大事なのは、80%や90%という数字を誰かから借りてこないことです。自分の3か月ぶんの実績を足して出した数字でないと、忙しい月に守れません。
上限は、1件ごとではなく合計で持つ
ここが、稼働日数の話といちばん違うところです。
稼働日数は、契約1本ごとに決めるものです。週3で受けるか週5で入るか。相手がいて、交渉があって、契約書に書かれます。
稼働率の上限は、契約をまたいだ自分の側の数字です。相手はいません。交渉もありません。だから、誰も守ってくれない。
週3の案件を2本持っている人は、1本ずつ見れば「週3」ですが、合計は週6です。1本ごとの日数はどちらも適正で、合計だけが壊れている。この壊れ方は、契約書をどれだけ丁寧に読んでも見つかりません。契約の外側にしか無い数字だからです。
だから私は、稼働率だけは月末に、全案件を1枚に並べて見ています。案件ごとの管理表とは別に、合計の行を1つ持つ。それだけです。
複数社を持つこと自体の負荷(移動と切り替え)はコンサルの掛け持ちに書きました。ここで言いたいのは負荷の話ではなく、合計を見る場所を持っているかどうかです。
上限を守るのは、断る力ではない
上限を決めても、実際に依頼が来ると崩れます。ただ、これを「断れないから崩れる」と考えると、たいてい直りません。意志の問題にした瞬間、忙しい月に負けます。
私がやっているのは1つだけで、先に予定として入れておくことです。
空欄にしておくと、必ず埋まります。空欄は「空いている」の意味になり、予定は「埋まっている」の意味になる。カレンダーに、稼働と同じ見た目で先に入れる。それだけで残る確率がまるで変わりました。
依頼が来たときの実際の言い方——増やすとき、減らすとき、言ってはいけない言い方——は稼働日数の記事に、案件そのものを受けないと決めたときの伝え方は案件の断り方に書いてあります。この記事では繰り返しません。
100%の本当のコストは、単価が動かなくなること
見落としやすいのは、ここだと思っています。
単価を上げるには、材料が要ります。やった仕事を、次に売れる形に書き直すこと。どういう場面で呼ばれると成果が出るかを言語化すること。実績を、相手が判断できる粒度に整えること。
この材料を作る作業は、全部が非請求の時間です。 つまり、稼働率100%で回している人は、単価を上げるための時間を、いちばん最初に手放しています。
そして単価が動かないまま稼働だけが埋まると、収入を増やす方法が「もっと日数を入れる」しか残りません。上限が無いまま入れ続けると、次は上限を超えます。これが、忙しいのに単価だけ据え置きになる構造でした。
単価そのものの決め方は独立コンサルの単価の決め方に、上げにいく手順は単価を上げるにはに書きました。ここでは金額には踏み込みません。順番の話だけをしています。材料を作る時間を先に確保しないと、手順の話に入れない。
見る単位は、月ではなく四半期
最後に、運用の話をひとつ。
1か月だけ100%になるのは、問題ではありません。 立ち上げの月、山場の月、どうしても外せない時期。そういう月はあります。ここを毎月きっちり守ろうとすると、運用そのものが続きません。
危ないのは、3か月続いたときです。リードタイムが2〜3か月なので、3か月ぶんの入口を作らなかった結果が、4か月目以降に必ず出ます。
だから私は、月末にこれだけ見ています。
| 見る数字 | 危ないサイン |
|---|---|
| 今月、請求できない仕事に使った日数 | 自分で出した日数(私は1.5日)を下回っている |
| 直近3か月とも上限を超えていたか | 3か月連続なら赤 |
| 今月、新しく接点を持った人数 | ゼロ |
3つ目は谷の月の記事と同じ数字です。あちらは「空きそうか」を見るために、こちらは「埋まりすぎていないか」を見るために、同じ数字を反対側から使っています。予兆は、谷の側からも山の側からも同じ場所に出ます。
やる順番
- 稼働率の分母を決める(月の営業日で見るのか、自分で決めた日数で見るのか)
- 請求できないが必ず要る時間を、直近3か月の自分の実績で足し算する(借りてきた数字を使わない)
- その日数を引いた率を、受注の上限として1つだけ持つ
- 上限は契約ごとではなく合計で見る。案件の管理表に、合計の行を1つ足す
- 空けた日数を、カレンダーに稼働と同じ見た目で先に入れる(空欄は必ず埋まります)
- 月ではなく四半期で見る。3か月連続で超えていたときだけを赤にする
稼働率100%を目指していたころの私は、それを実力の証明だと思っていました。いまは、上限を自分で決められない状態の別名だと思っています。
埋めるのは簡単です。難しいのは、埋まる余地を残しておくことのほうでした。
いまの自分の稼働と入口の状態を整理しておきたい方は、30秒の独立準備度チェックから入ってみてください。登録は要りません。