e-Taxの話は、たいてい「電子化に付き合うのが面倒」という文脈で語られます。それだと動機になりません。
正しい動機はこれです。e-Taxで送るかどうかで、控除額が10万円変わる。
まず、55万円と65万円の差はe-Taxで決まる
青色申告特別控除には3段あります。国税庁 No.2072 の要件を素のまま書くと、こうです。
| 控除額 | 要件 |
|---|---|
| 10万円 | 55万円・65万円の要件に当たらない青色申告者 |
| 55万円 | 事業所得等がある/複式簿記で記帳/貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に提出 |
| 65万円 | 55万円の要件に加えて、①仕訳帳と総勘定元帳を電子帳簿保存(優良な電子帳簿)しているか、②提出期限までにe-Taxで送信するか、いずれか |
①の電子帳簿保存は、要件を満たす体制を作るのに手間がかかります。②は、いつもの申告を紙で出す代わりに送信するだけです。
**同じ10万円を取るのに、コストが釣り合っていない。**だから独立した個人は、ほぼ全員②を選ぶことになります。
送信方式は2つ。ただし片方は畳まれる
e-Taxで個人が送る方法は2つあります。
- マイナンバーカード方式:マイナンバーカードと、それを読めるスマートフォンまたはICカードリーダライタを使う。
- ID・パスワード方式:税務署で発行された利用者識別番号とパスワードで送る。カードもカードリーダも不要。
楽なのは後者です。しかし、ここに期限が入りました。
国税庁は ID・パスワード方式を「マイナンバーカードが普及するまでの暫定的な対応」と明記しています。そして令和7年9月にIDとパスワードの新規発行停止を告知しました。さらに e-Tax のFAQには、令和9年分の確定申告からは利用できなくなる予定と書かれています。
つまり、いま ID・パスワード方式で回している人にも終わりが見えている、ということです。すでに届出済みの人はしばらく使えますが、新しく取ることはできません。
だから、いま準備する人が向かう先はひとつです。**マイナンバーカード方式に寄せる。**スマートフォンに搭載したマイナンバーカードも利用できます。
準備するもの
送信の前日に慌てないための持ち物です。
- マイナンバーカード
- 利用者証明用電子証明書の暗証番号(数字4桁):ログインに使う
- 署名用電子証明書の暗証番号(英数字6〜16桁):送信時の電子署名に使う
- マイナンバーカード読取対応のスマートフォン、またはICカードリーダライタ
- 還付金の受取口座
- 帳簿から出した決算の数字(売上・経費・期末残高)
暗証番号は入力を続けて間違えるとロックします。署名用は5回、利用者証明用は3回が目安で、ロックしたら市区町村の窓口で解除するしかありません。窓口の営業時間は3月15日を待ってくれない。ここは申告直前ではなく、いま一度ログインして確かめておくところです。
手順を、つまずく順に
- 確定申告書等作成コーナーに入る。会計ソフトから直接送る場合はソフト側の送信機能を使います。
- マイナポータル連携をしておく。生命保険料控除や国民年金保険料の控除証明書などをまとめて取り込めます。ここを飛ばすと、紙の証明書を探す時間が戻ってきます。
- 青色申告決算書を作る。損益計算書と、貸借対照表。この貸借対照表が抜けていると、55万円・65万円の要件を外して10万円になります。会計ソフトで複式簿記の入力ができていれば自動で出ます。
- 申告書の第一表・第二表を埋める。所得控除はここ。国民健康保険料や国民年金保険料は社会保険料控除に入ります。
- 送信する。署名用の暗証番号を入れる場面です。
- 受信通知を確認する。ここまでやって初めて終わりです。
6を軽く見ないでください。「送信ボタンを押した」と「受け付けられた」は別です。受信通知(メッセージボックスに届く)に受付日時と受付番号が入って、はじめて期限内送信の証拠になります。
期限を1日過ぎると、10万円になる
55万円・65万円の控除は期限内提出が要件です。期限後申告になると、控除は10万円まで落ちます。
申告期間は原則として翌年2月16日から3月15日まで(土日祝なら次の開庁日)。3月15日の深夜に回線と格闘して受信通知が翌日になった、という事故がいちばん惜しい。**送信は最終日ではなく、その前の週に置く。**これは制度の話ではなく段取りの話です。
期限を過ぎたときに何が起きるかは、期限後申告になったときに別で整理しています。
会計ソフトから送るか、作成コーナーで作るか
日々の記帳を会計ソフトでやっているなら、ソフトからそのまま送信するほうが速いです。決算書と申告書の数字が二重入力にならず、転記ミスも消えます。
作成コーナーが向くのは、記帳をエクセルでやっている人や、事業以外の所得(給与や譲渡)が混ざる年です。画面の案内が丁寧なので、迷いにくい。
どちらでも控除の扱いは同じです。会計ソフトの選び方はフリーランスの会計ソフトに分けて書きました。
まとめ
- e-Taxは手間の話ではなく、控除10万円の分岐。
- 65万円の追加要件は「優良な電子帳簿保存」か「期限までのe-Tax送信」のいずれか。後者が圧倒的に軽い。
- ID・パスワード方式は新規発行が止まり、令和9年分の申告からは使えなくなる予定。マイナンバーカード方式に寄せる。
- 暗証番号のロックと、貸借対照表の有無と、受信通知の確認。事故はこの3か所で起きる。
制度と画面はほぼ毎年変わります。実際の手続きはe-Taxと国税庁の最新の案内で確認してください。