「うちの会社、独立支援制度があるらしい」

そう聞いて調べ始めた人が、まず引っかかるのはここだと思います。**使ったほうが得なのか、使うと何かに縛られるのか。**社内の資料にはたいてい良いことしか書いていないし、使った先輩の話は人によって正反対だったりします。

先に結論を書きます。

制度の中身を比べても答えは出ない。決まるのは「独立して最初の1年、売上が誰から来るか」の一点。

制度を使うと、その答えが**ほぼ自動的に「元の会社」になります。**それが良いか悪いかは、あなたが独立で何を取りにいくかで変わります。

「独立支援制度」と呼ばれているものは、3つに分かれる

同じ名前でも、中身がまるで違います。まずここを見分けないと、他人の体験談がまったく参考になりません。

中身会社側の狙い
A:割増退職金型退職金を上乗せする。それだけ。独立後の関係は残らない人員構成の調整。円満に送り出す
B:業務委託つなぎ型退職後、元の会社が一定期間、業務委託で仕事を出す抜けた戦力を、雇用の形を変えて確保しておく
C:のれん分け・社内起業型事業や顧客の一部を持って出る。資本や屋号が絡むこともある事業の分社化・多角化

コンサルや専門職の世界で「独立支援制度」と呼ばれているものは、圧倒的にBが多いというのが私の実感です。Aは制度というより退職条件の話ですし、Cは飲食や美容など事業単位が切り出しやすい業種に多い形です。

以下、主にBを前提に書きます。あなたの会社の制度がAだけなら、この記事の後半(自分で同じ効果を作る)から読んでください。

B型で、実際に何が起きるか

私が見てきた範囲で、B型を使った人の1年目はだいたい同じ形になります。

良いこと。

  • 独立初月から売上がある。営業ゼロで稼働が埋まる
  • 支払サイトも入金も、勝手が分かっている相手なので読める
  • 契約や請求の実務を、気心の知れた相手で一周できる
  • 「元○○」ではなく「今も仕事をしている」状態で名乗れる

これは本当に大きいです。独立直後にいちばん怖いのは収入の空白で、そこが埋まっている安心感は他に替えがききません。最初の入金は最短でも翌月末という現実を考えると、初速があることの価値は大きい。

そして、代償があります。

  • **単価が、前職の人件費の感覚に引きずられる。**発注側が「この人にいくら払っていたか」を知っている相手だからです
  • 稼働が埋まるので、営業をしない1年になる
  • 取引先が1社なので、その1社の都合で収入が全部動く
  • 元同僚が発注担当になり、条件の話がしにくくなる

いちばん効いてくるのは2つ目です。**1年目に営業をしなかった人は、2年目に営業の型を持っていません。**そして、B型の期間はたいてい1年か2年で終わります。

使った人と使わなかった人で、差が出たのは2年目だった

1年目を比べると、制度を使った人のほうが明らかに楽です。差が出るのは翌年でした。

制度を使った人(B型)使わなかった人
1年目の売上立ち上がりが早い。ほぼ埋まる谷がある。半年は不安定なことが多い
単価の根拠前職の社内コストが基準になりやすい外の相場を測って決めるしかない
取引先の数1社。多くて2社3社以上に散っていることが多い
営業の型1年目に作れていない嫌でも作ることになる
更新時の交渉力弱い。他に行き先がないある。断れる状態を作れている
2年目の景色「制度が切れる」ことが最大の論点になる単価と稼働の調整が論点になる

制度を使うと、独立の難所が1年後ろにずれるだけ、という言い方が近いかもしれません。ずらしたぶん、体力と貯金は増えているので、無駄ではありません。ただ、ずらしたことを忘れていると、2年目に同じ場所で殴られます。

私が見てきた中でうまく回っていた人は、制度を使いながら、1年目のうちに難所を先取りしていた人でした。具体的には次の2つをやっていました。

制度を使うと決めた人が、同時にやる2つ

1. 1年目のうちに、2社目を作る

これが全部です。制度で埋まっている期間は、営業の練習をする期間として使う。

稼働が埋まっているので、無理をする必要はありません。月に何時間か空けて、前職の周辺に独立を伝える。小さくても2社目の取引を作る。金額は小さくていい。「元の会社以外からも受注できた」という事実が1件あるだけで、2年目の景色が変わります。

理由は単純で、取引先が2社ある人は、条件の話ができるからです。1社しかない人は、更新の面談で減額を打診されても飲むしかありません。この構造は単価の減額を打診されたときにも書きましたが、断れる状態を持っているかどうかが、そのまま交渉力になります。

案件を取る動き方そのものは独立コンサルが案件を取るにはに整理しています。

2. 自分の単価の「外の相場」を測っておく

B型でいちばん静かに効いてくるのが、単価です。

発注側は、あなたに会社がいくら払っていたかを知っています。そこから逆算した額が提示されることが多い。**その額が高いか安いかを、あなたは判断できません。**外を見ていないからです。

だから、制度期間中に外の相場を測っておく。コンサル単価の相場単価の決め方に測り方を書きましたが、要は同じ領域の独立者が、直の取引でいくらで受けているかを何件か聞くことです。

制度期間中に測っておくと、期間が終わったときに**「次はこの額でお願いします」と言える根拠が手元にあります。**測っていないと、制度が切れた瞬間に、判断材料ゼロで値付けをやり直すことになります。

制度の条件で、先に確認する6項目

社内の説明資料には書いていないことが多い項目です。人事や上長に、独立を決める前に聞いてください。聞きにくいと感じるかもしれませんが、聞かずに入って後から知るほうがずっと面倒です。

確認することなぜ聞くか
期間 — 何か月・何年の約束か。延長・短縮の条件は出口の日付が分からないと、2社目を作る時期が決められない
専属の縛り — 他社の仕事を受けてよいか。事前届出は要るかここが「不可」だと、1年目に2社目を作れない
競業避止 — 退職後、どの範囲がどれだけの期間だめか独立の中身そのものを制限されることがある
単価の決め方と改定 — どう決まるか。途中で見直せるか「前職の給与ベース」で固定されると、上げる機会がない
終了の予告 — 何日前に言われるか。更新の判断はいつ予告が短いと、次を探す時間が取れない
実績の対外開示 — この仕事を実績として名乗れるか名乗れないと、1年ぶんの実績が外向きにゼロになる

このうち、「専属の縛り」と「実績の対外開示」の2つは、聞き落とされることが非常に多いです。どちらも、2年目の自分の手足を直接縛ります。

競業避止義務そのものの効き方は競業避止義務に、契約書側で見る場所は業務委託契約書、最低限みるべき場所に分けて書きました。**制度の案内文と、実際に締結する業務委託契約書の内容が食い違っていることもあります。**必ず契約書のほうを読んでください。

使わない選択が向いているのは、どういう人か

制度を使わないほうがいい場合もあります。私の見方では、次に当てはまる人です。

  • **前職と違う領域で勝負するつもりの人。**制度を使うと1年目が前職の延長になり、新しい領域の実績が積み上がりません
  • **単価を大きく上げたい人。**前職の給与を知っている相手が、その倍を出すことはまずありません
  • **すでに、前職以外の引き合いが具体的にある人。**初速の心配がないなら、制度の代償だけを払うことになります
  • **前職との関係が良くない人。**制度は関係の上に成り立つので、無理に使うと1年目の稼働が精神的にきつくなります

逆に言えば、貯金が薄い・引き合いがまだ無い・前職と円満という三拍子がそろっているなら、使わない理由はほとんどありません。独立のタイミングの考え方そのものは独立のタイミングに書きました。

制度が無い会社にいる人へ

ここまで読んで「うちにはそんな制度は無い」と思った人のほうが、たぶん多いと思います。私の会社にもありませんでした。

**制度が無くても、B型と同じ効果は自分で作れます。**やることは、退職の伝え方を変えるだけです。

  1. **辞めると伝える時期を、前倒しにする。**辞める直前ではなく、3〜6か月前に上長へ相談の形で伝える
  2. **「辞めたあとも、この部分は外から手伝えます」と具体的に言う。**抽象的な挨拶では何も起きません。工程や領域を名指しする
  3. **相手の困りごとから逆算する。**引き継ぎで穴が空く場所は、たいてい発注の理由になります
  4. **金額の話は、辞めた後にする。**在職中に単価交渉を始めると、話がこじれます

これで実際に業務委託の話が出てくることは、珍しくありません。会社側にとっても、抜ける戦力を一部でも確保できるほうが都合がいいからです。制度という名前が付いているかどうかの違いでしかありません。

ただし、在職中に顧客や同僚へ直接声をかけるのは別問題です。引き抜きや競業に当たる可能性があります。ここは感情ではなく契約の話なので、競業避止義務を先に読んでください。

制度の有無より、先に決めておくこと

最後に、制度の話から少しだけ離れます。

制度を使うかどうかで悩んでいる人の相談を受けると、実はもっと手前で決まっていないことが多いと感じます。

  • 何を売るのか(誰の、どの困りごとを引き受けるのか)
  • いくらで売るのか
  • 何をやらないと決めるのか

ここが決まっていれば、制度を使うかどうかは手段の選択になります。決まっていないと、制度に乗った瞬間に、**制度のほうが自分の商品を決めてしまいます。**前職の延長で1年働き、2年目に「自分は何を売る人なんだろう」と考え始める。これがいちばん多いつまずき方でした。

独立の前提条件の話はコンサルの独立は、何が揃えば踏み出せるのかに、準備の順番はコンサルの独立準備は何からに整理しています。

まとめ

  • 独立支援制度は3つに分かれる。**割増退職金型/業務委託つなぎ型/のれん分け型。**専門職で多いのは2つ目
  • 制度を使うかどうかで決まるのは、独立1年目の売上が誰から来るかの一点
  • 使うと初速は出る。代わりに単価が前職基準に引きずられ、営業をしない1年になり、取引先が1社に固定される
  • 差が出るのは1年目ではなく**2年目。**単価の根拠・取引先の数・営業の型・更新時の交渉力の4か所
  • 使うなら同時に2つやる。1年目のうちに2社目を作る/外の相場を測っておく
  • 条件は6つ確認する。期間/専属の縛り/競業避止/単価の決め方と改定/終了の予告/実績の対外開示
  • 専属の縛りと実績の開示可否は、聞き落とされやすく、2年目に直接効く
  • 制度が無くても同じ効果は作れる。早めに伝える/手伝える範囲を具体的に言う/金額は辞めた後
  • 制度より手前に、何を売るか・いくらで売るか・何をやらないかを決めておく

制度そのものに良いも悪いもありません。**時間を買う仕組みです。**買った時間で何をしたかで、2年目の景色が決まります。

私が見てきた中で、制度を使って伸びた人は、買った時間を営業の練習に使った人でした。使って詰まった人は、買った時間を休息に使った人です。1年目が楽なぶん、それは自然なことでもあります。だからこそ、最初に決めておく価値があります。

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出典:本記事の制度の分類と「2年目に差が出る場所」は、筆者が独立後6年のあいだに見聞きした事例と当社の社内記録に基づく整理であり、統計調査ではありません。制度の名称・中身・条件は会社ごとにまったく異なります。

※実際の判断にあたっては、必ず自社の制度規程と、締結する業務委託契約書の条文をご確認ください。競業避止義務の有効性や範囲の判断は個別事情で結論が変わるため、弁護士にご相談ください。