独立を迷っている人と話していると、最後にほぼ必ずこの質問が出ます。

「うまくいかなかったとき、会社員に戻れますか」

順番として、これは正しい確認だと思います。戻り道があるかどうかで、独立に踏み出す高さはまったく変わるからです。戻り道が無いと思っている人は、踏み出せないか、踏み出したあとに危ない受け方をします。

この記事は、その一点だけを扱います。採用する側は、一度独立した人の経歴をどう見るのか。

先に断っておくと、割合の数字は出しません。「独立から会社員に戻った人が何%」という統計を、私は信頼できる形で見たことがありません。書けるのは、当社が採る側として書類を開いてきた範囲と、独立した知人が実際に戻るときに何で詰まったかの範囲です。そこから外れることは書きません。

先に結論|分かれ目は「独立していたこと」ではない

書類の段階で落ちる人と、そのまま話が進む人がいます。両者を並べたときに残った差は、独立していた事実そのものではありませんでした。

独立していた期間を、職歴として説明できる形にしてあるかどうか。

これだけです。同じ3年の独立でも、「何をやっていたか一行で答えられない3年」と「4社の名前と、それぞれで自分が決めた範囲を言える3年」では、開いた側から見て別物になります。前者は空白として処理され、後者は職歴として読まれます。

逆に言うと、独立が短くても長くても、ここが作れていれば戻り道は残ります。作れていなければ、独立が1年でも空白扱いになります。

採る側が、独立経験者の書類で最初に見る3か所

当社で業務委託・正社員の双方の書類を見てきて、独立経験のある方の場合に先に目が行くのは、だいたい次の3か所です。

1つめ|期間が「連続」しているか、「切れ目」があるか

独立していた期間に、稼働が連続していたかどうかです。ここは実績の大小より、切れ目の有無を見ます。切れ目があること自体は減点ではありません。減点になるのは、切れ目があるのに書類上は連続しているように書いてあるときです。突き合わせると必ず出てくるので、その一点で信用の問題に変わります。

書くなら、空いた期間は空いたと書いて、そこで何をしたかを一行足すほうが強い。実際、当社が話を進めた方は全員そう書いていました。

2つめ|「やった」ではなく「決めた」が書いてあるか

独立している間の仕事は、外から見ると輪郭がぼやけます。会社名でも役職でもなく、契約の範囲でしか区切られていないからです。だから開いた側は、その案件で何をどこまで決めていたかを探します。

「基幹システムの導入支援」では、何も分かりません。「移行方針を決め、旧システムの停止日を業務側と合意した」なら、決めた範囲が分かります。会社員時代の経歴より、ここは独立期間のほうが書きやすいはずです。決裁の当事者になっていた確率が高いからです。書き方そのものはスキルシートの書き方に分けて書きました。

3つめ|「辞めた理由」ではなく「戻る理由」が言えるか

これがいちばん効きます。採る側が確かめたいのは、独立に失敗したかどうかではありません。入ったあと、また出ていかないかです。

「うまくいかなかったので」だけだと、条件が悪くなればまた出る、と読まれます。逆に「一人では届かない規模の仕事をやりたい」「腰を据えて事業側を持ちたい」のように、組織に入らないと手に入らないものを名指しできる人は、そこで止まりません。理由が本当かどうかは、その場では誰にも分かりません。ただ、言語化してあるかどうかは分かります。

独立期間の長さで、見え方が変わる線が1本ある

当社が見た範囲で、書類の読まれ方が変わる線は1か所でした。

**1年〜2年台までは、たいてい「一度やってみた人」として読まれます。**経歴の主語はまだ前職側にあり、独立期間は追加情報として扱われます。この帯で戻る人は、前職と同じ業界・同じ職種に戻ることが多い印象です。

**3年を超えたあたりから、経歴の主語が独立側に移ります。**このとき評価は下がるのではなく、別の物差しに変わります。「組織の中の一人として何ができるか」ではなく、「外から入って何を持ち込むか」で読まれる。だから求められるポジションも変わり、一般的な中途採用の枠より、事業の立ち上げや、外部との折衝を含む役割の側に寄ります。

ここで誤解しやすいのが、「長くやるほど戻りにくくなる」という理解です。当社が見た範囲では、長さそのものが壁になった例はありませんでした。壁になっていたのは、長いのに主語が移っていない書類、つまり5年独立していて中身が会社員時代の経歴のままの書類のほうでした。

なお、これは当社が見てきた範囲の話であり、業界や職種によって線の位置は違うはずです。数字として一般化するつもりはありません。

本当に警戒されているのは、経歴ではなく「形に戻れるか」

面談まで進んだあとに引っかかるのは、経歴の中身ではないことが多い。引っかかるのは、独立で身についた働き方の形を、雇用の形に戻せるかどうかです。具体的には3つあります。

指揮命令に戻れるか。 業務委託と雇用は、法的にまったく別の形です。業務委託は仕事の完成や遂行を約束する契約で、原則として指示を受ける立場ではありません(準委任と請負の違い)。雇用は指揮命令を受ける前提の契約です。独立が長いほど、この切り替えが体に残ります。採る側は、そこを面談の受け答えの端々で見ています。「その進め方は自分なら変えます」が口癖になっている人は、ここで止まります。

意思決定の速度に戻れるか。 独立していると、決めるのは基本的に自分ひとりです。組織に入ると、同じ判断に複数人の合意が要る。これはコンサルから事業会社に移った人が最初にぶつかる落差と同じ構造なので、繰り返さずにコンサルから事業会社に移った人が、3年後に言うことに譲ります。独立から戻る場合は、そこに「契約の当事者だった感覚」が上乗せされる分、落差はもう一段大きくなります。

金額の見え方に戻れるか。 独立中の報酬は、税・社会保険料・経費を自分で払ったあとの残りで見る癖がつきます。給与はその手前の額面で提示されるので、同じ数字でも意味が違う。ここを揃えずに比べると、提示を不当に低く感じたり、逆に高く感じたりします。額面と手取りの関係はフリーランスの手取りに、発注側が払う金額と自分に入る金額の差は業務委託の手取りの差額に書きました。戻る前に、この2つを並べて計算しておくだけで、面談での金額の話が変わります。

社会保険や雇用保険の扱いは、加入していた制度と離職からの期間で結論が動きます。ここは個別の事情で変わるので、この記事では断定しません。ハローワークと年金事務所の公表資料で、自分の条件で確認してください。

面談で実際に聞かれる4つと、答えが割れるところ

独立経験のある方の面談で、当社が実際に置いている質問は4つです。他社も似た角度から入っていると思いますが、他社の運用は知らないので、ここは当社の運用として読んでください。

「いちばん長く続いた契約は、どれくらいですか」

続いた期間を聞いているように見えて、確かめているのは同じ相手と関係が続く人かです。単発を並べた経歴でも、1件だけ長い契約があれば、そこを深掘りします。逆に全部が短いと、切れている理由を1つずつ聞くことになります。

「その案件で、あなたが決めていたのはどこまでですか」

書類の2つめと同じ論点を、口頭で確かめています。ここで「お客様と相談して決めました」しか出てこないと、決裁の当事者ではなかった、と読まれます。相談したのは事実でも、最後に線を引いたのが誰かは言えるはずです。

「うちに入って、最初の3か月で何をやりますか」

外から入る役割を想定しているときに必ず置きます。独立経験のある方は、ここが強い。短期で入って形にする動き方が体に入っているからです。逆に、この質問に「まず全体を把握してから」としか答えられないと、独立期間で何をしていたのかが疑われます。

「独立を続ける選択肢は、いま無いんですか」

意地悪な質問に聞こえますが、確かめているのは覚悟ではありません。選択肢を持ったまま入る人か、選択肢が無くなって入る人かです。前者のほうが定着します。追い込まれて入った人は、状況が変われば同じ理由でまた出ていくからです。だから「続けられるが、こちらを選んだ」と言える状態で戻るほうが、条件も含めて話が通りやすい。

この4つに共通しているのは、独立していた事実を減点しに来ていないことです。聞いているのは、その期間に何を決め、いま何を選ぼうとしているかだけです。

戻ると決めたら、独立期間をどう書くか

書き方で損をしている人が多いところなので、実務として3点だけ。

  1. 屋号または法人名を、所属として先頭に書く。 「2020年4月〜現在 ◯◯(個人事業/屋号◯◯)」のように、所属の欄を空にしない。空欄は空白として読まれます
  2. 案件を、社名ではなく「何を決めたか」で並べる。 守秘義務で社名が書けない場合は「製造業・売上規模◯◯億円台」のように、規模と業種で置き換えれば足ります。社名が無いことは減点になりません
  3. 切れ目は、隠さずに一行で説明する。 「◯月〜◯月 次案件の立ち上げまで稼働なし。この間に◯◯」。書いてあれば論点になりません。書いていないと、必ず面談で聞かれます

もう一つ。独立中に断った仕事を1つ書けると、強いというのが当社の実感です。何を受けて何を受けなかったかは、その人が何を売っていたかの証明になります。全部受けていた人は、専門が無かったのと同じに見えます。

独立する前に、戻り道を残しておくためにできる2つ

まだ独立していない段階で読んでいる方には、こちらのほうが役に立つはずです。

1つめ|前職の人間関係を、辞め方で壊さない。 戻るときに最短なのは、あなたの仕事ぶりを直接見たことがある人がいる場所です。これは独立して最初の1件を取る経路とまったく同じで、**戻り道と、案件の入口は同じ場所にあります。**逆に言えば、独立してから案件が来ている状態は、そのまま戻り道が生きている状態でもあります。

2つめ|独立中も、職務経歴書を年1回だけ更新する。 戻ると決めてから3年分を思い出そうとすると、決めたことの記憶がいちばん先に消えています。案件が終わった月に3行書き足すだけで足ります。この習慣がある人と無い人で、戻ると決めてから動き出すまでの速さが変わります。

この2つは、戻るためだけの準備ではありません。どちらも、独立を続けるときにそのまま効きます。戻り道の準備と、独立を続ける準備は、ほとんど同じものです。だから「戻れるか」を先に確認しておくのは、逃げ道を作る話ではなく、独立の足場を固める話だと思っています。

まとめ

  • 分かれ目は独立の有無ではなく、独立期間を職歴として説明できる形にしてあるか
  • 書類で先に見られるのは、稼働の切れ目/「決めた」範囲/戻る理由の3か所
  • 長さそのものは壁にならない。壁になるのは長いのに主語が独立側に移っていない書類
  • 面談で引っかかるのは経歴でなく、指揮命令・意思決定の速度・金額の見え方という形の問題
  • 聞かれる4つは減点のためではない。続いた契約/決めた範囲/最初の3か月/続ける選択肢の有無
  • 戻り道と案件の入口は同じ場所にある。辞め方を壊さないことと、年1回の経歴更新で両方が残る

「戻れますか」という問いは、多くの場合、独立そのものへの不安が形を変えたものです。怖さを3つに分けて数え直す話は独立が怖いのは、何が怖いのかに、実際に後悔した人が何を後悔したのかは独立して後悔した人は、何を後悔したのかに、続けられなくなったときに畳む判断はフリーランスの廃業に、それぞれ分けて書きました。

いま自分に何が足りていないのかを先に切り分けたい方は、30秒の独立準備度チェックから入ってみてください。登録は要りません。

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※本記事は当社が採用する側として見てきた範囲と、当社の実務記録に基づく整理です。採用の判断基準は会社ごとに違い、ここに書いたものが一般則であるとは主張しません。社会保険・雇用保険・税の扱いは個別の事情で結論が変わるため、公的機関の公表資料と、実際の加入状況でご確認ください。