独立して数年たつと、ある月だけ請求額が半分になることがあります。

案件を切られたわけではない。トラブルもない。ただ、動いていた3本のうち1本が終わり、次が始まるのが翌々月だった。それだけで、その月の売上は半分になります。

私はこれを「谷の月」と呼んでいます。そして何度か経験してから分かったのは、谷は空いた月に起きているのではなく、その2〜3か月前に作られているということでした。

仕事が切れてしまってからの立て直しについてはフリーランスで「仕事がない」が怖かった話に書きました。この記事は、その手前──まだ稼働は埋まっているが、谷の材料がもう揃っている時期の話です。

なぜ「空いてから動く」では間に合わないのか

理由は単純で、案件が始まるまでのリードタイムが長いからです。

私の実感では、声をかけてから実際に稼働が始まるまで、最短で3〜4週間、普通は2〜3か月かかります。先方の予算の確保、体制の説明、契約書のやりとり、着任日の調整。どれも自分の努力では短縮できません。

「暇になったら営業する」は、構造として間に合わない。 暇になった時点で動き始めても、埋まるのは2〜3か月後だからです。

だから見るべきは「いま空いているか」ではなく、**「いま、2〜3か月後の谷の材料が揃っていないか」**になります。

パターン1|フェーズの切れ目で、静かに終わる

いちばん多いのがこれです。構想や要件定義のフェーズで呼ばれ、設計・開発に移るところで役割が終わる。契約は満了しただけで、誰も悪くありません。

予兆はこう出ます。

  • 次フェーズの体制図を、見せてもらえない(作られてはいる)
  • 定例の招待から、自分だけ外れた回が出はじめる
  • 「このあとは社内でやります」という言い方が増える

これらは責められている合図ではなく、先方の中で自分の役割の終わりが決まった合図です。気づいた時点で、まだ2〜3か月あります。

打てる手は2つ。ひとつは、次フェーズで自分が入れる余地を自分から提案すること。設計フェーズのレビュー役、社内メンバーの立ち上げ支援など、週2〜3日の形にすれば通ることがあります。もうひとつは、終わりが決まったものとして受け入れ、その2〜3か月を次の接点に使うことです。どちらでもいいのですが、決めないまま最後の月まで来るのがいちばん悪い。

パターン2|相手の予算サイクルに、自分の契約が同期している

1社に大きく依存していると、その会社の期末が自分の谷になります。3月決算なら3月末、12月決算なら12月末。自分の都合ではなく、相手のカレンダーで切れるわけです。

予兆はこう出ます。

  • 期末の2〜3か月前になっても、来期の話がまったく出てこない
  • 更新面談の設定を打診しても、日程が決まらない
  • 「来期の枠を見てから」という言葉が出る

このパターンでいちばんやってはいけないのは、慌てて自分から値段を下げにいくことです。相手はまだ何も決めていない段階で、こちらが弱みを見せることになります。単価の話を先方から切り出された場合の対応は単価の減額を打診されたらに分けて書きました。

ここで打つべき手は、期末をまたぐ形に契約を作り直せないかを、期末の3か月前に相談することです。年度で切るのをやめて、稼働開始日から12か月にしてもらう。それだけで、相手の予算サイクルと自分の谷がずれます。

パターン3|谷の3か月前は、たいてい「山」だった

これが自分でいちばん痛かったパターンです。

稼働が満杯の月は、気持ちにも余裕がありません。過去の発注者からの近況の連絡に返事を後回しにし、紹介の話を「今は手が空いていないので」と断る。その月にやらなかったことが、3か月後の谷になって返ってきます。

私の場合、いちばん忙しかった月の3か月後が、そのまま空きました。因果は明確で、種をまく作業だけが山の月に落ちていたからです。

対策は精神論ではなく、山の月ほど時間を固定で確保することです。私は月に1度、半日だけ空けています。その半日でやるのは営業ではなく、以下だけです。

  • 過去に一緒に仕事をした人へ、近況を1〜2通送る(売り込みは書かない)
  • 断った話に「いまは難しいが、いつ頃なら動ける」と返す
  • 手が空く見込みの時期を、こちらから先に伝えておく

3つ目が効きます。「12月から週2日ほど空きます」と先に言っておくと、相手の側にも準備の時間ができます。案件の入口そのものの作り方は独立コンサルの案件の取り方にまとめました。

毎月末、5分で見る3つの数字

予兆を勘で拾うのは無理なので、私は月末に3つだけ見ています。

見る数字危ないサイン意味
契約の残り月数(いちばん短いもの)3か月を切っているリードタイムを下回った=すぐ動く
いちばん大きい取引先の売上構成比6割を超えている相手のカレンダーで自分の谷が決まる
今月、新しく接点を持った人数ゼロ3か月後の入口が作られていない

3つとも赤なら、その時点で谷はほぼ確定しています。ひとつだけ赤なら、まだ余裕があります。大事なのは数字の良し悪しではなく、月末に必ず見るという習慣のほうです。

残り月数で、打つ手の順番を変える

同じ「空きそう」でも、残り時間によって正しい手は違います。

残り3か月以上あるとき──いちばん単価の高い手が打てます。いま入っている案件の次フェーズを自分から提案する、範囲を広げる提案をする、条件のいい相談に返事をする。このタイミングでしか、値段を下げずに埋める手は打てません。

残り1〜2か月──接点の棚卸しに切り替えます。過去の発注者、元同僚、以前断った相手。連絡の内容は売り込みではなく状況共有で十分です。「12月から動けます」の一行が仕事になることは、実際にあります。

残り1か月を切ったとき──ここで初めて条件を緩めます。ただし緩める順番を先に決めておくこと。私の順番は、①稼働日数(週3日でも受ける)②働く場所や時間帯 ③範囲(得意でない領域も受ける)で、単価は最後です。一度下げた単価は、同じ相手には戻せません。相場の目安はコンサルの単価相場に書いています。

谷の月を、空白のままにしない

最後にひとつ。谷は完全には避けられません。私も避けきれていない。

ただ、谷の月にしかできない仕事は確実にあるということは言えます。書くこと、資料を作り直すこと、健康診断、会計の整理、次の領域の勉強。稼働が埋まっている月には絶対に手がつかないものばかりです。

私は谷が見えた時点で、その月に「稼働以外の予定」を先に入れてしまいます。空いた時間を不安で埋めるより、はるかにましだからです。ひとりで働く時間の重さそのものについては独立の孤独と壁打ちにも書きました。手元の資金の考え方はフリーランスの貯金に分けています。

やる順番

  1. いま動いている契約の終了日を全部書き出す(口頭の合意も含めて)
  2. いちばん短い残り月数が3か月を切っていないか確認する
  3. 最大取引先の構成比が6割を超えていないか確認する
  4. 超えているなら、期末をまたぐ契約に作り直せないかを期末の3か月前に相談する
  5. 山の月に、半日を固定で確保する(種まきは暇な月にはできない)
  6. 条件を緩める順番を、空く前に決めておく(単価は最後

谷が来てから慌てるのは、実力の問題ではありません。見る時期が3か月ずれているだけです。

いま自分がどの位置にいるかを整理しておきたい方は、30秒の独立準備度チェックから入ってみてください。登録は要りません。