独立してしばらくすると、打診が重なる月が来ます。

半年なにも来なかったのに、同じ週に2件。しかもどちらも週3日以上で、開始時期がほぼ同じ。片方しか受けられない。

このとき、多くの人が単価表を並べて、高いほうを選びます。私も最初はそうしました。そして、外しました。

先に結論を書きます。

単月で比べると単価が正しい。12か月で比べると、単価はいちばん弱い変数になる。

この記事は、片方を落とす場面の話です。両方を同時に回す掛け持ちの実務はフリーランスの掛け持ちに分けて書きました。ここでは、受けなかったほうが本当に消えるのかまで含めて見ます。

その前に:本当に択一なのかを、先に確かめる

軸の話に入る前に、一つだけ順番があります。択一だと思った案件が、実は択一でないことがあります。

確かめるのは3つです。

  1. 稼働日数は固定か — 「週5」と書いてあっても、実際は「月160時間相当」の意味であることがあります。週4と週1の形に割れるかを聞く
  2. 開始時期はずらせるか — 片方を1か月遅らせられるなら、択一ではなく順番の問題になります
  3. 役割の一部だけ受けられるか — 全工程ではなく、設計フェーズだけ、または立ち上げの2か月だけ、という切り出しが成立することがあります

この3つを聞かずに落とすと、**取れたはずの1件を自分で消します。**私は一度これをやりました。「週5常駐」と書いてあった案件が、聞いてみたら「月の後半に集中していれば形は問わない」でした。

聞いた結果、やはり択一だった。ここから先が本題です。

単価で選ぶと外す理由

単価の高いほうを取るのは、間違いではありません。間違うのは、比べている期間のほうです。

独立してからの収入は、1本の案件で決まりません。その案件が終わったときに、次の1本がどこから来るかで決まります。そして次の1本は、いま受けている案件の中から生まれることが圧倒的に多い。案件がどの経路で来るかはフリーコンサルの案件は、どこから来ているのかに整理しました。

だから、比べるのはこうなります。

比べ方見えるもの見えないもの
月額だけで比べる今月と来月の入金終わったあとの空白の長さ
契約期間の総額で比べるこの案件で得る総額次の案件の単価と着手時期
12か月で比べる総額と、次の1本の出やすさ(ここまで見れば、だいたい足りる)

稼働が空く月がどう作られるかは独立コンサルの「谷の月」はどう作られるかに書きました。単価差が月10万円でも、終わったあとに2か月空けば、その差は消えます。

軸1|終わったときに、実績として1行書けるか

いちばん先に見るのはここです。

案件が終わったあと、自分の経歴に何を書けるか。書けないなら、その案件は収入にはなっても、資産にはなりません。

書ける案件には、共通する形があります。

  • 範囲が言える — 「支援」ではなく、どの工程のどこからどこまでを持ったか
  • 規模が言える — 会社の規模、対象の部門数、関わった人数のいずれか
  • 動詞が言える — 決めた、設計した、詰めた、巻き取った。座っていた、ではない
  • 期間が言える — 何か月、週何日

逆に、書けなくなるのは次のような案件です。

  • 役割が「必要に応じて対応」としか書かれていない
  • 途中で他の人の穴埋めに回される前提が匂う
  • 守秘が強く、業界も規模も一切書けない

3つ目は判断が割れるところです。守秘が強い案件でも、業界名と規模帯までは一般化して書けることが多い。ただし、それが本当に書けるかは、契約を結ぶ前に確認しておかないと後から動かせません。実績を根拠として書ける形に落とす手順は独立コンサルの実績は、どう書けば根拠になるかに分けて書きました。

**単価が高くて、1行も書けない案件。**これがいちばん危ない組み合わせです。次の値付けの材料が増えないので、12か月後も同じ単価から始めることになります。単価が何で決まっているかは独立コンサルの単価の決め方に書いています。

軸2|次の打診が生まれる場所に、座れるか

案件の中には、次の話が生まれる席と、生まれない席があります。

生まれる席の条件は、私が見てきた限り3つです。

  1. 決める人の近くにいる — 部長・本部長クラスの会議に、資料の作り手としてではなく、意見を求められる立場で入るか
  2. 他の部門と接点がある — 経理だけ、購買だけ、で閉じない。横に広がる余地があるか
  3. 発注が単発でない会社である — 一度きりの調査ではなく、続きが構造的に出る仕事か

3つ目は、会社の性質の話です。当社は需要側の会社を46社実査して、独立した人への発注が出る会社の条件を整理しました。結論は独立コンサルに発注が出る会社は、どんな会社かに書いてあります。同じ働き方でも、次が出る会社と出ない会社があります。

ここで注意が一つ。「案件はいくらでもある」と言われた場合、その言葉自体は判断材料になりません。何を聞き返すかは「案件はいくらでもある」と言う会社に、本当に案件があるかに4項目でまとめました。

軸3|稼働の余白が、どれだけ残るか

週5で埋まる案件を取ると、次の打診を受ける口が閉じます。

これは精神論ではなく、単純な時間の話です。打診は、こちらの都合と関係なく来ます。来たときに「いまは無理です」としか言えないと、次の順番は他の人に回ります。

余白で見るのは、日数だけではありません。

見る場所なぜ見るか
週の稼働日数単純な空き。週3なら2日残る
曜日が固定か固定だと、残りの2日を売りやすい
常駐の要否移動時間は稼働に数えられないのに、時間は消える
稼働時間の帯日中が全部埋まると、打ち合わせを入れる時間が消える

3つ目は特に効きます。当社は常駐を前提にしない働き方を基本に置いていますが、それは理念の話ではなく、移動が余白を食うからです。

余白をどれだけ残すかに正解はありません。ただ、週5で1社に寄せるなら、その1社が切れたときに何が起きるかを先に数えておく必要があります。契約が更新されないと分かった月の動き方は業務委託の契約が更新されないと分かった月にやることに書きました。

軸4|途中で降りられるか

最後は、出口です。

2つの案件で迷うとき、**中途解約の条件が同じことはまずありません。**ここは契約書を見ないと分かりません。見る場所は3つです。

  1. 中途解約の予告期間 — 何日前に言えば降りられるか。相手からの通知は何日前か
  2. 最低契約期間 — 「3か月は解約不可」のような縛りがあるか
  3. 違約金の向き — 受注側にだけ違約金の定めがあり、発注側の中途解除に定めが無い契約書は、実際に存在します

3つ目を見落とすと、**降りられないほうを選んだことに、降りたくなってから気づきます。**契約書のどこをどの順で読むかは業務委託契約書、最低限みるべき場所に、切られた側の実務は業務委託を切られた日から30日で何をするかに分けてあります。

出口が緩いほうを選ぶ、という意味ではありません。出口の条件が違うのに、単価だけで比べていることが問題です。降りられない3か月と、1か月で降りられる3か月は、同じ3か月ではありません。

単価差は、12か月に引き伸ばして比べる

4つの軸を見たうえで、それでも単価差が大きい場合があります。そのときの比べ方を書きます。

やることは単純で、両方を12か月の枠に置き直します。

置き直す項目A案件B案件
月額高い低い
契約期間3か月(更新は未定)6か月と延長の前提あり
終了後に空きそうな月数
終わったあとに書ける実績
次の打診が出る見込み

**「?」を埋めないまま比べているうちは、単価差が大きく見えます。**埋めると、たいてい差は縮みます。私の場合、単月で15万円の差があった2案件を12か月に引き伸ばしたら、**低いほうが総額で上回りました。**理由は、高いほうが3か月で終わる前提だったからです。

これは一般則ではなく、私の1件の話です。逆の結果になることも当然あります。お伝えしたいのは結論ではなく、「?」を埋めてから比べるという順番のほうです。

単価そのものの相場観はコンサルの単価相場に、安く受けてしまう構造はなぜ最初の案件を安く受けてしまうのかに書いています。

決めきれないときに、相手へ聞く3つ

軸を並べても割り切れないときがあります。そのときは、判断材料が足りていないだけのことが多い。私が聞くのは3つです。

  1. 「この座組みは、どのくらいの期間を想定していますか」 — 期間の想定は、更新の意思とほぼ同じことを表します
  2. 「終わったあとに、私の関与をどこまで外に書いてよいですか」 — 実績として書ける範囲が、この場で決まります
  3. 「この件が終わったあと、続きになりそうなテーマはありますか」 — 次の席があるかが分かります

3つとも、**受ける前に聞いても失礼になりません。**むしろ、聞いてくる人のほうが真面目に検討していると受け取られます。私は聞かずに受けて、2つ目で後悔したことがあります。

断ったほうは、本当に消えるのか

最後に、いちばん怖い部分を書きます。

断ると次が来なくなる、という不安は、独立していれば誰にでもあります。**ただ、私の実感としては、断ったこと自体で関係が切れたことはほとんどありません。**切れたのは、断り方が曖昧だったときです。

具体的には、この2つが違いを作りました。

  • 理由を単価にしない — 「安いので」と言うと、次に来るのは値段の交渉だけになります。「稼働日数が合わない」「開始時期が合わない」と、範囲と期間で言う
  • いつなら空くかを添える — 「11月以降なら週2日空きます」と一行足すだけで、相手の台帳に日付が残ります

値段の話に持ち込まれたときの受け答えはフリーランスの単価交渉のしかたに、減額を打診された場面は単価の減額を打診されたらに書きました。

まとめ

  • 軸に入る前に、**本当に択一かを確かめる。**稼働日数・開始時期・役割の一部切り出しの3つを聞く
  • 単価で選んで外すのは、**比べている期間が単月だから。**12か月で並べ直す
  • 軸1:**終わったときに実績として1行書けるか。**範囲・規模・動詞・期間が言えるか
  • 軸2:**次の打診が生まれる席か。**決める人の近く、横に広がる、発注が単発でない会社か
  • 軸3:**稼働の余白がどれだけ残るか。**日数だけでなく、曜日の固定・常駐・時間帯も見る
  • 軸4:**途中で降りられるか。**予告期間・最低契約期間・違約金の向きは、2案件で必ず違う
  • 決めきれないときは3つ聞く。想定期間/実績として書ける範囲/続きのテーマ
  • 断るときは**理由を単価にせず、範囲と期間で言う。**いつなら空くかを一行添える

2つ重なるのは、独立してからは良い月です。問題は、良い月にいちばん短い物差しを使ってしまうことでした。

自分の稼働と単価の現在地を一度言葉にしておくと、重なった日の判断が速くなります。整理の入口として30秒の独立準備度チェックを置いています。登録は要りません。

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出典:案件の経路と、発注が継続的に出る会社の条件は、当社が2026年8月に需要側46社を実査して整理した内容(当社内部文書)に基づきます。受注側にのみ違約金の定めがあり発注側の中途解除に定めが無い契約書が実在する点は、当社が2026年8月に自社および取引先の契約ひな形を突き合わせた際の記録に基づきます。単価差を12か月に置き直した比較は、私個人の1件の経験であり、統計ではありません。

※本記事は当社の実務経験と社内記録に基づく整理です。契約条項の解釈と法の適用は個別の事情で結論が変わるため、実際の判断は弁護士にご確認ください。